魔法科高校の月兎   作:樹矢

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入学編
入学式


今日は魔法科高校の入学式である。私の着ている制服の左胸には8枚花弁のエンブレム。つまりは一科生ということである。ちなみに蒼依も一科生だ。別にもう少し遅くても良いのだが、蒼依が会わせたい友達がいると言って朝早くから登校している。早く起きるのは慣れているとはいえ流石に辛い。スクリーン型の携帯端末にインストールした地図を頼りに講堂へ向かっていると可憐な声が聞こえてきた。

 

「納得いきません!」

「まだ言っているのか?」

 

蒼依の顔をチラリと見ると、相変わらずだと言いたそうに苦笑していた。声のする方へ向かうと1組の男女がいた。

 

「どうしてお兄様が二科生なのですか!!新入生総代はお兄様がすべき事ですのに」

「深雪、お前も知っているだろう、魔法科高校は筆記試験よりも実技試験が重視されると」

「そんな覇気のないことでどうするのですか!お兄様がその気になれば…「深雪!!」…っ!……申し訳ありません」

「深雪、こればかりは仕方がないことだよ。叔母上から言われていることでもあるしね」

「…すみません」

「それに他の人達の前で俺の代わりに怒ってくれる、それだけでも俺はお前に救われているんだ」

「お兄様………」

「それに俺もお前に総代をやって欲しい。俺はお前を思ってそう言っているんだ」

「そんなお兄様……想っているだなんて……///」

 

素晴らしい誤変換が行われたと思われるタイミングで蒼依が前に出て声をかけた。

 

「達也、深雪、おはよー」

「「おはよう蒼依」」

「相変わらず朝から人目もはばからずお盛んねぇ。周りにも聞こえてるわよ」

「違います!そんな事はしていません!!」

「確かに深雪の言う通りだ」

「そうなの?深雪は満更でもなさそうだけど?」

「え?」

 

達也と呼ばれた人が隣を見ると否定の言葉は発したものの、何を妄想したのか頬を赤らめてイヤンイヤンとクネクネしている深雪と呼ばれた人がいた。私達の視線に気付くと正気に戻った。

 

「私はそんな訳では…」

 

その少女は顔を真っ赤にして俯き、何かをつぶやき始める。なんだか言い訳が長くなりそうだったので助け舟を出すことにした。

 

「すみませんが話を聞く限りだと貴女は新入生総代ですよね?時間はよろしいのですか?」

「そうでした!お兄様。蒼依、それでは」

「「いってらっしゃい」」

 

総代の深雪と呼ばれた子は講堂へかけて行った。

 

「さて、まだ時間があるしそこら辺で時間でも潰しましょうか」

「そうだな」

「何か飲み物買ってきます」

 

そう言って私は蒼依達のもとを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙がその場を離れると私たちは近くのベンチに座った。周りから

 

「ねぇあの男子ヴィードじゃない?」

「こんなに朝から張り切っちゃって…」

「所詮スペアなのにね」

「でも隣にいる子ブルームよ?」

「物好き何じゃないの?」

 

等という戯言が聞こえてくるがこの際は無視を決め込む。

 

「やっぱりお前は一科生なんだな」

「何?新手の嫌味?」

「いや、そんなのではなくてだな」

「ふふっ、わかってるわよ。しかし深雪は相変わらずね。そろそろ兄離れした方がいいんじゃない?」

「それは俺も思っているのだが、俺も深雪に甘いからな」

「自覚してるなら直しなさい」

「直らないから困ってるんだ」

「はぁ、揃いも揃って似たもの同士ねぇ…」

「……この話はおしまいにしよう。さっき一緒に居たのは誰だ?」

 

やっぱり気になるわよねー

 

「彼女は鈴仙 豊花。私達をち引き取ってくれた人達の家族よ」

「そうか。じゃあもう一つ、彼女は…四葉(俺達)の敵か?」

 

やっぱりそこを聞いてくるか。シスコンにも程があるし、与えられた任務もある。損得勘定無しに、すぐ相手を疑うのはいいけど、達也の場合は悪い癖としか言いようがない。現に殺気がだだ漏れである。

だけど言えることはただ一つ。

 

「いつも彼女達が言ってるわよ、『敵にならなければ敵にはならない』とね」

「………そうか」

 

彼女達は積極的に敵を作ろうとしない(彼女達曰く、面倒くさいとの事)。彼女達の立場上それは仕方がないことだ。だが、敵になれば容赦はしない。彼女達によって壊滅されられたヤクザや小規模の犯罪組織(私達姉弟と鈴仙に手を出した愚者含め)がたった3年間でいくつあるのやら、もう100から先は面倒臭くなって数えていない。

国防級戦略兵器に匹敵、或いはそれ以上のチートな能力を持った2人が、1人で十分オーバーキルなのにわざわざ2人とも出向いて乗り込んで壊滅させるのだから、敵になってしまった者から見れば、死が形を持ってやってきて終末のラッパが吹かれた気分になるだろう。ヤクザは頭領が年端の行かない子供が多かったので恩赦した結果、東京一帯のヤクザは一つにまとまり、私達の手足同然になった。流石にチンピラ共はどうにもならなかったが。頭領の子供達は立派な小市民の一人になって元気にすごしているだろう。

そんな事よりも鈴仙が遅い。鈴仙が歩いていった方を見てみると男連中の人集りが見えたその中から聞こえるのは、

 

「あ、あのっ、どいてください」

「だからさ、オレ達と一緒に行かないかって言ってんだけど?」

「と、友達がいるのでけ、結構ですっ」

「じゃあその友達も一緒にさ〜」

 

といったテンプレなナンパをしている一科生とテンプレな反応をしている鈴仙だった。

 

「(こんな奴らと同類扱いされたくないわね。さっさと回収して達也のところに戻りましょうか)ちょっと、私の友達に何やってんのよ」

「あ?誰だテメェ?」

「レディの扱い方も知らない奴に名乗る筋合いは無いわ。ほら、さっさと行くわよ」

「え、ええ」

「あ、おい!待てよ!!」

 

静止の声をどこ吹く風と受け流して達也のところに戻る。

 

「災難だったわね」

「全くです」

「紹介するわ、この人が私の友達の1人、司波 達也よ。で、ここにはいないけど新入生総代の司波 深雪さんは彼の妹よ」

「よろしく」

「私は鈴仙 豊花です。こちらこそよろしくお願いします」

 

こういった状況ならば臆病にならずに済むようだ。その後雑談などで時間を潰していると開始30分前になった。

 

「そろそろ行きませんか?」

「そうね」

 

私たちが立ち上がろうとした時声をかけられた。

 

「あなた達新入生ですね?もうそろそろ時間ですよ」

 

真っ先に目に飛び込んできたのは腕に着けているCADだった。この学校でつけていられる人は限られてくる。

 

「あ、申し遅れました。私は生徒会長の七草 真由美です。ななくさと書いてさえぐさと読みます」

 

「俺…いえ、自分は司波 達也です」

「鈴仙 豊花です」

「鈴仙 蒼依です」

 

七草と聞いた瞬間、達也が警戒し始めた。

 

「えっ!あなた達があの司波君と豊花さんなのね!」

 

だがそんな事はお構い無しにいきなり興奮したように七草先輩は声を上げた。こっちはいきなり何だとしか思えない。顔に出ていたのか七草先輩が先に反応した。

 

「司波君は前代未聞の全教科平均96点!魔法論理と魔法工学は文句無しの満点なのだから当然よ!」

「ペーパーテストの結果です。情報システムの中に過ぎませんよ」

「私には同じテストをやってもそんな点数取れるとは思わないですよ。それにもっと凄いのは豊花さんよ?」

「彼女が…ですか?」

 

あ、驚いてる。敢えて言わないで良かった♪

 

「ペーパーテストの結果は全てが満点!!実技試験も歴代最高で圧倒的な差をつけて主席合格だもの!!できれば今年の新入生総代もして欲しかったのだけれど…」

 

あ、驚きが大き過ぎて頭が追いついていないけど情報を整理してる。あの才色兼備の深雪ちゃんよりも上の成績で入学した人がここにいるだけでも驚きなのに、成績さえ驚きの結果なのだから当然かもね。

 

「そちらが何を考えているのかはわかりませんが、生徒会に時間を割くのであればその時間をやりたい事に費やしたいので」

「それは承知しています。ですが…」

「ならその話は終わりです。あと、あまり人の情報を身内と本人以外の人がいる所で話さないでください。それでは式が始まるので私はこれで」

「ごめんなさい。あの、豊花さん」

「何でしょうか?」

「あの方々は何と?」

「答えは変わりません」

 

鈴仙は真顔で言い切った。

あの方々ーーー綿月様を警戒しているのだろう。豊姫様が依姫様と颯兎を連れてショッピングを楽しんでいるところに十師族の遣いとかいう無礼者の邪魔が入り、緊急の師族会議の会場までついて行ったら十師族の命令を聞けと言われたものだから、豊姫様がイイ笑顔扇で天井を浄化(消滅)させて逆に命令を聞かせる立場になったから仕方がない。因みに、会場があった20階建てのビルの6階に会場があったが、豊姫様のありがたいリフォームのおかげで6階が最上階となった。そのビルは現在再建工事中である。

四葉は私と颯兎の個人としての関係があるから素直に従ってくれたが、他の一族は渋々従ったといった様子だったらしい。この事があって、私達『鈴仙』の姓を持っている者には綿月様の側近というイメージがついた為、時折こんな感じに綿月様の御機嫌を伺ってくる数字付きがいるが、こんな感じに即答で返すのが定石になっている。

最近は数字付きや数字落ちや政治家等のパーティー、挙げ句の果てには求婚までしてくる輩が出てくる始末だが、問答無用でお断りしている。他の人達がどう考えているのかは知らないが、私としては好きでも無い男と誰が結婚するものかといった考えだ。相手が達也なら考えなくもない。寧ろ喜んでだが。つい最近七草当主から何かしらのアプローチがあったらしいが、断った…のだがしつこいらしい。お陰で綿月様の七草当主へのイメージはマイナス方向に天元突破している。尚、七草家の家族へは不満はないらしい。

 

「そうですか…申し訳ありません、父が度々ご無礼を」

 

会長が物凄く申し訳なさそうに言った。実際に申し訳なく思っているようで、「あの狸親父」とかその他年頃の少女が言ってはいけない言葉をブツブツ呟いている気がするが、私は何も聞いていない。

 

「綿月様が嫌っているのは七草現当主であって貴女達ご兄妹ではありません。なので貴女は気に病む必要はありませんよ」

「ありがとうございます。ですがこちらとしても立場があります。何かしらのお詫びがしたいのですが、可能であれば入学式が終わった後に生徒会室に来ていただけないでしょうか?」

「すみませんが今日は用事があるので無理です。明日ならばこれといった予定は無いので大丈夫です」

「わかりました。では明日の放課後にいらっしゃってください」

「わかりました。それでは」

 

こういったやり取りというより外交のようなものは鈴仙の十八番だから私達はすごく助かっている。会長と別れた私達は講堂へ向かった。

 

 

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鈴仙side

 

 

私達が講堂へ入ると美しいほど異様な光景が飛び込んできた。新入生の前半分に一科生、後ろ半分に二科生が座っているのはなんだか異様としか言いようがない。

 

「差別意識が高いのは差別される側ってことですか」

「それも一つの処世術だからな」

「たかが入試試験の成績で威張るとか頭がおかしいのではと思いますね。そしてこの状況を解決しようとしていない学校自体も馬鹿としか言いようがありません」

「…それには同感だが…思ったより結構はっきり物事言うんだな…」

 

達也君が意外だと言いたそうな表情をしている。

 

「こういうのははっきりと言っておくべきです」

「そうね。ところで、私は達也君の隣に座ろうと思っているんだけど、豊花はどうするの?」

「初日から目立ちたくないので前に行きます」

「そう、それじゃ達也、どこか空いているところ探しましょう」

「あ、ああ。わかった」

 

達也君は蒼依の勢いに押されて後ろの空いている席を探しに行った。

私が前半分で空いている席を探しているといろいろな視線が刺さった。いやらしい視線はおそらく男、羨望と嫉妬の視線は女からのものだろう。

そういえば登校途中で蒼依に

 

『鈴仙、貴女は自分の魅力を自覚しなさい』

 

と言われたがどういう意味かわからない。髪は面倒くさいのと、切ると違和感がある為腰まで伸ばして切っていない。身体の体格は別に文句は無いが、敢えて挙げるのであれば肩が凝りやすい事だ。最近また大きくなってきている気がする。……まさかそういう事を言っているのだろうか?

 

「(そんなわけないか)」

 

そうこうしているうちに空いている席が見つかった。そこに座っていると隣から声をかけられた。

 

「あの、隣いいですか?」

「えっ?…あっはい大丈夫…です…」

 

顔を上げると(私が見るには)ブロンド寄りの茶髪の女の子がいた。ちゃんと臆病者の真似は出来ているだろうか?いつもそこが不安だ。

 

「ありがとうございます。あ、私は光井 ほのかといいます!それでこっちが…」

「幼馴染みの北山 雫です」

 

そう言って小柄で大人しそうなボブカットの子も自己紹介してきた。

 

「ど、どうも…私は鈴仙 豊花といいます。義理の妹がいるので豊花と呼んでください」

「よろしくね豊花さん!私もほのかでいいですよ」

「名字で呼ばれるのは嫌だから雫って呼んで。よろしく」

「よ、よろしくお願いします…」

 

まぁこんな感じかな?一応出だしはいいほうではないかなと思う。

 

「あの、もしかして豊花さん人と話すの苦手?」

 

ほのかさんがちょっと不安げに聞いてきた。

 

「は、はい…身内や義理の妹がいれば普通に話せるのですが、いないとちょっと…そのせいであまり周りと話すのが苦手で…」

「へー、雫も口数少ないし、なんだか似てるね」

「ほのか、一言多いよ」

 

その雫の言葉の直後、入学式が始まった。雫さんはまだ何か言いたそうにほのかさんを睨んでいたが、私には関係無いと思ったので傍観していた。催眠術の様な長ったるい来賓と校長の話が終わり、新入生総代の答辞が始まった。総代の深雪さんが出てくると、会場にいた私を含めた一部を除く全ての人達がその姿に見とれていた。所々に危ないフレーズが散りばめられ、それを立派な建前で包み込んで違和感と反発を無くしているのは流石だと思う。

その後は特に何もなく入学式は終わり、ICカードの交付になった。ここでも差別意識はくっきりと出ていたが。

 

「私はA組だったよ。雫と豊花さんは?」

 

ほのかさんが楽しそうに聞いてきた。

 

「私もA組だった」

「私もです」

「じゃあみんな同じクラスだね!」

 

どうやら私達と同じクラスであるのが嬉しい様だ。

 

「そうだね。この後HRがあるけどどうする?」

「私は用事があるので帰ります」

「そっかー。もう少し話したかったのになー」

「別にいいでしょ、明日も会えるんだし」

「それもそっか。またね豊花さん」

「また明日」

「ええ、また明日」

 

そう言って2人と別れた後、講堂へ来る時に通った道を逆に進んでいくと達也君と蒼依を見つけた。どうやら生徒会長と話をしているらしい。近づいていくと会長が私に気が付いた。

 

「どうも豊花さん、また会いましたね」

「どうも、お話の途中の様なのでお邪魔であれば外しますが?」

「いえ、丁度終わったところです。それでは深雪さん、また今度」

 

そう言って会長はその場を去っていった。会長の後ろに付いて行く男の先輩は恨めしそうに達也君を睨んで去っていく。会長の姿が見えなくなると、深雪さんが話しかけてきた。

 

「また会いましたね、豊花さん。自己紹介がまだでしたね、ご存知かと思いますが、司波 深雪と申します」

「鈴仙 豊花です。私の名前を知っているのは…蒼依と達也君ですか?」

「はい、蒼依の話に貴女の名前がよく出るもので。兄から聞きましたが、本当の総代は貴女だとか。それは事実ですか?」

「ええ、事実です。ですが達也君、それを話す必要が何処にあるのか教えていただけませんか?」

 

言うなとは言っていなかったため私にも非があるが、流石に個人情報は本人からの了承を貰ってからするのが常識だろう。幻想郷ではそんなものはどこにも無いが。

悪いけど、私は自分のことを言いふらされるのが大嫌いだ。嫌悪していると言ってもいい。流石に勝手に言われたので少し頭にきてしまっていたのだろうか。蒼依は「やっちゃったわね」ともうどうしょうもないと言いたげな表情で呟き、ほぼ無表情の達也君と深雪さんは竜の逆鱗に触れてしまったという後悔に襲われた顔になり、おそらく達也君のクラスメイトの人達は自分の実力を持ってしても敵わない圧倒的な何かを見てしまった様ななんとも言えない表情になっていた。

 

「それで達也君、質問の回答は?」

「それは…」

「ハイハイ!そこまで!豊花、その理由は私が答えるから!」

 

代わりに蒼依が答えようとするが、おそらく達也君の人柄と粗方の理由を知っているのだろう。だがそんな事はどうでもいい。彼の口から聞かなければ意味が無い。

 

「貴女に聞いているのではありません。彼に聞いているのです。彼が言わなければ意味がありません」

「だけど…」

「何度も言わせないでください」

 

その一言で風が葉を揺らし、木が靡く音以外の全ての音が消えた。

 

 

「……妹のプレッシャーに勝てなかった。これでいいか?」

「なるほど、思っていた以上に心底どうでもいい理由ですね。わかりました、この件はこれでおしまいにしますが、このような事は今後一切しないでくださいね?貴方みたいな人は損得勘定無しに真っ先に人を疑って徹底的に相手の正体を突き止めようとするのでこちらとしてもそんな相手は厄介で面倒なのであまり関わりたくないです。

何かしらのきっかけで私達の情報を手に入れたとしても身内にすら話さないでくださいね?関わってくるなら必要以上の詮索はしないでください」

「……ああ、わかった」

「『もしそれらを行った場合、貴方達の秘密を白日のもとに晒しますよ?必要であれば蒼依からも…』」

「……わかった」

 

達也君の耳元で囁いたその言葉で私が何を言いたいのか理解してくれたらしく、ここまで言えば流石に達也君も了解してくれた。蒼依は豊姫様と依姫様のお気に入りでもある為、できれば使いたくないが必要となれば使うべきだろう。

流石に何かしらのきっかけで私と豊姫様と依姫様が人間では無いと豊姫様と依姫様、お師匠様の命令か自主的に明かさずに知られてしまった場合に対処が面倒になりやすい。達也君の様な人はそうなった場合、正体を突き止めるまで鬱陶しく突っかかってくるパターンが多いからだ。

でも蒼依にも念のため、

 

「蒼依も簡単に話そうとしないように。いいですね?」

「わかってるわよ。言っておくけど、私が彼等に話したのは義理の姉の貴女が結構良い成績で入学することになったとしか言ってないわよ」

「本当ですか?」

「本当よ!嘘ついたら『アレ』使う気満々でしょ!」

「使われたくないのなら事実を言えばいいんです」

「颯兎にはやらないじゃない!!」

「あの子の場合はあからさま過ぎます。ただ気を引きたいだけの子供の嘘ですよ。そんな子に使うのは酷というものです」

「じゃあ私には?」

「鉄拳制裁問答無用」

「」(´・ω・`)

 

蒼依があからさまに落ち込んで達也君と深雪さんに慰められている。流石に『アレ』は使って欲しくないのだろう。一応蒼依に使う時は効果は最低にしてあるのだが、それでもキツイ様だ。

 

「ところでそちらの方々は?」

 

私は達也君のクラスメイトと思わしき人たちに声をかけてみる。

 

「私は千葉 エリカ。エリカでいいわ」

「柴田 美月です。よろしくお願いします」

「エリカと美月さんですね、私は鈴仙 豊花です。豊花で構いません。よろしくお願いします」

「よろしくね豊花!ところで何で敬語なの?フツーに話してくれてもいいのに」

「ただの癖です。治そうにも矯正できないので」

「へー、そういえば豊花って鈴仙よね?てことは依姫様にも会ったことがあるの?」

「あるも何も一緒に住んでいますが」

「へぇー、確か依姫様って剣術相当強いんでしょ?負けるってわかってはいるけど1度でいいから手合わせして欲しいなー」

「ダメ元で頼んでおきましょうか?」

「ホント!?」

「ええ、期待はしないでくださいね?」

「別にそれでもいいわ!いよっし!!これまで以上に練習頑張るわよ!!」

 

どういうわけかエリカのやる気が上がった。この反応から察するに依姫様に憧れのようなものがあるのかもしれない。

 

「ところで美月さんはどうして眼鏡をかけているんですか?」

「えっ?そ、それは…」

 

よく見ればわかるが、眼鏡に度が入っていない。どうやらあまり聞いて欲しくない内容の様だ。

 

「別に言いたくないならそれでもいいですよ。すみません、変な事聞いたりして」

「あ、いえ、別に謝られる程のことではないので…」

 

その美月さんの言葉を区切りに携帯端末で時間を見てみるとそろそろキャビネット乗り場に行ったほうが良い時間だった。

 

「蒼依、何時までそんな事やっているんですか?そろそろ行きますよ?」

「えっ?嘘!もうそんな時間!?早く行かなくちゃ!」

「まだ歩いても十分間に合いますよ」

「え?あ、ホントだ」

 

蒼依は一旦慌てるも、私の一言で元に戻った。

 

「私達は用事があるのでお先に失礼します」

「じゃあね皆、また明日~」

 

そう言って私達はキャビネット乗り場へ向かった。そしてその途中で私は後悔していた。

 

「(初日からやってしまった……)」

 

とりあえず今日の出来事は依姫様に報告して蒼依が説教されるのを見ながら愉悦に浸ることにした。

 

sideout

 

 

達也side

 

俺はエリカ達とカフェで会話に混ざりながらコーヒーを啜っていた。だが俺の頭の中は先程のやり取りでいっぱいだった。

 

「(鈴仙 豊花…綿月に従う者…)」

 

ひとまず今俺が持っている情報を整理する。

第一に蒼依と颯兎を引き取った綿月姉妹に従う人物であるということ。

2つ、3年前の沖縄戦と佐渡侵攻事件の防衛に参加していた事。その際に現代技術では到底作ることの出来ない圧倒的なオーバーテクノロジーの結晶を使いこなし、大亜連合の艦隊を消滅させた特例で認定された戦略級魔法師であるということ。この時に使用された装備の情報は一切開示されていない。

3つ、彼女が仕える綿月姉妹は俺達十師族を超える実力があるという事実。綿月姉妹の姉が扇子で天井を1回扇ぐだけでその階より上を消滅させたと当主から聞いている。その人がいうには広範囲の森を素粒子レベルに浄化させるとのこと。それは道具の力であって、()()、実力を出していないらしい。

妹のほうといえば、その光景と事実を信じられず、錯乱した何処かの一族のボディーガードが攻撃したが、わざわざ身に付けていた刀を姉の方に渡し、最小限にも程がある動きで生身で魔法を防ぎ、『愛宕の炎』と呼んだ炎で塵の1片も残さず焼殺したらしい。そして2人ともそれらの行動をする時に人間の規格を超えたとしか言いようのない膨大なサイオンの嵐を巻き起こしたという。彼女達が敵に回った場合など考えたくもない。

そして、先程のあの警告。

 

「(彼女達は人間なのか?)」

 

ふと、そんな考えが浮かんできた。それと同時にこれ以上考えるなと言われている気がした。

 

「(触らぬ神に祟りなし、か)」

「お兄様?」

 

少し考えすぎてしまったのか深雪に声をかけられるまで周りに気づかなかった。

 

「すまない、少し考え事をしていてな」

「達也君、それってさっき豊花に言われたこと?」

「それもあるが、柄にもないことを考えてしまっていたようだ」

「寿和兄貴もぼやいていたけど、相当危険視されてるみたいよ?それも相当危険な古式魔法師の集団とか言われてるらしいし」

「ネットでも相当噂になってるからな。魔法が世界に知られるきっかけとなった警察官とは別で本当の始まりの魔法師(オリジン・マギカ)とか言われてるしな」

「相変わらずネットは変な二つ名付けるわね~」

「全くだ。とりあえずこの話はここまでにしておこう。またあんな事言われるのは嫌だからな」

 

俺達がそんな会話をしている間、美月は内容を理解できなかったのか疑問符を頭に浮かべて首を傾げていた。




ようやく投稿できました!テストが連続するという鬼畜スケジュールだったので相当遅れてしまいました、申し訳ありません。
ようやく始まった本編、いかがだったでしょうか?綿月姉妹の立場と鈴仙達の立場を魔法師社会ではどのような認識になるのかを考えるとこうではないかと考えるとこうではないかと思ったので相当上の立場に置きました。

感想などよろしくお願いします。

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