【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第54話  束の間の休息②

 

 第5通用門の警備は暇です。

巡回をしているだけならまだマシでしょう。ですが、門の前に立っているだけというのはとても辛いものです。

 第5通用門というよりも他の門全てに言えることですが、どういう用途でここに存在しているのか知りませんでした。こうして警備をしてみることで、何に使われているのかが分かります。

 第5通用門は工廠裏にあると、鎮守府内では言われています。ですが実際は違いました。

工廠裏には滑走路跡地があり、その一角に私たち『柴壁』の寮があります。それ以外には何も立っていません。

つまり滑走路跡の隅に、この第5通用門がポツンとあるんです。

 

「……なーんにも無いですねぇ」

 

 私は不意にそんなことを呟きます。

仕方ないです。門の向こう側を見れば建物は沢山立っています。それの反対側、内側を見てしまうと出る言葉もありません。だだっ広い滑走路跡が眼下にあるだけですからね。

ただ、それだけではないみたいですが。

 この滑走路跡は工廠が隣接しているということで、航空隊に補充する艦載機がとてつもなく大きな建物の中に収められています。話によれば、中にはエレベーターがあり、地下にも艦載機が保存されているだとか。

知らなかったです。

ただ門兵が『柴壁』になってからは、一度もその扉が開くことはなかったみたいですけどね。そもそも出撃もしていませんので、艦載機を補充する必要がないですからね。

ただ、滑走路が使われていた時は、訓練や任務などでしょっちゅう飛行機が飛んでいたらしいですが。なんでも旅客機かそれ以上に大きな飛行機が何百機と飛んでいったこともあったらしいですからね。

それが何しに飛んでいったのか、なんとなく検討が付きますが……。

 

「前は色んな艦載機や陸上機が飛んでいったり、外に出して整備したりしているのを見かけたんだがなぁ」

 

「そうなんですか?」

 

 無駄口をしていることを注意もせずに、私より2mくらい離れたところに立っている髭面の大男が言います。身長200cmはないでしょうけど、それに近いくらいの大きさです。持っている小銃が小さく見えますからね。

この髭面の大男は杉原さん。『番犬』第2小隊 A分隊です。

おおらかな性格でお酒と肉が大好き。見かけとその性格や好きなものから『ヴァイキング』やら『大熊』やら言われています。彼は全然気にしていないようですね。嫌がっている素振りも見せません。人によっては『おっちゃん』やら『おっさん』やら様々。面倒見が良く、『第4中隊の親父』なんてのも言われているみたいですね。

 

「そうだぞ。紅の坊主(こうのぼうず)が滑走路の使用禁止令を出すまでは、そりゃもう凄かった。大戦期の戦闘機や爆撃機が空を埋め尽くして飛んでいく様は、休憩中の俺の酒のお供だったぞ」

 

 杉原さんは紅くんのことを『紅の坊主』と呼んでいます。本来ならば不敬罪とか言って良くて禁固刑らしいですが、ここではそれが無いみたいですね。

何でも紅くんが良いと言ったからだとか。敬語も要らない、と言っていたらしいですからね。

そうは云いますが、殆どの『柴壁』は紅くんのことは『紅提督』と呼びますし敬語を使うようですけどね。

 

「半世紀以上も前のものですからね」

 

 ちなみに杉原さんも戦闘機とか爆撃機とか、そういうのが好きみたいです。見るのが、とだけ言っていましたが。

 

「早く帰ってきて欲しいものだ。紅の坊主には」

 

 空を見上げ、杉原さんはそう言いました。

 

「暁ちゃんたちが落ち着かねぇし。……何より」

 

 ミチミチと杉原さんの握りこぶしから音が聞こえてきます。

小銃を携えていない方の左手から、その音が聞こえてきました。

 

「覚悟はしていたが、日本皇国軍と楯突くのは嫌だ」

 

 私は何とも返答出来ませんでした。それを強いているのは他でも無い、私ですからね。

ですが、それは必要なことなんです。大本営が1年近くも掛かった掃討です。いつまで続くかなんて分からなかったんですから。

 

「気付けば梅雨も開けそうだな」

 

 杉原さんは呟きます。

 私は今まで忘れていたことを思い出しました。

この世界に来て、紅くんを探すようになってからは毎日必死に過ごしてきました。そんな半ば、私は季節感覚を忘れていたんです。今の一言で思いだすことが出来ました。

 私もこの世界に来て5ヶ月か半年が経っています。

本当に今更気付きましたが、もう7月も近いんですね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私の所属するチームは私含めて5人居ます。

杉浦さんと沖江さんの他にも深谷さんと神崎さんが居ます。深谷さんは私と歳も近い男の人で、かなりフランクな性格をしています。気のいい男友達みたいな感じですね。神崎さんは壮年の男の人で、無口です。いつもムスッとしていますが、とても周りのことを見ている人ですね。

ちなみに、沖江さん以外は既婚者です。

 そんなチームに入った私ですが、任務2日目にして変なことになっています。

今日の警備の時間、私たちの担当は巡回でした。ルートは凄いです。

横須賀鎮守府を一周するルートです。これを他の通用門で、私たちと同じ巡回担当の『番犬』が何十人、何百人と巡回するらしいですからね。

ちなみに一周するのに5時間程掛かるそうです。沖江さんがそんなことを呟きながら、私の隣を歩いています。

巡回はチーム全員が1つになって回るものですので、巡回している『柴壁』1チーム4人は居ることになりますね。

 沖江さんは小銃を肩に掛けた状態で、杉浦さんたちの後ろを歩きながら私に色々と話してくれます。

いつも話すとしたら寮の食堂で食事をしている時か、このチームが深夜の巡回じゃない時に部屋で話すくらいでしたからね。

 

「ましろさん、ましろさん」

 

「何ですか?」

 

 これまでのチームに女性隊員は居ませんでしたので、まぁ、少し気分が上がるのも無理はないでしょう。昨日の門の前に立っている時は少し離れたところでしたからね。

 

「これ終わったら、一緒に行きたいところがあるんですけど」

 

「えぇ、何処ですか?」

 

「外のスーパーマーケットです」

 

 買い物でしょうか。私たちの今日の警備時間は午前7時から午後1時までです。寮の食堂で昼食を食べ損ねるような時間でもありませんし、何か欲しいものでもあるんでしょうか。

 

「良いですけど、何をしに?」

 

「少し、お菓子を買い溜めしようかと……」

 

 見てくれは軍人ですけど、やはり女の人ですね。お菓子を買い溜めするだなんて。

 この件に関しては、買い物に誘われたのは初めてですけど関わったことがあります。

 寮でのことです。寮は基本的に『血猟犬』『猟犬』『番犬』で、1つの部屋に何人入るかが決まっています。1人部屋の『血猟犬』から人数は増えてきます。あと階級でも1人部屋かそうでないかも決まってきます。下士官までは4人。下士官から尉官までの間、『番犬』と『猟犬』なら2人。『血猟犬』は巡田さんを除いた全員が佐官ですので、全員に1人部屋が与えられています。ちなみに武下さんは、皆さんから『武下大尉』と呼ばれていますが、実は中佐だそうです。階級章を制服に付けるのを長らく忘れていたらしいです。

沖江さんは『番犬』で下士官です。『柴壁』になる前の軍での階級を引き継いでいますので、現在は伍長ですね。ですので、4人部屋で生活している、ということになります。

 どうしてそれで私が沖江さんのお菓子に関する話で、関わりがあったのか……。それは、私が寝泊まりしている部屋にあります。

ここ『柴壁』に構成されている女性隊員で4人部屋に該当する人数は、私が入ってくるまでで丁度だったんです。全員が4人の部屋に収まっていたんです。

そこに現れた私のために、慌てて用意したのが2人部屋。下士官から尉官までの間の女性隊員は少ないです。ですので、余っていた2人部屋に私が入れられた、ということになりますね。

それで、寮の部屋それぞれには冷蔵庫が置かれています。沖江さんも前はそこにお菓子などを置いていたそうですが、やはり4人で使っているものですので、あまり数をおけないみたいなんですよね。その話を聞いた私は、『なら私の部屋の冷蔵庫を使って下さい。私だけでは一角しか使っていませんので』ということを言ってから、沖江さんが度々買い溜めるお菓子を保管することになりました。

 話が長くなりました。

 

「いやぁ、すみません」

 

「良いですよ。よくしてもらっていますし」

 

 そう言いつつ、私は別の方を向きます。

今歩いているところは、第5通用門のちょうど反対側です。第9通用門の辺りになります。

この辺には立っている建物はなく、見えるものと言えば精々対空兵装くらいでしょうか。それも元々横須賀鎮守府にあるものではなかったらしく、後々に用意したとのこと。保守点検も毎日あるみたいですが、私たちの担当ではないようです。

 立ち並ぶ大型車両と空を見上げる発射管。使われたことはあるみたいですが、1度だけだったらしいですね。

 

「あれ? ここの話は聞いてないですか?」

 

「どうしてあるものなのかくらいは聞いています」

 

 沖江さんは説明を始めてくれました。

 

「元々この横須賀鎮守府は非武装だったんです」

 

 それは初耳ですね。

 

「紅提督が指揮を執るようになってから少し後、突然運び込まれてきたんですよね。大量に。あのグラウンドが埋まるくらいありました」

 

 あのグラウンドというと、本部棟の目の前にあるグラウンドのことです。

400mのトラックがすっぽりと入る、とても大きなグラウンドです。それを埋め尽くすほどの兵器が運び込まれてきたなんて、私は知りませんでした。

それよりも、ここ以外にもこういったものは設置されているってことでしょうかね。沖江さんの言い方だと、ここに置いてあるだけではグラウンドを埋めることが出来ません。

 

「岸にある要塞砲も運び込まれてきたものの1つですよ。……まぁ、ここにある他の地対艦・対空装備なんて、空襲の時に尽く破壊されてしまいましたから、残っているのはここの5基と大量に運び込まれてきた弾頭だけですよ」

 

 話の割には数はないみたいですね。

 

「それに、あのグラウンドを埋め尽くす程の量があったといっても、それは発射機や本体と一緒に運ばれてきた弾頭だったりしましたから。正直、そっちの方が多かったですよ」

 

 沖江さんは『保管場所に運ぶのも設置作業も苦労しましたよ』と後で続けました。

 話に具体的な数字は出てきませんでしたが、ほとんどということは残ってないものもあるということでしょうね。

 

「この地対空ミサイル発射機。本当なら、これだけあれば凄いんですよ。ですけどほとんど役に立たなかった……」

 

「空襲の……」

 

「はい。地対艦ミサイルはまだ役に立ちましたよ。ですけどあれは空に向かって鉄を飛ばすだけでした。よっぽと、CIWSの方が役に立ちましたよ」

 

 CIWSが何か分かりませんが、一緒に運ばれてきたものなんでしょうね。

 気付いたら第9通用門前に到着しており、さっきまで見えていた地対空ミサイル発射管は見えなくなっていました。

 

「次の行き先は要塞砲群と埠頭、入渠場ですね」

 

「もう慣れましたけど、あそこの要塞砲とか艦娘たちの艤装は圧巻ですよ!! 大型艦は毎日停泊しているので日替わりで誰のが置いてあるのか、結構楽しみだったりします」

 

 チームは方向転換し、巡回路を往きます。

ある程度、巡回経路は聞いていますので覚えていますが、やはり初見は楽しいものです。

とは言っても、ここに来た時に案内はされていますけどね。もうそれも結構前のことですけど。

 

 

 





 今回初めて多機能フォームを使いました……。

 というのはさておき、前回も言いましたけど、本当に艦これ関係ないぁって思います。
オリジナリティ出しすぎて迷走しているって言われても反論できないかもしれません(汗)
迷走はしていないんですけどね。オリジナリティは出しすぎてますよね……。
 最近スランプ気味なので、書き溜めが無くなるまでに調子を戻したいです。
あと5つぐらいありますけど、見計らって出していきます。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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