【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
艦娘寮に到着し、一直線で赤城さんの部屋を訪れます。もし、居なかったとしても、加賀さんに言って待つか、執務室に呼べばいい話ですからね。
赤城さんの部屋の前に着き、私は扉をノックします。
「すみません。碧です」
そう言うと、中から声がしました。良かったです。
「碧さん。どうぞ」
「ありがとうございます」
中から出てきたのは加賀さんでした。部屋の中に通されて、確認します。どうやら赤城さんは居ないようです。
「どういうご用件ですか?」
半ば分かっている様に訊いてくる加賀さんに、私は答えます。
「赤城さんに用事がありまして……」
「ふむ……赤城さんなら事務棟に書類を提出に行っていますよ。もうすぐ帰ってくる筈です」
加賀さんは綺麗な正座をしたまま答えます。
赤城さんが何の書類を出しに行っているか気になりますが、加賀さんに訊いても答えてもらえない可能性があります。もし、私に関連のあるものでしたら、内容によっては私がここに居れなくなりますからね。
少し考えごとをしていた私に、突然加賀さんがあることを言い始めました。
「碧さん……いいえ、天色 ましろさん」
「っ?!」
私の本名を口にしたんです。
身体が自然に動き、腰に手が行きます。どこからその話を訊いたのでしょうか。考えれられるところは沢山ありますが、何か目的が無いか、若しくはそれに誘導する言葉や質問内容がなければ無理な話です。
なら加賀さんは、少なくとも侵入者騒ぎから少し前から何かしらの情報を得ていたということになります。
「加賀さん……何処で訊いたんですか?」
私は警戒心を剥き出しの状態で加賀さんに訊きます。誰に訊いたかによっては、ここから逃げ出さなければなりませんからね。
侵入者だとしたら、変なことを吹きこまれている可能性だってあります。最悪、私が”消される”ことだってあり得ますからね。
そんな風に過剰反応する私に相反して、加賀さんは面を喰らったような表情をしています。
「えっ? いや、鈴谷さんですが……」
「鈴谷さん……ですか」
私はすぐにさっき座っていた位置に戻ります。
侵入者からではなかったみたいですし、鈴谷さんならあの話以外あり得ません。確か、鈴谷さんの云う奪還作戦の陽動の選抜に加賀さんの名前も入っていたはずですからね。
「そうですか」
私はそう言って姿勢を戻します。構える必要はなくなりましたからね。
加賀さんは少し落ち着きが無く、少しそわそわしたかと思うと、恐る恐る私に話しかけてきました。
「あの……ましろさん」
「なんですか?」
「申し訳ございませんでした」
薄々感づいてはいましたが、やはり加賀さんも謝ってきました。ですが、取り乱しはしません。至って冷静に頭を下げたんです。
何について謝っているのかも私は理解してます。ですが、私は何も言いません。
「紅提督が撃たれてしまい……軍に連れて行かれてしまって、どうなったのかも分からない状況で……」
そう言いました。ですが、鈴谷さんから話を訊いているのなら、どんな現状なのかは訊いている筈です。なら、何故加賀さんは頭を下げるのでしょうか。
私の推測ですが、『守り切れなかったから』とか言いそうです。
「もう済んだことです」
「……はい。ですが、私は一航戦の名に賭けて、今回の陽動は成功させます」
加賀さんは意気込んでいるようですが、ただの陽動です。陽動といっても、正面海域への出撃ですから、気合を入れなくても全然良いんです。紅くんのアカウントでは、艦娘の育成が進んでいるようですし。駆逐艦や軽巡洋艦は遅れているようですがね。
それに陽動に出る艦隊は高練度艦で集中しているはずです。鈴谷さん、時雨さん、夕立さん、加賀さん、金剛さん、叢雲さん。叢雲さんは分かりませんが、鈴谷さんは航空巡洋艦でしたし、金剛さんと夕立さんは改二になっています。時雨さんは改二前ですが、結構練度が高いみたいなことを風の噂で聞きました。問題は叢雲さんです。
叢雲さんはどうやらあまり出撃も無く、基本的に鎮守府に居たということもこれも風の噂で聞きました。改二にもなっていませんし、改になっているのかも分かりません。ですので、判断が難しいです。ですが、陽動で出撃する先は正面海域です。幾ら低練度の駆逐艦とはいえ、轟沈するなんて考えられません。ましてや万全な状態ですし。
「お願いしますよ」
「はい」
そんなことを言うと、扉が開きました。
どうやら赤城さんが帰ってきたみたいです。
私の顔を見るなり、赤城さんはすぐに私の対面に座りました。
「ましろさん、いらっしゃい」
「お邪魔しています。それで、赤城さん」
「分かっていますよ」
そう言った赤城さんは袖を揺らしました。袖からは金属の擦れる音、紅くんから貰ったと言っていた懐中時計の音がしました。
「奪還作戦の詳細に少し変更がありました。そして今回ので最終にしようと思います」
「ということは遂に……」
「えぇ。始めますよ」
私はそう言って変更点だけを伝えます。赤城さんはどうやら、前に話したことを覚えていたみたいです。ですので、変更点だけでいいと言ってくれました。
「今回の作戦。まだ武下さんに訊いてはいませんが、『血猟犬』を使わないことにしました」
「『血猟犬』を、ですか。ですが、そうしたら情報収集の手段が無くなりますよ?」
「いいえ。酒保の従業員から特殊部隊出身者を使わせてもらうように、あちらの責任者に掛けあってきました。そしたら4人の派遣が決まりました」
「成る程……。『血猟犬』が使えないということは盲点でした。確か……『鎮守府の対外的手段を一時的に失う』とか……」
「はい」
私は手元に少しだけのメモを持ってきていましたので、それと照らし合わせながら話します。
「『猟犬』が使えるか分かりませんが、そう大人数いるという訳でもありません。ですので10人以上20人以下が捻出出来るのでしたら、本作戦には問題ないかと思われます」
私はそう言ってメモから目を上げました。
「赤城さんはこれまでの作戦内容に疑問などはございませんか?」
私はそう訊くと、少し黙りこんで考え始めます。
数分経ったころ、赤城さんは顔を上げて私に返事をしました。
「問題ないと思います」
「そうですか」
赤城さんからのOKが出ました。次は武下さんに話しに行かなければなりませんね。
そう思った矢先、赤城さんからあることが伝えられました。
「陽動に出る艦隊は鈴谷さん、時雨さん、夕立さん、加賀さん、金剛さん、叢雲さんで決定しました。全員に今回の話と、ましろさんについて話しましたが良かったですか?」
「えぇ。いいですよ。では、行ってきますね」
私はそのまま立ち上がります。
赤城さん曰く、陽動艦隊には私の素性を話したとのことでした。そうでもしなけらば、この作戦に出てもらえなかったでしょうからね。
そして、退出際にあることも言われました。
『地下司令室も作戦発動時に使います。そこでましろさんは私と共に指揮を執ってもらいますからね』
とのことでした。
私は赤城さんたちの部屋を出て、その足で警備棟に向かいます。
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警備棟に着き、私は武下さんのところへ向かいました。
どうやらそこまで忙しそうにしてないようでしたので、すぐに話しに入ります。
「奪還作戦の件で、修正が終わりましたので確認に」
「はい」
武下さんはソファーのところに私を誘導して、部屋に鍵を掛けます。この作戦は外部に漏れたら問題になりますからね。対内的にも対外的にも。
私の目の前に座った武下さんに修正案を話し、『猟犬』を動かせるかを問います。返事はすぐに帰って来ました。
「『猟犬』でしたら……。ですが動かせるのは100人以下ですよ?」
「上等です」
私の考えていた人数の遥かに多い人数が動かせるということですので、こちらとしては万々歳です。
「ですが、酒保を使うんですか……盲点でしたよ」
「それは赤城さんも仰ってました。情報収集に時間が掛かると思われますので、今すぐにでも始めた方が良いと思うんです」
私はそう言って、ポケットにメモを押し込みました。
これからは見なくても話せる内容ですからね。
私の提案に、武下さんは少し考えます。そして、あることを私に伝えました。
「今日の消灯後、該当者を集めましょう。場所は……そうですねぇ……」
武下さんは考えます。
多分、集まるのなら、誰にも見られないところが良いに決まってます。
「補給物資を出し入れしている門は分かりますか?」
「えぇ」
「ではそこの近くにある小屋にしましょう。昔、門兵の詰所として使っていたところです」
「分かりました」
何となくですが、位置は分かります。時間も消灯後ということでしたので、時刻にして午後10時過ぎといったところでしょうか。
何も問題ありませんでしたので、私は了承します。
「では、他の該当者にも伝えて下さい。その時に全体で話を通しましょう。それと『猟犬』の選出はこちらでします。人数はこちらで決めてもよろしいですよね?」
「はい。構いません」
「では後ほど」
決まってしまったので、もう武下さんには用がありません。
私は部屋を退出し、寮に向かいます。
少し部屋で休んでから、夜にこっそり抜け出しましょう。それに多分、部屋にはまだ酒保の人たちがいると思います。その人たちにも伝えて、後で顔を出すように言わなければなりません。
前回の投稿から3日くらい経ってますね。まぁ、休み期間ですからスパンが早くてもなにも問題無いですよね(メソラシ)
次回より、奪還作戦が動き出します。今後の展開は誰にも予想できないでしょう。
それに、皆さんも考えてみてください。どのように終わっていくのか……。
まぁこれくらいにしておいて、本当にそろそろです。といってもまだ続く予定ではありますがw
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