受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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数話前のほのぼのはどこへやら…。

初めは三人称。


それではどうぞ。




第43話 家族のカタチ

〜アリスの家〜

 

 

 

「お、ついたついた。やっぱ歩かずに飛んで来て正解だったぜ」

 

 そう言って人間の魔法使い…霧雨魔理沙は箒から飛び降り、綺麗に着地を決めては早速目的の人物に会おうと駆け出す。

 

「おーいアリスー!私だぜ〜」ドンドン

 

 会いに来たと言ってもアリスの家までそんなに距離があるわけでは無い、なにより魔理沙自身の家も同じ環境にある為よく会いに来ていると言っても過言では無い。

 

 そんな彼女達が住んでいる所は魔法の森…昼だというのに薄暗く、それでいてジメジメとしている淀んだ空気が広がっている為とてもではないが進んで住みたい所とは言い難いだろう。

 

「……ハァ…」

 

 魔理沙が木で出来た扉を開けさせようと乱暴に叩くと、その家の住人はただただ面倒くさいと言わんばかりにため息を吐く…。

 

「おーい!!」ドンドン

「今開けるから待ちなさい」

 

 魔法の森は幻想郷の中でも広大な森林地帯として面積を占めているが…その名の由来通り、ただの森で有名なわけでは無い。

 

 先ほどは魔法の森は『住みたい所とは言い難い』と言ったが、普通の森と違う点としてはここは魔力を含んだ瘴気が常に蔓延しているので常人では気分を害してしまう者が多いのだ。

 

 そしてそれに伴い環境に適応する為に変異を遂げた動植物…妖怪が多数存在していて危険性も十分に高い。

 

「……で、何の用?」

 

 しかし彼女達は常人ではない。魔法に心得があり、そして自らを高める為にその身を魔法の森に置いているような二人だった。

 

 魔理沙のノック(?)に渋々といった感じに扉を押し開けて出てきたアリスの目下にはクマが目立つ……。

 

 人の目をかなり気にするタイプであるアリスがそんな状態になっているという事は『何かがある』と一見しただけで普通は誰でも判断する事が出来よう。

 

 

 

 しかし、

 

「おう、パチュリーの件でな。ちょくちょく召集が掛かってるから呼びに来てやったんだぜ!」

 

 魔理沙はそんな疲労の色を見せるアリスを気にする事なく意気揚々と自分の訪れた要件を早速伝え始めた。

 

「…悪いわね、今は忙しいから無理だわ」

「んだよ〜またか?」

 

 ま、なんとなく分かってたけどな…、と魔理沙はアリスに断られたにも関わらず特に気にした様子も無く肩を竦めて言葉を返す。

 

 ……ここだけを切り取って聞けば友人に対して全くの気遣いをしない魔理沙が割と酷い人物に映ってしまう……の、だが実のところ魔理沙だってアリスの様子がおかしい事に気付いている。

 

 しかし敢えて下手に触れないようにするのが魔理沙なりの気遣いでもあったし美徳でもあった。

 

 寧ろそんな疲れている事があるというなら息抜き、更には気分転換も兼ねてこうして誘っている節だってある。

 

「ったく…いつまで忙しいんだよ。前呼びに来た時もそうだったし一体何をしてるんだぜ?」

 

 それでも流石に気になるものは気になる…、ここまできて忙しいの一点張りだと魔理沙だって多少はアリスの隠し事に踏み込みたくなった。

 

「……前とはちょっと別件だけど忙しい事には変わらないわ。…それより魔理沙がいきなり勉強を始めるなんて…一体どういう風の吹き回し?」

 

 少しは何に悩んでるのか教えてくれるかと期待をしてみたけれども……教えて貰えないどころかはぐらかされてしまい、逆に魔理沙が質問をされてしまった。

 

「あ~はいはい…私がいかに不真面目に思われてんのかよ~く分かったぜ」

 

 友人の概ね低評価を聞いては落ち着かない様子で頬を掻いて愚痴ろうとしたが…話が脱線していた事に気付いてすぐさま元に戻そうとする。

 

「…アリスはフランって知ってるだろ?そいつが魔法を学び始めてるから教育者をもう一人追加したいって事だから出来るだけ早く―「貴女がすればいいじゃない」

 

 現にフラン一人に教授する人物がパチュリー、魔理沙、アリスの三名になってしまっては教え方がごちゃごちゃになり寧ろ逆効果だろう。

 

 そうなればアリスが推測したような状態は正しいのだが、残念な事に魔理沙は別のポストが用意されている。

 

「生憎私は生徒に任命されたからそれは出来ないんだぜ」

 

 口を尖らせながらさも自分が魔法を教わる側だというのを納得してないように振る舞う。

 

 しかし内心ではパチュリーとアリスに混じって魔法の討論が出来るかを問われればそれは出来る筈が無いとも思っている。

 

 仕方が無い事なのだが現に二人と魔理沙は生きてきた年月も魔法に対する年季も大幅に違いすぎていたから。

 

「納得したわ、パチュリーも二人を相手にするなら確かにもう一人教える側が欲しいと思うわね……」

「そっかそれだったら」

 

 アリスも来いよ――、と自分が生徒だという事に非常に納得したく無いのだが…若干アリスが呆れを混ぜつつもこちらの話に乗って来そうだった為再び誘ってみる。

 

 

 

「でも行けないわ」

 

 そう。行けない…。

 

 確実に今だけはやっておかなければいけない事が分かっていたからアリスは再び断る事にするしかなかった。

 

 

 

 

 

 アリスは数日前人形作りと上海達の為に人里に布を買いに出向いていた…。

 

 別に人里に行くのが苦痛というわけでもないし、たまに自分から人形劇を見せに行ってるので交友自体もそこそこあり、楽しみの一環でもあるから特に気にする事も無かった。

 

 

 だからだろう…そんな何気ない行動が始まりの引き金を引いていたのは誰だって気付けはしないし、咎めたりも出来る筈がない。

 

 

 

 

 

 

 

sideアリス

 

 

 

 

「……行ったわね…」

 

 魔理沙を見送った後…私は小さく声を出す。

 

 私と、人形達しか居ないはずの自分の家……。それが当たり前だし、寧ろそうで無い方が珍しい。

 

 確かに森に迷い込んだ人間を助けたり、友人が訪れる事もあるから他に人が居たってありえない話では無いけど…。

 

「ふぅ…」

 

 だから私は息を整えてから振り返る。

 

 …本音を言うと私はあのまま魔理沙について行って紅魔館に行きたかった。

 

 だけど今の優先度はこっちの方が圧倒的に高い…目を向けた先には疲労の元凶の片割れと言えるべき人物がそこに居る。

 

「交友もあるようだし、アリスが幻想郷でしっかり暮らせているのが分かって良かったわ」

 

 …魔法の森に迷い込んだ人間か、はたまた幻想郷の友人が訪れているわけでは無い。

 

「……夢子」

 

 視線の先…椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいるのは夢子。魔界の神によって作られた魔界人……夢子本人であった。

 

 

「…神綺(母さん)に言われて来たの?」

「ええ、神綺様が嫌な予感がしたと言っていたから来たけど……アリスに何も問題が無いとなると勘違いかしらね」

 

 母さんが嫌な予感を感じたら私が第一に考えられるのね…。

 

 うっとおしい…とまでは言わないけど母さんは魔界の最高神もとい創造神なのだからあまり私に意識を割いてもらわなくても……。

 

 もっとも夢子も母さんに創られた存在だから夢子自身も母さんの子供だと考えても差し支えないけど……まぁ今はややこしいだけだから置いておいてもらうわ。

 

 それに私だって多くを教えられる程詳しい訳じゃ無いしね。

 

 かくして魔界は幻想郷が創られるより遥か昔、それどころか地上に生命が誕生していない時代に母さんの手によって創造された世界でそれ相応の者が暮らしている場所と私は把握している。

 

「私だっていつまでも子供ってわけじゃないわ……」

「神綺様からも私から見ても貴女はずっと子供だわ」

「………まぁ、そうだけど…」

 

 

 夢子の言葉を聞いて押し黙る他無かった…。

 

 

 子供に見られたから?いや…別に私が永遠に子供に見られる事なんて今更どうも思わない、そんな事分かり切っているから寧ろどうでもいいとさえ思う。

 

 私の思うところはそこでは無いが、夢子には母さんの勘違いで済ませてくれればいいと顔にはおくびにも出さず心の中だけで切実に願うしかなかった。

 

「神綺様も溺愛してる貴女にもしも何かあったとしたら気が気で無いでしょうから」

「…わざわざ魔界からご苦労な事ね。まぁ、それで満足したんだったら帰ってもらいたいのだけど…」

 

 さっきみたいに私も呼ばれているから、と違和感無く仄かに夢子に帰るよう促す。

 

 

 

 

 しかし、

 

 

「……藤代一進(アレ)…こっちに来てたのね」

「……ッ!?」

 

 儚くもそんな願いは打ち壊され、最も知られてはいけない事をあっさりと看過されてしまった。

 

「何で―「分かったのなんて聞かないで欲しいわ。神綺様も相当だけど…それでもおそらく私が一番長くアレと一緒に居たのよ」

 

 先程までの夢子の纏う空気が変わる…、幻想郷の生温い弾幕ごっこ(遊び)とは明らかに違う空気…。

 

「アリス……私相手に隠し通せると思ったの?」

 

 首を傾げた夢子に見据えられると、久々の感覚に指先が震え自分の背中が冷たくなっているのが分かる…。

 

「…………」

「ふふふ…」

 

 夢子はそんな私を気遣うかのように私の分の紅茶も新たに注ぎ始めた。

 

「ま、偉そうな事を言ってるけどさっきの人間が来なかったら気付け無かったと思うわ。彼女のお陰で懐かしい…と同時に最悪な雰囲気を思い出したから」

「…………はぁ…はぁ…」

 

 突き刺さるような…殺気とは違う別の何かが私の中で尚更夢子の恐ろしさを加速させる。そしてそれが解かれた時に私は思わず机に手をついてしまうほどの脱力感に襲われていた。

 

 …うかつだった…私だけなら誤魔化しきれたかもしれないけど既に魔理沙が一進と会ってたなんて……。

 

「ハァ…面倒な事になったわね…。アリスの様子見ついでに休息をとろうとしたけど思わぬ仕事が出来たわ」

 

 心底面倒くさそうに言葉を繋げる夢子についには私は気が気じゃなくなりだす。

 

「何でッ!!何でよ!?」

「…そういえばアリスはいつもアレに懐いていたわね……教えてあげるわ。神綺様の意向で貴女には伏せられていたけど―「知ってるわよッ!!一進の事も!夢子がどう思ってるかも!」

 

 柄にもないと思うけど…私は声を荒げる事しか出来なかった。

 

 

 母さんは初めに魔界を創造した時独自の街並みを創り、ある程度の生命を創ったとも聞いていた。そしてその生命の中に夢子と一進が入ってる事も。

 

 そして月日が流れたある時に私は母さんと夢子の話を…一進は母さんに創られた中でも特別な存在だという事を聞いてしまった…。

 

 一進の創られた名目…それは。

 

「もし魔界に人間が存在すればどのような影響を与えるのか…その為に当初人間を人間界から連れて来ようとしたけど神綺様は自分でお創りになったのよ」

 

 良く言えば魔界の発展の為…悪く言えば検証用のモルモット。

 

「……そんなのって!」

 

 その為幻想郷で再び一進に会えたのがとても嬉しかったし…恥ずかしくも涙さえ流してしまった…。

 

 初めは他人の空似だとも考えたのだけど…十数年ほど前に私の前から消えてしまった彼が寸分も変わらない姿で人里を歩いていたのを見てしまったから。

 

「アレはあまりにも強力すぎた力を持っていたのよ…殺されなかったのは神綺様の慈悲だわ。だから用が済んだ後記憶や身体を弄ってせめて人間界で生きれるように整えたのだもの」

「ここは幻想郷よ!魔界じゃ無いから一進が居たっていいじゃない!」

 

 だけどその時私は一進に会わずに急いで家に帰り心を落ち着かせる事にしていた……一進に忘れ去られている事に耐えられそうになかったし、どんな顔で会えばいいのか分からなかったから。

 

 

 

「……何に希望を持ってるかは知らないけど、何を言われても私は神綺様の障害を取り除くわ。藤代一進(アレ)は魔界の禁忌だから」

「………ッ」

 

 肩に手を置かれ、確かな意思を宿した夢子の瞳に私が映る……。

 

 …私から見た夢子は自分にも、そして他人にも厳しくする完璧な人物だった。

 

 母さんの子として私はそんな夢子に教養を学んだ事もあり、そんな過去を思い出して屈してしまいそうになる。

 

「……やらせ…ないわッ…」

「へぇ…変わったわね。私が怖くないの?」

 

 確かに怖いわよ…だけど……だけど引き下がるわけにはいかない!また失う思いなんてしたく無いもの。

 

 それに夢子が近付いてくれたから決心が出来たのよ。

 

 

 ……夢子の瞳(そこ)には同じような瞳をした私が映っていたから。

 

 

 




episode4はここらで幕引き、やっと色々と回収出来そうになりました。

旧作タグをその内つけたいと思います。


それではまた次回。

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