魔法科高校の月兎   作:樹矢

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片鱗

 音速で鈴仙が校門へと駆ける。彼女が通り過ぎた者たちには一陣の風が吹いたとしか思わないだろう。だが、鈴仙は気にしないし止まらない。校門で一科生が特化型のCADを抜こうとしていることを確信した彼女は更にギアをあげた。

 

 そして校門で口論をしていた者達はそれを見た。

 

 「これが実力の差だ!!」

 

 森崎が特化型のCADを二科生に向けた刹那、森崎の手からCADが消え、

 

 「なっ………!?」

 

 森崎の米神に森崎が持っていたCADを音もなく奪い取り、

 

 「CADの使用は法律で特定の場合を除いて固く禁じられています」

 

 右手を銃の形にして、

 

 「そして対人への魔法の行使は自己防衛と規定されたルール下での使用、軍の行動を除けば犯罪行為となります。わかっていましたか?」

 

 森崎の米神に突きつけている、蒼依を除き、これまでに見たことの無い、純粋な恐ろしさを感じさせる冷酷な瞳をした鈴仙の姿を。

 そこにいる者達は動けなかった。今は指を突きつけているだけだが、

 

 ーーーもしこれが銃口だったら。

 

 そんな事を無意識のうちに想像していたからだ。一科生の1人が驚愕から抜け出し、魔法を行使しようとしたが、

 

 「無駄ですよ?」

 

 できなかった。そこにいる魔法師全員に圧力の様なものがかかる。他人の干渉力を自分の干渉力で無力化し、自分を有利にする技法。そこにいる全員が同じ答えに至り、達也が代表となって呟いた。

 

 「領域干渉か」

 「ええ、折角ですし、事情を説明してくれませんか?丁度生徒会長と風紀委員長が来たので」

 

 鈴仙が校舎に顔を向けると、そこには真由美と摩利がいた。たが二人の表情は咎める様なものだ。

 

 「流石だな鈴仙」

 「豊花さん、代わりにありがとね。自己防衛以外での人への魔法の行使は校則以前に犯罪行為です」

 「お前達は新入生のA組とE組の生徒だな?事情聴取を行う。ついてきなさい」

 

 摩利がそう言うと

 

 「申し訳有りません、悪ふざけが過ぎました」

 「悪ふざけだと?」

 

 達也が頭を下げ、摩利が思わず聞き返した。

 

 「森崎一門のクイック・ドロウは有名ですから、俺たちが詰め寄って驚いたからCADを抜いたのだと思います」

 「ならばそこの一科生が魔法を使おうとしたのはどうする?」

 

 その一言で不発に終わった魔法を使おうとしていた生徒が青ざめたが、

 

 「あれは問題ないでしょう。目くらまし程度の威力しかない閃光魔法を使おうとしていましたし」

 「ほう?君は魔法式が読み取れるようだな」

 「実技は苦手ですが分析は得意です」

 「…どうやら誤魔化すのも得意なようだ」

 

 するとそこへ深雪が達也を擁護する。

 

 「兄の言う通り些細な行き違いによるものです。先輩方に迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 そう言い深雪は頭を下げる。そこに真由美が援護をする。

 

 「まぁいいじゃない。本人達がそう言っているんだし。本当に見聞のつもりだったのよね?」

 「はい」

 「ならいいわ。けれど犯罪行為にもなり得るから気をつけてね?」

 「わかりました」

 「…会長がこうい言っているから今回は不問にしよう。君、名前は?」

 「司波 達也です」

 「そうか、覚えておこう」

 

 真由美と摩利が校舎に去って行く。達也は「結構です」と言いかけるのを我慢して2人を見送った。

 

 これで丸く収まると思っていた矢先、今のやり取りを良く思わない者がいた。

 

 「認めない…」

 

 クラスでも目立っていた生徒、森崎 駿だ。

 

 「借りだとは思わないからな司波 達也。俺はお前を認めない。司波さん達はこっちに居るべきだ。鈴仙さん達も考え直したほうがいい。君たちはそいつ等と居るべきじゃない」

 「貸しにするつもりは無いから安心しろ」

 「どうでもいいですね」

 「誰と居ようが私の勝手よ」

 

 そう言うと森崎達は苦い顔をしながら帰っていった。が、それでも残っている者達がいた。それはほのかと雫だった。

 

 

 

 達也達はほのかと雫も合わせてキャビネットの駅に向かっていた。達也の右には蒼依が、左には何故かほのかが陣取っていた。そのせいか深雪の機嫌は悪くなり、確かに気温は下がっているのだが、達也と蒼依がそこはかとなく作り出すアツい空間のせいでプラスマイナスがゼロになっているという謎の空間が発生していた。

 そして今は達也を挟んでほのかと蒼依、深雪の3人が話をしている。

 鈴仙は西城 レオンハルトという少年と自己紹介を済ませ、「レオ」と呼ぶように頼まれていた。

 

 「それじゃぁ深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

 「ええ。お兄様に任せるのが安心できますから」

 「それじゃぁ蒼依さんは?」

 「私は豊花に任せているわ」

 「そうなのか?」

 

 蒼依が鈴仙にCADの調整を任せていると聞き、達也が少し驚いたような顔をして反応する。

 

 「そういえば蒼依のCADはサテライトシリーズだったな。ということは豊花、君もか?」

 「はい。トーラス・シルバーの製品も悪くはありませんが、やはりサテライトシリーズの方が私にとっては扱いやすく、壊れたりしないので」

 「そうなのか」

 

 そこに更にエリカが混ざってくる。

 

 「それじゃぁ2人ともこれをどう思う?」

 

 エリカは小さな棒状の物を見せてくるが、達也と鈴仙はそれがCADだと見破った。

 

 「生憎だが俺にはそこまで複雑な物は扱えないな」

 「警棒型のCAD…しかも刻印術式を使っていますね。結構複雑なので扱うにしても時間がかかりそうです。用途としては伸長と相手への打撃の瞬間に起動させるといったところでしょうか。甲割りと同じ要領ですね。それに軽量化の為に素材自体を軽くしていると考えますがどうでしょう?」

 

 この鈴仙の発言にはその場にいる皆が絶句した。一目見ただけで材質から術式、果てには発動するタイミングとそれをする技術まで見破ったのだから無理もない。当の鈴仙は何故そうなったのかわかっていないのか、疑問符を浮かべて首を傾げていた。

 たっぷり30秒静まった後、エリカが切り出した。

 

 「……凄いわね…そこまで見破るなんて」

 

 エリカは大いに関心し、共に歩いていた美月はCADだと思っていなかったらしく、とても驚いていた。

 

 「一応、得意分野なので。そういえば依姫様が予定を教えて欲しいそうです。日程が合えば貴女の家の道場に向かうとか」

 「それ本当!?」

 

 エリカに今朝依姫に言われたことを伝えると先程とは別の驚愕をした。

 

 「ちょっと待って!今携帯端末持ってる!?」

 「持っていますよ。そんなに焦らなくて結構です」

 

 鈴仙がそう言うもエリカは変わらない。そこに疑問に思ったレオが質問をする。

 

 「なあ、その依姫って人、どんだけ凄いんだ?」

 

 その一言でレオはめでたくエリカからキャビネットに乗るまでありがたい解説を受ける事と相成った。

 その後は達也と鈴仙の談義に蒼依と美月が混ざり、エリカの熱狂的ファンの様な解説をBGMにCADについて話をしながら解散していった。




メリークリスマスですね皆さん。
私は友達とファミレス行ってきました。

危うく奢りにされそうでしたがどうにか回避できました。
緑色の粒子を使う変態企業にでも連れていけばよかったかなと思ったり。

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