ストックが切れるまでスムーズに投稿していきますが、それが切れると不定期投稿になると思います。ご了承下さい。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」
1年1組の教室内にこのクラスの副担任となった
そんな彼女の容姿であるが、その声の通りと言っていいのか童顔で(眼鏡を掛けているのだがどう見ても大きすぎて明らかにサイズがあっていない…)背が低く、おまけに身に着けている衣服のサイズが合ってないのかだぼついていてそれがさらに彼女を幼く見せていた。
「それじゃあ皆さん、1年間よろしくお願いします」
そんな彼女が生徒に向かって挨拶をしているのだが、残念ながら生徒達の視線が彼女に向けられることは無かった。
なぜなら彼女達の視線は皆一様にある一点へと向けられているからだ。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順で…」
誰からも反応されない副担任は涙目になりながらも何とかこのSHRを進行させていく。
流石にその言葉を無視する生徒達ではなかったようで出席番号1番の生徒から自己紹介が始まっていった。
そんな中、このクラスの1人である
その視線の先にあるのは…いや、居るのは
彼と箒は小学校1年生から彼女が引っ越す小学校4年生までずっと同じクラスだったのだ。
そして彼は箒の初恋の相手でもあった。
切欠は小学校2年生の時、同級生の男の子からいじめられていたところを彼が助けてくれたことだった。
それ以前は彼と何かと馬が合わずに衝突ばかりしていたのだがそれ以降は名前で呼び合うようになり、さらに同じ剣道の道場に通うことで打ち解けていったのだ。
それ以来、彼のことが気になっていた箒だが小学4年生のときに引っ越してしまってそれ以降は会うことも無かった。
つまりおよそ6年振りの再会となるのだ。
初恋の相手と6年振りの再会。そんな状況にときめかない女の子はいないだろう。
もちろん箒もそんな女の子の1人であり、久し振りに見た彼の横顔に胸をときめかせていた。
不意に、彼が彼女の方を振り向いた。
どこか縋るようなその視線に彼女は思わず顔を背けてしまう。
何とか表情は先程からの仏頂面を崩さなかったがその顔はほんのりと紅く染まっていた。
思わず顔を背けてしまったが変に思われなかっただろうか?
顔が紅くなったのがばれていないだろうか?
「えー……えっと、織斑 一夏です。よろしくお願いします」
そんなことを彼女が考えている間に彼の自己紹介が始まってしまったようだ。
生徒達の視線が彼に集中する。その視線には皆一様にこれから何を話してくれるのかという期待が込められている。
「……………」
しかし彼は何も語らない。いや、語れない。
今まで普通の、何処にでもいるような学生だった彼はこんなに大勢の、それも全て異性からの視線に晒されたことなどなかった。
そしてそんな状況になってしまった今、彼は思考が完全に停止してしまったのだ。
しかし、何か言わなければ。
このまま黙っていたら『暗いやつ』なんて不名誉なレッテルを張られ1年間を過ごさなければならなくなる。
そんな考えが彼の脳裏に過ぎり兎に角何か喋らなければと必死に頭を働かせる。
そしておよそ15秒。
ひとつ大きく息を吸った彼が口にした言葉は、
「以上です」
都合12名の女子をずっこけさせる魔法の言葉だった。
「あ、あのー……」
彼のあんまりな自己紹介におどおどしながらも抗議をしようとする真耶。
背後からかけられたその声に思わず振り返ろうとした一夏だったが…。
パァンッ!という乾いた音とともに頭への強烈な衝撃によってその行動は止められた。
「いっ――――!?」
痛い。と言おうとしたのだろうその言葉は正しく発せられることは無かった。
その一撃はそれほどまでの威力だったということだろう。
そしてそんな一撃を
スラリとしたその身体は程よく鍛えられていて、しかし女性的なボディラインは一切失われていない。その長身を包むのは黒いスーツと同色のタイとスカート。きりっとした鋭い双眸はまるで狼を連想させる。
一夏はその人物に心当たりがあるのか恐る恐ると振り返り、
「ち、千冬
パァンッ!と本日二発目の出席簿による一撃を喰らった。
「織斑先生と呼べ」
「……はい。織斑先生…」
さてこのやり取りで気付いた者も居るだろうが彼女『織斑 千冬(ちふゆ)』は一夏の実の姉である。
そんな人物がなぜこのIS学園に居るのかというと、
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことは良く聴き、よく理解しろ。できないものはできるまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが私の言うことは聞け。いいな」
そう。彼女はこのIS学園の教師なのだ。
さらに言うとこのクラス、1年1組の担任でもあるのだ。
そしてそんな彼女からの暴力的とも取られかねない発言に対して起きたのは困惑のざわめきではなく、黄色い声援だった。
「きゃーーーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
喧々諤々。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」
そう彼女は言うが、彼女は今の世の中その名を知らないほどがいないほどの有名人なのだ。
彼女はIS操縦者なら誰もが目指すIS世界大会、モンド・グロッソ。その第1回大会の総合優勝者なのだ。
そんな彼女は、その凛々しい容姿とも相まって世の女性たちからはそこらのアイドルよりもよっぽど人気があるのだ。
しかし、それを理解していない千冬は鬱陶しそうな表情を隠そうともせず呟いた。が、
「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そして付け上がらないように躾をして~!」
しかし彼女のその辛辣な物言いは彼女達を再び炊きつけるだけであった。
「…で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」
そんな少女達を放置することに決めたらしい彼女は先程のあんまりな自己紹介について一夏に言及する。
「いや、千冬姉、俺は―――――ッ」
パァンッ!と本日三発目になる出席簿が一夏の頭に炸裂する。
どうやら彼は余り学習というものをしないらしい。
「織斑先生、だ。馬鹿者」
「……ぅぁい。織斑先生」
頭を押さえながら返事をする一夏を一瞥し、千冬は教壇へと戻っていく。
そこで彼女は未だ騒がしい教室内を静かにさせるめ、手に持った出席簿で教壇を叩いた。
それほど大きい音が出たわけではないが今静かにしなければその出席簿が今度は自分の頭に振り下ろされるであろう事を察した生徒達は一発で静かになった。
「さて、自己紹介の途中だがここでもう一人、諸君等のクラスメイトを紹介する」
その千冬の一言によって再び教室内が騒がしくなる。
しかし彼女が再び、今度は少し強めに教壇を叩くと皆一様に口を閉じた。
「静かにせんか馬鹿者。で、予め言っておくがそのクラスメイトとは先日発表された
千冬の話に何人かの生徒が声を上げそうになるが、千冬の出席簿を持つ手がピクリと動いたのを見て慌てて口を閉ざすのだった。
そんな生徒達を横目で見ながら彼女は教室のドアへと声を掛けた。
「入って来い。天河」
その時、箒はこのSHRが終ったら一夏と何を話そうかを考えていた。
しかしそんな彼女だが織斑先生の話はしっかりと聞いていた。
一夏に次いで発表されたISを起動した男。
しかしその情報は極端に少なく、その名前さえ明かされていなかった。
そんな謎の多い2人目の男のIS操縦者だが、正直箒には興味はなかった。
千冬が、彼の名前を呼ぶまでは。
「入って来い。天河」
ドクンッ!!と心臓が大きく跳ねた。
『箒ちゃん』
頭の中に彼の声が響く。
3年前に突然姿を消してしまった、彼の声が。
天河という苗字は珍しいが彼のほかに居ないなんてことはない。
だから今天河と呼ばれたのは別人だ、彼ではない。
だって彼は3年前に消えてしまったから。警察が捜索しても遂に見つからなかった彼が此処にいるはずがない。
ガラリ、と。教室のドアが開かれた。
そこから現れたのはスラリとした背の高い男だった。
短く切られた赤茶色の髪。175cmはあるだろうその身体は一夏が来て居るものと同じ、男性用のIS学園の制服に包まれている。
しかし一番目を引くのは彼の顔の半分を覆っている黒いバイザーのようなものだろう。
そのバイザーの所為で彼の表情を伺うことは出来ないが、見えている口元は硬く真一文字に閉ざされていて、何者もを寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
『よろしくね。箒ちゃん』
…違う。
彼はあんな人を寄せ付けないような雰囲気をしていなかった。
「天河。自己紹介をしろ」
「
『俺、天河 明人って言うんだ』
違う…。
彼はあんな冷たい声をしていなかった。
「全く。お前もまともに自己紹介が出来ないのか…。仕様が無い、だれか天河に質問がある者はいるか?」
「はい!そのバイザーみたいなのはなんで掛けてるんですか?」
「生まれつき視力が弱く、それを補うために掛けている」
『大丈夫!箒ちゃんが迷子になっても俺が直ぐ見つけてあげるよ』
違う。
彼はとても目が良くて、よく迷子になってた私を直ぐに見つけてくれた。
「はーい!趣味はなんですか?」
「特に無い」
『箒ちゃん。今日は肉じゃがを作ってみたんだ。食べてみてよ』
違う…!
彼は料理が好きで、良く私に作ったものを食べさせてくれた…!
「はい。好きな食べ物は?」
「辛いものだ」
『んー…、嫌いってわけじゃないんだけど。舌がおかしくなりそうで…』
違う!
彼は舌が馬鹿になるからといって辛いものなどは余り食べなかった!
「はいはい!そのバイザー取ってみて下さい!」
「ふむ、そうだな…。天河、これから1年間同じクラスで過ごすんだ。皆に素顔くらい見せておけ」
「…………」
千冬の言葉に彼は無言でそのバイザーを取る。
現れたのは触れれば切れる刃物のような細く鋭い双眸。
違う!!
彼はあんな突き刺さるような鋭い目をしていなかった!!
――――――――でも。
その目を見た瞬間に、分かってしまった。
こんなに変わってしまっても、彼が3年前に居なくなってしまった『明人』だということが。
「さて、そろそろ時間がないな…。次の質問で最後としよう」
箒はまるで夢遊病者のように席を立ち彼の元まで歩み寄る。
周りの人達が怪訝な顔でこちらを見たり、声を掛けたりしてくるが、彼女は止まらない。
そして彼の目の前までたどり着くと、未だ無表情な彼に向けて声を掛けた。
「明人……?本当に…明人なのか?」
彼女の言葉を聞き、今まで全く変わらなかった彼の表情が、崩れた。
「箒………ちゃん?」
こうして、お互いにもう出会うことは無いと思っていた幼馴染はここに再会したのだった。