IS 箒のセカンド幼馴染は…   作:TARO

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以前にじファンで執筆していたTAROと申します。
にじファン閉鎖に伴い此方で執筆活動をさせていただくことにしました。
よろしくお願い致します。

まだまだ書き手としての日は浅く、拙い文章ですが温かく見守って下さい。


プロローグ

 

 

「さて、じゃあ今回の任務を言い渡すわ」

 

 

暗い室内にて二つの人影が向かい合っている。

一つはたった今声を発した少女のもの。

流れる清水のような蒼い髪。意志の強そうな紅い瞳。10人の男とすれ違えばその10人が振り返るような美貌と抜群のプロポーション。その口元には薄く笑みを湛えている。

 

少女に対するは全身黒尽くめの男。

その身体は首から足首まで漆黒のマントで包まれており更に唯一肌を除かせているその顔もその半分を隠すようにバイザーのような黒いサングラスに覆われている。唯一見えているその口元は硬く真一文字に結ばれていた。

 

パンッ。と小気味いい音をたてて少女が白い扇子を開き口元を隠す。

その扇子には『IS学園』とやけに達筆な文字で書かれていた。

 

 

「今回の任務はIS学園に潜入し織斑 一夏の護衛を行うことよ」

 

 

症状の発する声は、その容姿に違わず、聞くものを魅了するように美しい。

その彼女の口から出た『織斑一夏』とはつい最近全世界に発表された世界で唯一ISを動かすことが出来る男性のことだ。

 

IS〈インフィニット・ストラトス〉とは天才科学者『篠ノ之 束』によって開発された宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツのことである。

そのISは現在その本来の開発目的である宇宙開発に使われることなく軍事兵器として全世界に広まっている。

 

ISは核となるコアと腕や脚などの部分的な装甲であるISアーマーから形成されており、その攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器である。

特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや『絶対防御』などによってあらゆる攻撃に対処でき、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない。

そしてISには武器を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があり、操縦者の意志で自由に保存してある武器を呼び出すことができる。

更にハイパーセンサーの採用によって、コンピューターよりも早く思考と判断ができ、実行へと移せる。

 

そして更に更に、ISにはこれを究極の機動兵器足らしめる機能が搭載されていた。

それが『自己進化』である。

ISは戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することで、IS自らが自身の形状や性能を大きく変化させる『形態移行』を行い、より進化した状態になる。つまり操縦時間に比例してIS自身が操縦者の特性を理解し、操縦者がよりISの性能を引き出せるようになるのだ。

 

 

各国は挙ってISの研究、開発に力を入れ始めた。

ところがここで問題が一つ発生した。ISの心臓部であるコアは完全にブラックボックスと化していて開発者である篠ノ之束にしか製造出来無かったのである。

そして更にここでもう一つ問題が発生してしまう。それが篠ノ之束の失踪である。

彼女は突如コアの製造を止めて行方をくらませてしまい、ISの数は今まで彼女が製造したコアの個数、合計で467機に固定されてしまったのだ。

 

当然、各国間でコアの熾烈な奪い合いとなったわけなのだが、現在ではそれも落ち着き、各国は少しでも他国と差をつけようとISの研究・開発に躍起になっていた。

 

 

さて、ここまで長々と説明したがこのISにはただ一つ決定的な欠陥が存在していた。それは、

 

『ISは女性にしか動かすことが出来ない』

 

これまで軍事に関わる者の殆どが男性であっため、これは相当の欠陥であると言われたのだが、だからといってこれほどの兵器を使わない手は無い。

そのため現在世界の男女の社会的パワーバランスは一変し、ISを操縦できる女性が優遇され、男性が冷遇される女尊男卑が当たり前になってしまったのだ。

 

 

そして、そこに現れた世界で唯一ISを動かすことが出来る男性『織斑一夏』。

 

こんな稀有な存在を世界の研究者達が放っておく筈が無かった。

彼を調べればISを女性しか動かすことが出来ない原因が分かるかもしれない。男性でもISを動かすことが出来るかもしれないのだ。

それらの理由からして各国が彼に接触をとろうとすることは明らかだった。

その中に誘拐など過激なことを行おうとする奴等がいないとは限らない。

そのため彼はその身をIS学園に置くことを余儀なくされたのだった。

 

 

IS学園とはアラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校である。

操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。

また、学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。

勿論、そんな学園の警備セキュリティが軽微な筈が無い。つまりそこに彼の身を置き保護しようというわけである。

しかし、

 

 

「『IS学園はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない』…なんて規定は半ば無実化している。全く干渉されないなんてことはありえない。そこで…」

 

 

彼女はそこまで言うと口元を隠していた扇子をたたみ、男へと歩み寄る。

 

 

「貴方の出番ってわけ」

 

 

扇子で男の胸をトンと突き、そう告げた。

すると今まで一言も発せず彼女の言葉を聞いていた男がその硬く閉ざされていた口を開いた。

 

 

「俺はISを動かすことは出来ない」

 

「知ってるわ。でも貴方には『アレ』があるじゃない」

 

「『アレ』はISなどではない」

 

「大丈夫よ。少し形は異常だけど、今の世の中『アレ』を見てISと思わない人は居ないわ」

 

 

男の口調は単調でまるで機械を思わせるようだったが、少女は特に気にした風も無くそれに応える。

 

 

「それにシールドエネルギーの表示とか、ISと同じように見えるようにこっちで偽造しておくわ。…ここまでするのだから引き受けてくれるわよね。それにこの任務…」

 

 

そういって彼女は妖艶に微笑むと今まで男の胸を突いていた扇子を身体を上を滑らせるように男の顔の前まで持っていくと

 

 

「貴方の大嫌いな(・・・・)ISを合法的に潰すことが出来るのよ?」

 

 

男の心の最も暗く黒い部分を突く言葉を投げかけた。

 

それを聞いた男は何も言わず、ただ踵を返しこの部屋唯一のドアへと歩いていく。

そしてドアの前に立ちそのドアノブへ手を掛けたとき不意に口を開いた。

 

 

「何時からだ」

 

「3日後よ。その日に学園の入学式があるから彼と一緒のクラスになってもらうわ」

 

 

突然の男の問いかけに対し、少女は動揺することなくそれに応じる。

まるで男がそう尋ねることが分かっていたかのように。

 

それを聞いた男は少女の方を見ることも何も言うことも無く部屋を出て行った。

一人部屋に残された少女は男が出て行ったドアを見つめて、

 

 

「少し炊きつけ過ぎちゃったかしら?」

 

 

そう呟いた。

彼女は見てしまった。

表面上は冷静に保っていた彼の顔が薄く光っ(・・・・)ていた(・・・)のを。

 

それが何を意味するのか。それを知る人間は彼女を含めて僅かな人数しか居ない。

しかしその理由を知っている彼女は彼を炊きつけるためとはいえ、あんな言葉を彼に投げかけてしまったことを後悔するのだった。

 

 


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