【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
艦娘寮にある金剛さんの私室は3階にありました。
廊下から繋がる最初の扉を潜ると、共用のリビングスペースがあり、そこから4方向に扉がついています。
リビングには金剛さんの妹たち、比叡さん、榛名さん、霧島さんが居ました。
「お客さんだなんて、珍しいですねぇお姉さま」
「そうデスカ?」
比叡さんが話しかけてきます。他の2人は軽く会釈をして、話に戻っていきました。
「お茶でも後で持っていきますよ」
「お願いしマース」
4つに分かれている部屋の1つに入りました。
灰色の扉を開き、中に入ります。
洋風の内装で、ところどころに機械が置いてあります。不釣合な小物に首を傾げますが、あまり詮索しても仕方ないです。
私は金剛さんに案内された椅子に座りました。
「サテ、何から話しましょうカ……」
金剛さんがそう呟いた直後、比叡さんがお盆を持って入ってきます。
何も言わずにティーポットとティーカップを置いて、そのまま部屋を出ていってしまいました。
「流石比叡ネー。……まぁ、話すことなんて1つしかありマセン」
「そうなんですか?」
金剛さんはティーカップを手に取り、少し傾けると話し始めました。
「私たちがフェルトと呼んでいるグラーフ・ツェッペリンのことデス。ましろは私たちが『フェルト』と呼んでいることに違和感を持っていると思いマスガ、この際それは置いておきマス」
「はい……」
「まぁ、話は長くなりマス。……紅提督が私たちに呼び出されてたから何ヶ月か経った頃デス。鎮守府が空襲を受け、復興した後に鎮守府で文化祭が行われマシタ。その時に、新瑞から、『端島鎮守府から移籍したいと言ってきている艦娘たちがいるんだが、引き受けてくれ』と言われて移籍してきた艦娘たちが居たんデス。それがビスマルク、オイゲン、フェルト、Z1、Z3、U-511」
頭の中に顔が描かれます。結構覚えているものです。それに先ほどビスマルクさんには会いましたからね。
それにしても端島鎮守府ってなんでしょうか。それが少し気になります。
「それから移籍してきたビスマルクたちは私たちの仲間になりマスガ、1つ、問題があったデス」
人差し指を立てて、金剛さんは話します。
「彼女たちは沖に出れなかったんデス。理由は『沖から出ようとすると機関が停止する』のと『そうなった場合、後退して戻ってくるしかなくなる』デシタ。それによって、赤城の提案でビスマルクたちは『番犬艦隊』という役を受け、任務に従事シマス。『番犬艦隊』の任務内容は知っていると思いマス」
「はい」
「フェルトは鎮守府が作戦行動中、ずっと紅提督のそばに居たんデス。それでか知りませんが、どうやら恋に落ちてしまった、と」
「……はい?」
「フェルトは紅提督のことを異性として好きになってしまったんデス」
思わず聞き返してしまいました。
何を言うのかと身構えていましたが、まさかそういう展開になるとは思いもしませんでした。
紅くんにも春が来たなぁ、と思いましたが、今はそれどころではありません。
私は真面目に話を聞く姿勢に戻します。
「なるほど……」
「ハイ。それで、現状に話がなりマス。フェルトも『番犬艦隊』です。紅提督が拉致された時、一番近くに居た1人デスカラ、かなり心にダメージを負っているんデス。状況で言ってしまえば最悪。ビスマルクのアレより酷いデス」
ビスマルクさんの塞ぎ込み以上だとすると、部屋が荒れているとかそういうものなのでしょうか。
それよりも、これからそのフェルトさんに話をしに行くんです。そのことで話があって、こうやって来たんですよね。
「皆そうデスガ、紅提督のことは『大好き』デスカラ……。じゃあ、行きましょうか」
「……そうですね」
ここまで10分話したかしてないかくらいです。
ティーセットを洗い場に置いた後、私たちはフェルトさんの部屋に向かいました。
そこでは赤城さん、ビスマルクさんと待ち合わせをしています。
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ーーー
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フェルトさんの私室の前に着くと、既に赤城さんとビスマルクさんが待っていました。
「全員揃いましたし、行きますか」
そういった赤城さんは、扉に手を掛けます。
「私は立場的に何度か会ってますが、今のフェルトさんは正直……」
赤城さんはそのまま動きを止めます。
「正直、受け答えができるか分かりません」
「それってどういう」
私がそう言うと、赤城さんの代わりにビスマルクさんが教えてくれました。
「さっきの私よりヤバイってことよ」
「ビスマルクは立ち直り早いデスカラネー」
金剛さんは答えたビスマルクさんの肩をパンパン叩きながら言います。
確かに立ち直りの早さは尋常じゃないです。ビスマルクさんの部屋を訪れたのは2時間くらい前です。それから20分で解散して、ビスマルクさんは他の『番犬艦隊』に声を掛けて回っていました。実は塞ぎ込んでなかったんじゃないか、と思ってしまうくらいの立ち直りの速さです。
「まぁ、入りますよ」
そう言って赤城さんは扉を開き、先導をします。
一応声は掛けてますが、返事はありませんでした。鍵も締まってないようでしたので、入る趣旨を伝えて扉を開きました。
中はビスマルクさんの時とは違います。入り口から部屋に繋がる廊下には紙が散乱していました。
薄暗くて良く見えませんでしたので、一枚だけ手に取って見たんです。
『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……』
A4サイズのコピー紙でしたが、空いてるスペースがない程、『どうして』という言葉が殴り書きされていました。
他にもいろいろな言葉が書き詰められているコピー紙はかなり落ちていましたが、目を反らします。どうしてか、見てはいけない気がしたんです。
奥に進み、カーテンが閉められた部屋の椅子に座っているフェルトさんを見つけました。
少し離れていますが、ここから見る限りだと普通に見えます。
「ツェッペリン」
最初に話しかけたのはビスマルクさんです。
「……あー」
言葉になってない声を、フェルトさんが発したことはすぐに分かりました。
「……ご飯、食べてる?」
「……あ、とみらーる。アトミラールは」
ビスマルクの質問にちゃんと答えられていません。
虚ろな目をビスマルクさんに向けているフェルトさんは、口からダラーと唾液を垂らしています。
正直、これは相当なものです。病院送りになっていても不思議ではない状況です。
そんな風に冷静に観察していますが、冗談ではありません。本当に入院するレベルです。
そんなフェルトさんに、ビスマルクさんは話しかけ続けます。
「貴女、おかゆしか食べてないらしいじゃない。もっと栄養のあるものを食べた方が良いわ」
「あとみら、―る。アトミラール……は、っ?」
ずっと紅くんのことを呼んでいますね。
「ほら、そんなだらしない顔をして……。紅提督に笑われるわよ」
「あう……」
ポケットから出したハンカチで、フェルトさんの口元をビスマルクさんが拭きます。
「ツェッペリン」
「……」
虚ろな目をしているフェルトさんの顔を掴み、ビスマルクさんはその目を直視します。
そしてハッキリと言いました。
「紅提督は生きているわ」
「……」
フェルトさんはリアクションをしません。
「私たちで逢いに行くけど、ツェッペリンは行かないの?」
デタラメです。逢うために行動はしますけどね。
その言葉にようやく反応したフェルトさんは、少しづつ虚ろな目が動き、ビスマルクさんの顔を見た後、赤城さんや金剛さんの方を見ます。そして最後に私の顔も見ました。
「アト、ミラールに、逢いに?」
「えぇ。厳密に言えば、違うんだけどね」
「そう……か」
そういったフェルトさんは、ようやく応答が出来るようになったみたいです。ですがまだ不安は残っています。
正気に戻ったとしても、まだ分からないんです。
フェルトさんはおもむろに懐へ手を忍ばせ、あるものを出しました。
それはしわしわになった紙です。床に沢山落ちているコピー紙と同じものみたいですが、その紙だけは見覚えがありました。
「私も、行こう」
その言葉と同時に、ビスマルクさんは受け取った紙を広げます。私の位置からでも、その紙が見えます。
「自己解体申請書……」
「あぁ。……逢いに、行くのだろう?」
完全に応答出来ていますが、やはりさっきまでに言った言葉は聞こえてなかったみたいですね。
「これじゃあ逢いにいけないわ」
「そう……か。じゃあ、どうすれば良いのだ? 私は、どうすれば……」
「簡単よ、そんなこと」
そういったビスマルクさんはフェルトさんの腰をおもむろに掴み、椅子から無理矢理立ち上がらせました。
驚いたフェルトさんはよろめきますが、そのまま直立します。
そして初めて私たちの方を見ました。
「先ずはお風呂に入って、身支度を整えなさい。話はそれからよ」
「う、うむ……」
白いカッターシャツ。下には下着しかしていないフェルトさんは。そのままよろよろと歩き、壁際にあるタンスに手を掛けました。
そこからタオルと下着を取り出し、タンスの上に乗っている洗面器とボディーソープ、シャンプー、リンスを洗面器に入れました。
「ほら、いつもの服を忘れてるわよ」
綺麗に畳まれた服を、ビスマルクさんはフェルトさんに渡します。それを受け取ったフェルトさんはそのまま部屋を出ていきました。
それを見送ったビスマルクさんは、少し唸った後に廊下に出ていきます。
私たちはそれに付いて行き、艦娘寮の入り口に向かいました。
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ーーー
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艦娘寮の入り口は、かなりの艦娘が出入りをしていました。
見覚えのある艦娘たちが頻繁に出入りを繰り返しています。その中に、さっきとは見違える格好をしている艦娘が現れました。フェルトさんです。
「待たせた」
「うん。すっごい待ったわ」
ビスマルクさんはそう答え、溜息を1つ吐きます。
「さて、これからどうするの?」
「そうですねぇ。取り敢えず、全員を集めましょうか」
赤城さんはビスマルクさんの質問に応答し、ある決断を下しました。
「春までに、全てのことを終わらせましょう」
そう言ったのです。
今は冬に入りたて。これから寒くなる一方です。これから4ヶ月で全てのことを終わらせると、赤城さんは言ったのです。
赤城さんはそう宣言し、金剛さんとビスマルクさんにあることを伝えました。
「それぞれの艦種代表を集めましょう」
赤城さんはそう言って立ち去ってしまいました。
この場に残ったのは私とビスマルクさん、フェルトさんです。
「結局、私だけで良かったわね」
「そういえば……確かにそうですね」
ビスマルクさんはそのまま、フェルトさんの頭の上に手を置きました。
「む、何の話だ?」
「貴女を外に出すのに、私だけではどうにもならないと思っていたのよ。だからあの大所帯だったの」
そう言って、ビスマルクさんはそのままフェルトさんの頬をつねりました。
「痛い痛い!」
「ごめんなさいねぇ~」
全く謝る気のないビスマルクさんを一度睨み、フェルトさんは私の顔を見ました。
「それで、碧 葵さんだったか?」
「はい」
再び、ビスマルクさんはフェルトさんの頬をつねります。
「違うわ。私もさっき聞いたばかりだけど、この人、紅提督の実姉よ」
「はひ?」
「だから、紅提督の実姉だって」
「すまんがビスマルク。私の頬をつねってくれ」
「言われなくてもつねってやるわ」
フェルトさんの両頬を思いっきり、ビスマルクさんがつねります。
びよーんと伸び、変な顔を数秒間した後、ビスマルクさんは手を離しました。
両頬が真っ赤になったことも気にせず、キリッとした表情でフェルトさんは私に質問してきました。
「失礼ながら、お、お名前を、を、お聞きしても……」
ビスマルクさんがすごく笑っているが、私はそれに真面目に答えました。
「天色 ましろです」
「し、失礼ながら、あわ、あわ、わ、わたしは……」
慌てているフェルトさんの肩をビスマルクさんが抱きます。
「以前、会ったことがあるみたいな言い草だったけど。ツェッペリンが部屋から出ていたの?」
「はい。結構前に廊下で」
「そう?」
そのまま私たちは歩き出します。ビスマルクさんが、赤城さんの言っていた艦種代表を集めて会議する場所に行くと言ったからです。
私も一応、出た方が良いでしょうし、ビスマルクさんも今回はその会議に出るらしいですから、一緒に行くことにしたんです。
フェルトさんは道中で誰かに引き渡すみたいですけど、さっきから全然変わってないんですよね。
「ツェッペリン、貴女ねぇ、著しくキャラが崩壊しているわ」
ずっとよく分からないことを言っているのです。
口調が敬語になったり、男口調になったり、ツンデレの人みたいになったり……。
「だ、だってぇ~」
「はいはい、分かってるわよ。……ったく」
尚、今は幼児退行中です。
溜息を吐いたビスマルクさんは頭を掻きました。
そしてニヤリと悪い笑みを浮かべます。
「ツェッペリンはねぇ! 紅提督のことがぁ! すk」
「わー! わー! 実姉を前にして何を言う! ビスマルクッ!」
「モガモガ」
「なんでもない、なんでもないんだ」
アハハと笑い、ビスマルクさんの口から手を離したフェルトさんは、少し頬を赤くしながらモジモジとしはじめた。
「その……お義姉さんは……」
「ん? 今、変な漢字が混じっていたような」
「余計なところで日本語力を出すな!!」
2人のコンビ漫才を見ながら、会議へと向かうのでした。
ちなみに、これは到着するまで続きました。たまたま近くを通りかかった吹雪さんに、フェルトさんに無理矢理にでも食べ物を食べさせて欲しいと、ビスマルクさんは吹雪さんに頼んでいました。
『なんでこういう時にだけぇ~』
とか、吹雪さんはぼやいてましたが、結局連れて行ってくれたのでよかったです。
緩い内容が続いているような気がします。
そんなこんなで、このエンディングに入ってから5話目になりましたね。
前回のエンディングで力を入れすぎたために、結構息切れをしていましたが、復活しました。
モチベーションはアレですけどね(寒すぎて手がかじかむ)。
そんなことは置いておいてですね、そろそろ更新の止まっていた大和くんの方をしようかと思ってます。
そんな予告をしておきますね。
ご意見ご感想お待ちしています。