いや~頭ふり絞って書きましたよ…この回で終わらすのに必死でした…。
もうしばらくシリアスにお付き合い下さい。
それではどうぞ。
◯
side一進
全身の力が抜けて視界が青黒く染まる……、そんな感覚……。
「――グッ!!?」
立ち…眩み……いや、そんなレベルじゃない。
「…気持ちワリィ……」
一瞬意識が飛びかかった俺は頭を振って無理やり覚醒させる。
額には走り回っていた時とは全く別の汗が滲む…、身体がやけに重くなり、そして激しい頭痛が引き起こされていた。
「……強力な条件に…しすぎた所為なのか……?」
思い当たるとしたら、たった今使用した自分の能力……。
立っている事さえも辛くなった俺は座り込む。荒くなった呼吸を
今まで感じた事が無いぐらい身体が悲鳴を上げている。
確かに苦しいし辛い、今後好き好んでこれを経験したいとは微塵にも思わない程の痛みが駆け巡っていた…。
「けど」
後悔なんてしてないし。するわけがない。
片手は頭痛に襲われる頭を押さえてゆっくりと立ち上がる。
そして…目の前の扉を開ける為にドアノブを捻る。
…………。
…良かった……。
「…………お進…」
「…やっと見つけたよ、こいしちゃん」
電気も点けていない薄暗い部屋の中で、ベッドに腰掛けて膝を抱えるようにこいしちゃんは座っていた。
これで取り敢えず見つける事は出来た…、後はさっさと謝らないと…。
「…………」
「…………」
ほら速く謝れって、大量に言う事はあるだろう!
既に頭ははっきりしているのだが言葉が出ない、いざこいしちゃんを前にして俺は口を噤んでしまった…。
「…………」
自分の本質を変えるまで追い詰められてた。
それは、大変な過去があったんだね…か。
能力の発動によっては周りから忘れられる。
こいしちゃんの事を知らないで勝手な事言ってゴメン…か。
……いや、違う。違うだろ!そうじゃないだろ!!軽々しく同情なんて出来る訳無いだろ!!!
確かに俺だって、自分が恵まれた人生歩んできたとは思ってねぇけど…。それでも――。
「……お進は…さ」
「……あ」
暗く…それでいて沈んだ声。注意して聞かないと消えてしまいそうな……そんな霞んだ声。
だけど、それは耳だけでは無く俺の心にまで残るような声色だった。
「……わたしをどう思う?」
「どう思うって……」
突然に投げかけられた言葉に俺は戸惑う。何を言うべきなのか考えていると先にこいしちゃんの方から声を掛けられてしまったから…。
そしてさらには…向けられた顔は寂しい様に見えて、それでいて何処か期待を含んでいるような表情だった。
だからだろうか…。
もしもここで間違った事を言ってしまったら……、もう二度とこいしちゃんに会えなくなりそうな……何故かそんな気がしてきて尚更俺は口を閉ざしたくなった。
「お進はお姉ちゃんからわたしの事を聞いたんでしょ。…だったら、わたしの事をどう思うの?」
「…………」
なんて事を思っていても無回答なんて出来る筈もないか…。
わたしの――こいしちゃんの事。
これは能力に至るまでの話なのか、能力についての話なのか、はたまた今の自分の存在について聞いてるのか…。ダメだ…考えれば考えるだけ嫌な方向にしか思考が進まない…。
何て言えばいいんだ…何を言えばいいんだ…。
そうやって何時までも悩んでる自分に嫌気が差す。………ハハッ、ハハハ、最悪だな。
悲しんでる女の子一人救えない…。ましてや悲しませたのが俺自身だってのに、俺は…その責任も取れないのかよ。
………………。
…………。
……。
「ハァ…初めに言っておくけど…。俺にはこいしちゃんが求めている答えはきっと出せないと思う…」
「……うん…」
しっかりと、十二分に考えたさ。
間違って答えたらそれで終わる。相手が何を求めているのか理解する必要がある。
俺だって、外界に居た時は必死だったから……向こうの顔色を良く窺がってたよ。俺の場合は能力の所為で何処に行っても疎まれていたから人と関わる事が極端に少なかった。
だから間違うわけにはいかなかったし、考える必要があった。
…だけど今は違う、ここは幻想郷であって外界では無いんだ。ここなら、能力で拒まれることが無くなる…。
だからもう能力の所為だなんて言い訳は並べられないし、自分の選択に責任を取らなければならない。
俺は考えて――いや、こいしちゃんが望む言葉を選ぼうとするから返ってどんどんと悪い方に進んでいるのかもしれないな…。
そもそも正解なんて無いんだ…。だったら言葉で飾ろうとなんてしないで、在るがままを、思うがままをこいしちゃんに伝えよう。
後悔だけはしないように…。
「辛い事を言うようだけど…俺はこいしちゃんの人生に同情なんてしない」
「――ッ!」
「そもそもこいしちゃんと同じ立場になんて立てるわけ無いから分かってあげられる筈が無いんだ」
近しい者を挙げれば当然さとりちゃん。けど、家族であるさとりちゃんだってこいしちゃんと全く同じ境遇とは言い難いからな…。
「だから俺はこいしちゃんが選んだ道が正しいとも言わないし間違ってるとも言わない!心が読みたくないのなら読まなくていいんだよ!」
「でもその所為で……もしかしたらみんなの中からわたしが居なくなっちゃうかもしれないんだよ!それが……それがとても怖くて…」
「……そうなったら残念だけど…多分みんながこいしちゃんを忘れると思う。…さっきお燐に会って分かったけど、それだけ無意識を操るのは強大な能力だから」
「…………」
弱っている所を散々脅してしまったからだろうか、こいしちゃんは初めよりも沈んでいるように見える…。…本当に酷い事言ってるよな…ゴメン。
「だけどッ!!!」
「……え?」
だけどこれだけは言わせてほしい。
「俺がその『みんな』に入ってない事だけは言い切れる!」
「!?」
「俺は……例えこいしちゃんが能力を発動したとしても、自由気ままに何処かに行ったとしても、周りから気付かれないようになっても!俺は!……俺だけは!絶対にこいしちゃんを忘れないし見つける事が出来るから――」
「それでも!」
「…………」
「……たとえお進の中からわたしが消えなくても…そんなの意味ないよ!……わたしは…何時世界から消えるかも分からないんだよッ!!」
「…それは……ッ」
クソッ…やっぱりこうなるか…。
俺はこいしちゃんの悲痛な叫びを聞いて唇を噛んだ…。能力だけに限った話だったら幾分か対策の仕様があるのだけど…。…これだけはどうしようも無かった。
妖怪の成り立ち、根底、存在…、全てが不明瞭で全てが不確か。死ぬでは無く…消失。または消滅。
寿命があるのかは分からないけど妖怪だって人間同様生きているのだから死ぬ事はある…、例えば物理的なダメージを受けてだったり、生命活動に異常をきたした場合など…。
でも、これは形として残るし理由としては納得出来る…。
……それなら消失ってなんだよ!文字通り存在が消えるんだろうけど…まず人間だったらそんな事はありえない。
ここで人間と妖怪の差が出てきてるのが身に染みてくる……。
人間とは違く、遥かに長い年月を生きれる筈の妖怪が…過程を飛ばしての突然消失――!! あ……。
「確かにさ!ずっと消えないかもしれないし、千年後かも百年後かもしれないよッ!けど、一年後だってあり得るし、もしかしたら明日かもしれないしそれこそ次の瞬間かも――」
「約六十年」
「?」
妖怪の消失…。そんなの基準自体が存在しないのだから全てが可能性の話になってしまう。
…しかし、しかしこっちだったら分かる。
「……何それ、…六十年って…わたしは後六十年しか存在出来ないって言って――」
「ちげぇよ。…それに言ったろ、俺は立場が違うんだから分かってあげられないって」
「……それじゃあ何なのさ!!」
危なかった…俺の説明不足で余計な軋轢を生むところだったな……。
…だけど、これだけは言える確かな事。
「……俺が標準的に考えて生きていられる時間だよ」
「!?」
「…ハハッ、そりゃ驚くよな。こいしちゃんの言う通り俺はこの先どう足掻いても後六十年
「…………」
俺はもう二十は越える…それなら寿命もそれぐらいになるだろう。
「こいしちゃんから見たら限りなく短い時間だと思うよ。それに好き勝手出来る時間となればもっと少なくなってくる、外界にいた時はそれだけ人生を無駄にしてたとも感じる…」
何て言ってるけど…別に俺は同情してもらいたい訳じゃ無い。
「何もせず生きる千年よりも意味のある一年を生きる!!俺はその方がずっと価値のある生き方だと思ってる。…あ〜、だからなんて言うのかな……つまり自分の人生に後悔だけはしたく無いんだ」
「…………」
「…何処にも居場所が無かった俺をこいしちゃんが――いや、地霊殿の皆が受け入れてくれた。嬉しかったよ、ここなら居てもいいんだって…自分を見てくれているんだって思えたから…俺の人生はここから始まるんだって思えたから……だからさ――」
俺はベッドに腰掛けているこいしちゃんの対面で、静かに片膝を床につけて顔を見つめる…。
だからさ、こいしちゃん…。
「こいしちゃんの時間をさ、俺の残り少ない時間の為に使って下さいませんか?」
何時消えるか分からない……。
そんな大仰な事を解決する事なんて出来ないけどさ。
「…………うん…」
「そっか、ありがとう」
そんな不安に駆られるのなら一緒に生きてみよう…。
理由なんて無い。幸せにしてあげれる確証も無い…。
だけど……、
「俺が生きてる間は絶対に後悔なんてさせないからさ」
「うん……!」
◯
sideさとり
――コンコンッ
「失礼しますさとり様」
「あらお燐。……そう、どうやら上手くいったみたいね」
「はい…そうなんですが…」
?何か思うところがあるみたいね…、まぁそれも当然でしょう。説明もほとんど無しでいましたから。
どれどれ、それでは見てみましょうか…。
「…こいしの能力に――いえ、
「……はい」
そうね。一進の事、こいしの事、私の考えを色々考えているようだけど…。
「残念ながらそれは分からないわ。そうするように言ってきたのは他ならない
「!?そうだったんですか?」
「ええそうよ。それに、そもそもでこの
「ええ!?」
こいし様がそんなバカな!…って普段のほほんとしたこいしを見ているから驚くのも分かるけど…。仮にもあの子は貴女よりも遥かに長い年月を生きているのよ。
……それにしても、
「……自分の突かれたくない話まで持ち出してまで執着するなんてね」
「ははっ、案外好きにでもなったんですかねぇ」
あら?…そんなまさか~なんて思っているようだけど……お燐なかなかに鋭いわね。
「それはおそらく当たってるわ」
「ホントですか!?」
「…まぁ、こいしもそこまで確かな事は言っていなかったけれどね。でも、そうでもしないと一進の能力が説明出来ないのよ」
「お兄さんの能力?って言うと拒絶されるってやつですよね?」
「ええ」
憶測でしかありませんけど……これを一進に気付かれていたらもっと
「…え〜と、何かありましたっけ?」
「降参?思っていたよりバレないようね…。私からすればお燐がヒントを言ったから焦ったのだけど」
「え、あたいがヒントを言った?」
そうよ、と私が言ってもお燐は唸りながら考えていて全く答えに辿り着かない……。
「ハァ…貴女は私
「はいそうですけど――ってあ!?」
やっと気付いたわね。少し遅いけど…まぁこんなところでしょう。
「能力どころかこいし様の事は一切言ってないのにお兄さんはこいし様に気付けていた!!」
「ええ、その通りよ。初めはこいしも勘違いかもしれないと言っていたけど…一進だけしかいない時も一進にだけ能力が使えなかったらしいわ」
…お燐も少し分かりづらいようですから補足でも入れますか…。
「一進の能力は予め知っておかないと発揮されません。一進は地底に落ちてきた時に『死にたくない』と思ったから死ななかったのよ」
「ああ〜落下で自分が死ぬ事を分かったから拒絶する事が出来たと」
「それプラス…怪我をしていたのが決め手になるわね。オートで発動なら普通怪我もしない筈だから」
「なるほど〜落下の際文字通り死ぬ事だけが拒絶されて怪我は残った訳ですか……え?で、結局こいし様は何でお兄さんには能力が使えないんですか?」
……お燐…それは少し野暮では無いかしら…。
「あの子の本心が無意識的に自分の姿を一進に隠したくなかったのでしょう」
「はあ〜そういう――」
「ごめんなさいさとり様~!おつかいに何を頼まれたか忘れちゃいました~!」
「お空!」
突然開かれた扉からは半泣き状態のお空…。
お空なら一進相手に誤魔化し通せなかったかもしれないから少しの間外に行っててもらってたけど……、ちょうど良かったみたいね。
「ふふっ、ありがとうねお空。貴女はちゃんと期待通りに動いてくれたわ」
「……うにゅ?」
「…あ~、お空もちゃんと頑張ったって事さ」
「そうなの?」
お空は状況を呑み込めていなさそうだけど…それは
仮にそれでとやかく言ったとしても知らないわ、自分の言った事の責任は取ってもらいましょう。
だから今は取り敢えず……、
「さて、新しい家族が出来たからお祝いでもしましょうか」
「はい♪」
「そうですね♪」
こいしは疲れるぐらい自由でわがままですよ。ふふふ…頑張って下さいね一進。
結果的に解決して無いなんて言っちゃダメです。私にはこれが精いっぱいの仕上げでした…。
こんな事があったから紅魔編で少々キレ気味になっていたという訳で通して下さい、じゃないと私が泣きます。
『ここおかしくない?』等々の疑問もあれば理論がばがばでお答えしたいと思います。
はぁ~やっと紅魔に戻れる……。
それではまた次回。