私は中学生くらいの男の子がシェルターの一部を破壊し、中に入って行くのを見た。銃声が聞こえた時点で何が起こったのかは予想がつく。風間さん達も急いでシェルターへ向かって行く。
私はシェルターの中から今にも息が絶えそうな波長を発している3人分の波長を感じ取り、バッグから薬を作る道具を取り出し、薬品を調合を開始。
傍目から見ればいきなり薬を混ぜだした危ない人だと思うがそんな事はどうでもいい。そうこうしているうちに回復薬が完成した。こんな状況だから精神的にも参っているかも知れないため、そこら辺の回復もできるし、霊力等を使いすぎた場合の為の回復薬でもある。お師匠様が珍しく認めてくれた私が開発した数少ない薬の1つだ。この世界では霊力は無さそうではあるが、代わりになりそうなものが存在しているようだ。一応原液は完成したので、妖怪の山の源泉から汲んだ霊水同然の天然水で薄める。この薬はこの水でしか薄められないのが欠点なので、まだ改良の余地がある。
中に6つの人の気配を感じ、その内3人は真田さん達とさっきの男の子だろう。3人分作り、バッグに入れておいたカップを3つ取り出し、それにに分ける。流石にこの薬の作り方はは誰にも教えることは出来ないのは当然だ。
3人分を何時でも使えるようにした後、バックと薬を蒼依と颯兎に持ってもらい、バックから取り出したナイフで髪を切る。風間さん達と合流して、ここまでくる間に遭遇した敵の血で固まり、赤く染まってしまったこの髪はいつもと違って邪魔にになる。
「蒼依さん、この薬を真田さん達とさっき入って行った男の子を除く3人に飲ませてあげて下さい。そうすればある程度までは魔法を使い過ぎても大丈夫になると思います。私は周りの敵を殲滅してきます。それと、このバッグと薬と私については追求されても答えないでください。それが誰であろうと、どんな存在であろうと。それができなければ、私は貴女達の母親の頼みを叶えることができなくなってしまいます」
そう言って他にもバッグから仕舞っておいた武器類を装備し、最後にいつかの博麗神社での祭りで買った(てゐに買わされたともいう)、角の付いた般若の面を取り出した。こんな物は入れた覚えが無いのだが考えないほうが良さそうだ。そんな光景を蒼衣と颯兎は驚いた顔で見ている。すると蒼衣が問うてきた。それも何かを決めたような顔で。
「答えはわかってる。でも言わせて。貴女は何者なの?」
私は返答に困った。私の出自はもとより、正体すら教えても良いのだろうか。でもこのまま黙っている訳にもいかなくなるだろう。だから保険になるかはわからないが、、
「それは私の主から許可が出れば教えます。これ以上の回答は出来ません」
そう言った。
「…そう、それじゃあ期待しないで待ってるわ。この事は誰にも言わないから安心して。これでも口は固いのよ?」
さっきまでの怯えた態度は途中で落として来たのか、蒼衣はどこかおどけたような口ぶりで言った。そのおかげで少しは楽になった。
「わかりました。お願いしますね、蒼依」
「そっちこそ生きて帰ってきなさいよ、鈴仙」
「きをつけてね」
颯兎も心配になったのか声をかけてきた。
「帰ってきますよ。必ず」
私は最後にそう言って、敵の血で赤く染まり、少し固まった髪をなびかせて、面をかぶって駆け出した。
蒼依side
私は鈴仙に言われた通りに行動した。シェルターの中に入ると私と同じくらいの女の子と男の子、大人の女性が2人いた。女の子と男の子、スーツのような服を着た女の人はCADを所持している。おそらく魔法師だろう。男の子は大丈夫そうだが、他の3人は大丈夫そうにない。
「あの、この薬を飲んでください。私の知り合いの医師が作った薬です。これを飲めばある程度までは必要な魔法力を軽減できるそうです」
嘘八百を並べながら、更に説明をした。いきなりだし、初めてあったばかりの人を信じてもらえるわけでもなく、3人とも私を警戒するような目で見てくる。流石に直ぐに信じてもらえるとは思っていなかった。だから私はもう1人の女の人を見て言った。
「貴方達の傷は確かに治っています。ですが、そこにいる人はそれだけではまだ無理みたいですよ?もしかしたら回復魔法でも無理なんじゃないのですか?それなら使った方が良いと思います。毒かなにかだと疑っているのであれば、貴女が使ってみてください」
そう言ってカップの1つをブレスレット型のCADを着けたスーツのような服を着た女の人に差し出す。
「先に言っておきますが、これは真田さん達と、彼の分はありません。この薬は貴女方3人のために作ってくれました。試すのであれば貴女が適任だと思います」
そう言うとその人は少し考えにふけり、
「…わかりました」
そう答えた
「穂波さん!?」
「達也君、深雪ちゃん、落ち着いて。…本当に大丈夫ですよね?」
「効果は保証すると言っていました」
「そうですか。なら」
そう言って穂波と呼ばれた女性はカップを1つ取って薬を飲み干す。
「穂波さん!大丈夫ですか!?」
「ええ…何…これ…なんだか身体の負担が消えたみたい。それに、周りの想子も少し活性化している…?」
「ふぅ、良かった。成功ですね…あっ」
安心してつい口を滑らせてしまった。
「確証が無かったんですね?」
「それは「そしてそれを私に飲ませたと」…ごめんなさい」
周りの空気が冷却され始め、冷気が流れてくる。その方向を見ると深雪と呼ばれた子と、達也と呼ばれた子がCADを向けていた。めっちゃ怖い、砲艦外交されてる側の気分がわかった気がする。
「でも結果としては大丈夫だったのでしょう?」
そう言いながらもう1人の女の人が声をかけてきた。
「奥様、大丈夫ですか!?」
「ええ、ところでそこの貴女、それを1つ私にいただけるかしら?」
「ええ、どうぞ」
カップを渡すときに目が合った。それはどこまでも吸い込まれそうで、どこか悲しそうに、そしてどこか後悔している様に見えた。
「確かに穂波さんの言う通りね、この薬を作った人の名前は?」
「…すみませんが、お教えする事は出来ません。」
「どうして?」
「そう言われたので。薬について、作った人について、それ以外のその人の私物について教えるなと」
私は事実を言った。でもどこか嫌な予感はしていた。この人達が
「貴女は誰に向かって言っているのかわかっていないようね」
そう言うと彼女は今すぐにでも殺すことが出来ると言うように冷たい視線を私に向けて言った。
「貴女は四葉の人間に対してそんな事を言っているのよ?どっちが有利かなんて貴女でもわかるでしょう?わかったなら教えなさい。これを作った人物についてそれが無理なら、そのバッグの中身を教えなさい」
「…さっきも言いました。それについて答えることは出来ません。もし、弟を人質にするようであれば、今ここで弟を殺して、私はこのバッグごと燃え尽きるつもりです。それに」
敢えてここで言葉を切り、言葉を続ける。
「私が見る限り、貴女の寿命はそれなりに伸びたみたいですが?まあ、100歳まで生きてるかは知りませんが。それに作ってくれた人は敵を引きつけてどこかへ行ってしまったので、生きてるかどうかもわかりませんよ?お礼を言いたいのであれば少しは教えても良かったのですが、四葉と聞いては悪い噂しか無いので教えたくないですね」
私の生まれつきの相手の情報体の視て解読する能力。
「それにあの人は非人道的な事はしない主義でしょうから、協力しろとか、仲間になれとか言われても断ると思います」
「…そうですか。なら諦めるしかなさそうですね。それにしても、さっきから堂々としてるわね。相当肝が座っているみたいね、貴女」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。将来はサーカス団でピエロにでもなろうかしら。はい、貴女も飲んでおいた方がいいわよ」
「…ありがとうございます」
これで3人分飲ませることができた。深雪がむせて男の子がこっちに特化型CADを向けてきた時は生きた心地がしなかった。さっきまでわたしとの話だけで入ってこれなかった風間さん達が声をかけてきた。
「叛逆者を出してしまった我々の落ち度です。我々に出来ることは罪滅ぼしにすらなりませんが、出来ることは何なりと言って欲しい。国防軍としてできる限りの便宜を図らせてもらう」
「なら正確な情報を下さい」
「それに関しては私が言います。私がこっちに来る時に何回か見ましたが、敵は大亜連合、そして水際で食い止められず、揚陸部隊が上陸済み、住居があるところまでは侵攻されてないものの、沿岸部はほぼ制圧されていると言っても間違いない、他の島にも上陸され、周囲の制海権は向こう側にあると言ってもいいのではないのですか?」
「ああ、君の推理はおそらく正しいだろう。敵と内通したゲリラに兵員移動の妨害にあったが、叛逆者とともに間もなく片付くだろう。ところで彼女はどうした?」
「このバッグと薬を私に預けて1人で戦いに行きました。それも見たことのない兵器を全身に身につけて」
「待ってくれ、彼女は私達が会った時には敵から奪った拳銃とナイフしか持っていなかっただろう。その兵器はどこから…」
「このバッグから取り出したとだけ言っておきます。それ以上は言えません」
「そうか…それともう一つ、君は先程の現状を詳しく答えたが、何故そんな事ができた?」
「何ででしょうね、自分でもわからないんです。情報が知識として頭の中に流れ込んできて、気がついたら言葉にして答えていたとしか。まぁ、昔からよくあったので慣れましたが」
これも能力の影響なのではないかと私は思っている。
「そうか…次に何かあるか?」
「では次に母と妹と桜井さんを安全な場所に保護してください。できればシェルターより安全度が高い場所に」
「ならば防空司令室に保護しよう。あそこの装甲はシェルターの2倍の強度を持っているからな」
心底呆れた。シェルターよりも軍人の立てこもる司令室が安全とは。多分軍の基地というのはそんなものなのかもしれない。
「君はどうする?」
真田さんが問いかけてきた。
「弟を彼等と一緒に連れていってください。私はCADさえ貸していただけるならシェルターでも構いません」
「流石にそれはできませんね」
そう穂波さんが言ってきた。
「もし貴女が死んで、弟さんだけ生き残ったらどうするの?風間さん、私は彼女も連れていくべきだと思います」
「そう言っているがどうする?」
「…わかりました。私達も連れていってください」
「俺からは最後にアーマースーツと歩兵装備一式を貸してください。流石に消耗品はお返しできませんが」
「理由は?」
「彼等は深雪に手をかけました。その報いを受けさせます。これは軍事行動ではなく、個人的な報復です」
「そうか。非戦闘員と投降者の虐殺は認められないが、そのつもりは無さそうだな」
「投降させる暇など与えるつもりはありません」
「我々の任務は敵の撃退、若しくは殲滅。降伏勧告は必要無い。司馬達也君、君を我々の戦列に加えよう」
「軍の指揮に従うつもりはありませんが、敵と目的が同じであるならば肩を並べて戦いましょう」
「よろしい、真田!アーマースーツと白兵戦装備をお貸ししろ!空挺隊は10分後に出撃する!」
そうして達也くんは戦場に向かうことが決まった。妹とほんのり甘い空気を作りかけたが、そんな事は何処吹く風というように無視した。
「貴女の名前は?」
穂波さんが聞いてきた。
「遠藤 蒼依です。こちらは弟の颯兎です」
「そう、さっきのお礼をしていませんでしたね。ありがとうございました」
「いえ、私は頼まれたことをやっただけですから」
「そうですか。貴女も魔法師なのですか?」
「一応使えるというのはわかっていましたが、表立って見せるものではないと思っているので厳密には違います。いくらか魔法は使えますけど」
そんな話をしながら、私達は指揮所に案内された。
前半と後半が両極端な感じになった気がする(´・ω・`)