後の問題はこいしをメインヒロインにしようって書いたそばからめっきり出なくなった事ですかね…。
初めは三人称。
それではどうぞ。
◯
突然だが、ここが幻想郷で様々な常識を画した世界だとしても基本的な文明は一昔前で留まっているのは分かっていただきたい。
それは紫が外界で妖怪達が生きられない理由の一つに科学力の発展が関与している事に気が付いていたからでもあった。
当然それらを幻想郷に迎え入れないデメリットとして、多くの分野に関しても技術の遅れが目立ってしまうようになる。
だが、局所的に見れば他を一線するような技術を持つ者だって幻想郷には存在する。
その為、人里で見切れない程の重症の患者はその医療技術を持った者に会う必要があり現地の土地に詳しい者を頼りここに来る事になっていた。
「貴女方がここに来るのなんて珍しいですね。一体どうしたんですか?」
「貴女達ならどうにか出来るでしょう!」
「――!?」
しかし、いくら迷路になっていようと並の実力者なら突破出来る上、スキマを使える紫にそんなものは意味を成さない。
「師匠ッ!急患です!!患者は肩口から脇腹にかけて刃物によっての傷が原因かと!」
藍と紫の手によって運び込まれた一進の姿を見て目を丸くした鈴仙は大急ぎで永琳に急患である事を伝え奥の手術室に運ぶ。
「重度の裂傷に加えて出血多量…体温の低下が著しいわね…優曇華!血液検査をした後急いで見合った造血剤持って来なさい!」
「はい!」
ちょうどよく他の患者がいなかったのが功を奏し、永琳は一目で一進の状態を理解し鈴仙に正確な指示を出して早速一進への手術に取り掛かかろうとする。
「一進は!一進は大丈夫なのよねぇ!?」
「最善を尽くす…が医者として本来正しい答えなのかもしれないけど―「師匠コレって!?」…すぐ行くわ」
血液検査を頼んだ鈴仙の悲鳴を聞いて若干自分の弟子の医療技術に不安がよぎる。
だが、初歩的な医療で取り乱す程ヤワな鍛え方もしていないのでおそらくは予期せぬ事になっているのだろうと思考が行き着きすぐに手術室に向かう。
「………」
……生死を彷徨う者の手術を行う際に最も辛い気持ちになるのは誰なのか。
先ずは一番危険な状態にいる患者。
しかし実際本人からしてみれば気付いた時には既に手術が終わった後なので今更不安がる事も無い。
…仮に気付けなかった場合だとしても本人が恐怖する事は無い、寧ろ一末の不安さえも永遠に抱かずに済むだろう。
そう考えると医者の方が大きなプレッシャーに晒される事もある為患者より余程辛いだろう、死に触れ合う事もあるのだから…。
ではそのような事からまとめると医者が一番苦しい思いをしているという結論に辿り着く。
「…任せなさい。私の名にかけて必ず救い出して見せるわ」
「……永…琳」
だがもし、そこに付き添いの者が居るのであればおそらくはそちらになるだろう。
そしてここまで気持ちが弱っている紫を永琳は見た事が無い為余計にプレッシャーがかかる。
「…紫様、我々も下がりましょう」
「ええ。…任せたわよ……永琳…」
………………。
「ふぅ…あら?」
一進の手術を数十分程度で終え、手術室から出てきた永琳は誰一人欠ける事なく診察室で待機していた紫達に少々驚いていた。
「(あの人は紫だけで無く妖精にも慕われているのかしら)」
「…………」
「(まぁあまり気にしないのだけど…)皆揃ってこんな所に居たの?待つのだったら中に案内したわよ」
「……永琳」
紫の静かな声が診察室を包む。
言葉上では名前を呼んでいるだけだったが…確かに紫は皆が一番気にしている事を永琳に問いかけていた。
「…やられる直前に身体を捻っていたみたいね。直接的被害を受けたのは筋肉や骨までで臓器は軽い損傷で―「それで結局どうなのよ!」
それを察した永琳は、医学面から見て一進の状況を事細かに説明しようとしたが……紫達からすれば重要なのは過程では無く結果である。
「彼の状態ね……」
流石に摑みかかるとまではいかないが…別に紫は余裕があるわけでも無い。
ゆっくりと永琳に詰め寄り、抑えられない凄みを出したままで永琳からの返答を待っていた。
「……もう安心していいわ。彼なら無事よ」
私の腕を信じなさいよ…と少し周りから信頼されていなかった事に文句を言いたくなるが永琳は紫に急かされ手術の結果を口にした。
「「「…………はぁ」」」
そして待ち望んでいたその言葉を聞いて各々が無意識の内に息を吐く。
「…良かった…本当に良かった…ッ!」
紫は安堵からかその場に崩れ落ち、ポタリポタリと涙をこぼし始めてさえいた。
異常事態の一進を探して魔法の森に降り立ったはいいが、特に収獲も無く焦りだけが募っていた所、藍からの情報を聞いた瞬間にスキマを使い一進の下へ向かっていた。
それで大急ぎで永遠亭まで駆け込んだ(?)のはいいが一進の状態を見るに本当に助かるか不安だったのである。
「…良かったです」ホッ
「うんうん良かったな〜♪あいつ助かったみたいだぞ」
最初に負傷している一進を見つけて奮闘していた妖精二人も紫と同じく胸をなでおろしていた。
…因みにここだけの話、一進が助かったのはこの二人による功績が大きい。
助けを呼びに行った大妖精は当然として、チルノは気絶している一進を他の妖怪から守って更に出血を凍らせる事までしていた。
おそらくそれらの努力が無かったらほぼ確実に一進の命は失われていた事だろう。
「……悪いけど紫と二人にしてくれないかしら…」
一進の生存を聞いて張り詰めていた緊張の糸が解けた中…神妙な顔をした永琳からの提案により再び皆の空気が変わり始める。
「…藍」
「分かりました。ほら、お前達も出るぞ」
「…はい」
「それでは私は彼女達を客室に連れて行きますので」
「ええよろしく」
永琳と紫の両名を残し、藍達は鈴仙に案内されるように診察室を後にした。
「それじゃ、貴女が知っているのか知らないのかは分からないけど…一つだけ聞かせてちょうだい。彼は何者なの?」
「?何者って言われても…レミリアや神奈子が元で数ヶ月前に私が幻想郷に連れて来た人間よ」
「…知らないみたいね、なら率直に言うわ」
一体何を知らないのか…紫は僅かな不安を覚えて猶予を持って言葉を溜める永琳に注目する。
「…彼は純粋な人間じゃないわよ」
そんな永琳の告白……。
「……ハァ…やめてよ…何を言われるかと思えばそんな事?それはそうよ、だって一進は私の式になっているんですもの」
しかしご存知の通り一進は紫の式としての儀を済ませている。
現に一進は霊力だけでは無く妖力までも使えるようになっている為、別に純粋な人間では無いと言われてもさして紫は驚いたりしない。
しかし、
「私だってそれぐらい気付いてるわ。けれどそういう次元じゃないの」
「…次元じゃ…ない?」
永琳からは発せられたのは紫の考えを遥かに上回った回答だった。
「ええ、貴女から力を貰おうとも貰わずとも関係無い。…彼から魔界の因子が検出されたわ」
「魔界…って事はやったのは魔界の者なの?」
驚いた…。だが確かに驚いた筈なのに紫は何故こうもあっさり永琳の言葉を飲み込めたのか…。
それは自分自身が内心焦っているのか、落ち着いているのかも判断出来なくなっているからだった、一進の無事が分かったのはいいが新たに浮上してきた出来事に戸惑いを隠せない。
「傷口を見た限りじゃそれも正しいわ。けれど私の言ってる事は違う…彼自身からも確かに出てるのよ」
「……じゃあ、それって…」
「…現状言える事は…彼は限りなく人間に近い存在、且つ魔界との繋がりがあるナニカよ」
いくら天才的頭脳を誇る永琳の知識を持ってしても分かる範囲はここまでであった。
「一進が…魔界人…」
と言っても本来は薬師であるにも関わらず異常とも言える医療技術、ましてや魔界の事を知っているだけでも十分に末恐ろしい事なのだが…。
「…ふ、あははは!何を言ってるのよ。まさか貴女が冗談を言うなんて」
永琳の言葉に紫は笑う…。
自分が外界から連れてきた人間がまさか魔界の関係者だなんて完全に信じられなかった。
「…………」
否、信じたくなかった。
…別に紫は魔界が嫌いな訳では無い。
しかし幻想郷を設立させる時に魔界のトップと知り合う事が何度かあった事が恐怖を増幅させている。
……当初紫は、幻想郷の事を自分の世界と評していたがそれは違う…。
幻想郷は日本の土地を土台にして、その一部に結界を張って他から隔絶された空間なだけで世界というにはほど遠い。
……それに対し、魔界はゼロから創り上げられた完全な世界。
自分も似たような事をしたから魔界神の凄さはよく分かる…。いや、似ていると言っても規模のレベルが違うし、
「嘘なんでしょう!?……ねぇ…。冗談って言って―「合ってるよ」!?」
だからこそ魔界の異常性を紫は知っている、そしてそんな思い出したくも無い事を振り払うかのように声を荒げるが…驚くべき事に誰かが紫の声を制する。
紫と永琳が顔を向けるとそこには全身を包帯に包まれ、奥の手術室から顔を覗かせている一進の姿があった。
◯
side一進
頭も…身体も重い……一体、何が起きたんだ?
たしか…俺は紅魔館に運び込んだ貰い物を整理している途中で、休憩も兼ねて一人で人里に向かったんだよな。
『ふ〜む…折角時間が空いたから幻想郷縁起を見に行ったのはいいけど俺の求めてた事とは違ってたなぁ〜』
ああ、そうだそうだ。阿求ちゃんとこで幻想郷縁起を見せてもらってたっけ…。
まあ、結局は個人情報やプロフィール紛いの事しか書かれていなかったから少しがっかりしたけどな。
…え〜とそしてその帰り道で……、
『久しぶり、そしてさようなら』ザンッ!
『――ッ!』
…………。
……ああ…そうだ。
『カハッ!!』
『…………」
紅魔館に帰ってる途中で向かいから歩いて来た者にいきなり襲われ……。
『……ゆ…めこ?』
『!?……へぇ。皮肉で言ったつもりなのにまさか覚えてるなんてね…』
…俺は……。
『何…で』
『……神綺様に情報が渡る前に…と思っていたけど少し予定を変更するわ』
……俺は…夢子に切られたのか…。
『完全に殺しはしない…けれどその傷じゃどうにかしない限り確実に死ぬわよ』
『…ゴフッ…………』
踵を返した夢子はそう言い捨てた後一瞬にして姿を眩ませていた。
そして、俺は能力でその状況を打破しよう試みたけどあまりの痛みの所為でまともに使う事も出来ずそのまま意識を失ってしまったようだ。
……そこで死なずに運良く誰かが俺を運んで治療をしてくれたらしいけど…ここは何処だろうな。
「…次元じゃ…ない?」
……ん?
紫の声…?
ああ、って事は倒れている俺を見つけてスキマなりで運んでくれたって訳か。…また紫に迷惑かけちまったな。
「ええ、貴女から力を貰おうとも貰わずとも関係無い。…彼から魔界の因子が検出されたわ」
「魔界…って事はやったのは魔界の者なの?」
!……驚いた…声から考えるに紫じゃ無いもう一人の人が魔界の事を口に出していた…。
そして多分だけど検出って言ってるからおそらくその人が俺を助けてくれたんだろうな。
「傷口を見た限りじゃそれも正しいわ。けれど私の言ってる事は違う…彼自身からも確かに出てるのよ」
「……じゃあ、それって…」
…夢子の短剣でつけられた傷からも魔界の成分…成分?まぁいいや因子って言ってるから因子にしよう。それを判別する事が出来るのがいるなんてね。
「…現状言える事は…彼は限りなく人間に近い存在、且つ魔界との繋がりがあるナニカよ」
…………。
「一進が…魔界人…」
悪いな…紫……ぶっちゃけるとどうやらそうらしいわ。
さて、身体は滅茶苦茶痛いけど移動しますか…俺が話に加わらないと始まんないでしょ。
「…ふ、あははは!何を言ってるのよ。まさか貴女が冗談を言うなんて」
「…………」
…笑うなよ…冗談なんかで笑い飛ばされたらこれから俺はなんて切り出して真実を伝えればいいんだよ…。
「嘘なんでしょう!?……ねぇ…。冗談って言って―「合ってるよ」!?」
生憎冗談でも何でもないんだなこれが。
思い返してみればどうしてこんな大切な事をちゃんと覚えて無かったんだろうな…いや、覚えて無くても普通に考えれば色々おかしな点だらけだった筈だよなぁ…。
「いっ…しん?」
不安げな表情で紫が俺を見てくる…。ま…そりゃそうだ、自分が外界で出会った人間が異端だったなんて気付け無いわな、
「……俺は…魔界で生まれた人間なんだ」
だけど…もう大丈夫…。
もう…。
全部思い出したから。
三人称ってこんなに難しかったでしょうか…納得した文章を書くのにかなり時間を費やしたのですが…。それでも若干言い回しが分かりづらい部分があり常に試行錯誤です。
……ギャグパートが書きたいなぁ…。
それではまた次回。