受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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びっくりするぐらいテンポが悪いです!下手にメイン舞台となる場所を作り過ぎたってのとシリアスが続いてるってのが要因となりますね。

さっさと永遠亭で基盤を作りませんと…。


それではどうぞ。




第48話 一つの後悔と新たな拠点

 あれだけ濃密だった一日も遂に終わりを迎え…そしてまた新たな一日が始まろうと朝日が昇る。

 

 

 

side一進

 

 

 

 

 ポタ…ポタ…。

 

 

 静かに聞こえる水滴の音…。

 

 それは定期的に聞こえるものなのだが、更に言えば意図的に聞かされているようにも感じる事が出来る。

 

 …世界には水滴の拷問ってのがあるけど…あれは対象者を自白や発狂させる事に関しては最高の拷問とまで言われている代物らしい。

 

「…………」

 

 まぁいきなりそんな話をしてしまったけど別に俺がそれ(拷問)をされてるわけじゃないからな。ただの点滴の音だよ。

 

「…はぁ」

 

 ……目が覚めるとそこには知らな…くはないな。

 

 一度見た天井が俺の目に映り込む。

 

「気分はどう?」

 

 頭の上側から聞こえたのは落ち着いた女性の声。

 

 そんな声が聞こえた方に目だけを向けると、そこには俺を昏倒させた永琳先生が静かに(たたず)んでいた。

 

 …前回はそれどころじゃ無かった上インパクトの強い奇抜な服に身を包んでるもんだから()れなかったけど……先生はこれまた絶世の美人さんである。

 

 ま、いいや。…え〜と…で、何だっけ?気分は良好かって話だっけ?

 

 …ん〜そうだなぁ……。

 

 

「…最っ悪だよ」

 

 怪我は痛い上に治療で使った薬の所為か知らないけど吐き気が酷いんだわ…。

 

 グワングワン…そうだな、今の俺の目に映る景色は渦巻くように流れているって言えばいいのか?

 

 まぁだけど俺だってそれしきの事で気分最悪だなんて言い切るつもりは微塵に無いぞ、自慢する事じゃ無いが痛みなんてモノはここ最近の事で慣れているからな。

 

 

 …だからそんなわけでなによりも俺の気分を害しているのは全く持って別の事である。

 

 それは…紫に八つ当たりしてしまった事であり、心の吐露を吐き出してしまった完全な逆ギレ、それが今一番俺には響いていた。

 

「でしょうね」

「でしょうね…って…」

 

 そんなあっけらかんと言うなよ。

 

 なんて事は言える筈も無く、俺は身体を起こして先生と向かい合う形でベッドに腰を掛けるように座り直す。

 

 そりゃ所詮他人事だから先生にゃ分かりづらいかも知れないけどさ、これでもこっちは何であんな事言っちまったんだろうとめちゃくちゃ後悔してるんだからな。

 

「あれだけの大怪我なら気分が悪いのは仕方の無い事よ」

「はいはい…」

 

 怪我の痛み…ね、残念だけど俺はそんな事よりもはるかに心の方が痛いよ。

 

「そんで御大層に点滴なんてつけられてるけどさ、これ完治の目処は?……あれ?」

 

 俺は軽口を言いながらも自分の身体に巻かれていた包帯がずれてしまっていたから結び直そうとする。

 

そして、ふと身体のとある異変に気づいた。

 

「……怪我とか関係なしに身体が異常に怠いんだけど…」

 

 と言うよりも指先に力が入りづらい。動くには動くんだが細かな動作が封じられているような状況だった。

 

「麻酔を使ってるからそれはそうよ。…それより手を退かしなさい私が巻き直すわ」

「ん、ああ頼む」

 

 そんな包帯を結ぶのに手こずっている俺を見かねたのか、先生がぱっぱと巻き直してくれた。

 

 それじゃさっさと紫に頭下げなきゃいけなんで早めに退院したいんだが…麻酔が効いているようで身体を思うように動かす事が出来ない。

 

 無理に動こうとするのはおそらく得策じゃないしな、さてさてどうするもんか…。

 

「…で、結局完治は?」

 

 俺的には1日〜2日で治ると思うけど…寝たきりだと紫に更なる心配を掛けさそうだからな。

 

「しないわよ」

 

 流石にここに長居する事も無いだろうけどさ、多少時間を食ってでも取り敢えず完治させなきゃ話にならない。

 

 だけど無断でここまで来てしまった為一先ずはこいし、もしくは紅魔に連絡をする必要があるんだが…どうやって連絡しようか…。

 

 

 …………。

 

「…………」

「…………」

 

 …………。

 

 

 …さて思わぬ事言われたから流し掛けたけど…多分空耳だよな?空耳に決まってるよな?

 

「え~と…よく聞こえなかったから悪いけどもう一度―「しないわよ。と言うより寧ろさせてないのだけどね」…どういう事だよ」

 

 俺は先生の返答が不思議でならない…。

 

 完治()()()()()ってどういう事だ?百歩譲って完治しないと言われるなら納得出来るのだが(それでも困るけど)…この人は敢えてそれをしていないと言っているぞ。

 

「だって貴方には現在形で常人に使う十数倍の濃度の薬を投与してるもの」

「ってオイ!?」

 

 散々感じてた吐き気の原因コレか!?この点滴か!?

 

 なんか倒れて入院してる奴って点滴をしてるイメージがあったから外してなかったけど俺が今付けられてるのって悪影響を及ぼすものなのかよ!

 

 …ええいだったら…。

 

「……ッ!」

「あら抜いちゃうの?」

「そりゃ抜くに決まってるだろ!」

 

 さっきまでは手術の影響でまともに動けないとなれば仕方ないとか思って力無く笑っていたけど…あんな事言われれば不振にしか感じねぇよ!!

 

「そもそも常人の十数倍の濃度って何だよ!?つーか何しにそんな特別製を使ってんだよッ!!」

「叫んで無くていいから今はそれで反省しなさい」

「はぁ!?」

向こう()の気持ちが分からないわけじゃ無いでしょう」

「…ぐッ」

 

 ……ああ何だ…分かってるのかよ…。

 

 だから俺が紫を傷つけた事に対しての粛清として点滴(コレ)だってか…。

 

 更には俺が紫にぶつけてしまった八つ当たりを気にしていて、そして謝る為にここを飛び出す事をことごとく読み切った上で先んじて俺の行動力を封じたのかよ。

 

 …はぁ。流石は医者、所詮は他人事〜だとか考えていたけど俺の心情ぐらい完全にお見通しだったみたいだな。

 

「それに貴方は殺されかけたのよ。悪い事は言わないから大人しくしてなさい」

「…分かったよ」

 

 …う〜ん……。

 

 そうなるとわざわざ隠しておく必要も無いよな…それに永琳先生は紫以外で俺の事を知った人な上、医者でもあるんだし心の内を相談しておくのも悪くないだろう。

 

「……俺が悪いよな…」

「決まってるじゃない」

「いや即答かよ」

 

 悩みを訴えれば助言でもしてくれるのかと思いきや一縷の迷い無くバッサリと切り捨てられたんだが…。

 

「メンタルケアでも期待したのかしら?生憎私は成功と失敗の境界が怪しい治療なんてものはしない主義よ」

「医者がカウンセリングを全否定していいのか…」

 

 病は気からってよく言うし…気の持ちようによっては病気は良くも悪くもなるものだからカウンセリングも立派な医療行為だと思うぞ。

 

 でも、まぁ悩みなんてものは結局個人差なんだけどな。

 

 しょーもない事をいちいち悩んでる奴も居ればそんな事全く気にせずにいれる奴だってどこかには居るもんだし。

 

「……で、俺に安静と反省をさせたいのは分かったが…ちょっと連絡しておきたい奴がいるんだけど使いって出せるか?」

 

 携帯がありゃ楽なんだが…不便な事に幻想郷には無いからな……。

 

 あ、そーいや地霊殿に俺のスマホ忘れて――いや、どっちみち使えないから別に要らねぇか。

 

「ああ、その子達については紫が言いに行くって言ってたから心配いらないわ」

「…そっか」

 

 紫が伝えてくれたのか…じゃあこいし達は俺の場所も安否も知ってるようだから大丈夫っぽいな。

 

 それなら降ってわいたような休みなのだからしっかりと休養でも取って紫に謝る事でも纏めますかね。

 

「まぁこれから貴方には紫が決断を下すまで暫くここで生活してもらうわね」

「へいへい了か――紫が決断?」

「ええ」

 

 ん?んん?判決って事は俺が退院するには紫の許可が必要って事なのか?いやまさかそんな面倒な事する筈は――。

 

「はぁ……。分かって無いようだから教えてあげるわ」

 

 ため息を吐いた先生のトーンが一つ落とされる…。

 

「……分かって無い?」

 

 そんな張り詰められた空気に若干息が詰まりそうになるが…俺は怯まずに負けじと言葉を返す。

 

「…………」

 

 すると、先生が近付いてくると同時に……ここから俺は底知れない恐怖を垣間見る事になった。

 

「…貴方が幻想郷にとって…有害となるかどうかよ」

 

……ゾッ

 

 軽く…ただ軽く肩に手を置かれただけだというのに俺は今まで僅かにしか感じた事の無いレベルの恐怖に駆られる…。

 

 外界で会った紫…迫ってくるお空の炎弾や勇儀の拳…レミリアとの闘い……。

 

 これらだって普通じゃありえない程の恐怖体験の筈なのに今なら生易しくすら感じる事が出来るだろう…。

 

「それまでは監視の名目で貴方の行動に制限をかけさせてもらうわ…代わりに魔界の手から護ってあげるからそれでチャラね」

「……ゴクッ」

 

 ………だが、だがしかし…俺は遥か昔にこれと同等なモノを感じた事がある…。

 

「身体を()ただけだからちゃんとは分からないけど…それでも貴方は相当強いでしょう?」

「…………」

 

 しごかれていた時の光景が頭の中を()ぎる。そして思い出す…神経をすり潰す程の圧迫感と対面した途端に襲われる焦燥感を…。

 

 俺は相手の強さなんてモノは詳しく推し量る事は出来ない。

 

「そんな貴方を倒せる魔界人がいるのね。ま、今は安心しなさい」

 

 だからおおよそで大体の識別になってしまうから確かかどうか問われれば自信は無い。

 

 それでも先生は周りの奴らより頭一つ飛び抜けていると俺は感じる事が出来る。

 

 

 ……は…はは…マジかよこの人…。

 

「私は紫に頼まれているしそもそも私が幻想郷に身を置いてる以上大体は紫の考えに従ってあげるつもりよ」

 

 ……夢子クラスじゃねぇか。

 

 

 俺の驚きも束の間…薄く開かれていた先生の目は優しい目へと戻っていく。

 

 そして微笑みながら俺に使っていた点滴を片付けていく姿だけを見れば白衣の天使(白衣着てねぇけど)なのだが…。

 

「もしかして…紫より強いか?」

「ふふっ…さぁね」

「…………」

 

 はい決定。俺は今後この人をそんな目で見る事は決して無いだろう。

 

「さて、そろそろ永遠亭(ここ)の住人に会ってもらうけど……魔界の事は隠しなさいよ」

「当然分かってるさ」

 

 魔界関連の所為で俺は幻想郷にいれるかいれないかの瀬戸際に立たされているんだ。

 

 おそらくは紫と先生の信用におけて知らせる必要のある存在、且つ巻き込んでもいい人物ぐらいにしか俺の事は知られないと思う。

 

 そして幸いにも夢子が幻想郷の住民にわざわざ吹聴する事も考えられな――いや待て…。

 

 …………夢子が幻想郷に来てた…って事はもしかしたら他の奴も居るのか?ふと、魔界でよく俺の後ろについて来ていた末っ子の存在が脳裏に浮かぶ…。

 

「どうしたの?流石にあの子達はもう起きていると思うからいつまでも待たせる事は出来ないのだけど」

「あ、ああ。悪いすぐ行く」

 

 …いや…まさかそれは無いだろう…。

 

 そんな風に軽く考えて、俺は先生に急かされるままに意識をここ人達へと切り替えてしまった。

 

「……師匠~」

「あら…噂をすればなんとやらってね。優曇華~ここに居るわよ」

 

 聞こえてくるのは第三者の声…それに返事をしたって事は師匠ってのが先生の事みたいだから今の声の人は助手か弟子みたいなもんなのかな。

 

「失礼します。実は――ああ一進さん、元気になられたようで良かったです」

 

 入って来た優曇華と呼ばれた女性は俺を見つけるなり軽く微笑んでくれた。

 

 …で、何で俺の名前知ってんの?

 

「酷い怪我でした上人里の者と()()()()()()()()()()心配しましたよ」

 

 …………。

 

 …なんて当たり前の疑問を余所に俺は優曇華に驚きを隠せない。

 

「…レイヤー?」

「え、はい?れ、れいやー?」

 

 あ…分からないか。でもそれはそれでコスプレイヤーにしか見えないぞ。

 

 そう、俺の驚いたのは礼儀正しく入って来た女性がうさ耳を生やしている女子高生だったからだ。

 

「違うわ、それが彼女の普段着よ」

「へぇ…」

 

 そうなんだ…。

 

 どうやら先生には省略語でも通じたらしく、早々と答えてくれた事で俺の疑問は氷解していく。

 

 ふ~んそっかそっか、この人はただ日常的にブレザーを着ている普通の兎妖怪なんだな。

 

 ああ納得納得――。

 

「するかよ普通ッ!!!」

「いきなりなんですか!?」

 

 そりゃ叫ばせてもらうよ!?だって字面だけみたら普通の要素なんてどこにもねぇもん!

 

「おいおい…ここの人ってファッションセンス抜群なのか?」

「てゐも起きてるでしょう?」

「はい居間の所に居ましたけど…」

「シカトかよ!」

 

 人の皮肉さえも全く気にせずに部屋から出て行く二人…クッソ!久々だよ俺が弄られ側に回るなんてな。

 

 …………。

 

 

 でも…ま…、助かったよ先生。

 

 

 

 

 

 俺が常人と違う事を上手く優曇華から逸らせたから上出来か。

 

 

 

 

 

 

 




突然ですが現状でスポットライトを当てないといけない所が永遠亭(一進)、魔界(アリス、夢子)、紅魔館(大勢)、こいし、紫、魔理沙となっております!

…さてど~しましょ……。魔界と紫は一時置いといても大丈夫なんですが他を片付けませんとどうにもなりませんね。


それではまた次回。

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