受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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ついに外界編が終わった~。尚もう少し続く模様…。


それではどうぞ。


第3話  幻想郷とのご対面

 

『僕も遊びに入れてよ』

 

 小学校低学年程の少年が言った。

 

『…………………』

 

 その言葉一つで散々盛り上がっていた空気は一気に冷めて会話が無くなり、皆一同に嫌悪の目を少年に向けてくる。

 

『…………………』

 

『…嫌だよ、お前入れてもつまんねーし。なぁそうだろ?』『…うん』『俺もあいつ嫌いだよ』『時々何やってるか分かんねーし』『あっち行ってて』『俺も…『私も嫌い…』

 

 ………。

 

 一人が口を開いたかと思えば答えは否定。それを皮切りに皆それぞれ否定の言葉を発する。

 

 

『………ッ』

 

 皆の言葉を聞き終わる前に、少年は背を向けて走り出す。聞きたくなった。いつもと変わらないこんな日常が堪らなく不快だった。

 

『(何で!何で!!何でだよ!!何で僕だけこんな目に!)』

 

 そんな事をいくら思おうが何も変わらない。子供からも…ましてや大人からでさえ少年とまともに取り合ってくれはしなかった。

 

 苦痛でしかない時間を耐えて学校を抜け出す。

 

 暫く歩き、ふらりと立ち寄ったのは人の気配が感じられない程の寂れた神社。そこで一人佇み、落ち行く日を見ながら黄昏る。

 

『一人で生きる事は大変…。分かっていたけどさ…酷過ぎるよ…』

 

 少年は憔悴(しょうすい)しきっていた…。幼い心にはあまりに(むご)く、あまりに残酷な仕打ちを受けすぎていたから真っ先に心が疲弊していた。

 

 …そこまで来たのなら後は早い。心は(すさ)み、世界に絶望し、やがて全てがどうでもいいと考えるようになる。

 

『こんな…こんなツラいならいっそ―『何をやっているんですか?』!?』バッ

 

 声に驚き振り返ると、そこには()()の髪をした可愛らしい女の子がこちらを見ていた。

 

 少年も彼女の事は少し知っている。年は違えど、同じ学校に通っている者なのだから知っていた。……もっとも、その女の子は何も居ない所に話しかける事や、神をやけに信じていて存在するとまで公言している等の変な噂でだが。

 

『―様から聞いて来ましたが…泣いているんですか?』

『……え?』

 

 少年は思わず手を顔に触れさせる。確かに少年の頬には涙が流れていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シリアス過ぎんだろっ!!!」

 

 あまりに堅苦しい夢でそれを苦手とする一進は飛び起きながら叫んでいた。

 

「だいだい何で今更あん時の夢を見るんだよ!!未だに童心を忘れずにいるのかよ俺<ドンッ>っと」

 

 そして朝っぱらから盛大に騒ぎたて、自分の夢に対してよくわからんツッコミを入れ隣人に壁ドンされる始末。

 

「くそっ、ぜって〜昨日の八雲との会話の所為だ。アレの所為であんな昔の事を―「あら、呼んだ?」何っであんたがここにいるんで<ドンッドンッ>すみませんねぇ!だけどこれ俺悪くないっすよ絶対!」

 

 リビングから顔を覗かせた紫に驚き叫び、隣から怒られて反論する一進。そしてそれを見て笑う紫。

 

 因みに完全な余談であるが、一進の住んでいる家は格安アパートである為壁の造りが薄いのだ。余計なお世話なのだが壁が薄い家に住んでる皆も気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「で、八雲さん。何であんたが俺ん家にいるんですか?(ってかどうやって入ったんだよ)」

 

 一進は疲労の色は見せるが文句は顔に出さずに率直な疑問を問う。それ程までに八雲がここにいる事に疑問を覚えて仕方が無かったから。

 

「えぇ勿論説明するわ。…けれどそれより先に朝食を召し上がりましょう。用意したのよ」

 

 昨夜の貼り付けられた笑みと違い、年相応(?)の無邪気な笑みを八雲は浮かべていた。

 

 前回はあれだけ発していた大物の雰囲気が一切感じられず、ギャップの差に一進は少々戸惑い――。

 

「(もう、いいや。勝手にしてくれ)」

 

 朝から既に疲れていることもあり、彼は考えてる事を放棄した。

 

 

 

 

〜食事中〜

 

 

 

 

「それでは、説明に入りましょう」バッ

 

 朝食中にしていた八雲との他愛ない会話も打ち切り、紫が扇子を広げ大仰に話しだす。

 

 すると、空間が裂けて昨夜の様に中から複数の目がこちらを覗くように見ている。

 

「(うわっ気持ち悪りっ)」

「……何かイラっときたけど…まぁいいわ。これが私の能力【境界を操る程度の能力】よ。そしてコレはスキマ、そう私が呼んでいるの。結構便利なのよ移動や、収納や――」

 

 紫は一進の心の機微を察知して一瞬不機嫌そうになるが、自分のスキマがいかに優れているのかを自慢し始める。そしてそれを半分聞き流しながら一進は…、

 

「(いや、境界を操るって何だよそんなの聞いてねーよ!?巫山戯んなよオイ!ヤバめの能力だとは思っていたが完全にブッ壊れ性能じゃねーか!移動や収納っつってるけどぶっちゃけ空間操作だろ!?果てには事象まで操ることだって出来るんじゃねぇの!?)」

 

 盛大に焦りながらも境界についてしっかりと考察していた。

 

 未だにスキマについて語っている紫をほっときながらも自分の世界(長考)に入り、割と凄い事に昨夜紫が言ったセリフの確信にまで一進は迫っていた。

 

「(そりゃそんな大層な能力持ってたら世界の1つや2つ創ることだって、俺の能力を無効にすることぐらい容易く出来るってか。ハハッ、あまりの不公平に涙が出ますよと)」

「それでね、スキマを使って貴方の家に入ったのよ。どう、凄いでしょ」ムフー

 

 極一部の人以外は好きであろう豊かな胸を張りながら八雲はどうやって俺ん家に入り込んだか懇切丁寧(ほぼ聞いて無かったが)に説明してくれた。

 

 確かに凄い能力だ。確かに凄い事は分かるんだがそれよりも重要な事がある。

 

「(誰だこいつ?昨日の今日で口調が変わるわ雰囲気違うわで俺のギャップ萌えが発動し困るんだが)」

 

 世界よ、これがギャップ萌えというものだ。

 

「あの〜八雲さん、貴女h―「紫」…?」

「紫って呼んで♪私も一進って呼ぶから♪」

「('ー')……」

 

内心↓

「(いやマジで誰だよこの人!!!あぁ人じゃなくて妖怪だったっけ?いやどっちでもいいわそんな事!!!不覚にも可愛らしい笑顔にときめきそうだったわ!こちとらそんな耐性持ち合わせてねぇよチクショウ!!)」

 

 

…………………。

 

 

「…あーえっと、じゃあ。紫さn―「ゆ・か・り」!?」

「私の事は紫って呼んでって言ったわよ♪」

 

 笑顔を浮かべながらも、紫は自分の名前を敬称抜きで呼ぶ事を一進に強要する。紫も紫で(かたく)なに一進にそう呼んでもらいたい気持ちに駆られていた。

 

「(いやいやいや、それは難易度高いって!なに仲良く名前を呼び合うとか…恥ずかし過ぎて死ぬわ!寧ろ恥ずか死するわ!)」ここまで0.2秒

 

 …冷静さは完全に失ってしまっているものの、表面上にはおくびにも出さず紫との受け答えを乗り切ろうと画策する。

 

 しかし、流石にそれは許容することは出来なかった為、どうにかして紫を納得させようと頭をフル回転させ考えに考え抜いた結果。

 

「…恥ずかしくて無理です」

 

 素直にぶっちゃけた。

 

「いや、紫さんを敬称付けて呼びたいって訳じゃないですよ。ただお姉さん系で、しかも美人さんから親しくしてもらったことなんて滅多に無かったんで」

 

 下手に誤魔化さない方が良い。そう考えた一進は、懇切丁寧に当たり障りの無い様見事に正しい答えを返すのであった。……クソが、ラブコメなら他所でやれ。

 

「……そっ///そうなの///なら無理にとは言わないわ」

 

 一進の言葉に戸惑った紫は扇子で上手く顔を隠しているが…声の上擦りや耳が微かに赤くなってるのまでは隠せずにいる可愛らしい妖怪の賢者が其処には居た。

 

「それでは紫さん、と呼びますね。次に紫さんの言っていた『私の世界』についても教えて貰っても良いですか?」

 

 そしてそれには触れず、逃げるように話しを次に持っていくところを見ると一進は流石である。

 

「え?えぇ。それでは私の世界の事――『幻想郷』について話します。少し長くなりますが我慢して聴いて下さい」

「はい、お願いします」

 

 そうして一進は八雲の話しに耳を傾けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

side一進

 

 

 

「――そうやって幻想郷は成り立っているのよ」

 

 え?幻想郷の説明を聞くと思った?残念、軽く聞き流しました〜!

 

「(…いやまぁ、巫山戯ていないでまとめると)」

 

⚫︎結界が張ってあり普通には行けない。そして行った者はこの世界から忘れ去られる。

⚫︎人間や妖怪や妖精、それどころか神もいる。

⚫︎霊力や妖力等の不思議パワーがある。

⚫︎俺みたいに能力を持っているやつが多くいる。

⚫︎特別な決闘方法がある。(コレは向こうで教えると言われた)

⚫︎幻想郷は現在、八雲と博麗 霊夢という人間で成り立っている為この2名は重要人物。

 

「うん、何となくだが理解したよ。それで俺はその幻想郷にこれから行くことになるんすか?と言うかこんな能力を持ってても大丈夫なのか?」

 

 こんな話をされたんだ、おそらく幻想郷に行く事になると推測したが、いかんせん俺は自分の能力がそっちの世界で迷惑になるのではないかと心配になる。

 

「………意外ね」

「? 何が?」

「此方の世界に未練が無い事よ」

 

 …あぁ、成る程。仮にも自分が育った世界なのだから少しは惜しむとでも思ったのかね?

 

「そりゃ無いですよ。いいだけ嫌われてましたし」

 

 だけど俺は笑いながら答える。

 

 当然だ。この世界に初っ端から未練もなにもある訳が無い。あるとすればあったのだけど…神がいることが分かった今、唯一の心残りだった……え〜っと誰だっけ?夢に出てきたけど名前まで思い出せん…。

 

 ……まぁいいや、あの子の事もそれほど気にならなくなっていたし。

 

「(つか、神がいるってマジかよ。あの子って本当に神が見えていたんだな…こりゃ悪い事言ったな。ま、けど別にいっか…向こうは向こうで多分楽しく暮らしてるだろーし)」

 

 それに…八雲は言ってくれた。

 

「それに、幻想郷はこんな俺を受け入れてくれるんでしょう?」

 

 そうだとすればコレはコレで楽しそうではないか。俺は今きっと酷く卑しい笑みを浮かべていると思う。無駄に先走って広がっていく想像が本当に妄想で終わらない事を願うだけさ。

 

「えぇ、勿論。幻想郷は全てを受け入れますわ」シュン

 

 八雲が横に手を振りスキマを出し、俺はそのまま垂直方向に落とされる。いきなり真っ直ぐ落ちているが不安なんてものは無かった。

 

「待ってろよ幻想郷!俺が今すぐ行ってやるからな」

 

 自分の同じく能力持ち達が住む世界、そんな奴らとならここ(外界)よりも十全に楽しんで生きていける!

 

 そしてあわよくば……友人が欲しいかな…?

 

 

 

 

 

 

「………あ………スキマの出口何処に開いたっけ?」

 

 新たな不安が浮かんだがようやく一進の物語が始まり出す。

 

 

 

 




はいまだ幻想郷行ってません。サブタイ詐欺っすね。(反省)

次回は紫さんの思惑や主人公の設定等を書きたいと思います。

それではまた次回。

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