魔法科高校の月兎   作:樹矢

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今回は三人称でやってみます。


沖縄戦⑥

  赤黒く染まった髪をなびかせて鈴仙は駆ける。目的はただ一つ、東側の海岸に現れた敵艦隊の殲滅のみ。鈴仙は腰に下げていた強化パーツを真田から奪い取った武装デバイスに装着し、起動する。量子化したパーツを保管する領域が開放され、量子化していたパーツが出現し、それらは意思を持つかのように武装デバイスを包み込み、一体化する。銃口から伸びる新たなパーツは、コの字を隙間を動き作った状態で2つ向かい合い、その隙間を隠すように大型のプレート型ビームブレード発生装置が接続されていた。それを構えて走っていると、前方から敵意の孕んだ殺気と波長を感じ取った。鈴仙は武装デバイスを空中に放り投げ、村正を抜刀する。

 

  「邪魔だ…死ネ」

 

  鈴仙は何かに取り憑かれた様に呟き、敵に向かって行く。当然敵は銃で迎撃して来るのだが、回避を必要最低限に留め、それでも当たりそうな弾丸は切り捨てる。ナイフや包丁は使った事があるが、刀は持ったり、ただ構えて基礎の『き』すらも知らずに振ったぐらいだ。けれども村正のおかげで扱い方が簡単にわかる。さて、元とはいえ軍人、しかも月の都の防衛部隊の最強戦力がそれの恩恵を受けたらどうなるか?結果は簡単。鈴仙は自らの敵をすれ違いざまに一閃し、切り裂く。目に見えぬ速さで移動しながら敵を撫で斬りにすると、刀を振るい、付着した血を払う。少し残っているものの、すぐさま鞘に納刀し、放り投げた武装デバイスが落ちてくる位置にゆき、武装デバイスをキャッチするとまた走り出す。それは1陣の風が吹いたような出来事だった。

 

 

  時は少し遡り、基地の司令室。深雪達と一緒にこの場所に来たから蒼依だが、深夜から深雪たちに衝撃の事実を話しているのを見ていた。家族の問題なのだから部外者の自分達が首を突っ込むものでは無いと思い、魔法で全ての音を遮っていた。深夜の話が終わったようなので魔法を解除すると、深夜が声をかけてきた。

 

「ねぇ、蒼依さん。貴女、四葉に来ないかしら?」

 

 それは予想もしていなかった質問だった。

 

「何故ですか?」

 

「貴女、精神干渉系魔法が得意でしょう?」

 

「何故そう思うのですか?」

 

「勘よ」

 

  蒼依は一旦馬鹿らしいと思ったが、すぐさまそれを間違いだと気付いた。四葉 深夜、世界最強の魔法師の1人、つけられた異名はーーー

 

「『忘却の川の支配者(レテのミストレス)』としての勘、というわけですか」

 

「そういう事。物分りのいい子は好きよ?」

 

ここで嘘をついても得はない。そう判断した蒼依は真実を話す。

 

「ありがとうございます。確かに私は精神干渉系魔法は得意です。ですが四葉に入るつもりはありません。せめて関わるなら友人として関わりたいですね」

 

「そう。ではもう一つ質問、貴女はーーー」

 

  深夜はこの答えに一つの期待を抱いた。もしかしたら達也を四葉の魔法師として完全な存在に出来るかもしれない。もしくは自分がしてしまった事を無かったことにできるかもしれない。だから聞いた。

 

「ーーー貴女は精神構造干渉が出来るかしら?」

 

  これには穂波と深雪も驚いていた。そして蒼依の答えは

 

「ーーーできなくはありません。成功する確率は25パーセント、失敗する確率は75パーセントと言ったところでしょうか」

 

  これには深夜も驚いていた。

 

「まあ何人かにやった事はありますが…殆どの人が狂死しましたよ。成功した人の1人がこの子です」

 

  そう言って蒼依は颯兎の頭を撫でる。その目は後悔に満ちていた。

 

「そう、じゃあ私にそれをしてくれないかしら?今、ここで」

 

  今度は蒼依が驚いた。深雪たちは思考が停止してしまっていた。たっぷり1秒静まり、深雪が声を荒げて言った。

 

「待って下さいお母様!なぜそんな事を!さっきも言われたじゃないですか、成功する確率は25パーセントだと!どうしてそれをしろと仰るのですか!そんな事をしたらお母様は!!」

 

「深雪、これは私個人、司波 深夜ではなく四葉 深夜個人として彼女に頼んでいるの。貴女は黙っていなさい」

 

「………深雪さんの言う通りです。何故ここでしろと?四葉の設備等を使うという手もあるのでは?」

 

「これは私の我が儘よ。自分の罪から逃げようとしていると言ってもいいわ。でも今ここでしなければならない、そうしなければ今後一切チャンスは来ない、そんな気がするのよ。ーーー私は達也に精神構造干渉魔法を使ったわ。ーーー」

 

  深夜は蒼依に自分の子供にした事を話した。その結果も、その代償も全て。蒼依は察した。どうして赤の他人である自分に話すのか。脅しである事はわかっている。教えてやったのだからやれと。だがもう一つ、その裏にある深夜の意思を、願いを察することが出来た。

  きっと思ってもみない事だったのだろう。自分以外に精神構造干渉が出来る人間がいると。

  自分もそうだなのだ。

 

  何度自分にこの魔法を使いたくなったことか。

 

  何度押しつぶされそうになったことか。

 

  何度この子(颯兎)に助けられたことか。

 

  きっと自分は最後の希望なのかもしれない。自惚れた考えだとはわかっている。それでもしなければならないと思った。ーーー昔から他人に甘い。そう心の中で自嘲しながら答えた。

 

「わかりました。少し準備するので待って下さい。成功する確率はさっき言った通りです。共同責任といきましょう。貴女は自分の立場も考えずに自分のエゴを優先した。 私はそれをわかっていて行った。止めるものはいなかった。深雪さんも、穂波さんも、私が無力化してしまったのだから」

 

  そう言って蒼依は深夜を置いてあったパイプ椅子に座らせ、汎用型CADを準備した。すると部屋の温度が一気に下がった。

 

「やめなさい。お母様にそれを使ってみろ、私は貴女をここで殺す」

 

  それは氷界の女王による死の宣告。だが蒼依は屈しなかった。

 

「さっきも言ったでしょう?これは私と深夜さんのエゴで行われるのだと。今の貴女は部外者なの。深夜さん、貴女も何か言ったらどうですか?穂波さんも」

 

「奥様、私も反対です。そんな事をしなくとも他に方法が…」

 

「あったらとっくにしているわ。これまでどうやっても見つからなかった。そして今ここにチャンスがある。これを逃したらいつ来るのかしら?」

 

  いつも通りの口調で話す深夜だが、その言葉は哀しみで染まっていた。その言葉を聞いて、もう2人とも何も言わなかった。

静かになったのを見計らい、蒼依は自分の精神構造干渉系魔法の説明を行う。

 

「私の精神構造干渉は相手の精神構造に干渉し、欠落したり、精神の発達障害やそれ以外の精神障害等が起きている場所を擬似的にそうなる前、0に戻し、拡張し、補強してからかける前の状態より5割まともな状態にするといったものです。完了した時には拡張した部分は本来の発達した部分の一部になるので崩れることはよほどのことがない限りありません。私見ですが、これは相手を変えると言うよりは精神治療に向いたものではないかと考えています。

  補強する強度や補強できるかどうかはかけられた人に依存します。かける部分によっては5割以上拡張させることもできるかもしれませんが、それはやったことがないのでやりたくないですね。

 精神的に強ければ成功する確率は上がるでしょうけれどそうでない人等はさっきの確率です。そしてこれはかけられている時、夢を見ます。自分の過去、トラウマ、一瞬でも考えてしまった自分のした事の最悪の結果、己の罪、それらが悪夢となって襲ってきます。それに耐えられなくなり、発狂し、耐えられなくなって死ぬ。これが失敗する確率が高いことの主な理由です。

 

  ーーーーーこれが最後のチャンスです。止めるのであれば今ここで止めると言ってください」

 

「止めるつもりはないわ。さぁ、やって頂戴」

 

  即答だった。

 

「わかりました。ーーーーーーー打ち勝って下さい、己自身に、己の罪に」

 

  そう言って蒼依は精神構造干渉魔法『還元拡張(リバース・アップロード)』を発動し、深夜はそのまま眠りに落ちた。

 

「深雪さん、深夜さんの手を握ってあげてください。貴女が一緒にいてあげた方がいいと思います。貴女は、ここにいる人の中で彼女が今1番必要としているのかもしれないのですから。……きっと本当に1番いて欲しいのは達也君なのかもしれませんが……今いない人を求めたところで意味が無いでしょうけれど」

 

「……わかりました。貴女の名前は?」

 

「穂波さんにも聞かれたけどね。遠藤 蒼依よ。両親はもういないわ。親戚の家にでも引き取ってもらおうと思っている」

 

「そう、さっきお母様が紹介して下さったけど、司波 深雪よ。行く宛がなかったらいつでもウチに来てね。これが私のプライベートナンバーよ」

 

「ありがとう深雪。友達としてこれからよろしくね」

 

「ええ、こちらこそ」

 

  そう言って2人プライベートナンバーを交換し、モニターに映る達也の戦いを見る。二人の目には期待と不安が入り交じっていた。

 

「……深雪ちゃん、私は達也君の援護に行ってくるわ。奥様が目を覚ましたら説教ものだけどね」

 

「わかりました。必ず帰ってきてください。私はその立場ではありませんが、これは命令です」

 

「……わかりました。必ず」

 

  そう言って穂波は達也の下へ向かって行った。

 

 

 

  時は戻り、鈴仙は敵艦隊の正面に到着してた。障壁を発生させ、構えている銃に霊力を流し込む。少しでも多く、少しでも早く、周りの空気中から電子を集め、収束させ、チャージする。現状の最大出力で発射できるまで後68秒。これ以上霊力を注ぎ込んだらこっちダメになる。そろそろ撃ってくると思った直後、敵は荷電粒子砲とフレミングランチャーを一斉射撃してきた。障壁はそれらを防ぎきる。荷電粒子砲の電子も使ってチャージを進め、チャージ時間が短縮されていく。チャージが完了した直後、障壁が砕け、その刹那、鈴仙は引き金を引いた。放たれたビームは荷電粒子砲と拮抗し、フレミングランチャーの砲弾を誘爆させることなく蒸発させる。

 

「くっ…!まだまだ…まだまだです……!」

 

 鈴仙は更に出力を上げる。拮抗していた二つは荷電粒子砲が押し切ると思われたが、ビームは中心を貫きながら進んでゆく。空中に拡散した電子は強化パーツに吸い込まれ、ビームの出力を上げ、巨大なビームの壁となってゆく。最終的にビームは艦隊を呑み込み、蒸発させた。

 

  それを見ていた者達は呆然としていた。魔法ですら作れないビーム兵器、それをたった1人で扱う少女、敵艦隊を蒸発させる程の射程と範囲と威力。驚くなと言う方が無茶な話だ。少女は武装デバイスを降ろし、強化パーツを取り外す。すると少女は身体をふらつかせ、前に倒れ込む、が、少女は突如現れた黒いフード付きマントを身につけた人物に支えられた。少女の足元に身に付けていた仮面が落ちて砕ける。だが、肝心の顔はマントに隠されて見えない。

 

「お疲れ様、よく頑張ったわね」

 

  そうマントを身につけた人物は言った。変声機で声を変えているようだが、口調から女性だとわかった。

 

「ありがとう……ございます…」

 

「喋らなくていいわ、今は休んで頂戴」

 

「はい…」

 

  少女とマントの女性はそんなやりとりをすると、立ち去ろうとする。気が付けばいつの間にかいた同じマントを身につけた人物が、

 

「お姉様、その子が隠していた物はバッグ以外は全て回収しました」

 

「ありがとう。早めにここを去るわよ」

 

  そう言って立ち去ろうとすると、風間がバイザーをとって声をかけた。

 

「待ってくれ!その子をどこに連れていくつもりだ」

 

「貴方達に答える義理はないわ」

 

 そうキッパリと拒絶される。

 

「そうか…ならばその子の手当と礼をさせて欲しい!」

 

 そう言うとマントを身につけた1人が、

 

「どうします、お姉様?」

 

「そうね、手当は私達がします。お礼はこの子に言って頂戴。後、この子のバッグを持っている人はいるかしら?」

 

「ああ、私達の基地で保護している。ついてきてくれ」

 

「わかったわ。生憎だけど貴方達との会話は控えさせてもらうわ。こっちはあまり知られたくないことの方が多いから」

 

「わかった」

 

  そうして基地まで着くと、マントを身につけた2人は監視カメラ等の無い部屋を今後の方針を話し合うために自分達だけで使わせて欲しいと言ったので、風間は快諾した。

 

「ここ…は…」

 

  今にも知らない天井だと言いそうな感じで鈴仙は目を覚ます。

 

「目が覚めた?」

 

「ようやくですか」

 

「豊姫様!?依姫様まで!」

 

  鈴仙は豊姫に膝枕されていた。が、勢いよく起き上がる。しかし全身に激痛が走り、うずくまる。すると豊姫が再び膝枕をさせてくる。

 

「動いてはダメよ、あれだけ霊力を使ったんだから」

 

「すみません、ですがどうしてこちらに?」

 

  鈴仙は疑問を投げかけた。この2人は永琳の頼みや月の都の主、月夜見の命令ならば喜んで地上に来るが、それ以外では滅多に、いや、天地がひっくり返ってもありえない。

 

「八意様から頼まれたのよ。貴女を連れて帰って欲しいってね。とても心配してたわよ?はい、貴女特製の回復薬。飲んでおきなさい」

 

  2人はこの世界に来た理由と、そして幻想郷に帰れるのは現状2人だけで、豊姫の能力を使ってもどういう訳かできなかったこと、誰か1人残ることになるため鈴仙にはこの世界に残り、この世界の技術を学び、月の技術に応用できないか研究する事、鈴仙も帰れるようになるのは最低でも今から4年近くはかかる事を告げた。

 

「そうですか…わかりました。ありがとうございます」

 

「お礼は八意様に言って頂戴」

 

「はい…そういえばここは?」

 

「この世界の国防軍とやらの基地よ。風間とかいう人が貴女にお礼を言いたいそうよ」

 

「そうですか。あの、実は…」

 

  鈴仙はこの世界に来た経緯と何をしていたのかを2人に話した。素性については苦い顔をされたが、

 

「いいわよ。但し、私達も一緒にね。こうなった以上その子にもこちらとしての話があるしね」

 

「わかりました」

 

「では今後の方針ですが…」

 

  3人はその後の方針を話し合った。

 

 

  その後、基地の応接間で鈴仙達は風間達と面会をしていた。豊姫と依姫はフードをとって参加している。2人には名前は話したが、素性は明かしてない。

 

「この度は鈴仙、君に我々は救われたありがとう」

 

  開口一番に風間がそう言い、真田と共に頭を下げる。

 

「いっ、いえ、私はそうしなければいけないと思っただけで…」

 

「それでも君の持っている道具が無ければ我々は死んでいた。市街地にも甚大な被害が出ていたのだ。君は我々だけでなく、多くの民間人の命も救ったのだ。改めて礼を言う、ありがとう」

 

「ありがとうございます。ところでお話というのは?」

 

「ああ、君には是非とも我々国防軍の特尉になって欲しい。頼めないだろうか?」

 

 風間は真剣な目で言ってきた。鈴仙が使った道具やそれの技術、ひいてはその後正式に軍籍を置かせようと考えているのだろう。だが、

 

「すみません、私が使った道具などは私達にとっても機密事項の部類に入るものばかりです。それにこちらとしても言えない事情があるので申し訳ありませんが辞退させていただきます。出来れば私の戦闘については口外しないで頂きたいのですが…」

 

「わかりました。その件に関しては部下にも口外しないように言っておきます。我々を救っていただいたのだから当然です」

 

「1つ言っておきたいのですがよろしいですか?」

 

  そう依姫が言った。

 

「我々は少なくとも4年はこの国にいるつもりです。その間であれば戦闘に巻き込まれた時に彼女を参戦させます。こちらとしては我々の作った機密の装備の実戦データ等を集める為ではありますが、あなた方の味方となります。よろしいですか?」

 

「そうしてくれるとありがたい。あなた方の装備に関しては一切の詮索と要求は致しません」

 

「ありがとうございます」

 

「我々からは以上です。他に質問などは…」

 

  その後20分程短い問答を行い、話し合いは終わった。鈴仙はお礼の一つとして拳銃型の特化型CADを真田から貰った。応接間を後にすると、蒼依達が鈴仙達を待っていた。

 

「なんだか嬉しそうですね」

 

「あらわかる?」

 

「目に見えて明らかに何かいいことがあったと言いたそうな顔してますよ」

 

「あらそう。で、貴女の正体は何?」

 

「それについての話があります。ついてきてください」

 

  その後鈴仙達は蒼依と颯兎に自分達の正体を明かした。初めは信じてもらえなかったが、豊姫が蒼依を連れて幻想郷に戻り、月の都に連れて行った為、信じてもらえた。

  蒼依は司波一家からお礼を言われたが、突然対応が変わってしまった母を見た達也に「母さんに何をした」等と質問攻めに遭っていた。

  後日、達也も同様に『還元拡張』を施され、無事成功した。

 

  鈴仙達は東京の国立魔法大学付属第一高校、通称一高近くのマンションの1室で暮らす事になった。引き取り手の親戚がいなかった為、蒼依達も一緒に暮らす事になった。そうしたのは豊姫だが、理由が「面白そうだから」だった為、依姫の私刑に処されたのはまた別のお話。




ようやく沖縄編が終わりました。次回から入学編です

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