【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第7話  重い空気

 巡田さんに置いてかれた私は、近くを通りかかった武下さんに外まで連れてってもらいました。その際に、私は巡田さんに伝えた事を話しました。その時の反応は、巡田さんと同じでした。おもむろに拳銃を抜き、私に差し出すと、『私を撃って下さい』と同じセリフを言ったんです。

その時には、既に出口付近で、巡田さんを待っていたところでしたので、警備をしていた西川さんらも動揺し、同じように私に撃って欲しいと言ってきました。そんな武下さんらに、巡田さんと同じような事を言うとたちまち元気になりました。そして、その場で武下さんはある事を言い始めました。

 この横須賀鎮守府にある民間軍事組織には諜報部門があるそうです。そこを取り仕切っているのは巡田さんらしいです。巡田さんは諜報員だったんですね。

その諜報部門に任務を出すと、武下さんは言ったんです。任務内容は、提督が収容された軍病院に潜入し、容体を確認する、です。聞く限り、なんとも滑稽な任務ですが、それが巡田さんらでは軍病院に入る事が出来ないらしいです。だから、潜入するという任務になった様です。

 普通ならすんなり入れるのではないんでしょうか、と私は聞いたんですが、どうやら民間軍事組織だから無理だと言われるらしいです。話を聞いてみると、武下さんらは全員は元海軍憲兵から横須賀鎮守府門兵になった人や、訳ありで増員した陸軍の部隊の人らしいです。紅くんが撃たれたことから全員が退役、そのまま民間軍事組織を立ち上げ、横須賀鎮守府の私兵になったという事みたいです。詳しい話は、かなり省かれていたみたいですが、軍人ではない上に、相手が要人だから話を聞かせてもくれないからこその任務ということです。

 

「では、私はこの任務の下調べがありますので、これにて失礼しますね」

 

 そう言って、武下さんは走って行ってしまいました。

それに続くかのように、西川さんも聞いていた片割れに口止めをしました。

 

「では、お姉さん。ありがとうございました」

 

「あはは。私、貴方より年下ですよ?」

 

 そう言って私は、警備棟から出て行きました。

 何もせず、そのまま寮に戻った私は、自分の部屋に帰ると、時計を見て寝転がりました。時間は午前11時です。大淀さん曰く、昼食は正午からとの事でしたので、それまで私は目を閉じました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 腹の虫に私は、目を覚まされました。携帯電話を点けて見れば、時刻は正午を少し回ったくらいでした。この時間は、大淀さんから聞いていますが、昼食の時間です。私はそのまま部屋を出て、食堂に向かいます。もう、何回か行ってますので道は覚えています。

 食堂に着いて、艦娘に混じって、カウンターで間宮さんに注文をします。今は中華の気分ですので、中華を頼みました。トレーを持って、そのまま空いている席に私は腰を掛けました。

私が座ったのは、多分ですけど大井さんの隣です。北上さんとベタベタしているイメージがありますが、私が隣に座った大井さんの横に北上さんは座ってはいるものの、そんなにベタベタしている雰囲気はありません。

どちらかと言うと、親友というか姉妹という雰囲気です。

 

「あら、赤城さんの言っていた人ですね。はじめまして、大井です」

 

「はじめまして」

 

 私は自分の名前を出しそうになりましたので、はじめましてと挨拶しただけで口を閉じました。

 そんな私をマジマジと見る大井さんに、少し声を掛けてみます。

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ。困った事があれば、何でも言ってくださいね。それと、敬語はいいですよ」

 

「そうですか? ですけど、これ、治らないんですよね」

 

 次々と妖精さんが運んでくるのを眺めながら、私は大井さんに訊きました。

 

「提督は、お泊りで何かお仕事でもあるんですか? 昨日もいらっしゃらなかったみたいですけど」

 

 そう言うと、大井さんは肩を跳ねさせました。真横に居ても分かるくらい大きくです。

 

「そっ、そうね……いつになったら」

 

 大井さんの顔を見ると、どんどん表情が暗くなっていくのが分かります。そんな大井さんを見ながら私は、巡田さんが言っていた事を思い出しました。鎮守府の外にある廃工場で撃たれて運ばれたということをです。それからどうなったかは知らない、そう言っていたんです。

 

「止めなよ、大井っち」

 

 大井さんの横に座っていた北上さんが、いきなりこっちを向いたかと思うと、そう言いました。

 

「はい……」

 

「外の人さぁ」

 

 大井さんが黙ると、入れ替わって北上さんが話しかけてきました。

 

「提督の事、嗅ぎまわってるみたいだけど、何が目的なの?」

 

 そう、冷たい声で言いました。一瞬にして、私の周囲の空気も冷め、緊張が走ります。

 

「金剛さんとかに頼んで、何かしているみたいだけど、止めてくれない? 金剛さんだって、きっと嫌な思いしながら手伝ってくれてるんだと思うけど」

 

「嫌々ですか?」

 

「うん」

 

 そう言った北上さんはそっぽ向いて、大井さんの頭を撫でると、自分の昼食を食べ始めました。私も何か聞く気になれずに食事を始めます。美味しい筈なのに、喉を通りません。何故でしょうか。

 紅くんが外で撃たれた事と、艦娘に一体何の因果関係があるのかを考えます。

答えは簡単でした。"艦娘に呼ばれた提督"である紅くんは、約7ヶ月間、提督として指揮をして戦果を挙げていました。そんな中、大量の警備をいとも簡単にすり抜けられ、拉致された挙句、撃たれてしまいました。

これだけで考え付く答えは、『艦娘が呼び出しておいて、国内の暗殺者に手をかけられた。しかも自分たちは何も出来なかった』ということでしょう。

 

(でも、これだけじゃ弱いんでしょうね。きっとまだ、何かある筈です)

 

 そう、疑いました。ここまでの反応をする理由がある筈なんです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私は昼食を終え、トレーを戻して帰ろうとすると、ある艦娘が出口で立っていました。皆、立ち止まらずにそれぞれ出て行くにも関わらず、その艦娘だけがその場に立っているんです。そして、私をずっと見ているんです。

 

「どうされたんですか? 赤城さん」

 

「はい。少し、お話がありまして、少々時間をいただけませんか?」

 

 そう言われ、私は艦娘と紅くんの別の繋がりについて考えながら、赤城さんに付いていきます。付いて行った先は、初めて行く場所でした。

他の扉よりも大きな扉で、その横には"執務室"と書かれた板が掛かっています。

 

「入ってください」

 

 私は言われるがままに、執務室に入りました。中はとても綺麗で、率直に言えば、使っている雰囲気はありません。ですけど、埃がないんです。よく分からない部屋ですけど、ここが何をする部屋かは分かります。

提督が仕事をし、だいたいここに居る部屋なんでしょう。

 

「そこに腰かけていて下さい。お茶を淹れてきます」

 

 赤城さんは私をソファーに案内すると、どこかへ消えてしまいました。多分、給湯室に行ったんでしょう。それっぽい部屋が、入ってきた時に見えましたからね。

 

(ここ、執務室ですね)

 

 ここに連れてこられた理由が分かりません。それに何故、ここを選んだかもです。

 

「……貴女の本当の名前を教えて頂けませんか?」

 

 お茶を淹れてきた赤城さんは、私の対面に座ると、そう訊いてきました。

 

(そのことを誰から聞いたんでしょうか? 状況から考えると、巡田さん……かもしれないですね)

 

 一瞬、頭を過ぎったのはそのことでした。赤城さんは多分、巡田さんから昼までに話を聞いていたということでしょう。それから、私に何か言いたい事がある、と考えられます。それを聞く前に、私の本名を聞いたという事ですね。

 

「天色 ましろです」

 

「天色っ?!」

 

 そう私が本名を名乗った途端、赤城さんは凄く反応しました。表情からして、かなり驚いているみたいです。

 

「貴女が探している人というのはっ……」

 

 少し、赤城さんは呼吸を乱しながら訊いてきます。

このままいくと、過呼吸になりかねません。極度の緊張が出ているんでしょう。紅くんがここの提督で、『海軍本部』という組織の何かで殺されたと考えているとしたら、そんな様子に赤城さんがなってしまうのも頷けます。

 

「横須賀鎮守府の提督です。提督は私の弟ですから」

 

 私は真実を、嘘偽りなく言いました。多分、巡田さんから聞いていたと思ったんですが、面と向かって言われるのとでは違うみたいですね。既に過呼吸を起こしています。

喉を鳴らし、大きく肩を上下させながら息を吐く赤城さんに、私は近寄って声をかけます。

 

「赤城さん、ごめんなさい」

 

 私はそんな赤城さんの口を塞ぎました。無理やり鼻呼吸をさせ、すぐに手を話して指示を出します。

 

「息を止めて下さい! そうしたら、少し空気を吸って、また息を止めますっ!」

 

 落ち着いてきたのか、私の指示を聞いてそれを実践する赤城さんの傍らで様子を見ていると、過呼吸はだんだん治り、普通に呼吸が出来る様になったみたいです。

ですので、話を再開しました。

 

「それで、私を呼び出したのは、こんな事を聞きたかったからではないですよね?」

 

 ソファーに座り直した私は、赤城さんに訊きます。

 

「はい。勿論です」

 

 そう答えた赤城さんは、怯えた目をしながら、私を見ました。そして、唐突に立ち上がると、床に正座をして手を付きます。そして、頭を下げました。

 

「申し訳ありませんでしたッ!!」

 

 何に対してなのかは言いませんが、なんとなく何のことだか分かります。

頭を下げた時、鈍い音がしましたので、多分頭を打ち付けたんでしょう。ですけど、赤城さんは頭を上げません。

 

「私たちは事情を鑑みず、自らの利ばかりを考えて、提督を呼び出した挙句、瀕死に……」

 

 そういう事です。やはり、巡田さんは赤城さんに話していたんです。そうだろうとは思ってましたけどね。

 私は言葉に詰まりました。どう言葉をかけていいのか分かりません。赤城さんが頭を下げたまま、刻々と時間が過ぎて行きました。

 




 本文よりもリメイクの進行状況を報告します。只今、第2話の途中ですので当分時間がかかります。予告しておきながらも1週間以上かかる見込みがありますので、少々お待ち下さい。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

2016/05/15 リメイク版に更新しました。

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