さらっと永遠亭を流して次に行きたいんですが…なかなか進みませんね。
それではどうぞ。
○
side永琳
「ちょっと〜二人して歩くのが速いんだけど〜」
「…って言ってますけどいいんですか師匠?」
一進を寝かせていた部屋から出てすぐ、居間に行こう廊下を歩いていると後ろからそんな文句が聞こえてくる。
「別にいいわよ。大体怪我の痛みなんて
「…こちとら貴女の薬のお陰で四肢末端の動きが悪いんですがねぇ…」
「あら、そういえばそうだったわね」
「…………」
そんな腑に落ちない顔しなくても大丈夫よ、勿論巫山戯て言ってるだけでちゃんと覚えているから。
…でもえ〜と…そうねぇ……。
そうなると薬を作って彼に投与してからの時間を換算すると……500mlを6時間計算で使い切るよう滴下してて、2時間ちょっとで針を抜かれたからその分を引いたらおよそ160mlと少し…。
…………。
「……師匠、何をそんな満足そうな顔しているんですか…」
「ふふっ、何でも無いわよ優曇華」
ふっ、流石私が調合した薬なだけあるわね。その量の投与で副作用無く(吐き気?知らないわよ)対象の動きを制限出来てるのだから。
「…なんか分からんけど先生がろくでも無い事を考えてるってのは分かったわ」
「うるさいわね、文句なんて言ってないできりきり歩きなさい」
「えぇ〜…」
まぁ、それも彼は
……藤代一進。
彼には紫の所為で妖力が混じっているから随分と分かりづらかったけど…その身には人間と魔界人の二面性を持っている事が判断出来たわ。
それでも括り的には人間なのか魔界人なのかも分からないし、それに同種(?)の魔界人に殺されそうになったりとまだまだ色々と気になる事は多いのだけど…まぁこれらは秘密裏においおい聞くしかないでしょう。
…はぁ、紫に気を利かせたとはいえ…まさか永遠亭にそんな人物を置く事になるなんてね。
「医者が患者に向かってきりきり歩けとはこれいかに…」
「大丈夫なの?」
優曇華には一進の事を患者として扱わなくていいと言ったのに…それでも尚気遣っているようね…。
まぁ見る限り二人の雰囲気が険悪じゃ無さそうだから一先ず良しとしましょう。
「…うどんの優しさに涙が出そう……」
「だからぁ!私の事は鈴仙って呼びなさいよッ!!」
「いやいやいや、先生だって優曇華って呼んでるんだから俺だって親しみを込めてもいいだろう」
「込め方に悪意しか感じないのよ!」
優曇華には彼が同居人になるのを伝えたけど…普通にウチに来る患者とは違ってガンガン言い争ってるわね。
それと私自身昨日と今朝の会話で一進がどんな人間か見極めたつもりでいたんだけどこれはかなりの修正が必要になりそうね。
紫や妖精から慕われていた事から真面目でいて優しい事。そして会話からは柔軟で速い頭の回転と自分を見つめ直す力を持っているのが分かったのよ…。
「だって鈴仙とうどんかって聞かれたら十中八九うどんになるだろ!」
「ならないわよ!ていうか何がどうなったら十中八九なのよ!」
それでも初対面の相手でここまで距離を縮められる人間はそうそういないでしょ。
私は後方でギャーギャーと言い争いをしている二人を見て僅かにそんな事を考える。
「…もうあんたの思考回路がどうなってるのか一回見ていたいわ」
「いやいや〜先日上半身は開かれたけど今度は頭の方ですかい?え〜流石にそれは勘弁してもらいたいなぁ〜」
「……師匠の言った通りにほっとくべきだった…」
だから最初にそう言ったでしょう。巫山戯てる時に真面目に話しかけようしたらかなり面倒なタイプの人間よ、彼は。
「師匠〜」
「私を巻き込まないでちょうだい」
「そんなぁ〜」
彼に良いように弄られている優曇華からSOSが聞こえてくるけど当然聞く耳なんて持たないわよ。
別に気にしなくていいって私が言ったのにそれを無視して彼に手を差し伸べたのは貴女自身でしょう?なら途中で匙を投げるのは許さないわ。
「そんでうどんさんや?ここには他にどんな人が居るのさ?」
「……はぁ…。……私達以外になら妖怪兎と姫様が居るわよ」
「…ウサギとカメ?」
「ひ・め!!!」
「うん聞こえてた」
「チッ!」
優曇華……いくら腹立つからって舌打ちはやめなさいよ…。
まぁ、けれど人見知りの激しい優曇華が出会ってすぐの相手にここまで物怖じせずに言うなんてね。
…優曇華には悪いけど、彼には相手の本質を見る観察眼と、相手を上手く乗らせる巧みな話術が備わっているのが分かったわ。
……巫山戯てる時はいたく性格が悪いけど……姫様がお気に召すといいわね…。
まぁ
そんなこんなで一進と鈴仙が騒ぎ合いながら歩く事少しして…永遠亭居間に到着する。
「あれ?もう?思ったより近かったな」
「…はなれにあるここまで歩いて近いって…今までどんなとこ住んでいたのよ?」
「館」
「館ァ!?」
「ああ。優曇華には言って無かったけど彼は元々紅魔館に居たのよ」
一進が局所的に掻い摘んだ説明をしたため思ったよりも驚きの反応を示した鈴仙に永琳が補足をする。
地霊殿…そして紅魔館を経て一進の自宅感覚が既に崩壊しかかっているが永遠亭だって十分広い。
実際永遠亭の敷地は診療所と住宅スペースの二つに分けられており、一進が寝かされていた診療所の病室と住宅スペースにある居間とではまずまずの距離はある。
「へぇ~吸血鬼の館に……それじゃあんたは咲夜みたいなものなの?」
役職的に…と、鈴仙は何かを期待したような目で一進の事を見ているが……当の一進はそんな視線になんのこっちゃと首を傾げて一先ずは鈴仙の言った事を訂正していた。
「ん〜や、まぁ~近からずとも遠からずとも言った所だな。俺はレミリア…もとい紅魔館には仕えてねぇよ」
「……あ、…そうなの……」
一進の発言によって鈴仙は目に見えて元気を無くしていく…。というより耳のヨレヨレ感が増す。
一進にとって鈴仙がどのような期待を持っていたのかは謎だったが、隣に居た永琳は分かっていたようで静かに口を開いていた。
「優曇華?ここでの暮らしはそんなに嫌なのかしら?」
「ッ!?いえいえ滅相もありませんッ!!私は望んでここに置かせて頂いていますので!」
「……そう、それなら安心ね。…それじゃあ一進、遠からずの方は?」
凄みを出して鈴仙に『はい』なんて言えないような質問をした後…永琳は今のやりとりを見て固まっていた一進に向かって続きの言葉を言うように促すではないか。
「…ごめんな、うどん」
「え?」
肩を二度ほど叩いた後、今まで見せた事が無い程の慮りっぷりを乗せた慈愛の目で鈴仙を見つめる一進。
…そう。一進は察してしまったのだった。
「…俺が間怠っこしい事言ってないですぐに言ってあげるべきだったな」
「……だから何なのよ…」
突然謝ったかと思うとさっきまでの弄りが嘘のように無くなる…。
鈴仙はやや不安になりつつもあからさまに態度が一変した一進を不思議に思っていると…再び永琳が補足し始めていた。
「…一進は近からずとも遠からずともと言って紅魔館
「はい?…ええ、聞いていましたよ?ですがそれが何か――あぁ!!」
永琳の言葉を噛み砕いて漸く理解したのか…鈴仙は目を見開いて大きな声を響かせる。
「気付いたか?だとしたら想像通りだよ。まだ場所は知らないと思うが俺が仕えてんのは紅魔館じゃなくて地霊殿なんだ」
「…仕える対象は違うけど咲夜同様に従者はやってるって事…?」
「ま、そうだな」
と、鈴仙からの恐る恐るといった具合に辿り着いた答えに間髪入れず返答する一進。
「え、じゃあそれなら!」
その言葉を聞いて鈴仙は再び目を輝かせるが……彼女はこの時になってもまだ永琳の確認が何のためにあったのか気づく事が出来なかった。
「…………」
「…………」
…静かに頭を抱える一進に、完全に見下げたような目をして鈴仙を見てる永琳…。
そして数瞬の沈黙が流れた後、この状況を打破したのは笑いながら現れた第三者によるものだった。
「く…くくく…。駄目ウサよ鈴仙…自分の言った事には責任を持たないと」
「てゐ?…え、責任?」
「そうウサ」
薄めのピンクが大元となるワンピースに身を包んだ兎の妖怪…因幡てゐは楽しそうに鈴仙と永琳を見比べていた。
ひょっこり現れたてゐを一言で表すと…うさ耳を着けた女児、これに尽きる。
「お師匠様はちゃ〜んと確認してたウサよ〜『ここでの暮らしは嫌なのか』って」
「だから嫌じゃないって言ってるでしょ!そもそも私がここで苦労してんのも大体はあんたの所為だからね!」
「……あ~あ遂にうどんの奴言っちまったよ…」
そろそろ見てる側の人達も鈴仙の心情に気づけていると思うが取り敢えずここに記しておこう。
鈴仙は言わずもがな永遠亭で従者のような立場に立たされている。
さらにその仕事は永琳の助手をする傍らで家事全般やっていたり、ましてや人里に出向いて薬置きなんてものもしてる状態であったりと非常に多岐に渡るものだった。
「……へぇ。
「そうですよ師匠!…あ、聞いてください!てゐったらまた仕事しないで竹林に落とし穴掘っていたんですよ」
だから自分の生活には非常に大きな苦労が伴われている為、薬学についてはしょうがないとしても同居人になった一進が多少でも家事の出来る人物かどうか知りたかったのであった。
……あわよくば…少しでも自分が楽をする為に…。
しかし彼女はてゐが仕事をせずに穴を掘っていた~と、永琳に
「…俺は苦労人の味方〜とは言ってるけど…流石にあれは助けられないかな…」
「くふふ!そんな事気にしなくていいウサ。なにせ鈴仙にはあの役回りが一番似合ってるウサよ」
「うわっ…うどんのカースト、低すぎ…?で、え〜と…うどんの言ってた兎の方はどう考えても君か」
「因幡てゐウサ。気軽にてゐちゃんと呼んでもいいウサよ藤代一進」
そんな鈴仙の危険な発言により、既に永琳の方を見れなくなった一進は鈴仙の事を不憫に思いつつも巻き込まれたくは無いのでてゐに視線を合わせていた。
…全く持って一進は薄情者である…。今は兎も角、鈴仙は当初自分の事を心配してくれた相手なのだから助け船を出すのが普通の筈ではないか。
……助けるのが普通ではあるのだが…。
「…大体はてゐ……ということは残りの苦労は私か姫様と言いたいのね」
「!!?」
生憎の所相対してる相手が普通じゃ無ければ話は別である。
これが紫、レミリアやさとりぐらいなら煽るにせよ茶化すにせよ喜んで参戦してたが…前回心に刻み受けたよう本気で永琳だけはダメである。
「ホントにすまん」
「いやいや、何にも分かって無い鈴仙が悪いウサ…最初のは許されるとしても後のは思ってても口にしたらダメな事ウサ」
「……殆ど言わせる気で誘導してたよな」
「ウサ♪」
「……ひっでぇ…」
「さて、私も朝から楽しんだ所でそろそろ朝食にするから手伝うウサ」
「え、後ろのはほっといてもいいの――いや、いいな。うん全然ほっといても大丈夫そうだな」
そんな事を話しながら一進とてゐは鈴仙が用意したであろう朝食を運ぼうと行動を移す。
……決して見ないように…と、後方で行われている事には全く目もくれず…。
「(てゐ!一進!お願いだから助けて!!)「優曇華?」――はぃい!!」
「いつも苦労して貴女は大変そうね」
「い、いえ!別にそういう訳では…」
「言葉の綾だとでも言いたいのかしら?彼がどこぞのメイド並みに使えると思って一喜一憂していた貴女が?」
「…………すみませんでした」
「あら?別に貴女が謝る事でも無いのよ。ただ私が貴女の疲労状態を見抜けなかったのがいけないってだけで…」
「…………」
「まぁ一先ずコレでも打ってあげるわ。大丈夫よ、一週間は寝る必要の無いぐらいたちまち元気になれる薬だから」
「緑色ッ!?…ってやめッ!師匠!!師匠ぉホントにすみませんでしたからァァ!!」
永琳って輝夜を姫様って呼んでましたっけ?何か書いててかなり違和感があり困りました。
もう少し永遠亭が続きます。
それではまた次回。