【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第40話  集会

 武下さんを遮り、私は宣言します。

彼らが云うことなど、私には関係ありません。彼女たちについていかないということなら、そういうことなんでしょう。

 

「私は、戦います」

 

 許容量オーバーしている脳が、辺縁系が、本能が私の口を動かします。

 

「この国に愛国心なんてものもありません。そもそも、私は日本国の国民です。日本皇国なんて国の人間ではありません」

 

 言葉を失っている武下さんを無視し、私は赤城さんに意思を伝えます。

 

「赤城さんたちが何をするかなんて、私には全く分かりません」

 

 あぁ。私は何しにここに来たんでしょう。

弟を、紅くんを探しに来たのではないんでしょうか。

それなのに私は小銃を、短機関銃を、拳銃を、ナイフを握っています。本来なら、この手に握られているものは、お日様の香りがするシーツに、患者さんに届ける薬だったはずです。

 人を救う仕事をしていた私が、どうして人を殺す道具を持っているんでしょう。

 

「私も紅くん同様、何もかもを失いました。ですから、だからこそ、何も残っていない人間だからこそ、出来ることがあると思うんです」

 

「ま、ましろさん?」

 

 赤城さんが少し動揺を見せました。

 私は構わず話を続けます。

 

「全てを失った人間なんです」

 

 裾を握りました。

 

「武下さん」

 

「……はい」

 

「紅くんの”遺品”はありますか?」

 

 赤城さんや金剛さん、鈴谷さんはギョッと目を見開き、武下さんはギチっと歯を鳴らします。

 

「執務室と私室にあるものが全て”遺品”となりますが、あそこにあるものは”遺品”と言って良いものか分かりません」

 

 ポケットに入っている紅くんの認識票を撫でました。

 

「常に身につけていたものは?」

 

「何も……ありません」

 

 武下さんは答えます。その脇で、金剛さんがつぶやきました。

 

「軍刀……」

 

「軍刀?」

 

「紅提督は軍刀を身に着けていマシタ。拳銃は『私たちが居るから』と言って強引に私が捨てましたケド……」

 

 よく分かりませんが、よく士官が持っているような刀のことでしょうか。

紅くんも持ち歩いていたんですね。

 

「……あの時も軍刀は腰にあったよ」

 

 鈴谷さんがつぶやきます。

 

「……奪還作戦です」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 この日、私と赤城さん、金剛さん、鈴谷さん、武下さんが『紅葉狩り』を中止する宣言と共に、第46機械化歩兵師団掃討が行われました。

 本部棟裏で間宮さんと高雄さんが交戦していた1個小隊は全滅。そのまま、正門前に構築されていた第46機械化歩兵師団の本拠地を『猟犬』と『番犬』によって強襲。

殲滅に成功しました。

 休憩のタイミングを狙ったからでしょう。半分の兵士が武装解除、降伏しました。

両手を挙げ、武器を持っていないことをアピールする兵士たちを、『猟犬』と『番犬』は一人ひとり身体検査を行い、そのまま地下牢へ投獄されます。

 この強襲にて、数多くの兵器を私たちは鹵獲します。戦車、装甲車、自走砲、武器弾薬……。

それのリストを作成し、車体に書かれた部隊認識用の数字を剥がし、私たち用に数字を書き直しました。

 そして、全てが終わったのは3日後。

例の戦闘で出ざるを得なくなった艦娘たちは、そのままその空気に流されて鎮守府内を警戒しますが、赤城さんの指示でグラウンドに集められます。

 そこには鎮守府に籍を置く艦娘はもちろんのこと、『柴壁』や酒保の従業員、鎮守府のために働いている人間たちも全員集まりました。

 そんな中、赤城さんはマイクを片手に話し始めます。

 

「先日、大本営より発表がありました」

 

 淡白に。それでいて、淡々と赤城さんは語ります。

 

「日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部の提督、天色 紅提督は、半年以上前に死亡が確認されていました」

 

 こういう時には、ざわざわとなるものでしょう。ですけど、なりません。誰一人として声を発しません。

 

「大本営はこのことを秘匿、紅提督の部下であり”家族”であった私たちに、何も教えてくれませんでした。私はこれまでに何度も何度も、紅提督の容態を聞き出そうと努力していましたが、遂に今日分かったのです」

 

 静寂に包まれているグラウンドに赤城さんの声だけが木霊します。

 近くにある海の潮の音も風の音も何も聞こえません。

 

「ですがそれは、私たちが数少ない情報を基に求めたモノです。真実は分かりません。ですが、一般的に、常識的に考えれば亡くなっていることが当然の状態です」

 

 ただ、『撃たれた』としか知らされていなかった、『重体』で『助からないかもしれない』としか知らされていなかった艦娘たちも、目尻に涙を溜めます。

 

「……皆さんに問います。私たちの帰る場所は何処ですか? 私たちが守るべきなのは何ですか?」

 

 誰も答えません。私には分かりませんが、答えは1つしかないんでしょう。

皆さんが分かっているから、共通意識だから答える必要がないんです。

 

「ここにまた1人、全てを”失った”人がいます」

 

 私のことでしょう。集められる直前、私は赤城さんから言われていました。

壇上に呼ぶと。

 

「行方不明になった家族を探しに、何もかもを捨ててこの世界に来た人です」

 

 暗に私のことを指しています。それに答えるかのように、私は壇上に上がり、赤城さんの横に立ちました。

 

「私は『柴壁』 『血猟犬』所属、天色 ましろです」

 

 グラウンドに集まった大多数の艦娘の表情が曇ります。まるで、雷を食らったかのように広がりました。

 

「私はこの世界の人間ではありません」

 

「……そういうことなんです」

 

 赤城さんは一息置くと、話を進めました。

 

「今回集まっていただいたのは、私たちの今後を決めるためです。紅提督が亡くなった今、私たちを指揮できる者は誰も居ません。それでも尚、戦いを強要されるのなら、私は抗おうと思います」

 

 艦娘たちが隣同士で話をしているみたいですが、きっと、自分の意思を考えているんでしょう。自分がどうしたいか、決めているんです。

 

「そして、ましろさん。彼女は戦うと宣言しました。さて、何と戦うか……」

 

 そう赤城さんが言った刹那、長門さんが赤城さんに訴えます。

 

「赤城。彼女が紅提督の姉だと、本気で思っているのか?」

 

「……はい」

 

「異世界から来た、妄言ということも考えられないか?」

 

「それはありません」

 

 赤城さんは断言します。

 

「彼女に証拠を求めることを要求する」

 

「……良いでしょう。ましろさん」

 

 ここに来て、長門さんが私を疑りました。普通に考えれば当然のことです。

いきなり知らない人間が、紅くんの姉だと言い出したら信じられないだろう。それも、自分が信頼していた人間で、その人間が異世界の住人だったら。

 少なからず、長門さんと同じ意見を持っていた艦娘が居たらしく、私の顔をじっと見ます。

 一部の艦娘を除き、私は『碧 葵』という名前で通っていたから当然でしょう。『それは偽名でした。私の本名は天色 ましろです』なんて言われても、信じられる訳がありません。それが、紅くんの亡くなった知らせの後ならなおさらです。

 

「証拠はありません。ですが、今まで名乗っていた『碧 葵』は偽名です。本名は『天色 ましろ』。紅くんの姉です」

 

 その刹那、長門さんの身体が光だし、光が消えると、長門さんの身体は艤装で覆われていました。

 

「いい加減にしろ! 紅提督の姉だとっ?! そんなことが信じられるか!! あの男の姉だと言うのなら、この場で姿形が残らないようにしてやるっ!!」

 

 とてつもない殺気が私に向けられました。そして、長門さんと同じように疑っていた他の艦娘も同様、艤装を身に纏い、私に砲を向けているんです。

 

「ましろさん。……お財布は持っていますか?」

 

 そんな中、赤城さんは私に財布があるかと聞いてきました。

どういう意味があるのだろうと思い、よく分からないで財布を出します。

 そんな動きに敏感に反応した長門さんの艤装が唸りを上げます。

 

「怪しい動きをするな。今は赤城が近くに居るから撃てないだけで、赤城がそこから離れようものならっ!」

 

「長門さん。コレを見ても偽物だと言えますか?」

 

 そう言った赤城さんは私の財布から小銭を出します。

 この世界に来た時、赤城さんに言われたことを思い出しました。

『紙幣はともかく、硬貨はみたことないモノです。硬貨は使わないようにしてくださいね』そう言っていたんです。

 それはつまり、私が持っていた硬貨は日本皇国のものではない、ということになります。

 

「硬貨か? だが、それだけでは……」

 

 そう食い下がる長門さんに、赤城さんは次々と出していきました。

普通自動車免許証、保険証、クレジットカード……。この世界との違いがあるかなんて分かりませんが、身分証明書として使われるものや、個人しか持っていないクレジットカードを出したんです。

 

「どれもこれも身分証明書……。確かに、そうみたいだが……」

 

 そう言った長門さんに、赤城さんは追い打ちをかけました。

 

「決定的なものがありますよ、ましろさん」

 

「はい」

 

「貴女の国の国号は?」

 

「日本国です」

 

 どういう意図があったのか分かりませんが、長門さんたち艤装を構えた艦娘は全員、艤装を下ろして消しました。

 

「……ここの人間か艦娘でなければ知らないことだな。分かった。信じよう」

 

「ありがとうございます。……では、ましろさんは何と戦うのか」

 

 そう。これが私の決めたことです。

 

「―――紅提督の軍刀奪還。そして、日本皇国への裁きです」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 グラウンドでの話はあの後すぐに終わり、解散しました。

私と赤城さん、長門さん、武下さんが執務室に集まり、今後の具体的な方針を決め始めようとしています。

 

「私は戦います。紅くんをこんな目に遭わせた日本皇国と……」

 

 きっと赤城さんたち、艦娘たちも一緒になってくれる、そう思っていまいた。

ですが、違っていました。彼女たちはそんなこと、微塵も考えていなかったのです。

 

「分かりました、ましろさん。私たちも加勢したいですが、出来ません」

 

「……どうしてですか?」

 

「紅提督との約束です。そして、紅提督が守っていましたから……日本皇国を。自分の国でないこの国を」

 

「そう……ですか。ですけど、どうするんですか? このまま横須賀鎮守府に?」

 

 私は訊きます。戦力の大幅な低下ですが、仕方ありません。強引に引き入れても良くないですからね。

 

「いいえ。私たちは、出ます」

 

「”出ます”? 何処に?」

 

 赤城さんは覚悟を決めた顔つきで、私に言いました。力強く、ハッキリと。

 

「それは――――――」

 

 




 いやぁ……。誰でしたっけ? スパンが広がるとか言っていた人は←(オマエダ)

 ということで、前回よりもスパンが短いですが、投稿しました。
 集会をし、赤城さんの覚悟がましろに伝えられます。この状況で、赤城は紅との約束をどういう風に貫き通すのか……次話にて明らかになります。
そして、ましろが何をし、どうしていくのかも……。
 ここからはシリアスではなく、鬱になりますね。皆さん、何となく察しているとは思いますが、皆さんが最初に選んだエンディングは『バッドエンド(作者主観)』です。

 ご意見ご感想お待ちしています。なみに、今回から苦情は一切受け付けません。そして、作品に関する否定的な言動は全て無視します。今まではそれにも返答はしていましたがねw

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