ハルケギニアの超越者――オーバーロード――   作:サルガッソ

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デミえもんタグがいよいよ大活躍する回にして、最終話となります。


始めようか、アインズ・ウール・ゴウンの伝説を

「アインズ様。守護者一同、揃いました」

「ご苦労。この度はわざわざ集まってもらってすまないな。特に、多忙なデミウルゴスには苦労をかける」

「ありがとうございますアインズ様。しかし、至高の御方に仕える身として当然のことです」

「うむ……では、これよりナザリック首脳会議を始めるとしようか」

 

 土くれの事件からしばしの時が流れた。

 今日、ナザリック地下大墳墓にある一室。今は会議室として使われているその部屋に、ナザリックの王アインズと忠義の守護者6名とセバスが集まっていた。

 今日の議題はこれからのナザリックの方針を決めること。とはいっても守護者の総意は『アインズ様のお心のままに』である為に、今日は各自が集めた情報を統合してアインズに報告することというべきか。

 

「それでは、司会進行は私、守護者統括のアルベドが務めさせていただきます。最初の議題はナザリックの防備について。……ナザリック警備についているコキュートス、シャルティア、アインズ様に御報告を」

「了解シタ」

「わかったでありんす」

 

 アルベドによって最初に発言を求められたのは“凍河の支配者”コキュートスと“鮮血の戦乙女”シャルティアの二名。

 この二人――蟲王(ヴァーミンロード)真祖(トゥルーヴァンパイア)は、共にナザリックの警備、そして転移によってナザリック内に何か変化が起きていないかを調べる役も任されていたのだ。

 もちろん転移時に一通り調べてはいるが、アインズ・ウール・ゴウン構成メンバーが課金しまくって作り上げたこのナザリックはとてつもなく広い。そのため完全な調査が出来たというには些か不安があり、警備がてら再調査を命じていたわけである。

 その成果を忠義を果たすべき相手であるアインズに聞かせる機会とあって、まずはシャルティアから上機嫌に話し始めるのであった。

 

「わたしの管轄である第一から第三階層までの警備は万全でありんす。シモベたちも使って全フロアを調べんしたが、以前のナザリックと変化があった場所はありんせんでした」

「同ジク、第四階層以下ノフロアモ第八階層ヲ除イテ全テ調ベマシタガ、コレト言ッテ異常ハゴザイマセン。マタ、侵入者ハ今マデ一人モ現レテハイマセン」

 

 間違いだらけの廓言葉で報告するシャルティア、人でない者が無理やり人の声を出しているような硬質な声のコキュートス。

 二人の守護者の報告に満足したアインズは、なるべく威厳があると思われるような重々しい感じで頷くのだった。

 

「そうか……では、ナザリックに関してはひとまず問題ないな?」

「食糧消費などの観点から言っても、ユグドラシルにあったときとなんら変化はありません。まさに万全と言うべきかと」

「なるほど、ご苦労だったな、シャルティア、コキュートス」

「勿体無イ御言葉デス」

「ああ、アインズ様ぁ……」

 

 武人らしく畏まるコキュートスと、幼い外見には似合わない情欲に満ちた瞳を向けてくるシャルティア。

 その姿にアインズは軽く引きそうになるが、隣からもっと引きそうになる怒りのオーラを感じ取って精神安定が早速発動するのだった。

 

「シャルティア。今は真面目な時間なの。わかるわね?」

「おや? わたしはいつも大真面目でありんすが?」

 

 司会進行のアルベドとシャルティアの目線がぶつかり合う。その迫力といったら、もしここに普通の人間がいれば眼力だけで殺されるのではないかと思うほどだ。

 

「アルベド、シャルティア。今は御方の御前ですよ?」

「……そうねデミウルゴス。……それではアインズ様、続けさせていただきます」

「そ、そうだな。では次は……アウラとマーレか?」

「はい!」

「は、はぃ!」

 

 つい流れでアルベドの役目を奪ってしまったが、アインズ直々の指名とあって双子の闇妖精(ダークエルフ)は張り切って報告を始めた。

 

「アインズ様より命じられたナザリック周囲の生物調査は順調に進んでいます! それとダミーの隠れ家作りも進めており、近くにそこそこ大きな森があったのでそこに建築している最中です!」

「ナ、ナザリックの隠蔽作業も、じゅ、順調です! あ、後この世界の植物調査も、す、進んでましゅ!」

 

 幼い闇妖精(ダークエルフ)の姉弟は、それぞれ自分の仕事の成果を発表した。

 男装した少女である姉のアウラと、女装した男の娘であるマーレ。製作者の闇が見えるような守護者姉弟だが、当然外見とは違ってレベル100の強者だ。

 そんな二人に与えられたのは、人間以外の生物の調査だ。主にアウラが動物を、マーレが植物を調査することになっていた。

 

「そう……。アウラ、マーレ。周囲に危険な生物は発見できたの?」

「うーん……特にいないかな。見つかったのは魔物でもない普通の動物ばっかりだよ」

「しょ、植物も普通の雑草とか花とかばかりで、危険な毒草とかはみ、見つかりませんでした」

「なるほど、どうやらナザリックが転移した場所はかなり平和な場所だったようだな。ご苦労だったな二人とも」

「ありがとうございます! アインズ様!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 二人の子供が嬉しそうに笑顔になり、アインズもどことなく柔らかい雰囲気となる。

 同時に『やっぱり二人を学校とかに通わせる必要あるのかな……』とか一瞬頭にチラつくが、今はそれどころではないと首を振ってかき消した。

 

「では、次はセバスね」

「畏まりました、アルベド様」

 

 次の報告者は“鋼の執事”セバス・チャン。一度トリスタニアにプレアデスのナーベラルと共に出向いてこの国の腐敗を肌で知る形で撤退する破目になった人物だが、今は大国ガリアに潜入していた。

 やはりナザリックでは希少な人間に友好的な存在であるセバスは人間の下での任務が相応しく、さる貴族の執事と言う設定でプレアデスの一人、不定形の粘液(ショゴス)のソリュシャンと共にこの世界の人間の情報を集めているのだ。

 

「この世界の文化、風習は既にお渡しした報告書に記載しましたが、簡潔に纏めますと国を問わず周辺諸国では貴族と平民。二種類の区別が人間の中でなされています」

「そのようね。その区別と言うのはやはり、魔法の有無かしら?」

「そのようです。どうやらこの世界の人間はユグドラシルと違い、魔法の才があるかは血統に依存するようです。すなわち、魔法が使える血筋であることがそのまま血統の証明になるということです」

 

 ユグドラシルでは、覚えようと思えば魔法を習得できた。当然だろう、ゲームなのだから。

 だが、ハルケギニアでは望んでも魔法使いに、メイジになることはできない。逆に言えばメイジは産まれた時からメイジであり、そこに選択の自由はないのだ。

 

「ふむ、つまり貴族は魔法の力で――武力で平民を支配しているのか?」

 

 アインズはイマイチ理解できないハルケギニアの社会制度について尋ねた。

 貴族が平民の上に立っているのはわかる。そして、貴族の血筋ならば魔法が使えるのもわかる。だが、何故そうなったのかがわからない。

 系統魔法を授けた始祖ブリミルの威光による支配――とは聞いているが、所詮は6000年も前の人間だ。普通に考えればそれは歴史の教科書の中にだけある名前となっていてもおかしくないだろう。

 それなのに、6000年経っても系統魔法による支配が行われている。ならばそれは単純な武力による恐怖政治なのではないかとアインズは考えたのだ。

 だが、その推測はセバスによってやんわりと否定されるのだった。

 

「そう言った面がないとは言いませんが、それだけではないでしょう」

「と言うと?」

「はい、この世界のメイジの系統魔法を見る機会が何度かありましたが、武力と言う面でそれほど強力なものはありませんでした。もちろん私が未だ知りえない強者についてはわかりかねますが、平民と貴族の数の差を考慮に入れれば総合力では平民の方が上だと思われます」

「ふむ、具体的に、お前の目から見てメイジの魔法はどの程度だと感じたんだ?」

「そうですな……一流、トライアングルと呼ばれるメイジになってようやく複数人を相手にしても問題ないといったところでしょうか。平民は貴族(メイジ)に勝てないと言うのがこの世界の通説のようですが、私の私見では武装を整えてある程度訓練すれば普通の人間でも一対一で勝利できるでしょう。何故かこの世界では戦士職を修めたものがいないようですが、ユグドラシルで言うのならばレベル20もあれば問題なく勝利できるのではないかと」

「なるほど、つまり――」

「ええ。もし魔法という武力で圧制を敷いているのならば、反乱が起きてしまうのではないかと」

 

 セバスの報告を纏めるのならば、普通の平民と貴族を比べれば貴族の方が強いが、その差はさほど大きくはない。だから、ただの恐怖支配ならばいつまでも貴族制度が続くわけはない――ということだ。

 ただ武力で圧制を敷いているだけならば『傲慢な貴族社会を打倒する』と言う、手垢の付き捲った小説みたいな大義名分も成り立ったのだがと、アインズはちょっと残念に思うのだった。

 

「そこからは私が引き継ぎましょう」

「あらデミウルゴス。何かあるのかしら?」

「ええ。少々長くなりますが、現貴族による支配体制についても解説できるでしょう」

 

 セバスの話が一区切りついたところで、最後の報告者であるデミウルゴスが立ち上がった。

 スーツ姿の悪魔には、ナザリック最高の頭脳の持ち主としてこの世界にその手腕を存分に振るってもらっていた。

 その仕事は多岐にわたり、もうこいつ一人でいいんじゃねといいたくなる有能さのせいでもう何をやってもらっているのかアインズにも把握し切れていないほどだ。

 とりあえず大きな仕事としては、ユグドラシルから離れたことで入手困難になった消費アイテムの補充経路の確保と、仮想敵である宗教国家ロマリア連合皇国での情報収集および工作だろうか。

 

「ああ、ただのその前に、私個人の任務について軽くご報告申し上げたいのですがよろしいでしょうか?」

「ふむ、そうだな。ハルケギニアの人間たちの社会形態はもっとも重要なファクターであり、時間をかけて話し合うべきだろう。まずはデミウルゴス個人の仕事から報告してくれ」

「畏まりました。ではまずこちらが報告書になります」

 

 そう言ってデミウルゴスから手渡されたのは、非常に分厚い報告書だった。

 デミウルゴスはその書類に従って淀みなく自分がこの世界で出した成果について次々と報告しているが、アインズは早くも頭がパンクしそうだった。

 と言うか、俺はデミウルゴスを働かせすぎているんじゃないだろうか? もっと休暇を取らせるべき……でもデミウルゴスがいないと回らないことが多すぎる……なんて、ある意味切実な悩みを始めるという現実逃避を始めるくらいに。

 そんな風に主が半ば意識を飛ばしているなど――そして後で部屋に戻って報告書を熟読しようなんて決心しているなど知るはずもなく、デミウルゴスは報告を終える。最後に、その顔に悪魔らしい笑みを浮かべながら。

 

「以上で報告を終わります。――っと、そう言えば最後に一つ」

「ん? なんだ?」

「はい。以前よりアインズ様が御懸念なされていた消費アイテムの補充についてなのですが、ある程度なら解決の目星がつきました。スクロール系に関してです」

「おお! それは素晴らしい! だが、確かこの世界にはスクロールそのものがない為、魔法を込められる羊皮紙の類がなかったのではなかったか?」

 

 ユグドラシルでスクロールが無いのは結構不便だ。

 自分が取得していない魔法を使えるだけでも十分な恩恵だが、スクロールを騙すという手段で多種多様な魔法を使用可能になる盗賊系にも影響がある。

 そんな便利な品なのに、このハルケギニアには存在していない。つまり補充が利かない。それに関しては確かにアインズも頭を悩ませていたが、この有能悪魔は既に何か見つけてきたらしいのだ。

 

「スクロールの材料となる羊皮紙に丁度いい家畜を発見し、現在飼育しております。現段階ではまだ第三位階程度の魔法しか込められませんが、品種改良でよりよいものを作れるかと思われます」

「ほぅ、それはいったいなんと言う獣なのだ?」

「獣――ええ、獣ですね。名前をつけるのならば、連合皇国両脚羊――ロマリアンシープとでも名づけましょうか」

 

 デミウルゴスの笑みは悪魔に相応しく歪み、それを聞いたアルベドもまた理解が及んだのか美しく微笑んだ。

 そんな二人の様子にとりあえずアインズも「なるほどな」と頷いておくのだった。

 

「見事だデミウルゴス。それで、その羊皮紙はどのくらい用意できそうなのだ?」

「偽装した身分を使い、かなりの数をロマリアの神官から格安で購入することに成功しております。我々からすればスクロールの材料に相応しい便利な獣ですが、この地では生かしておくだけ食料の無駄と思われる程度のようですね」

「ふむ、ならばかなり安定供給が望めるな」

「はい。更にその上位種――連合皇国魔法両脚羊、ロマリアンマジックシープとでも言うべきものも確保しております。これらに治癒魔法を応用して生産を行えば飛躍的に数を増やせるでしょう」

「なるほど、素晴らしい成果だったぞ、デミウルゴス」

「もったいなきお言葉です、アインズ様」

 

 デミウルゴスがアインズの賞賛に一礼を持って答える。主人からの最高の賞賛を頂戴したデミウルゴスに他の守護者からの嫉妬が幾分か向けられるが、デミウルゴスは微笑んで受け流す。

 そして、その空気をかき消すかのように話をハルケギニアの社会構造の把握と支配に向けるのだった。

 

「それでは、これよりセバスの報告を引き継ぐ形でハルケギニアの支配構造についてをご報告させていただきます」

「うむ、この話は他の守護者達も知るべき話だ。皆に分かるように説明してやってくれ」

「畏まりました」

 

 つまり、俺にもわかるように言ってね、である。

 

「まず皆に知ってもらいたいのは、この世界の社会形態が魔法に依存しているということです」

「どういうことでありんすか?」

「つまりだね、家を建てるのには魔法を使う。畑を回復させるのにも魔法を使う。傷を治すのにも、薬を作るのにも、大体のことに魔法を使うのがこの世界の常識なんだね」

「なるほど……つまり、魔法がなければ生活が成り立たないということか」

「その通りです、アインズ様。貧しい暮らしを送る――魔法の恩恵を受けられない平民の中には貴族を疎む者も大勢いますが、現実問題としてメイジの魔法がなければ生活そのものが成り立たない。故に不満があっても従うしかない――ということです」

 

 アインズはデミウルゴスの説明を受け、なるほどなと頷いた。

 現代日本で言えば、いきなり電気を奪われるようなものだろうか。自らの住む星を破壊する一歩手前まで進化しても、その生活が電化製品に依存しているのは変わらない。それを失えば生活などできるわけもなく、滅びるしかないだろう。

 日本では支配される側の人間だったアインズとしては平民達の気持ちはよくわかるものであり、ハルケギニアの社会構造をよくできていると内心で褒めるのだった。

 

「更に知識階層を貴族に限定し、平民にはまともに教育を受ける機会すら与えない。となれば魔法に頼らない新たな技術形態などそう生まれるわけもなく、メイジ主体の社会は永遠に続く……ある種、理想的な支配構造であるといえるでしょう」

「ふむ……」

 

 アインズは自分の故郷を思い出しつつ、重々しく頷いた。

 アインズの世界は何だかんだ言っても科学技術――誰でも使える技術によって発展してきた。

 だからこそ数多の反乱劇が起きたのだが、個人技能に依存すればそれもできないということか。

 

「さて、それを踏まえてもう少しこのハルケギニアの社会構造に触れておきましょう。貴族の魔法が社会基盤を支えているからこそ成り立つ統治と言うのは先ほど言ったとおりですが、ハルケギニアにはもう一つ重要な要素があります」

「それはなにかしら?」

「ブリミル教、と言う宗教ですねアルベド。6000年前に降臨し、人間に系統魔法を与えたとされる始祖ブルミルを神の如く崇めていると思ってくだされば結構。先ほど言ったメイジ主体の社会が作られているのと同じ理由で信仰心を集めています。今の暮らしがあるのは全て始祖ブリミルが系統魔法を齎してくれたおかげ、と言うシステムです」

「目に見えた恩恵がある。具体性はないにも拘らず宗教と言う奴が成り立つ以上、その求心力は絶大だろうな」

 

 アインズが、鈴木悟が生きた荒廃した日本でも宗教と言うのは健在だった。その心の全てをユグドラシルに捧げていたアインズには無縁だったが、その凄さと怖さはわかっているつもりだ。

 系統魔法という確かな恩恵がある以上、ブリミル教の力はアインズの想像を遥かに超えるだろう。そんなものが仮想敵だと思うと、ないはずの胃が痛み出す気がするのだった。

 

「ではそのブリミル教ですが、これはハルケギニア人の基盤であると同時に我々ナザリックにとっては不都合でしかないものだといえます」

「どう言うことなの? デミウルゴス?」

「つまりだねアウラ、このブリミル教とは6000年前の始祖の教えとやらを説いているらしいが、実態は時の権力者が都合のいいように改変に改変を重ねた支配の小道具に成り下がっているということだね。そしてその教えの根幹はそうだね、人類至上主義とでも言えばいいのか、始祖ブリミルとその教えを受け継ぐ自分達こそが至高。それ以外の亜人種や異形種はもちろん、同じ人間ですらブリミル教の教えを信じなければ異端と呼んで迫害するのさ」

 

 まあ、宗教国家ではよくある話だ。一つの宗教を指針に纏まっているのだから、その輪を乱す者は排除して当然だろう。

 ブリミル教なんてここに来るまで聞いたことすらなかったナザリックの者からすれば、迷惑でしかないが。

 

 アインズはその程度の感想しか持たなかった。小卒の社畜でしかなかったアインズこと鈴木悟の知識では「地球にもそんな時期があった国があったとか歴史の授業で聞いたことがあるような気も」程度の感想だが、守護者達からすれば今のデミウルゴスの説明は決して許容できるものではない。

 この世で至高の名を語ることが許されるのはナザリックの支配者たる至高の41人のみ。その下に御方々が手ずから創造された自分達がおり、そしてその下に通常のシモベがいる。それ以外はゴミだ。

 それがナザリックの常識であり、それ以外に属する者をなんと称するかは個人個人の性格によるが、属性(アライメント)極善のセバスでもその階級だけは揺らがない。

 ナザリックが直接侮辱されてない以上はただの文化の違いとしか思わないアインズと、ナザリックに真の忠義を捧げるNPC達との温度差、とでも言うのだろうか。

 

「なら簡単でありんす。ぶっ殺してしまいんしょう」

「そうだねー。至高の方々以外を崇める宗教なんて全部潰しちゃえばいいんだよ」

 

 短絡的ながらもナザリック的解決案を出したのはシャルティアとアウラだ。普段創造主に「そうあれ」と命じられたからこそいがみ合っているが、本質的には仲がいいのだろう。

 そんな二人にデミウルゴスは仲間内にしか見せない慈愛のまなざしを向けると共に、軽く頷くのだった。

 

 

「そうだね。それが一番簡単な方法だろう。知性に劣る人間を支配するのに、恐怖とはもっとも確実なツールだしね」

 

 悪魔的思想と言うのか、デミウルゴスは唯一の例外である人間の同胞――ただし不老――以外の人間に慈悲などもたない。もっともそれはナザリックの基本思想であり、善に偏った思想を持つセバスのほうがむしろ珍しいのだが。

 わいわい盛り上がってどうやってこの世界の人間に恐怖を味わわせ、支配するのかと言う方向に話が進もうとしたとき――アインズが待ったをかけたのだった。

 

「皆の意見は参考になった。しかし、現段階でそれはまずいな」

「何故デスカ? アインズ様?」

 

 アインズが発言すると共にピタリと言葉を止めて静聴する守護者達。

 その発言の意図を何となく、先ほどの話し合いに参加していなかったコキュートスが聞いてみる。どんな案でもアインズがダメだといえばそれは理屈抜きにダメなのだが、それでもその理由は知っておかねばならない。武人気質で自分の考えと言うものを普段表に出さないコキュートスだが、最近バーでデミウルゴスに言われた「相手の真意を読み取らねば真の忠義は果たせない」と言う助言に従ったのだ。

 

 そんな、転移後に徐々に現れ始めたNPC達の変化。

 それは極みに至っている守護者達の成長を意味するものであり、それにアインズは満足感を覚えつつ自分の考えを話すのだった。

 

「……力で抑えれば、必ず相手も力で反発してくるだろう。この世界の戦力を正確に把握できていない現状では危険が大きい」

 

 例えば、他のプレイヤーとか。

 なんてことを内心で付け加えるアインズだが、実際この世界の人間、あるいは他の種族にはまだまだ謎が多い。

 今のところ遭遇したメイジは個としてみればナザリックの足元にも及ばない弱者であるが、国としての戦力は不明のままだ。もしかしたら野のメイジとは比べ物にならない強者を切り札として有しているかもしれないし、ユグドラシル由来のアイテムを保有している可能性だってあるだろう。

 そんな状況で真っ向から戦争を仕掛ける気などアインズにはないのだ。あまり怯えた発言は守護者達の忠誠心低下を招くと思って、口には出さないが。

 

 そして、そんなアインズの言葉に守護者達は理解できないが納得していた。

 自分達こそが最強であると、例えかつての大侵攻で守護者全員が倒されたとしても至高の41人によって創造された自分達は最強でなければならないと自負している守護者一同としては、現地の人間がどんな力を持っていようとも真っ向から跳ね返すつもりなのだ。

 しかしアインズの言葉は絶対。それもまた創造物として当然のことなので、納得しているのだった。

 

(……まずいな。やはり何か代案を出すべきだろうか)

 

 だが、当のアインズは発言してから後悔していた。社会人として、代案なしの否定はまずいと思ったのだ。

 何とか今まで集めた情報から当たり障りの無い今後の展望を考え出そうとし――纏まらない思考のままで口を開くのだった。

 

「……やはりしばらくは情報収集が主な行動となるだろう。先日協定を結んだ盗賊、土くれのフーケの協力のおかげで国際情勢や“錬金”の魔法の効果範囲は大体把握できた。これからは、より深いところを探ることになるだろう」

 

 先日の、本来はアインズ一人で話そうと思っていた現地の人間、フーケのことを少し思いだしながらアインズは言葉を綴る。

 

 土くれのフーケに対して、アインズは高い評価を下していた。ナザリック強化計画に大きな変更を加えてもいいかもなんて思えるほどに有用なのだ。

 現在、高レベルのアイテムを簡単に分解できるほど“錬金”も万能ではないと実験によって知りつつ、石ころを金属に変えるその奇跡の技の研究に勤しんでもらっている。

 アイテムを入れればユグドラシル金貨に換えてくれるエクスチェンジボックスは“錬金”で作った紛い物でも問題なく高査定をたたき出した為に、今のフーケはその辺の石ころを単純計算で一番価値のある金属に変える仕事を任せているのだ。

 うまくこの作業が軌道に乗れば、もうナザリックの維持費を心配する必要はなくなるかもしれない。今後もメイジが作った紛い物として外の世界では人気がなくとも、無機質に材質だけを判断するアイテムを騙せる高価な金属を作り出してもらいたいものだ。

 

 というところでアインズはわき道に逸れた思考を元に戻す。今は自分のプランを語るべきときなのだから。

 

「――具体的にはセバスとデミウルゴスがメインになるだろうが、一般の外に出ているメイジ以外の戦力についての調査だ。国が隠しているであろう強者や武器について、それにこの世界では亜人とされるエルフを筆頭とした人間以外の勢力についても知る必要があるな。これはアウラとマーレに任せることになるだろう」

『はっ!』

 

 指名された四名はそれぞれ深く頭を下げ、忠誠を示した。

 しかしアインズはそれだけでいいのかと、自分よりも遥かに優れた頭脳を持ったデミウルゴスやアルベドが納得するだけのことが言えたかと自問し――その自信は微塵も持てないのだった。

 

「後は、そうだな。その……虚無? だったか? それについても詳しく知りたいな」

「キョム、ですか?」

 

 聞きなれない言葉にアウラが首を傾げる。

 アインズも捕らえた人攫いやフーケから聞いただけではっきりしたことはわかっていないのだが、わかっている範囲のことを喋るのだった。

 

「何でも、伝説の系統らしいな。始祖ブリミルが操ったとされるもので、既存の系統魔法を遥かに超える力を持った神聖な系統だとかなんとか……」

「そ、そうなんですか」

「ソノ魔法、一体ドノ様ナ?」

「む、それはだな……」

 

 正直知らない。と言っても、これはアインズのせいではない。

 だが知らないというのも何となく支配者に相応しくないと思ったアインズは、ちらりとデミウルゴスを見る。宗教的な意味合いの強い虚無に関する知識ならば、その総本山に潜伏しているデミウルゴスなら詳しいのではないかと思って。

 するとデミウルゴスは頭を下げ、説明を引き継いでくれたのであった。

 

「伝説の系統“虚無”。始祖ブリミルが使用し、その血族および直系の弟子の血筋だけが使用することができる。ただし現在その系統に目覚めたメイジは一人もおらず、その魔法の効力がどんなものだったのかは失伝している、とのことだよ」

「へー、つまりさ、何にも分かってないってこと?」

「そうだね。もう少しロマリアの中枢に入れれば何かわかるかも知れないけど、一般に知られているのは『始祖が使った凄い系統』といった程度の理解しかないようだ」

 

 デミウルゴスですら明確な回答を行うことが出来ない伝説の系統。つまりハルケギニアの住民ですら知らない、名前だけの系統。それが虚無だ。

 始祖の使った伝説と言うことで大半の人間は知ってはいるが、具体的な解説はない。失伝した強大な力――ナザリックの情報網が届いていない、王家に類するような場所には残っている可能性はある――とされるだけだ。

 

「……怪しいものだな」

 

 ポツリと、アインズはその話を聞いた感想を漏らした。

 そんな強大な力が現代に伝わらずに、その下位であるらしい系統魔法だけはしっかり受け継がれるなんて不自然だと感じたのだ。どうせ伝えるのならば強いほうがいいだろうに、その程度の思いで。

 

「流石はアインズ様。まさしくその通りだと思われます」

「……そうか」

 

 が、デミウルゴスはアインズのそんな軽い呟きに何か意味を見出してしまったらしい。

 咄嗟に重々しく頷いてしまったが、何がどうしたというのだろうか。アインズは表情が変化しない自分の骸骨フェイスに感謝するのだった。

 

「どう言うことなんですか? アインズ様?」

 

 アウラが口を開き、首を傾げる。よく見ればシャルティアやマーレ、コキュートスの頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。

 ……ちなみに、アインズの頭の上にはクエスチョンマークにビックリマークまで追加されている。

 

「……わからないかね?」

「は、はい……。申し訳ありません……」

 

 時間稼ぎにちょっと思わせぶりな態度を取ってみたが、すぐに後悔した。

 アインズに失望されたと思ったのか、守護者達――デミウルゴスとアルベドを除く――の顔に影が差したのだ。そんな顔をされると罪悪感で死にそうになるアインズだった。

 

「いや、問題ないとも。今聞いたばかりの話をすぐに整理できなくとも仕方がない。そうだな……デミウルゴス、説明してあげなさい」

「畏まりました、アインズ様。……それでは皆に聞くが、強大な力である虚無。それが実在した――権威付けの為に始祖がありもしない系統の使い手だったと歴史が捏造されている可能性は除外して考えた場合、虚無が失伝した理由は何だと思うかね?」

 

 よし、切り抜けた。そんな思いで心の中でガッツポーズをとるアインズを他所に、さっそくデミウルゴス先生のハルケギニア講義が始まる。

 こっそり生徒に紛れるアインズも、全身全霊でその話を聞くのであった。

 

「んー? 誰も習得できなかったとか? 強いって事は難しいんじゃない?」

「そうだね。それはありうることだ。その虚無とやらが仮にレベル90以上でなければ習得できないような類のものだった場合、この世界の人間が会得することは不可能だろう。……しかし、それだと知識としてすら残っていないことに説明がつかないね」

 

 虚無は始祖が使った神聖なる系統。その謳い文句が真実であるのならば、何が何でも後世にその偉大さを伝えようとするだろう。

 しかし、現実には伝わっているのは『虚無』の名前だけで、その効果も習得条件も魔法の種類も全く不明となっている。何か作為的なものを感じるほどにだ。

 

「ナラバ、故意ニ隠サレタノカ?」

「その通りだよ、コキュートス。その理由は不明だが、明らかに何者かが虚無についての情報を意図的に遮断しているんだ。そうでなければ“固定化”の魔法を持つハルケギニアの書庫の中に、呪文書はもちろん、当時の日記など、その程度のものすら残ってないことに説明がつかない」

「ではここで更に皆に問うわ。何故そんなことがされたと思う?」

 

 副担任のアルベド先生も解説に加わった。全てがわかっているというスタンスのアインズは何も口にしないが、自分も頭の中で何故なんだろうと懸命に考えている。

 

「あ、あの、それって、その、虚無を残されたら困る人たちがいたってことですか?」

「正解よ、マーレ。虚無の情報を徹底的に表舞台から消した誰か。そのものたちにとって、虚無の情報は秘匿したいものだったということよ」

「加えて、その何者かはそれが可能なほどの力を持っている――ということも合わせて考えてみてくれ。そうすれば自ずと見えてくると思うよ?」

 

 デミウルゴスとアルベドの解説とヒントを受け、アインズも徐々に二人の言いたいことが見えてきた。

 まず虚無の情報を広めたくない事情。それは二つのパターンが考えられる。虚無という系統そのものが邪魔と感じる者がいたのか、あるいは()()()使()()()が自分の手の内を晒したくなかったか、だ。

 そしてもう一つのヒント。人の歴史から虚無という大きなファクターを抹殺できるほどの権力を持った存在であること。

 それを踏まえれば、もはやどちらなのかは明白と言えるだろう。

 

「……もしかして、その始祖とか言う人間の血を引いているって言う王家の仕業?」

「なるほど、虚無の力を広く知られて対策されることを恐れたということでありんすか」

「正解よ、二人とも。加えて言うのなら独占目的もありそうね。もし虚無を大きく知られて研究が進み、多くの者が使えるようなことになればせっかくの血筋が台無しになるもの」

 

 なるほどなーと、アインズは態度に出さずに納得した。

 確かに、虚無の後継者達が自分の優位を消さない為に情報を規制したというのは十分考えられる話だ。

 となると、今の王家にも実は虚無の担い手がいる? 現代に虚無の知識を持つものが生きていない以上情報隠蔽が行われたのは100年単位で昔のことと考えられるので、現代では本当に失伝している可能性もある。

 だが、やはりナザリックとしてはこう考えるべきだろう。今もハルケギニア王家の中には、国民の誰にも知られないように虚無の力を伝えている強者がいるのだ、と。

 

「ところでアインズ様?」

「ん? どうしたアウラ?」

「いえ、ちょっと気になったんですけど、結局その虚無とか言うのがどうかしたんですか?」

「どう、とは?」

「虚無が人間の使うよわっちい魔法よりも多少強かったとしても、あたし達の脅威になるとは思えないんですよねー。そんなに警戒する必要あるんですか?」

 

 アウラの発言は、非常に傲慢だ。全くの未知の力を前に警戒しないほうがどうかしている。

 その辺の、ナザリックNPCの大半が持っている人間軽視で自信がありすぎる傾向は何とかしないといけないなーと思いつつも、アインズは威厳を出してアウラの言葉を否定するのだった。

 

「それは違うぞアウラ。未知とはそれだけで恐ろしいものだ。虚無の魔法がどのような力を持っているのかは不明だが、もしかしたら我々レベル100を一撃で殺しつくすことすら可能なのかもしれないのだぞ?」

「その可能性は低くても、0ではない、ということですねアインズ様!」

「う、ウム。その通りだとも」

 

 絶対なる智謀と力を持ちつつも、慢心することなく王の道を行く。

 そんなアインズの姿に守護者達の尊敬メーターが跳ね上がっていく中――「くくくく」と、デミウルゴスの笑い声が響くのだった。

 

「諸君。アインズ様のお考えが、虚無という存在を言葉になされた理由が本当にこれだけだと思っているのかね?」

「表面的なわかりやすい答えだけを貰って満足してはダメよ? もう少し自分で考えないと」

 

 何か絶望的な言葉が聞こえてきた。アインズはめまいを覚えそうになる中、守護者達は発言元であるデミウルゴスに疑問を投げかけるのであった。

 

「どういうことなの、デミウルゴス?」

「説明を要求するでありんす!」

「ふぅ、やれやれ。アインズ様、彼らにも説明しておいたほうがいいのではないでしょうか。ナザリックの今後のプランに関わって来ますので」

 

 守護者とセバス、この部屋にいる者全員の視線がアインズに集まる。

 主の考えを理解できない愚鈍なわが身を許して欲しい。そして、説明していただければきっとお役に立ちます――という各自の念が伝わってくる勢いで。

 

「……流石だな、デミウルゴス、アルベド。私の考えは全て読まれてしまったか」

「いえ、恐らく私が見抜けたのはほんの一部でしょう。アインズ様の深遠なるお考えにはまだまだ遠く及びません」

「この異世界にやってきてから僅かな時間で必要な全てを集め、見抜くご慧眼。まさに智謀の王と呼ぶに相応しいと思います」

 

 アインズの賞賛を、デミウルゴスとアルベドは礼によって返した。

 そしてこれ以上の時間稼ぎが出来ないアインズは、この場を乗り切ろうと手にしたギルドの証をデミウルゴスに向けるのだった。

 

「デミウルゴス、お前が見抜いた私の狙い、それを説明することを許可する」

 

 本心に翻訳すれば「教えて! デミウルゴス先生!」である。

 

「畏まりました。……さて、前にも言ったと思うが、我々の当面の目標はアインズ様がこのハルケギニア大陸を支配し、君臨することだ。それも先ほど仰られたように、武力と恐怖によらない方法でね」

 

 大陸の支配。それはアインズも了承しているナザリックの目標だ。

 アインズ以外にも、この世界に来ているプレイヤーはいる。だったら、アインズ・ウール・ゴウンの仲間達もきているかもしれない。そんな仲間達を探す為に、見つけてもらうために、アインズはナザリックを世界の誰もが知る場所に、そしてアインズ・ウール・ゴウンを伝説にするつもりなのだ。

 

「そして先ほどから話しているハルケギニアの社会構造と、未知に溢れた虚無という存在。それこそがアインズ様がこの大陸の人間を支配するために用意なされた道具なのだよ」

(ん?)

「この世界の人間はブルミル教を信仰しており、その教えの内容から言ってもアインズ様が王となられるのには邪魔になる。しかし力で彼らの宗教を取り上げれば必ず反発が起きる。そこで、宗教を、教えを利用するのだよ」

(ほうほう)

「すなわち、この世界の人間に知らしめる。アインズ様こそ、始祖ブリミルをも超える真なる神である、とね」

 

 デミウルゴスの言葉に守護者一同は「当然」と言いたげな表情になるが、段々アインズは意識が遠のいていた。

 どうやら、自分は知らないうちに神になる道を歩んでいたらしい、と。

 

「そのためのツールこそが“虚無”。この世界の、少なくとも一般の人間の中では虚無とは詳細不明だが権威を持った称号とされている。ならばこう言えばいい。アインズ様がお使いになる位階魔法こそが虚無だ、とね」

 

 虚無は神聖な力だが、その詳細を知るものはいない。考えてみればこれほど騙しやすい認識はないだろう。要するによく分からないけど凄いものを見せて「これぞ虚無だ!」と宣言するだけで始祖の再来と崇められるのだから。

 もちろんこの世界の裏にいるであろう虚無を知る者には通用しない言葉だが、そんな特殊な少人数など無視していい。そんなの虚無じゃないと叫ぼうとも民衆からすれば判断のしようがないのだし、そんな危険人物はどっちにしても生かすつもりはないのだから。

 

「そして、そこで更に話を作ればもっといいね。何故アインズ様が虚無を使えるのか。その理由は『アインズ様こそが虚無系統をブリミルに授けた御方なのだ』とでも言えばより有効利用できるね」

(何でそうなる? 6000年前の人間と俺が会うなんて不可能だろ)

「突然現れて魔法を授けたブリミルとは、元々この大陸の住民ではないとされている。何でも始祖降臨の地――今では聖地と呼ばれている砂漠に出現したらしく、そこから活動を始めたらしいんだ。ならば『本来この大陸はアインズ様の所有物だった。しかしこの地に訪れたブリミルがどうしてもと言うから大陸を貸し与えられたと共に魔法を授けたのだ』とすればこの地の支配者としての正当性も出せるだろう」

(……大丈夫なのか?)

「とは言え、もちろん言葉だけでこの地の人間たちを納得させる事はできないだろう。そこでこの国、トリステインが有効利用できるわけだね」

 

 デミウルゴスによる世界征服プランは続くが、アインズはなんだか混乱していた。

 だって、知らない内に6000年前の大陸の覇者になり、そして多くの人間に信仰されている始祖の師匠になっているのだから。

 

「トリステインの国力は周辺諸国の中でも最低。それは皆知っているね?」

「確か、このナザリックがある土地もトリステイン領土なんでありんしたか?」

「その通り。武力、財力、人材、あらゆる面で見ても小国の弱国。それがこの国だ」

(確かその辺は報告書にも書いてあったな)

「つまり、トリステインは他国から攻められたら迎撃する力がない。そのためにこの国の宰相は近隣のゲルマニアという国の皇帝と王女の軍事同盟を目的とした政略結婚を進めているとか。それは逆を言えば、軍事同盟さえ成されなければトリステインは自力で国を守る事はできない、と言うことになるだろう?」

 

 デミウルゴスは悪魔らしく邪悪に笑い、話の締めを行うのだった。

 

「自分の国を守ることさえ出来ない脆弱な軍勢。そんな状況でも国を守れない無能な王族。そして、そこに現れる神と崇める始祖を超えた救世主、アインズ・ウール・ゴウン様。実に美しい話だとは思わないかね?」

 

 つまりはこう言うことだ。ナザリックで裏から手を回し、トリステインを孤立させた上で戦争を起こさせる。そしてトリステインがボロボロにされる辺りでナザリックが介入し、英雄譚のような勝利を齎す。

 まさに神の所業だろう。全体を見れば頭に邪がつく神であるが、ハルケギニア人の忠誠を得るには実にわかりやすいやり方――壮大なマッチポンプ計画だ。

 

「あ、あの、デミウルゴスさん」

「なんだいマーレ?」

「アインズ様が仰っていた、王家が何かを隠しているというお話、それはいいんでしょうか?」

「うん、いい質問だねマーレ。もちろんアインズ様が進められている計画では、一度この国には瀕死の重傷を負ってもらう必要がある。そこで王家の切り札によって逆転――という可能性が無いわけではないが、それならそれで構わないんだよ」

「アインズ様が求められているのは情報。人間の国同士をぶつけ、それによって切り札の情報を引き出せるのならそれに越したことはないでしょう? この作戦のもっとも偉大なところはね、どう転んでもナザリックに損はないということなのよ」

 

 マーレの疑問にも、デミウルゴスとアルベドは淀みなく答えていく。

 まさに、完璧な計画なのだろう。今話さなかったこと以外にも、数々の問題解決案が二人の脳内に眠っているに違いない。

 それを確認するといろいろ火傷しそうなので、全て分かっていた風にふんぞり返るしかアインズにできることはないが。

 

「とりあえず煮詰めるべき場所は、軍事同盟をどう破棄させるかですが、それは――」

「待ってデミウルゴス。シャドウデーモンから緊急の連絡が入ったわ」

 

 どうやらアルベド宛に<伝言(メッセージ)>が届いたらしい。

 それを聞くのに数十秒かけた後、アルベドは聖母のような微笑を浮かべながらアインズにお辞儀をした後口を開いたのだった。

 

「ご報告させていただきます。魔法学院を監視していたシャドウデーモンからの報告で、王女が視察に訪れたとのことです」

「王女? 先ほどの話に出ていたトリステイン王家のか?」

「はい。そして何でも、その王女は個人的な知り合いであるらしい――モモン様として土くれと戦ったときに居合わせたという下等生物の部屋を内密に訪問。そこで、我々の求めているものの存在を口にしたそうです」

「ほう? いったい何を?」

「はい、何でも、隣国の王子に当てた、婚約破棄必至の私的文書について――」

 

 

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンは着実にハルケギニアにその魔手を伸ばす。全ての文明を支配し、全ての力を象徴し、全ての王として君臨する為に。

 全ては友の為。ただそれだけを思い、友の子等とともにゆっくりと動き出す。

 その行く道にどれだけの死が蔓延するのかは誰にもわからない。唯一ついえるのは、人の世界を守ろうとする者達との苛烈な戦いが待ち受けているのは間違いがなく、そして――アインズ・ウール・ゴウンに敗北はないと言うことだけだ。

 

「なるほど、ではまずは行くとしようか、その浮遊大陸、アルビオンとやらにな」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの世界征服は、ここから始まるのだ――。




このお話はこれで終わりです。もう続きません。俺たちの戦いはこれからだです。

こんな話でも読んでみて熱意に火がついた方がいれば、是非あなただけのSSを書き出して欲しいと願っております。
ようするに、もっとオバロクロスのSS流行れと。

最後に後書きを投稿しますので、興味ある方はどうぞ。
内容はこのSSのプロットを考えていたときの没案となっております。
こんなもん文章にできるかって自己封印をかけた酷い内容の続き案とも言う。ゼロ魔ファンは要注意。いやまじで。

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