【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第62話  作戦艦隊編 黎明の空②

 先行している第一、第三戦隊、第二航空戦隊は『不明艦隊』と交戦状態に突入します。

私たちは飛び火を避けるために、一時的に艦隊運動を停止し海上で停泊中です。その間、私は司令部から戦場の大局を聞き出していました。

 

「赤城より司令部。現在、敵対的な艦隊と交戦状態にあります。出来ればで構いません、航空教導団に支援要請を」

 

『HQより赤城。現状の詳細を報告せよ』

 

「……現在、空母機動部隊と先行中の第一、第三戦隊及び第二航空戦隊が交戦中。編成は飛鷹、隼鷹、山城、多摩、皐月、初霜です」

 

『待機中の部隊を対艦装備で回す』

 

「ありがとうございます」

 

 ないよりはマシだろうと思い、支援要請をします。

そしてそれと共に、知りたいことを訊きました。

 

「陸上部隊の状況はどうなっていますか?」

 

『現在、倉敷島へ向かっている陸上部隊が『海軍本部』に襲撃を受けている。戦力低下が芳しくない状況にある』

 

「ありがとうございます」

 

 当然です。到着してからの抵抗は考えられましたが、やはりそれまでの道中での襲撃も考えられました。それに関しては新瑞さんも指摘していましたし、最終作戦書にもその記述がありました。

話を聞いたところ、陸上部隊は大なり小なり被害が出ている現状です。戦車等が駄目になったのか、それとも歩兵の方が狩られてしまったのかは分かりません。ですけど、どちらにせよ戦力の低下は倉敷島制圧に良い結果をもたらしません。これ以上の被害は抑えて置いて欲しいものです。

場合によっては、陸上部隊が漸減しすぎた場合は私たち作戦艦隊の上陸も視野に入れるべきでしょう。

 そもそも『不明艦隊』との交戦が無ければ、もう少しことも上手く運べていたかもしれません。

私は思考をそちらに切り替えました。

 『不明艦隊』はどういった意図で、私たちに敵対してきているのでしょうか。

編成・装備から読み取れることは、練度の低い艦隊ということと提督が着任したばかりであることです。それ以上も以下もありません。

そして艦隊が現れた海域。倉敷島からこちらに接近してきたということ。これはかなり重要なことだと思いました。

 日本皇国各地に鎮守府は存在しています。何万人という単位で艦娘が沿岸部に跋扈していますが、『不明艦隊』はきっと呉鎮守府群のどれかから出撃してきているということが、普通に考えて至る結論ではあります。

ですが、"『不明艦隊』の目的"は艦隊進路からも分かるように、私たちに攻撃を仕掛けることでした。となると、呉から出撃したとは考えられ無いんです。海域ですれ違うことはあっても、こうやって砲雷撃を交わすことは演習以外ではありえないことなんです。

つまり『不明艦隊』がどこから出撃したのか……。考えられる答えはただ一つだけです。『彼女たちは倉橋島の艦娘だ』ということです。アレだけ艦娘を迫害していた『海軍本部』も、結局は艦娘にすがることしかできなかったんです。

 

「ふん……」

 

 鼻で嘲笑います。

現在も交戦中ではありますが、停戦命令を出すことも考えていたんです。『不明艦隊』が交信をしないのには、何か理由があるはずなんです。もし倉橋島の艦娘だとしたら、本来存在するばすのない場所に鎮守府・泊地が存在することになります。となると端島鎮守府のような扱いになっている……つまり、"提督"という存在があることを示唆しています。

と、考えると話は速いです。艤装の通信設備が使用禁止になっている、ということでしょう。もしくは通信妖精さんが乗っていないか、のどちらか。

 ならば、と私は思い立ちます。

通信妖精さんに受話器を頼みました。

 

「赤城より長門さん」

 

『こちら長門』

 

「交戦しながらで構いません。『不明艦隊』に発光通信をお願いします。内容は停戦を促すもので」

 

『それは、どういうことだ?』

 

「これ以上、仲間と実弾で撃ち合うのが嫌ならお願いします」

 

『無論だ。すぐに始める』

 

 先行隊の動きが変わりました。もともと第二航空戦隊は第一、第三戦隊の後方に居ました。その更に後方に私たちが居ます。

第二航空戦隊の動きは変わりませんが、第一、第三戦隊の動きが変わったのです。第三戦隊が第一戦隊より離脱し、『不明艦隊』を囲み始めました。

そしてわざと進路上に出ます。第三戦隊はそのまま『不明艦隊』の陣形先頭の山城さんの艦橋前方の主砲塔群に砲撃、吹き飛ばしました。山城さんの艤装の方が鈴谷さんたちのものよりも巨大ですから、強引に突破出来たかもしれません。ですけど、『不明艦隊』は艦隊運動を停止したんです。

 『不明艦隊』側面に展開していた第一戦隊が着々と包囲網を造り出し、動きが完全に止まりました。

こちら側の全砲塔は全て『不明艦隊』に向けられています。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結果から先に言ってしまえば、『不明艦隊』の艦娘の艤装には通信設備の一切がありませんでした。探照灯と手旗信号があるくらいで、無線機は本来あるべきところには何もありませんでした。

そのためか、通信妖精さんも自分の持ち場がないから、椅子に座っているだけですし。

 考えれみれば分かることだったんですよ。偵察機が艦影を見つけ、その報告を受けて打った手の時点で気付くべきだったんです。

一方で、"敵艦隊"からの通信など、普通は応答しないものです。

 

『長門より赤城。『不明艦隊』旗艦 山城を尋問した結果を報告する』

 

 艦隊が動きを止めてから1時間はが経った頃でしょう。長門さんから通信が入ります。

 

「赤城です。報告、どうぞ」

 

『所属を吐いた。所属は"倉敷島泊地"だ。繰り返す。所属は"倉敷島泊地"だ』

 

 思わず舌打ちをしてしまいました。ここまで想像通りだったのは初めてです。それと同時に、怒りを覚えました。

虫の良い話です。『海軍本部』は逆賊です。"正義"の名のもとに戦をすることは出来ないんです。そしてこの世界情勢。戦すらままならない状況下で、もし自らの危険に晒されたのなら、『海軍本部』が遺憾ながらにその手を打つのが理解できました。

だからこそ、腹が立つのです。我が物顔で指図していたあの組織に。幹部たちに。

 

「赤城より長門さん。可能ならば武装解除を促し、どこかの漁港に停泊する様に云えませんか?」

 

 そして彼女たちは真実を知りません。『海軍本部』の悪行も何もかも。

だからこその"可能ならば"なんです。

 

『今陸奥がやっているが、芳しくないようだ。だが、情報を聞き出せた。進水したてだけで構成された艦隊で助かった』

 

 流石長門さんです。

そして気になりますね。情報が私たちにとって有益であることは間違いないです。

 

『……艦隊が急行中だ』

 

 その一言で、私は全てを理解しました。

もう報告することもないということで、長門さんは通信を終わらせました。それに武装解除は望めなかったとのことです。

 『艦隊が急行中』ということはつまり、これ以上に敵対的な『不明艦隊』が存在しているということになります。

この報告を受けて、私たちが執るべき手は1つしかありません。

通信妖精さんに言い、司令部に繋げてもらいます。報告が先ですからね。

 

「赤城より司令部。敵対的な艦隊の詳細を確認。敵は倉橋島泊地所属です」

 

『HQ了解。作戦遂行に支障を来しているため、司令部で作戦の再構築中。指示を待て』

 

「そうしたいのは山々ですが、現在別働隊が動いているという情報を入手しました。作戦艦隊は一部の艦隊を残し、遊撃掃討戦に移行するべきだと思います」

 

『それでは味方に甚大な被害が……』

 

 司令部……つまり大本営側の兵のことを思い出しました。

今、私たち横須賀鎮守府艦隊司令部に配属になっていた門兵さんたちを除き、殆どの部隊に実戦経験がないんです。かなり昔に、艦娘に戦争を投げましたからね。そして陸軍なんて、ごく一部は完全に訓練のみしか経験をしていない部隊ばかり。

こういった作戦外の事象に対する対処がなっていません。

 

「……新瑞さんを出して下さい。貴方じゃ話になりません」

 

『指揮官は現在対応に……』

 

「良いから出しなさいッ!!」

 

 オペレーターを怒鳴りつけ、新瑞さんに代わってもらいます

 

『……新瑞だ。赤城、報告は受けている』

 

「はい。それと伝えたいことがあります」

 

 私は『不明艦隊』の状況を知らせることにしたんです。

 

「『不明艦隊』は低練度であり、装備も旧式。挙げ句の果てに通信設備が撤去されています」

 

『ふむ……』

 

「そこで提案なんですが、どうやら私たちが接敵した艦隊以外にも『不明艦隊』が存在しているようなんです。ですから作戦艦隊を分断し、遊撃掃討戦に突入する許可を……」

 

『許可できない』

 

 即答されました。

どうしてでしょうか。部隊を二分し、本来通りに作戦を進める部隊と『不明艦隊』の対処を行う部隊。これならば倉橋島への水上打撃力が減衰しますけど、その分安全に作戦が続行できますからね。

 新瑞さんはどいうところを良くないと思い、許可を下さないことにしたんでしょうか。

一応、私たち作戦艦隊も独自の行動はある程度出来ますけども、作戦が作戦です。いつもよりも柔軟な作戦行動が出来ない状態です。大本営に合わせる必要がありますからね。

 

「……理由をお聞きしても?」

 

『はっきりとしない情報に一々反応することはない。だから、予定通りに倉橋島に向かってもらう。それともし、本当に別働隊が居たとしよう。それの対処のためにわざわざ部隊を二分することは愚行だ』

 

「もし本当に居たとして、背後から攻撃された場合は……」

 

『包囲される訳ではない。それに作戦艦隊は通常編成の8倍以上の大艦隊だ。艦砲射撃を行わないことになっている水雷戦隊にその対処を任せれば良いだろう。それに航空爆撃から帰還した第二、第五航空戦隊が航空戦を行うことだって出来るはずだ』

 

 最もな意見です。

 

「……了解しました。これより作戦艦隊は倉橋島へ向かいます」

 

『そうしてくれ。こちらから大淀にも伝えておく』

 

 これで方針の共有が出来ました。本来ならば、部隊を二分する予定でしたが、新瑞さんに断れられてしまいましたので、ちゃんと作戦通りに動くことにしましょう。

 

『赤城より作戦艦隊全艦へ。これより西進し、予定通り倉橋島に攻撃を仕掛けます』

 

 




 作戦はまだまだ続きます。第62話終了時点での進行状況ですが、作戦は第三段階です。
中盤で躓いていますが、作戦なんて筋書き通りに進むことの方がないんですから……。

 現状、このエンディングがどういうエンドを迎えるのか……そういうのは、物語が進行するに連れて分かってきていると思います。
それらに関しては、作者の方でも何処かの後書きで記述しようと思っております。
という訳で、聞かれる前に答えておきました。

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