この作品は地底異変までが終わっていますが、地底Extraはやっていない
ですので、地上では特別な立場に居る者でなければ(紫やフラン等)こいしの事は知らないという配慮の上お楽しみ下さい。
それではどうぞ。
○
〜応接室〜
「…………」ソワソワ
「…………」コツコツ
「…………」キョロキョロ
「(パチュリー様、お嬢様が……)」
「(…ハァ…全く、いくつになっても落ち着きが無いんだから)」
一進がフランドールの下に行ってから早十分、レミリア達は一進の指定通り部屋の中で待機していた。
「レミィ、不安なのは分かるけど焦っていても仕方が無いわ。私達は待つしか出来ないんだから」
「そうですよお嬢様。ハーブティーも用意しておりますからお掛け下さい」
右往左往しているレミリアを落ち着かせる為に、そう言って咲夜はハーブティーを注ぎ始め、辺りには華やかな花の香りが広がった。
「……ラベンダー…か」
「そうよ。ラベンダーの中にはリラックス効果のある酢酸リナリルとリナロールが———まぁいいわ、取り敢えず心が安らぐからそれ飲んで落ち着きなさい」
「……そうね」
「それでレミィ、それを飲んだ後で構わないから教えてもらえないかしら…貴女は何を見たの?」
そう言えばそうだったわね。とカップをソーサーに戻したレミリアは語り出す。
「私が初めに見たのは……私達の中にフランが混じって笑っている光景だった」
「へぇ〜良かったじゃない」
「…ああ、やっと…ようやくあの子と一緒に暮らせるようになるんだと思って喜んださ。だから探した、何がフランをそこまで変えてくれたのかが知りたくなった」
「それであの人間に辿り着いた訳ね」
少しは真面目に話を聞こうとしたのか、パチュリーは開いていた本を閉じてレミリアに目を向ける。
「そうさ、何時かは訪れる運命だと知っていても私には待つ事なんて出来なかった。だからスキマに頼んで無理やりにでも連れてきてもらったんだ」
「それで本人はフランの下に……それなら慌てなくても解決するでしょう」
フランドールを助ける事が出来る人物が居た。そしてその人物は現在フランドールの下に向かっている。
パチュリーは、それなら後は時間が解決してくれるだろうと考えていた。
しかし、
「…………」
「……他に何かあるの?」
レミリアの顔には、もうすぐ解決する!なんて喜びの表情が映っていなかったのだった。
当然パチュリーも疑問に思って問いかける。
「…何処で狂ったのか、何の所為かは分からないけど…時たま別の運命も見えるようになったのよ」
「別の運命?」
「……私は今日の明け方、藤代一進がこの館に来る運命が見えた。その後……ハァ…本当にそれだけなら良かったのに…」
「…間怠っこしいわね。それで、何が見えたのよ?」
レミリアのテンポの悪さにパチュリーは少々腹立たしく思い始める。
だが、
「…………フランが血塗れで倒れていて、私があの人間を殺そうとしていた…」
「「!?」」
長い空白を空けたレミリアの告白に、パチュリー達は息を呑まずにはいられなかった。
「い、妹様が…」
「ちょっとレミィ!!貴女は何でそれをもっと速く言わないのよ!!」
「…………」
「もし、そんな事になったら貴女は一生後悔する事にな――「…だろう」…は?何を言ってるの!もしかしたらフランが殺さ――」
「仕方が無いだろうッ!!!」
「「――ッ!?」」
有無を言わせないレミリアの怒号が鳴り響く。
「私達は今まであの子を救う為に何年費やした?いくつの策を弄した?私は五百年近くもあの子を閉じ込めて…その結果何一つ救えていないんだぞッ!!」
「……お嬢様…」
「やっと…やっと見つけた希望なんだ…やっとフランを救えるかもしれないんだ…。あの人間に縋って何が悪い!あの人間に賭けて何が悪い!!」
何度も、何度もテーブルを叩いては叫ぶ。自分の心に思うがまま言葉を吐き出す。
やがて…テーブルが軋む音が止むと同時に、パチュリーは冷え切った目でレミリアを見据えていた。
「……レミィ、覚悟は出来てるわね」
「…元よりそのつもりだ」
妹を失う覚悟をしてまで妹を救う強行に出た……。
パチュリーは自分の親友がそこまで追い詰められていた事に気付けなかったのが酷く…情けなく思えていた。
「……そう」
貴女がいいならいいわ。と続けたパチュリーは目を伏せ、再び本を開こうと手を伸ばすが……。
「あの……」
「?どうしたの咲夜?」
「お嬢様の命令通り、藤代一進に空間操作の事だけを仄めかしておきましたが……それで良かったのでしょうか」
「え?」
伸ばした手が止まる。
それほど大切な事を咲夜の口から聞こえたからだった。
「ああ、それで良い。当然怪しまれてはいないだろう?あいつは空間を操れる者が咲夜だと理解してくれてればそれで良いんだ」
「それは大丈夫です。時間を操る事で永遠と同じ通路を歩かせて時間を稼ぎ、向こうから空間についての話題を持ち出させたので違和感は持たれていません」
一進に怪しまれないように細心の注意を払って情報を提示する。これを咲夜は初めから狙ってやっていた。
一進が極力相手からの情報を聞き出そうと画策していたのは全て手のひらの上の出来事だった。
そして、能力の全貌を教えることなく、程よく説明したところで時間を止めて目的の部屋の近くまで移動させる。
こうする事でいきなり話を切る事にも違和感を持たれずにレミリアからの命令を遂行させていた。
「……レミィ?」
「……どうした?」
「…間違ってはいないけど…何でわざわざ咲夜の空間操作を教えるようなことをしたの?」
「ああ……それはさっき話していた事に繋がる」
パチュリーに聞かれて僅かに、そう…僅かにだがレミリアは口角を上げて笑みを作る。
そうする事で吸血鬼特有の先の鋭い犬歯がその姿を覗かせていた。
「まぁ、これは仮の話だが…例えば、例えば本当にフランが殺された場合……私は全力を持ってあの人間を殺す…」
「ッ!」
例え幼い容姿だとしてもその実態は五百の年月を生きた吸血鬼…、時代によっては西洋の妖怪達を統べ頂点に君臨していた吸血鬼。
いくら百年以上魔導にその身を染めてきたパチュリーでさえ、レミリアの放つ暴力的な殺気、妖力には恐怖を覚えていた。
「とは言ってもな…フラン相手に勝てる者などそうそういないだろうからな。精々策を練りに練っての奇跡が起きただけにすぎないさ、私と相対していたあいつは片腕が使えていなかったよ」
と、レミリアは語りながら自分の後ろで咲夜が萎縮してしまっている事に気付き、すぐに平常心を取り戻す。
「ハァ…ハァ…」
「ククク、すまないな咲夜。少し刺激が強過ぎたみたいだ」
「……レミィ、だから私も呼んだの?」
「ああそうだ」
「…参ったわね、役に立つか分からないけどこあは一時的に魔界に帰しちゃってるわよ。てっきり大図書館に居たら危険だからってこっちに来させてると思っていたわ」
パチュリーは言ってしまえば、レミリアから一時的に避難をするように言われているのだと捉えていた。
なんせフランドールの居場所である地下……そこと繋がっているのが大図書館だけで、場合によっては被害が地下だけに
「まぁそう言うなパチェ、直接手を下すのは私がやるからな。と言うよりその役を譲る気は無い」
「はいはい、私は援護で良いのね…」
「ああ、咲夜も同様に頼む。私の事は気にせず攻撃しろ、出来たら生け捕りにしたかったが…過程はどうであろうともしかしたらフランを倒せる奴なんだ、油断は出来ない」
「…………」
前衛がレミリア一人、そして後衛は全力の攻撃…。
理由を並べているがレミリアは初めから前衛を一人で行うつもりだった。
紅魔館内で、レミリアとフランドールを抜いて時点で接近戦が得意なのは門番である紅美鈴。しかし、いくら自分が楽になろうとも美鈴を前衛に置く気になれなかった。
「……もう、誰も…失いたく無いんだ…」
「……お嬢様…」
強く噛み締めた唇からは血が流れる。運命の一部として見えてしまっだけなのだが、レミリアはフランドールを失う事を酷く怯えていた。
それが過去に母親を失ったからなのかは定かでは無いが…自分は館の当主。その誇りとプライドだけが従者に涙を見せないようにと努めていた。
「ハァ…止めましょうこんな話、気が滅入るわ」
「……そう…だな、全てが仮の話だから。こんな作戦は是非とも不毛に終わってほしい———」
「———ぇ――!!」
「…何だ?」
僅かに聞こえた叫び……。
しかし、徐々に大きくなってくる声の正体。
それは、
「何だ、藤代一進の連れか…そんなに急いでどう———」
「お進を止めてッ!!じゃないと、じゃないとフランちゃんが!!!」
「———ッ!?クソッ!!」
聞くや否やレミリアは部屋から飛び出し、そして自分の持ち得る全力を出して急ぐ。最悪の事態を想定していたから故の判断力と決断力……。
既にレミリアの姿は見えないがパチュリー達三人も急ぎ始める。
「……本当に気が滅入るわね…」
「パチュリー様、私の能力で地下まで飛びますか?」
「……いいえ、止めておきましょう。咲夜、貴女も私達と一緒に動いて」
咲夜からの提案…それは時間を停止させての移動、確かに速く、そして真っ先に地下まで行くなら使わない手は無いだろう。
しかしパチュリーはそれを制した。敢えて咲夜が『飛ぶ』と表現したのも理解した上での制止だった。
一進のフェイクで無ければ、彼は紅魔館の中でレミリアの能力しか知らないと答えていた。(美鈴は自分から教えてしまっていたが…)
それなら、共に居たこいしも同様だと咲夜は考えて再び空間操作らしき言動をしていた。
……無論咲夜は空間を拡張させるぐらいが関の山だ、そんな事出来る筈も無い。
かといって時間停止だってほいほい使えるわけでも無かった。集中力、体力、その他もろもろを使っての発動。
いくら先程まで休息があったからって既に本日は数度と使っていた、だからパチュリーはいざという時に備えていたかった。
「…こいし、と言ったわね。藤代一進について知っている事を言いなさい、でなければ止められる確率が大幅に変わるわ」
「……うん」
「…貴女も私達を呼びに来た訳だから理解しているようだけど…もしもの時は覚悟しておく事ね。それに嘘は言わない方が良いわ、レミィが本人を殺って止まるとも思えないし…」
間に合う、間に合わない以前に次の行動の為にパチュリーは策を巡らせていた。
…体格は兎も角妖力量はレミリアが上だと判断して、こいしの命を保険に聞き出そうとする。
「……お進は、拒絶を司る能力を持ってるの。分かってさえいれば万物を否定して無効に出来る、最高峰の能力……」
「ッ!?拒絶…って、パチュリー様!」
「マズイわね、彼はフランの能力を聞いている……。一方的になればなるほど決着が早くなるわ…」
「…わたしはその能力の所為で部屋に入れなくなったの」
こいしは嘘を吐かなかった。
これはレミリア達に恐れた訳でも無ければ一進を裏切ろうとした訳では無い。ただ純粋に一進もフランも助けられる可能性に賭けていたからだ。
ズドドォーン
「……急ぐわよ」
轟音と共に館が揺れる。そして紅魔館の中から一筋の妖力が空へと昇る…。
レミリアの放ったグングニルが館を穿ち、風穴を開けて目的の場所までの直線が作られていた。
そしてその発生源で、
「殺すッ!!貴様は必ず殺すッ!!!」
「おうおうやってみせろよ。姉妹仲良く送ってやるさ」
レミリアと一進…果てしない妖力の奔流の中で強大な力がぶつかり合っていた……。
おぜうの口調が不安定すぎる……。
今後はカリスマのオンオフで使い分けるつもりですので、多少は分かりやすくなるかと思います。
それよりも、一進とフランの運命や如何に!
何て自分で書いといて収拾つけれますかね?やや不安です…。
それではまた次回。