IS 箒のセカンド幼馴染は…   作:TARO

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第3話

 

 

2時限後の休み時間。一夏と明人がその仲を深めたところに水を注すように現れた少女。

くるりとゆるく巻かれた鮮やかな金髪に透き通った碧い瞳。

その腰に手を当てた高圧的な態度はいかにも現代の女といった感じだ。

 

 

ISは女性にしか起動できない。

その事実が今の世の中に女尊男卑の風潮をもたらしていた。

確かに実際にISを操縦できる女性は優遇されるべきだろう。

しかし、全ての女性がISを扱えるわけではないのだ。

だと言うのに世の中の、ちょっと勘違いをした女性たちは、

 

女性=ISを使える=男より偉い=私も男より偉い!

 

なんて等式を掲げ世の男達を見下している。

勿論、男女分け隔てなく接する女性もいる。

しかし街中で女性が男性を顎で使う光景なんて珍しくも無く、男性を労働力程度に考えている女性も

 

少なくないのだ。

 

そして今自分達の目の前にいる少女もそんな考えを持っていると一夏はその態度を見て確信した。

 

 

「聴いてます?お返事は?」

 

 

明らかにこちらを小馬鹿にしたような言い方に一夏は心の中で「やっぱりな…」と呟いた。

 

 

「あ、ああ。聴いてるけど……どういう用件だ?」

 

 

しかしこのまま黙っていると何を言われるか分かったものではないので一夏は用件を聴いてさっさと

 

会話を終らせようとしたのだが、

 

 

「まあ!何ですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の

 

態度というものがあるのではないのかしら?」

 

「………………」

 

 

これである。

芝居がかったその言動はこちらを苛つかせようとしてやっているのか、それともそれが素なのか。

一夏は四分六で前者だろうと当たりをつけた。

と、言うか、

 

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

 

のである。

誰だか知らないのに「わたくしに話しかけられてるだけで~」なんて言われてもピンとくる筈が無い

 

実際はSHRで自己紹介も行われており、勿論彼女も自分のことを長々と語っていたのだが、どうや

 

ら一夏は聴いてはいなかったようだ。

 

 

「なっ…!わたくしのことを知らない、ですって……!」

 

「あぁ。明人は知ってるか?」

 

 

一夏の答えに憤慨する彼女を軽く流し、一夏は先程から隣にいる明人へと聴いてみることにした。

 

 

「セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生の1人だ」

 

「あら、そちらの方はご存知のようですわね」

 

 

先程の態度から一変。明人の言葉を聞いた彼女――――セシリア・オルコットは機嫌良さ気にその鮮

 

やかな金髪を優雅にかきあげ

 

 

「わたくしがイギリス代表候補生にして、この度のIS学園入試主席のセシリア・オルコットですわ

 

 

 

そんな鼻につく自己紹介をするセシリア。勿論、代表候補生と入試主席というところにアクセントを

 

付けるのも忘れない。

だが、それを聴いて一夏が思うことはと言うと

 

 

「なぁ明人。代表候補生って何なんだ?」

 

 

がたたっ!と盛大な音をたて、一夏たちの会話を盗み聞きしていたクラスの女子数名がお笑い芸人の

 

ようにずっこけた。

 

 

「あ、あ…あなたっ!本気で仰ってますの!?」

 

「代表候補生とは国家代表IS操縦者の候補生として選出された者たちのことだ」

 

 

凄い剣幕のセシリアと相変わらず淡々と応える明人。

字面から考えれば分かりそうなものだが…と皆が思う中で一夏は「あぁなるほどな」などと頷いてい

 

る。

 

 

「そう!つまり!エリートなのですわ!」

 

 

明人の言葉で再度気を取り直した彼女は左手は添え腰に右手は天へと掲げ言う。

その芝居がかった言動に流石の一夏もうんざりしてくる。

 

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくすることだけでも奇跡…幸運なのよ。そ

 

の現実を理解していただける?」

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

 

いい加減うんざりしてきた一夏が彼女の言葉に適当に相槌を打つと、どうやら彼女はそれが癪に障っ

 

てしまったようだ。

 

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね。ISを動かせると

 

聴いていましたから少しは知的さを感じさせるかと思っていたのですけど…期待はずれですわね。男

 

性というのは皆こうなのでしょうか?」

 

「明人は知ってたじゃないか」

 

「わたくしは貴方に言っているのですわ」

 

 

セシリアの言葉に一夏が先程のことを答えられた明人を挙げるが、それを一蹴される。

どうやら彼女の矛先は一夏にロックオンされてしまったようだ。

 

 

「まあでも?わたくしは優秀ですから、貴方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

 

などと優しさの欠片も感じさせない態度で言ってくる。

 

 

「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ

 

?何せわたくしは―――――」

 

「セシリア・オルコット」

 

 

と、ここまで自分から話すことをしなかった明人が、得意気に語っているセシリアの言葉を遮る。

まさか明人が会話に入ってくるとは思っていなかったセシリアは言葉を止め、明人に怪訝な顔を向け

 

る。

そして次に明人から出た言葉は、

 

 

「あまり喚くな。底が知れるぞ」

 

 

瞬間。教室の空気を凍らせた。

 

一瞬、自分が何を言われたのか理解できなかったセシリアはきょとんとした顔をしていたが、漸く理

 

解したのか徐々にその顔を朱く染めていく。

 

 

「あ…、あ…あっ!あなた――――!」

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

彼女が爆発しそうになった瞬間3時限目開始のチャイムが鳴る。

それと同時に担任の織斑先生が教室に入ってきたため彼女は怒りを爆発させるタイミングを逃してし

 

まった。

 

 

「っ……!またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

 

キッと明人の事をひと睨みし踵を返すと、彼女は肩を怒らせ自分の席へと帰っていった。

 

明人先程の秋との発言。それはチャイムが鳴るタイミングを見計らっての発言をだった。

チャイムが鳴ればセシリアは言い返すタイミングを逃し、さらに教師が入ってくればその機会さえ失

 

ってしまう。

それをわかった上で行ったというのだからなかなか質が悪い。

 

そのとき明人の口の端が吊り上がっているのを横目で一夏は見た。

その笑みを見た彼は「今後、明人を敵に回すのはやめよう」と思ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出るクラス代表を決めないといけないな」

 

 

3時限目が始まった直後。ふと思い出したように教壇に立つ千冬が言った。

そして彼女の言葉に例の如く一夏は「クラス対抗戦?代表者?なにそれ?」と頭に疑問符を浮かべていた。

それを彼の表情から察した千冬は彼のために説明を付け足す。

 

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長のようなものだな。クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いだろうが、競争は向上心を生む。因みに一度決まると1年間変更は無いからそのつもりでいろ」

 

 

千冬の言葉を聞きクラスの女子たちがざわめき立つ。一方、男子2人は興味が無いようで自分達以外がなるのなら誰でも良いと思っていた。

が、

 

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

 

「私は天河君を推薦します!」

 

「では候補者は織斑一夏と天河明人……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

 

何故か自分達の名前が挙げられ、勝手に候補者にされてしまっていた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待った!」

 

 

勢いよく立ち上がった一夏は自分たちが無理やり候補者になってしまったことに抗議をしようとする。

しかし、

 

 

「織斑、席に着け。邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないのならこの2人で多数決を取るぞ」

 

 

千冬に一蹴される。

と言うか、教師が生徒に「邪魔だ」なんて言うのはいかがなものだろうか。

ここがもし世のお坊ちゃまたちが通う有名私立小学校などであったら化物な両親が教育委員会に駆け込みそうな発言である。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってって!俺はそんなのやらな――――」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

 

尚も食い下がる一夏だがその抵抗も虚しくクラス代表の候補者に強制的になってしまった。

「横暴だ…」と肩を落とす一夏。

そのとき彼の隣の席から、抑揚が無く小さいが不思議とよく通る声が聞こえてきた。

 

 

「セシリア・オルコットを推薦する」

 

 

皆が一斉にその声のした方を振り返る。

その先には声の主、天河明人がクラス全員の視線を受けながらいつもと変わらない表情(口元しか見えないが)でそこにいた。

 

 

「……どういうつもりですの?」

 

 

そんな中、声を上げる少女が1人。

たった今その名前が挙がったセシリア・オルコットである。

彼女はこのまま一夏か明人がクラス代表になってしまうことに納得がいかず、抗議をしようとしていたところだったのだが、そんなとき自分が推薦された。

先程自分の事を虚仮にした本人に。

その人物――――明人をセシリアは睨みつけ、その言葉の真意を問う。

 

 

「どういうつもりも無い。俺がお前を推薦する。それだけだ」

 

 

明人にしてみたら本当にどういうつもりも無く、ただ自分がクラス代表なんてものになるのが面倒で、彼女なら喜んでなるだろうと思い推薦したのだが、

 

 

「また貴方は、わたくしを馬鹿にして……!」

 

 

それが彼女の感情を逆撫でしてしまったようだ。

顔を赤くして、バンッ!と机を叩いて勢いよく立ち上がった彼女は明人の方へとずんずんと歩いてくると、

 

 

「決闘ですわ!そこで貴方を完膚無きまでに叩きのめし、このセシリア・オルコットの実力を見せて差し上げますわ!」

 

 

ビシッという音が聞こえてきそうな勢いで明人に指を突きつけて宣言した。

 

 

「大体!実力からしてわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 

一度火の付いてしまった彼女はそれだけでは止まらず、何故か日本のことを侮辱するような発言までし始めた。

 

 

「それに文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとって耐え難い苦痛で―――――」

 

 

そこまでセシリアが言ったところで、それほど愛国家と言うわけではない一夏でも自分の住む国をここまで馬鹿にされたことでカチンときてしまった。

そして思わず

 

 

「イギリスだって大してお国自慢無いだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

 

なんて言葉が口から出てしまった。

そしてそれを直ぐ傍にいるセシリアが聞き逃すはずも無く。

 

 

「なっ……!あ、貴方!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 

勢いよく一夏の方へと振り向いた彼女がその赤い顔をさらに赤くさせてそう怒鳴った。

「しまった」と思う一夏だがもう遅い。

今まで明人のことしか見えていなかったセシリアだが、今この瞬間に一夏のことも敵と認識したのだった。

 

 

「丁度いいですわ!ついでに貴方のことも完膚無きまでに叩きのめして差し上げますから、覚悟しておきなさい!」

 

「おう。いいぜ。四の五の言うより分かり易い」

 

 

「言っておきますけど、態と負けたりしたら貴方たち2人ともわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「侮るなよ真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない。そっちこそ足元を掬われないように気を付けろよ」

 

 

もう売り言葉に買い言葉である。一夏は半ばやけくそで彼女の言葉にそう応えた。

 

 

「全く…勝手に話を進めおってからに、馬鹿者共が」

 

 

そこで今まで事の成り行きを教壇から見守っていた千冬が漸く口を出す。

その隣では真耶が一夏のセシリアの顔をおろおろと交互に見ていた。その瞳に今にも溢れそうな涙を湛えて。

 

 

「それでは勝負は1週間後の月曜日。放課後、第3アリーナで行う。それまで各自用意をしておくように。………天河、お前もだぞ」

 

 

手際よく試合の日程を決めた千冬は、最後に自分がこの事態を引き起こした張本人だというのに無関係を装っている明人へとしっかりと釘を刺した。

 

 

「それでは授業を始める」

 

 

そう言って授業を再開した彼女は、そのとき誰かが舌打ちをしたのが確かに聴こえたという。

 

 


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