受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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悲報
あとがきで説明するなんて私には出来ませんでした。

そして勝手で申し訳ありませんが、章末に座談会を作ることにしましたのでそれで勘弁してください。



それではどうぞ。





第11話 語られる鬼の試練

 

 

side一進

 

 

「「イヤッハァー!!勇儀の姐さんが出てきたぞぉーー!!!」」「テメェら!もっと場所開けろ!!」「相手は人間かよ!」「姉御〜!!!」「姐さんのタイマンだ〜!」「オイ人間!少しは粘ってみせろよ!」「バーカ、勇儀さん相手に持つ訳ねぇだろ」

 

 様々な事を言って騒ぎ立てる妖怪に囲まれて作られた広めのフィールド。その中央で俺と星熊勇儀は距離を空けて向かい合っていた。

 

「ハッハッハ、悪いねぇ…うちの連中が騒がしくて」

「…いや、構わないよ。それだけ人間が珍しいんだろう」

「は〜堂々としてるねぇあんた私が…いや、これだけの妖怪に囲まれてるってのに怖く無いのかい?」

「……まぁ、確かに怖く無いって言えば嘘になる。けど、ビビってたってどうせ逃しちゃくれないんだろう?」

「ハハッ、違い無いねぇ。いや〜泣き喚かれるよりよっぽど好感を持てるよ、あんた」

「そりゃどうも、因みに俺は藤代一進だ。()

「…ホント、堂々としてるよ」

 

 そう言って勇儀は警戒心を強めて俺を見てくる。

 

 それは、俺がこんな状況に陥ったのに全く慌てていないからだろうな。ま、話してるのを聞く限り俺は平常心でいるから怪しむのも当然だな。

 

 

 

 

 ――――ってそんな訳あるか!!

 

「(地底最強と手合わせ?バカじゃねーの!勝負になる訳ねぇだろ!!どうするどうするどうするどうする、つい『あんた』『あんた』言ってくるから少し言い返しちまったけど、うわマジでヤベェ!!)」ってな感じで内心パニック状態だっつーの!!

 

「さてさて、人間なのにこんな所に居るんだ……さぞ自分に自信が有るんだろう。ここ最近は楽しみが減っちまってヒマしてたんだ。だから楽しませてくれよ、一進」

 

 クソッ自信満々に言いやがって、そこまで余裕があるのかよ。いや、確かに勇儀は強いんだろう…それこそ最初は感じていた周りの奴らの圧力が霞んでしまうぐらい勇儀からは果てしない存在感を感じられる。

 

 けれど、いくら強いって言っても相手は一人だ。それなら俺も能力が使いやすいし…生き残る可能性だってある。

 

「まあ、見ての通り私は鬼さ。だから回りくどい事が嫌いでねぇ、弾幕なんて変なルールは性に合わないんだよ。………そこで、私は一発だけあんたを殴るから防ごうが避けようが好きにしな、もちろんそっちは能力にしろ道具にしろ何を使ってもいい……簡単な話、私に攻撃されて生きてりゃそっちの勝ちだよ」

 

 ……ふーん、殴るから防げ、生きてりゃ勝ち…ね。

 

 お燐から『鬼は極度に嘘を嫌う』ってだいぶ前に聞いた事があるからおそらく本当の事なんだろう。本当に一度でも防げれば俺の勝ちになる、圧倒的に俺が有利な勝負条件でやりあうつもりらしい。

 

 

 俺が人間だからだろう……バカにしてるのがヒシヒシと伝わってくる。

 

 周りからの聞こえるヤジだってそうだ、あいつらは俺が負ける事前提で話してやがる。ただ単に俺がどう足掻くのかが楽しみなだけなんだろう。

 

 腹立たしい……けど、確かに存在する人間と妖怪の絶対的な種族差を埋める為にはこの条件を甘んじるしか無い……。

 

「いいのか?そんな俺に好条件で、後でまかり通らないは無しだぞ」

「ああ、私だって鬼だ、誇りを持って約束は守るよ。まぁ、人間相手に本気になる事は無いさ…って言っても人間一人消し飛ばすぐらい手抜いててもわけないけどねぇ」

 

 やっぱり約束は守るか……それならなんとかなる。

 

 一撃も攻撃をもらえないのは想定内だったからな、能力は防御に回すとして―――

 

「だから追加で、あんたは私の酒を一滴でも(こぼ)させる事が出来ても勝ちでいいよ」

 

 そう言った勇儀は持っていた盃になみなみと酒を入れ始める。

 

 

 なっ!?更に右手に酒を入れた盃を持ったまま戦う気か、どれだけ自分に制限をかけるつもりだよ!

 

 ……いや、と言う事は攻撃をされる前にその盃を落とした場合でも俺の勝ちって事になるって訳か……。それだけの条件が揃っていれば俺が勝つ事だって出来る!

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……おいおいおい。

 

 

 なんて思ってると思ってんのか!いい加減に舐めるのも大概にしとけよオイ!!

何処まで人間を見下してる気だよあんたは!あんまり巫山戯た事抜かしてんじゃねぇよ!!!

 

 

 

「それじゃあ長話もなんだから始めようか、簡単に死んでくれるなよ藤代一進!――――『三歩必殺』!!!」

 

 ―――ッ!?

 

 

 そう言った勇儀は、一歩目で俺のすぐ近くまで来て、二歩目で歩幅を合わせている。

 

 いくら気に食わないとは言え流石は鬼、一瞬で距離を詰められた俺は既に腹をくくるしか無くなった。

 

「いくぞっ!!」

 

 三歩目と同時に繰り出される明確な死を連想させる左拳が俺に迫る。

 

 けれど、左手で殴ってくる事が分かっていれば―――。

 

「――グッ!」

「……ほう」

 

 ―――避ける事ぐらい出来るんだよ!

 

 真横を通り過ぎた拳圧だけで右半身に激痛が走るが、そんなの知るか!!!

 

 確かにお前ら妖怪と比べりゃ人間は脆く弱い生き物だろうよ……。『だが!』なんて言葉俺は言わないさ、確かに弱いのは認める。

 

 …だから、一瞬だけでいい。

 

「『人間の枠組みから俺は拒絶される!』コレでも!喰らえやァ!!」ゴキャ

 

 

 

 ―――ッ!?

 

 イッテェーーーっ!?全力で殴ったこっちの手がイかれるって、どんだけ頑丈なんだよ!!

 

 クソッ、殴られてんのに微動だにしないし、全然効いてる様には見えな――「くっくっく」……あ?

 

「あーはっはっは!!一進!あんた()()だよ!!」

 

「……は?」

 

 効いてないとはいえ…勇儀は俺に殴られている。

 

 それなのにだ、突然笑い出したかと思えばよく分からない事を言い始めた所為で全くついて行けなくなったんだが。

 

「は?合格?」

 

 この際俺が殴ったのが効いてないのは置いとこう(自信無くすけどな)……それでも合格ってなんのことだ?

 

「良くやった人間〜!!」「カッコよかったぞ〜」「あそこから殴り返すか〜」「スゲェやつだな」「姉御に一撃入れた…だと」

 

 いや、は?ちょいちょい…マジでどういう事だ……。

 

「うわ〜ん!お進が無事でよかったよ〜!」

「っと、こいしちゃん」

 

 なんてよく分からん状況に頭を悩ませていると、ひしめいていた妖怪たちの間からスルリとこいしちゃんが現れて抱きついてくる。

 

「心配させないでよ!ホントに勇儀に殺されちゃうかと思ったじゃん!」

「ングッングッ…プハ〜。いや、私だって拳を振り抜いていいか不安だったんだぞ……防御する素振りなんて見せないし、ましてや吹っ飛びそうなぐらい身体は細いし」

 

 え〜と、

 

「むっ!それでもお進は避けたうえに更に勇儀に一撃入れたよ!」

「だから合格だって。それも予想以上のな、私だって殴られるなんて思ってなかったさ」

 

 ……なんとなくだが理解できてきたぞ。

 

「お前ホントにスゴかったぞ〜!」「姐さんの拳を紙一重で避けるなんてな」「次はオレと遊ぼうぜ!!」「テメーがやったら返り討ちに遭うだろうよ」「アッハッハ!違えねぇ!」「何だとこの野郎!」

 

 ……という事はここまでから察するに、

 

「まさか……嵌められた?」

「ゴメンね〜お進」

「ハッハッハ!まぁ、鬼の私としては相手を騙すなんて手使いたくなかったが……さとりの奴に頭下げられたらそりゃな」

「さとりちゃんが?」

「おう。一進、あんたが本当に幻想郷で生きて行けるかどうかテストをしてやってほしいってな」

 

 …………。

 

「ま、合格基準は私を前にして生きる事を諦めなければって事だったんだか…こっちは手痛い反撃を受けちまったよ」

 

 さとりちゃんが…皆を使って…俺のテスト…。

 

「……お進はさ…初めの頃自分の命を(ないがし)ろにしてたから…それがお姉ちゃんは心配だったみたい」

「さとり様あああぁぁぁ!!!今までバカにしてホントすいませんでしたあああぁぁぁ!!!」

 

 まさかそこまで考えてもらえてるなんて思ってなかったんですもん!もう心から謝ります!!

 

 いや、だってさとりちゃんがまさかここまで仕組んでるなんて普通気付けるかよ!マジで戦う雰囲気出しちゃってたぞ俺!

 

「ちょっと待ってこいしちゃん。この試験って何時から始まってたの?」

「ん〜?始まったのはね私が能力を解除してから――「あっしが兄チャンにぶつかった所ぐらいからでさぁ」」

「ん?あ!あんたは最初の鬼!」

「どーも。けれどあっしもドキドキだったんすよぉ、試験って事があんさんにばれちゃあ、その後の全部が総崩れになるんすからぁ」

 

 いや!いやいやいや!俺の中の名演技賞くれてやるからあんたもう舞台出ろよ!!スッゲェ怖かったんだからな!アレのお陰で一気にシリアスになったわ!!

 

 ……ってことはそれじゃあ全部初めから仕組まれてたって事かよ……妖怪たちのノリと演技力恐るべし……。

 

 

「そんじゃあ!新しい仲間増えたんだ!宴会といこうじゃないかぁ!!!」

 

『ウオオオォォォォォ!!!!』

 

「行こっ、お進♪」

「あんたも来るんだよ、一進」

「えっ!?」

 

 勇儀の言葉によってそこらから怒号が響き、所々からは既に酒の匂いが漂い始めていた。

 

「さっ、一進。どうせだからあんたが乾杯の音頭とりなよ。ってまぁ、ほとんどがもう飲み始めちまってるけどねぇ」

 

 いや、音頭をとれと言われましても…。

 

 笑いながら酒に口をつける勇儀にそう言われた俺は、酒の入った(ます)を持たされてあれよあれよのうちに地底の妖怪たちに挨拶をする事になっていた。

 

 

「え~と…」

 

 場は再び静まり返り、百は越えるであろう妖怪たちの数に少しばかり圧倒される。

 

「…俺は藤代一進、外界から少し訳ありで幻想郷に来た人間だ!だから初めはこっちの流儀や暮らし方等分からない事があって色々大変だった」

 

 それでも俺が生きてこれたのは優しい妖怪に会えた事、その身に能力を有していた事等の偶然が折り重なって出来たただの産物だろう。

 

 うん。こう思い返してみたら自分がいかに危険な橋を渡ったのが実感出来るな。

 

 だけど―――。

 

「……だけど、これだけは確かに言える!俺は――幻想郷に来て良かった!!!それじゃあ乾杯!!!」

 

『カンパアァァァイイ!!!!』

 

「カンパイ♪」

 

 

 

 辛すぎる鬼の酒にはちょうどいい、今はこの幸せを一緒に噛み締めよう。

 

 

 

 

 

 

 




地底の皆はノリがいい。
幻想郷で生きることで、諦め精神から抗ってやる精神にジョブチェンジを果たした一進君。
今後はどう変わっていくのでしょうか…。

それではまた次回。

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