【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

82 / 86
第70話  呉司令支部編 黎明の空⑤

 

 ドローンから送信されてくる映像を、作戦室に居る人間は全員が注目してみていました。

既に陸上部隊によって倉橋島の制圧は終わっています。残党勢力は次々と投降してきており、武装解除・拘束して開けたところに固めているみたいです。中には負傷兵も居るみたいですけど、それの手当も順にやっていっている現状です。呉司令支部から倉橋島への道中にある野戦病院には、既に呉から出発した近隣の衛生部隊や救急隊が動いて搬送・治療を行っているとのこと。

今でも戦闘をしているのは海上だけでした。

 現在、作戦室ではある話が持ち上がっていました。それは『横須賀鎮守府艦隊司令部に残っている艦娘に応援要請をし、現在交戦中の水上打撃部隊と交代してもらうこと』でした。

私もそうですけど、この話を聞いた西川さんは顔をしかめました。

その要請をしたところで、艦娘の誰1人として支援に出てくるとは思えなかったからです。横須賀鎮守府艦隊司令部の指令系統は、別の軍や部隊と違って特殊なんです。

現在は鎮守府全体の指揮を代理という形で赤城さんや長門さんが負っています。そこのポストに紅くんが居たのなら別の話でしょう。ですけど、今は別の人が代理を勤めています。

そしてそもそもの指揮系統にも特殊さがありました。紅くんの命令でなければ、横須賀鎮守府艦隊司令部は軍事行動を起こさないんです。それは門兵、『柴壁』に至るまでです。

安易な考えに、私と西川さんは顔をしかめてしまったんです。

 映像はどんどんと移り変わり、戦況が一変したことを知らせます。

海域からの離脱を図っていた作戦艦隊が回頭を始め、大和型戦艦の『不明艦隊』に向かって行き始めたのです。この行動には、作戦室の誰もが困惑しました。

相手は大和型戦艦。それも2人ということは、大和と武蔵ということになります。その2人で霞んでいますが、4人の重巡も普通に厄介です。

 

「作戦艦隊との通信は?」

 

「応答がありません!」

 

「クソッ!!」

 

 撤退から回頭をして正面に向かったということは、混乱している訳では無いんでしょう。

ですけど、通信に出ないのは何か訳ありということでしょうか。それとも、あえて出ないのでしょうか。

私には分かりませんでした。

 そうこうしていると、作戦艦隊が部隊を2分しました。

空母機動部隊・水上打撃部隊と水雷戦隊。空母機動部隊を守るように輪形陣を取っていた陣形から、駆逐艦と軽巡だけが離脱していったんです。

そしてそのままある程度の陣形を取り、『不明艦隊』に攻撃を仕掛けました。

 

「小型艦では太刀打ち出来ないのでは?!」

 

 作戦室に居た誰かがそんなことを言いました。確かに船の大きさも武装の大きさも比べるまでもなく、大和型の方が大きいんです。

そんな相手に水雷戦隊で当たるのは自殺行為にも等しいものがありました。ですけど彼女たちはそれを実行したんです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 『不明艦隊』との戦闘が始まってすぐのことです。水雷戦隊に動きがありました。

今までまばらだった攻撃が、しっかりとした目的のある攻撃へと変化を見せたのでした。ある程度固まって動いていた艦隊の陣形に変化があり、水雷戦隊が単縦陣を取ったのです。

そしてそのまま大和・武蔵の片舷集中して攻撃を始めたのでした。

この攻撃には新瑞さんに覚えがあったらしく、さっきまで出ていた額の汗が消え失せていました。焦りからくるものの汗が引いた。つまり、焦る必要がなくなったことを表しています。

作戦艦隊が既に敗北する未来が見えているのなら、何か行動を起こすはずです。ですけど、その様子が見られませんでした。

ということは、今の戦いも勝つということでしょう。

 新瑞さんは何も言いません。どうして勝つのか、その理由も。

ですけど、おとなしく戦況を見ていればそれは次第に分かってきました。

 

「大和型の1隻が傾斜を始めました!」

 

 転覆させるつもりなんでしょう。単縦陣での戦闘に移行した時から、水雷戦隊の攻撃は魚雷がメインになっていました。

砲よりも威力が高い魚雷を片舷に集中して攻撃することで、相手のバランスを崩しているということでしょう。

 その攻撃に気付いてから数十分後には、大和型の攻撃が止みました。そしてその頃には重巡も大和型に向けて放っていた魚雷を食らったりだとか、別れていた作戦艦隊からの攻撃によって無力化されていました。

 

「作戦艦隊の戦闘停止を確認しました!!」「『不明艦隊』の無力化を確認!」

 

 そして最後の戦闘は幕を降ろしたのでした。今までは作戦に於いても支援の支援として組み込まれていた水雷戦隊が、この作戦始まって以来の危機を退けたのでした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大和型戦艦の『不明艦隊』との戦闘終了後、陸上部隊からの連絡がありました。

倉橋島の制圧が終わっていたことは既に連絡を受けていましたが、違うものが入ってきたのです。

倉橋島に残っている武装勢力が陸上部隊だけになったことを確認した、ということでした。これが何を意味しているのか……。答えは単純です。

この作戦、『黎明の空』作戦の成功を表していました。

 作戦が成功したというのに、作戦室は騒がしくなることはありませんでした。

連絡を受けた直後から、陸上部隊の撤退命令を出したり、各方面への連絡等などが始まったのでした。その中で何もしていなかった私や西川さんは、ただ呆然とその作業風景を見ていることだけしかできませんでした。

 

「……終わったんですよね?」

 

「はい。そうみたいです」

 

 私は西川さんにそう言いました。今の状況を見ていて、作戦が成功したようには見えなかったからです。

 

「『海軍本部』は完全に無くなった。そう考えても良いんですよね?」

 

「はい」

 

 私は『海軍本部』がどういうものなのか、誰かからの言葉でしか聞いたことありませんでした。

どういったことをしてきて、何が起きていったのか……。そんな聞いたことしかなかった敵、『海軍本部』が消えたことに対してどうリアクションを取れば良いのか分かりません。

最終目的は紅くんとの再会です。それが達成されていない今、私はまだ通過点程度にしか思っていませんでした。

 そんな私とは打って変わって、西川さんはじわじわと作戦成功の実感を持ち始めているようでした。

顔がだんだんとにやけてきているからです。私にはその表情はまだ出来ませんでした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ひとまず私たちは初期処理が終わった後に、作戦室を追い出されました。

後々の処理には邪魔になるから、という理由を添えられて。新瑞さんの仕事は、この作戦の全体の指揮を執っていたことから、最終決定を行う程度のことしかないみたいで、私たちと同じように作戦室から出ていっていました。

 気付けば既に夜になっており、時計に目を向けると9に針を指していました。

 

「作戦艦隊に撤退命令を出してある。ましろたちも帰ると良い。今後のことは追って連絡する」

 

「分かりました」

 

 正確には現場にいましたが、現場に居なかった気分の私にとっては今の状況を不思議に感じていました。

『黎明の空』作戦が成功したこと。巡田さんが戦死したこと。今までモニタ越しにしか見ていなかった戦場は、本当はリアルに作られたテレビゲームかなにかなのでは、と思っています。

ですから、『黎明の空』作戦はシミュレーションで成功し、その最中に巡田さんが戦死してしまった。そういう風に作られたシナリオだったんじゃないか、と。

この世界に居ること自体、夢か幻のような気分になることがあるというのに……。

 

「現在まで分かっている、暫定的な状況を報告しておこう。それから夕食を食べて寝ると良い」

 

「了解しました」

 

 私は返事をしませんでしたが、西川さんは返事をしました。

 

「倉橋島に残っている陸上部隊の憲兵たちが、『海軍本部』の痕跡を調査し始めて結構な時間が経っている。そこまでで分かっていることは、『海軍本部』の残っていた戦力を全て投入した総力戦であったことと、武器弾薬共に出し惜しみ無く使っていたことだ」

 

 私は少し考えました。

新瑞さんが言った言葉の意味の理解に時間が掛かってしまっているのです。

 

「本来想定されていた状況の中に倉橋島に埋蔵した爆発物を使う可能性があったが、それも無い程に爆弾の備蓄も無かった。地面を吹き飛ばし、地雷代わりに使えるだけの余剰砲弾も無かった」

 

 つまり、今回の私たちの攻撃に対して、かなりの抵抗を見せたかのように思えた『海軍本部』は、そもそも大本営に追いたてられていたために補給物資がろくにない状況で戦っていたということらしいです。

アレだけの被害を出したというのは、きっと『海軍本部』が必死に抵抗をしたからでしょう。襲撃を徹底したり、防戦しかしなかったことも頷けます。

 

「抵抗する分の備蓄が無かったから、あれだけ容易く投降が始まったのだと思う」

 

 私たちが戦った相手は、そういう状況にあったのだと初めて知りました。

幅のきかせ方や規模、参加しようと手を挙げる部隊の少なさから私は勝手に勘違いしていたみたいですね。

 

「『海軍本部』の幹部の遺体も全て確認した。これで安全は確保されたと言っても良いだろう」

 

 何の安全を確保出来たのか、新瑞さんは具体的なことを言いませんでした。ですけど私にも西川さんにも分かりました。

もう軍病院に居る紅くんを横須賀鎮守府に戻しても良いということが。それだけの環境にすることが出来た、ということです。

 私たちはこの後、前日と変わらない夕食を摂って床に就き、早朝に呉司令支部を出発しました。

 

 





 あっけない終わり方のように見えますけど、作戦艦隊は支援部隊ですし、呉司令支部は所詮司令部ですからね。
あっさりしすぎたといわれるのは、ちょっと覚悟していたりします。

 という訳で、これにて最終作戦が終わりました。そして読者の皆さんに遂にこのエンディングがどのエンディングなのかを明かす時が来ました。
『終結の章』は『ハッピーエンド』です。作者視点ですけどね。
このエンディングに関しての問い合わせたいことがあると思いますが、それは感想欄やメッセージにて対応します。
 ということで、これで終わりではありませんよ。
まだ続きますからね!

 ご意見ご感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。