【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第27話  侵入者

 

 艦娘や『柴壁』の人たちから次々と聞かされる紅くんの話は、どれもこれも難しいものです。そして、これはつくづく感じているものですが、聞けば聞くほど紅くんが何を感じていたのかとか、何をしていたのかが分からなくなります。

ただ鎮守府で艦娘を指揮していたんじゃないんでしょうか。

そうでもなければ、ここまであちこちに名前が挙がるのも変ですよね。それに、聞くとところでは佐官だったみたいですし。

鈴谷さんから受け取っている認識票にも『中佐』とありましたからね。

 

(考えれば考える程、分からなくなりますね)

 

 そんなことを考えながら警備棟に向かいます。

赤城さんとは先ほど別れたので、私独りだけですけどね。

その刹那、私の首筋に冷たいものが押し当てられました。私の直感がそれを銃口だと知らせ、身体が硬直します。

銃口だと分かっているので、そのまま私は両手をゆっくりと挙げました。

 銃を持っていない方の手で、私の来ているBDUのポケットを探り、武器がないことを確認したのか、私の頭に銃を突きつけたまま押し歩きます。

 

(え? 誰っ?!)

 

 そんな疑問が駆け巡ります。

ひょっとしたら、さっきのデモ騒ぎで武下さんにやったのを、今仕返しされているんでしょうか。

そんなことを考えますが、一方では本当に別の誰かがやっているのではないかとも考えます。

こんなことを考えていても、正直な話、かなり動揺しています。誰がこんなことをしているのか、何をされるのか。私には全くわからないですからね。

 歩いていると、道の脇にあるヤブに入りました。

ヤブの背丈は、大柄な男の人でも屈めば隠れる程の高さです。そこに銃口を押し付けられたまま入り、膝の裏を蹴られました。

ガクンと身体が崩れ落ち、立膝になります。

 

「なんとも……これは珍しい顔がいるものだ」

 

 私の背後でそんな言葉が聞こえます。相手は男性です。

 

「……」

 

 そんな相手に、私は言いません。

もし、口を開いてしまえばあちらに流されてしまいそうだからです。

 

「艦娘でも酒保でも犬っころでもない、天色 紅の姉か?」

 

 リアクションを取らないように、身体を硬直させます。

そんな私を背後から見ている、この男性は鼻で笑い、続けてきました。

 

「暗殺目標の軍事施設に、諜報員の実の姉が犬っころとして飼われているなんてな」

 

 独り言なんでしょうけど、私は違和感を覚えました。

男性の言う諜報員とは、きっと紅くんを撃ったこっちの紅くんのことでしょう。ですけど、彼は諜報員の実の姉と私を間違えているんです。

仕方ないといえば仕方ないことなんですが、間違えるものなんでしょうか。

 

「だが天色 ましろは従軍看護師のはずだが……。まぁいいか。異動は珍しいことではない。貴官のデータはもう取った」

 

「……」

 

 そう言われても、私は何も発しません。

きっと疑問に思っていることを訊いてしまえば、芋づる式で私の持っている情報が持っていかれてしまいます。

 

「犬っころの姿、実に似合っているぞ。弟同様、犬っころのままで惨めに死んでおけ」

 

「……」

 

「ふん……まぁいい。貴官を殺したとて、汚れるだけだ」

 

 そう言って『動いたら撃つ』とだけ言って、離れていきました。

足音が聞こえなくなった辺りで、恐る恐る振り返ってみると、私の背後には誰もいなくなっていました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私が後ろを振り返って、男性の姿がないことを悟った時、別の人に声を掛けられました。

鈴谷さんです。艤装を身に纏い、いつもの調子で立っていました。

 

「誰かいたでしょ?」

 

「はい。侵入者です。恐らく諜報員……」

 

 鈴谷さんはそれだけを聞くと、独り言のように話し始めます。

 

「我、侵入者を発見。混成警備艦隊の出撃を具申します」

 

 口調が一変します。ですが、すぐにこっちを向きました。

 

「相手の目的は分かった?」

 

「情報収集だと思いますが、本意は分かりません」

 

「特徴は?」

 

「背後にずっと居たので分かりませんが、男性とだけ。武装をしています」

 

「そっかー。今、全体に警戒を取ってもらうように伝えたから。あと、鎮守府に入られたのなら見つけるのは難しいかもね」

 

 そんな風に、20.3cm連装砲を振りながら言います。

 

「ましろさんに仕掛けたということは、何か知っている人かも知れないね。護衛を頼むからちょっと待ってて」

 

 そう言って鈴谷さんはさっきみたいに、独り言で口調が変わった状態で話し始めます。

 

「鈴谷より混成警備艦隊旗艦。天色 ましろ氏の護衛を具申します」

 

 違和感がありすぎる独り言はどうやら、誰かと連絡を取り合っているみたいですね。状況から考えると武下さんか赤城さんでしょう。

すぐに話し終えたのか、私の方を見ます。

 

「念のためで付けるけど、多分もうないと思うからさ。……まぁ、紅提督もいつもこんな感じだったから、どんなか味わってみなよ。護衛が来るまでは鈴谷がここにいるからさ」

 

 そんなことを言って、鈴谷さんは近くのベンチに座ります。

護衛といいつつ、座り込んでいたら護衛の意味を成さないのでは、と内心思ったのは口には出しません。

立っていても仕方ないので、鈴谷さんの隣に座って空を見ます。

騒がしいなぁ、とは思っていましたが、やはり飛行機がいっぱい飛んでいます。

4機で1つの隊を作っているんでしょう。空を何個も隊が埋め尽くし、空の色は飛行機のお腹の白色になっていました。よくあれだけ飛んでいてぶつからないなぁ、と思いながら眺めます。

 

「ありゃ赤城航空隊だねぇ」

 

「赤城航空隊? 赤城さんの飛行機なんですか?」

 

 空を見上げてポカンとしていた私に、鈴谷さんはそう話しかけてきました。

 

「鎮守府屈指の練度、撃破率、被撃墜率なんだぁー。赤城さんは艦載機好きだからね、紅提督とは公私共に仲が良かったんだぁー」

 

「え?」

 

 またもや私の知らないことを知らされました。

確かに紅くんはミリタリーは好きでしたが、広く浅くの筈です。それが、どうして艦載機好きに変換されているんでしょうか。

まぁ、答えはすぐに分かりましたよ。ここは海軍です。戦車の話をするなら陸軍にどうぞって感じですよね。

 ですが、紅くんのミリタリー好きがどうして強い航空隊に繋がるんでしょうか。

私は記憶を掘り起こします。

そうすると該当するものを思い出しました。

赤城さんがあるとき見せてくれたノートです。航空戦術に関してびっしりと書かれたものを、紅くんが持っていたと言っていたんです。

 

「あの2人が楽しそうに話しているときは大体が艦載機のこと。それでも4割くらいかな? 他は大体は皆のこととか、何をしようかとか、そんな感じ」

 

「そうなんですか」

 

「うん。だから、艦載機を持てる艦娘たちは必死に艦載機について勉強してたよ。もちろん、紅提督と赤城さんには悟られないようにね。紅提督が艦載機の話をしているときは、本当に楽しそうだったもん。鈴谷だって、水上機使うから水上機のことすっごい調べてたし」

 

 そう言いながら、鈴谷さんは足をパタパタとさせます。

 

「でも、かなわなかった。情報量が違いすぎるんだよね、あの2人とはさ」

 

「情報量、ですか?」

 

「うん。私たちは種類やら、基本性能、どこで使われていたかとかしか調べれなかったんだ。それで、いざ紅提督に話に行ったらジャブ食らったね」

 

 鈴谷さんはそう言って、私の方を見ました。しかも凄んでいます。

 

「どうして艦載機の話をしているのに、風の話になるのさっ!! んで、調べてもない艦載機の話に流れてっちゃったからさ……」

 

 なぜ、風の話になったか分かりませんが、『強風』とか言っていたんで、それが飛行機の名前であったんでしょう。私には全然わからないですけどね。

 

「鈴谷には艦載機は分からないんですー! 開発経緯とか、それに関係のあるもとか言われてもねぇ!?」

 

 鈴谷さんは怒っているように、話します。ですが、怒ってなどないことは伝わりました。

 

「……まぁ、そんな感じ」

 

 鈴谷さんはそれっきり黙ってしまいました。当時の鈴谷さんはまだ、”気づいていない”側だったと思いますので、それに関しても何処かで罪悪感を持ったままなんでしょうね。

 

「お、護衛が来たみたいだから、鈴谷は任務に行くよ。鈴谷の『提督への執着』を使えば侵入者なんてヒョヒョイのヒョイだからね~」

 

 手をプラプラさせながら鈴谷さんは歩いていきます。

その後ろ姿はなんというか、見ていられませんでした。何というか、負けた雰囲気です。具体的には思いつきませんが、大きな勝負に負けたんでしょう。

それが紅くん関連かは分かりませんが、それなりに準備していて自信もあったんでしょうね。

 鈴谷さんと入れ替わりで来たのは、時雨さんと夕立さんでした。

2人とも艤装を身に纏って、周りを見ながら近づいてきます。

 

「ましろさんが襲われたことで、鎮守府は現在、混成警備艦隊が巡回中だよ。それで僕たちは、護衛を赤城から受けた」

 

 聞き慣れない単語がまた出てきました。『混成警備艦隊』です。

これまでの知識と単語から連想するに、艦娘と誰かが混じった特別警備隊なんでしょうね。単純に考えれば『柴壁』がそれに該当します。

ですので、私はあえて訊きません。

 

「だけど、いつもの半数しか出てないから精度は半分以下になったわ。部屋から出てこないんだもの」

 

 夕立さんはそう言いながら、辺りをしきりに見渡しています。警戒しているんでしょうけど、あからさまな気がしなくもないです。

 それと、やはり艦娘でしたね。半数しか出ないということは、私が『柴壁』で受けていた任務と関連性がかなりありますね。というよりも、それ以外あり得ません。

塞ぎ込んだままなんでしょうね。

 

「それで、ましろさん」

 

「何ですか?」

 

「僕たちは、相手の目的を知らされていないんだ。分かっている範囲でいいから教えてもらえないかい?」

 

 時雨さんが私に聞いてきたことは最もだと思います。目的があってここに侵入し、私に尋問したんですからね。

私は鈴谷さんに話したことと同じことを話しました。

 

「相手の目的は、多分情報収集です。それと、私のことを誰かと間違えていました」

 

「誰かって?」

 

 時雨さんは更に掘り下げてきます。

 

「私の名前を言ってました。ですけど、その対象はどう考えても私ではありません。従軍看護師とか言ってましたからね」

 

 時雨さんと夕立さんの表情が一気に強張りました。

何かあったんでしょう。

 

「他に何か言ってなかったかしら?」

 

 今度は夕立さんが訊いてきました。

私はどうして2人の表情が強張ったのか分かりませんが、真実を話します。

 

「弟と同じように惨めに死ねとか、まぁ……あの言動からすると、侵入者の指す弟は、紅くんを撃った同姓同名の諜報員のことでしょうね」

 

「……そうなのね。何となく相手の素性が見えてきたわ」

 

 そう言った夕立さんは、あることを私に言いました。

 

「私たちは鼻が良いの。その2人両方を護衛に付けるなんて、やっぱり赤城さんは赤城さんね」

 

 夕立さんは困った表情をしてそう言います。

 

「あぁ……鈴谷さんから前に聞きましたよ。赤城さんが考えることって、ガバガバで必ず何処かで見落としがあるって……」

 

「擁護出来ないわ……」

 

 夕立さんに釣られてか、時雨さんも困った表情をします。

そんな2人に、私はある提案をしました。

 

「護衛は多分1人でもいいと思いますので、どちらかが捜しに……」

 

「じゃあ、僕が行くよ。夕立、頼んだ」

 

「任せて」

 

 私が話そうとした意図を読み取ったのか、時雨さんと夕立さんは勝手にフィーリングで通じ合い。時雨さんは走って行ってしまいました。

 私はその姿を目で追いかけますが、すぐに視線を引き戻されます。

夕立さんが話しかけてきましたからね。

 

「本部棟に行くわよ。あそこなら、何かあったとしても大丈夫だから」

 

 そう言って、夕立さんは歩き始めました。

私はその背中を追いかけていきます。

 




 前回からまぁまぁ期間が空いてしまいました(汗)
 それは置いておいてですね、今回から物語が動き出します。27話にも入りましたので、今後の物語の動きが活発なることをご承知下さい。
それと、内容を凝るつもりですので、投稿スパンがだいぶ落ちる予定です。

 活動報告にて、お知らせがあるのでご覧ください。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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