受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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いや~舞台が変われば書く事が増えていいですね!

一話や二話で綺麗に纏めて次から新たな場面で書き始める事が出来ればグダらずに済むのでしょうね。
……私にそんな実力はありませんが…。


それではどうぞ。


 


第38話 誰の物かの証明

side一進

 

 

 

 やんややんや言いながらも対向から歩いてきたのは…慧音と着物の少女…。

 

「異様な格好をした高身長の人間と妖怪の女の子……聞いていた通りですけどそんな悪そうな方には見えませんよ〜」

「いや、あの男は笑って私をバカにするほどだからな…」

 

 いやいやいや普通息切らしてまで舞い戻ってくるか?

 しかも泣いて走って行った挙句連れて来たのが自分より小さい子ってお前…。

 

「気をつけるんだぞ阿求…。あの笑顔は違う…奴の笑顔は偽りのスマイルだからな」

「何を言ってるんですか~。大丈夫ですよ慧音さん」

 

 俺も重ねて言ってあげるけどマジで何言ってんのお前…。

 …つーか人の思い出し笑いを偽りって言うなや…。

 

 すると、着物少女は内心そんな事を考えている俺の前まで歩いて来て頭を下げる。

 

「人里へようこそ。私は稗田家九代目当主の稗田阿求と申します」

 

 品のある…礼儀正しい挨拶をして、優しく微笑んでくれた稗田阿求こと阿求ちゃん。

 そしてそれに反して後ろには鋭い目で俺を見据えている警戒心の高い慧音…。

 

「…どうも阿求ちゃん。俺は外界から来た藤代一進だ」

「はい♪こちらこそよろしくお願いします」

「何で阿求にはそうなんだぁ!?……って藤代一進…?」

「煩いぞ慧音!阿求ちゃんは常識を持っているんだからちゃんと接するのが当たり前だろうが!」

 

 喚く慧音を余所に俺は阿求ちゃんと握手をする、そして何か納得してない慧音にしっかりと理由まで教えてあげることにする。

 

「クスクス…それだとまるで慧音さんが常識を持っていない様に聞こえますよ」

「聞こえるもなにもその通りだよ、こっちは頭突きされそうだったからなぁ」

 

 『なぁ?』と慧音を嘲りの表情で見やると悔しそうに歯噛みしている慧音が映り再度俺は笑いそうになる。

 

「……お進」

「おっと…悪い悪い」

 

 そんな俺の服を引っ張ってこいしはほっとかれて不機嫌オーラをアピールしてきた為二人から早めに分かれる必要があった。

 

「…それじゃ阿求ちゃん。俺らはデートで来てるからこの辺で――」

「デートですかぁ!?人と妖の貴方達が!?」キーン

「ウワッ!」

 

 イテテテテ…いきなりの大音量で耳がキンキンする…。

 

「……そんなに珍しいもんなのか?」

 

 俺は取り敢えず痛みを覚え片耳を押さえている慧音に質問する。

 

「ふ〜む…そうだな……」

「いや、まぁ確かに幻想郷に来てから女の子や女の人ばっかりと会ってるけど少なからず男も居るんだしさ」

 

 紫は人妖が共存して生きる世界だとか言ってたから別にありえない事では無いと思ってたんだけどな。

 

「いや…よくある…とは言わないがそこまで珍しくは無いな」

「そう?わたしは他に聞いた事無いし、こんな気持ちになったのお進が初めてだし……///」

 

 …そいつはありがとうよ。

 

 だけど照れながら言われると俺も恥ずかしいから流石に第三者が居る所ではそういうことを言わないでもらいたい…。

 

 すると…コホン、と慧音もこいしの発言が気まずいのか…自分の頬を掻いて明後日の方向を見ながら人妖の関係を教えてくれる。

 

「…ま、まぁ幻想郷の実力者が女性に偏っているっていうのもあるからだと思うが…人間の男達は玉砕覚悟で奇跡を起こそうと躍起(やっき)になっている者もいるぞ」

「それはそれは勇ましい事で……妖怪側の友好度がある程度分かってたら無茶しないだろうにな」

 

 男にとってエロは原動力!

 それを体現したかのような男達のアタックが先ほどの二人組を見た所為で簡単に想像出来て若干笑えてくる……あ…。

 

「…………」

「…どうしたの?お進?」

「いや…なんでもない」

 

 …だが悲しき事かな…笑ってるさなかに気付いたんだがが、俺も毛色が違うだけでそんなメンバーの一員とあまり変わりなかったよ…。

 

「……そうだな…無茶をしなくなるかは分からないが…妖怪の友好度なら分かるぞ」

「そうなの?」

「……どういう事だ?」

 

 慧音の一言に興味を惹いた俺は、落としかけていた肩を持ち直して早速聞き出そうと試みる。

 

 友好度が分かるって事は他の情報なんかも分かる筈…これで今までは不明な点が多かった妖怪についての事を詳しく知ることが出来るからな。

 

「なに簡単な事だ、人里には古くから妖怪について纏めた書物があるんだ。……妖怪に比べ、人間の一生は()くも短命で繊細なものだからな…」

 

 そんな憂いの表情を浮かべた慧音に、俺は何とも言えない気持ちになる。

 

 霊力や妖力…初めの頃は分からなかったが、努力の結果からか今では相手が妖怪かどうかなんてのは感じることが出来るようになっていた。

 

 それ故に俺は気付けている……慧音は純粋な人間ではなく妖怪の性質を持っていることを。

 

「……人間と妖怪…双方を成り立たせる為の策ってことか……」

 

 …俺だって一度自分と妖怪の寿命を考えた事があるからな。

 

 人間が先に逝くだろうし妖怪は取り残される…どう考えてもこれは変わらない事実だと思っている。

 

 慧音だって人里の守護者とまで言われているのだったら数多くの人間を見送っている筈…だったらむやみに触れる話ではないだろう。

 

「それで…どこに行けばその書物を読めるんだ?」

「お進〜…」

「ゴメンゴメン」

 

 構ってあげられないのが不満なのか…徐々にぐずり始めるがこいしには少し我慢していてもらいたい。

 

「ん〜…」

「場所聞くだけだからな?後でなんでも好きなもの買ってあげるからさ」

「……早くね」

 

 分かってる分かってる、そんな上目遣いされなくても約束は守るよ。

 

 だから慧音よ…いくらなんでも撫でて機嫌をとるにも限界がきそうだから早めに教えて貰いたい。

 

「ってな訳で今は忙しいからいつか寄った時の為に何処で読めるか教えて欲しいんだが」

 

 今は先約(こいし)がいるからどうしても後回しにする事にはなるだろうけど…場所だけでも聞いておけば次に来た時が楽になるからな。

 

「それは運がいいな、幻想郷の歴史書――『幻想郷縁起』を纏めているのは阿求なんだ。だから阿求自身に言うか取り次げば普通に見せてもらえると思うぞ」

 

 へぇ〜そいつはスゲェや…そんな重要そうな事を阿求ちゃんが書いて――ああそういや当主とかなんとか言ってたな…なるほどそういう事か。

 

「そんじゃさっさと約束を取り付ければ」

 

 まぁ当主だろうがなんにしろ…ちょうど知り合った人物が目的と重なっているなら俺は相当運がよろしいようで。

 

「――が……どうも本人がな…」

「ん?」

 

 なんて不可解な事を言い出した慧音に俺は不思議に思って阿求ちゃんへと目を向けると。

 

「…人間と妖怪……相容れぬ種……ただならぬ関係…」

「一体全体何言ってんのあの子!!」

 

 なんとまぁ俺の目に映ったのは一人でブツブツしゃべっている阿求ちゃん……。

 

「……阿求ちゃん…一体どうしたんだよ…」

「ちょっと前からああだったよ」

 

 マジで!?戸惑う俺と違い比較的冷静に見ていたらしいこいしからの補足が入ったけどにわかには信じがたい……。

 

「…これはきっと今まで数多の困難が二人に襲い掛かった事は想像に難く無いでしょう。いえ…これからも二人を阻む障害があるでしょうが、その分だけ強く結ばれるのですから――」

 

 俺達が見つめる先には、一人でふらふらしながらさもミュージカルさながらの事を言って表情を変化させている…。

 

「…会った当初の常識人っぷりは何処行ったんだよ」

「いや何と言うか…阿求は貸本屋を営んでいる娘の友人がいるのだがな……」

 

 ?何を煮え切らない顔してるんだ?

 別に友達が貸本屋にいるのが悪い事じゃあるまい…寧ろ俺は読書は好きだぞ…学生時代は大いに役立ったからな。

 

「…それがダメなのか?」

「いや、ダメって事じゃ無いが…阿求は恋愛悲劇ものや純愛ものを好んでいるからな、ちょくちょくああなるんだ」

 

 ああなるほど…恋愛悲劇ものね……。

 それって(ぞく)にロミジュリとかだろ…だから数多の困難って訳か。

 

 はいはい通りで阿求ちゃんがこんな乙女チックに目ぇ輝かせて俺らを見てる理由が分かったよ。

 

「そんな訳で阿求ちゃん。聞いていたかは分からないけどそのうち幻想郷縁起…だっけ?見せてもらいに行くからよろしくね」

「ええ!?私ですか!!いやいやいや!私なんかがお二人の仲を邪魔する事なんて出来ませんよ!」

「……な?」

 

 『……な?』じゃねぇよ慧音…。

 …ってかホントにダメだなこりゃ、完全にこっちの話聞いてねぇわ。

 

「…阿求は最近な『ラブコメも捨てがたいです!』とか言ってラノベ?と言うやつにのめり込んで私にまで勧めてくる始末で――」

 

 …と慧音は慧音で何やら大変そうだけど…申し訳ない!阿求の取り次ぎ役になってもらおう。

 

「悪いな慧音…。俺らと別れれば阿求ちゃんが落ち着くと思うからその時に阿求ちゃんに言っといてくれないか?」

「…はぁ、ああ分かった…」

「助かる…。俺もそろそろこいしの抗議に心痛めてたから早く構ってあげたかったんだ」

 

 くいくいってさ…俺の服の裾をこいしが引っ張っていたんだよ…。

 

「よっと…」

「わっ」

 

 そんなこいしを抱きかかえてあやす…いや、あやすって言ったら本人が起こりそうだから愛でるにしておくか。

 

「ふふふっ羨ましいな…」

「そーだろ。俺にとっちゃこいしは一番大切だからな」

「……///」

 

 幻想郷…地霊殿で生きていける最もな要因になった子だからさ。

 

 まぁ連れて――否、落とした紫やそれを助けてくれたお燐も否めない事は無いんだがな。

 

「…だが大丈夫なのか?十六夜咲夜を見る限り従者を大切にしているようだからな、プライドの高いレミリア・スカーレットは従者が他者のものになるなんて事を許さないと思うのだが」

「は?」

 

 …いや…は?どういう事?何でここにきて慧音の口から咲夜やらレミリアの名前が出るんだ?

 

「確かにレミリアはプライドが高いけど…それが俺らと何か関係するのか?」

「えっ?しないのか!?」

「えっ?するのか?」

 

 はぁ?二人で疑問を疑問で返す始末…。

 

 ヤバい…俺と慧音の意思疎通が絶対上手くいってないのは分かるがそれ以上が全然分からない…。

 

 何故に慧音は俺の自由をレミリアが選択していると思っているんだ?

 

例えばこれが主人のこいしかさとりだったらまだ理解出来なくは――主人と従者?

 

「……お進…服…」

「ん?」

 

 ふと…抱きかかえていたこいしがそんな事をこぼす。

 

 ん〜服?なるへそなるへそ、こいしは服が欲しいのか…。後少しで慧音の言っていた事が分かりそうだったけど…まぁ優先はこいしだよな。

 

「ちょっと阿求ちゃん……は使えないから…慧音、人里の呉服屋って何処にあるか分かるか?」

「ああ当然だ、因みにここからだと子供向けの店が近いな」

 

 グッジョブ!!見るに人里は和服姿が多いから恐らく着物だろうからこれは楽しみで仕方が無い!

 

「オッケーオッケー寧ろ大歓迎!…で?何処にあるのさ」

「ココが中央通りと言ってな…あと三つ先を右に―「お進の服ッ!!!」キーン

「ッ!!」

 

 はい本日二度目の耳鳴りを頂きました、抱えている分俺の耳にダイレクトアタックで響いています。

 

 …なんてバカ言ってる状況でも無いよな……。

 

「…俺の服?」

「だって霊夢もそうだったしみぃ~んな間違えるんだもん!!」

 

 霊夢…が間違ってるかは知らんけど…そういう事か。

 ようやく慧音が言ってた事に納得出来たよ…。

 

「……えっとな~慧音…俺はこいしの従者であって紅魔は関係無いぞ」

「は!?えっ!そうなのか!そんな服着ているからてっきり紅魔館の新たな従者かと」

「違うよッ!!」

 

 やっぱりそういう勘違いが起こったのか…当初は男物が無くてこいしが幾つか持ってきてくれたからなぁなぁで着てたんだけどなぁ。

 

 それに紅魔館にも数多く置いてあったから慣れでつい着てただけだし…。

 

「…別に俺は執事服(コレ)でも慣れてるからいいんだけどな……」

「だったら首輪でも買う!?」

「謹んで服を買わせて頂きます」

 

 いや…ね?首輪はダメだよ…ようやくペットから従者に意識を移行出来ているのに再びペットになるのは遠慮したいさ…。

 

「お前も大変なんだな…普通の呉服屋なら――」

「あ〜…いいよいいよこうなりゃゆっくり探すから」

「首輪をか?」

「ふ・く・を!!」

 

 オイ慧音…冗談も大概にしてくれよ?それでなくてもこいしは俺に対してペット感覚を持ってるんだから。全く…誰が好きで首輪なんてつけるってんだよ…。

 

「〜♪」

 

 ……なぁ…止めろってこいし…笑いながら人の首筋なぞんなよ…そんな事されても俺は絶対につけないからな。

 

「そんじゃ慧音…阿求ちゃんには伝えといてくれよ」

「ああ、…騒ぎだけは起こすなよ」

「はいはい」

 

 忘れないように用件を伝えたらちゃっかり釘差されちまったよ…。と、これ以上こいしをほっといたら本気で首輪をつけるハメになりそうだからさっさと退散させて貰うかな。

 

 

 ……まぁ………。

 

 

「(分かったかお前ら…あいつは服を買いに行くらしいぞ)」

「(既に幾つかの呉服屋には数人向かわせております)」

「(よしっ!モテぬ我々の力を存分にあいつにぶつけに行くぞ!)」

「(オオぉ!!)」

 

 

 ……あいにく騒ぎが起きないかは約束しかねるけどな。

 

 ってかマジでめんどくせぇ…折角場所の特定されないように慧音には自分で探すっつったのにこれじゃ意味ねぇじゃん…。

 

 はぁ~あ相手側が人数多かったらそりゃ虱潰しに出待ち作戦なんて決行するわな。

 

「ふふふ~ど~すんのお進♪」

「…ま、こいしは当然気づいてるか……それじゃあ―」

「わたしは何もしないよ~だって人里(ココ)では妖怪は人間に手出し出来ないもん♪」

「…そっすか」

 

 だろうなとは思ってたけど…やはり俺が一人で問題を起こさずに買い物を済ませないといけないみたいだな……。

 

 ハァ、前日からの疲労(館内の掃除)を引き摺って疲れてる俺にこれ以上の労働を強いるとはこれいかに…。

 

「……で?こいしは何やってるのさ」

 

 何か…『面白い事を思いついた♪』みたいな顔してるけど何だろう…比較的良くない予感がする。俺のこういう時の勘は素晴らしい程の精度を誇るから若干の冷や汗が…。

 

「べ~つに~ただ折角お進に抱っこされてるんだから堪能しないと」

 

 って言って両手を俺の首に回して精一杯身体を押し付けてくれる……。

 

 ……あ〜、そう、成る程そういう事か…。でも今普通そういう事します?いや、ね?俺も嬉しいよ?そりゃめっちゃ嬉しいよ?…嬉しいけどさぁ…。

 

 

 …だけど今それは完全に悪手だろう…。

 

「(クキィィィ!!見せつけやがってぇぇぇ!!)」

「(神よ!どうしてあそこにいるのは俺じゃないんですか!!)」

「(ザキザキザキザキザキザキザキ……)」

 

 ご覧の有様だよちくしょう…なぁこいし?これ以上煽んないでやってくれよもう。最後の奴に至っては世界観違ぇし…。

 

「……グループじゃないだけまだマシと思っておこう…でもなんか怖いから取り敢えずザキ拒絶」

「ボスには効かないよ?」

 

 あっそ、どうやらこいしが言うには俺はボスクラスらしい。…だが案ずるなかれ、別のゲームにはボスにも効く即死技があってだな――。

 

 ――じゃないんだよ。かなり脱線した事考えてたけど今はそうじゃないんだよ。

 

「あのさ?こいしが抱きついてくるのを止めてくれればあいつらだって大人しく―「…お進は止めて欲しいの?」…………」

 

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 …ふぅ…負けだ負けだ、俺の口から止めろなんてとてもじゃないが言えねぇよ。

 

 

 ……だから…なんて言うか…その…。

 

 

 

「かかってこいやぁ野郎どもぉ!!!」

 

 お前らなんか相手に俺の幸福を奪わせて堪るかよ!

 

「総員突撃ィィィ!!!」

「「「うおおぉぉ!!!」」」

 

 うわっ…予想より遥かに多い…。

 

 慧音よ…極力けが人は出さないつもりでいるから許してくれ。

 

「キャー♪お進カッコイイ~♪」

「ちょ、それは!?」

「「「「「殺せぇ!!完膚なきまでにあいつを殺せぇぇぇぇ!!!!」」」」」

 

 …マジか~……。

 

 ……ハァ…やっぱりヒートアップしたよ…何でこのタイミングで火に油を注ぐかな……。

 




一度これでデートは幕引きですかね…。

それでもフラグを作る必要がありますのでまだ何人かに会わせないといけません。
(……誰に会わせておけばよかったんだっけ…?)


それではまた次回。


 

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