【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第18話  鼻の効く犬と、白い番犬①

 

 私に紅くん奪還作戦の立案を頼んできた鈴谷さんは、ある程度は手伝いが出来るであろう艦娘や人員を紹介してくれました。

艦娘からは、霧島さんと赤城さん。ですけど、赤城さんはあまり頼らない方がいいとの事でした。理由としては、実は多忙だという事。それに、赤城さんが作戦立案、指揮をすると、必ずどこかに見落としがあって、危険な目に遭う事があるそうです。信頼はしているんですけど、どうしてもそう言った類は赤城さんに頼めないと、鈴谷さんは言ってました。それに対して、霧島さんに関しては、かなりの高評価みたいですね。

どうやら、紅くんと度々、海域制圧の際に使える艦隊運用法や、作戦を練っていたそうです。

何だか、霧島さんの話は想像通りでした。巷では、脳筋だとか呼ばれてましたが、そうでも無いみたいですね。

人員は、武下さんと巡田さんでした。2人とも海軍でもエリート出身ですし、士官ではあったので、そう言った事も出来るのでは、との事でした。

巡田さんに関しては、実働部隊の指揮を執る事になるでしょうから、実際に動く人間も加えた状態での、作戦立案をすれば、意思疎通が図れるという事も考慮してるみたいです。

 

「じゃあ、外に出ようか」

 

 一通り鈴谷さんと話した後、私たちは地下牢から出て、本部棟に戻りました。

やることが他にも出来てしまいましたが、任務があります。艦娘の精神状態を見なければなりません。

今回、鈴谷さんを見ましたが、鈴谷さんだけ見ていると、かなり酷い状態だという事は一目瞭然です。自殺を図る等、まともでは無いですからね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 本部棟に戻りましたが、全く艦娘を見かけません。ここに戻ってくる道中、鈴谷さんにある事を聞かさました。

 

『ましろさんっの任務って、もしかして、『艦娘の精神状態の調査』?』

 

 やはり、鈴谷さんは気を許せない相手です。信用がどうこうではなく、その情報網に関してだけです。紅くん関連だけは、従順過ぎて怖いくらいですが。

 

(本当に艦娘はいないですね。やっぱり鈴谷さんの言う通りでしたね)

 

 私の任務を見透かされた後、鈴谷さんは『艦娘は昼夜問わず、私室からあまり出てこないよ。出撃も遠征もないし、なにより紅提督がいないからね』と言ってました。

長が居ないだけで、ここまで変わってしまうもの変ですが、仕方のない事の様に鈴谷さんは言ってましたので、その言葉を信じる事にしました。

 本部棟の中を見て回りましたが、見た感じ、使われている部屋っていうのは思った程無いみたいです。

特に、ある区画に関しては全くと言っていい程でした。廊下から埃っぽくて、扉を開けて見ても、中はダンボールだらけでした。

そんな本部棟を見て回るのも、ほんの40分くらいで終わってしまったので、執務室に来ています。

中には誰かが居るわけでもないですが、紅茶の香りはします。この匂いは、金剛さんが飲んでいった匂いみたいですね。

そんな執務室の棚に並んでいる、大量のファイルを見上げて見ます。大体が、鎮守府稼働からの資材管理や、戦闘記録などが入ってました。試しに、戦闘記録を手にとって開いてみますが、書いてある言葉は理解出来ますが、内容は理解できません。報告書みたいですが、レポートみたいになっています。出撃した艦隊の旗艦が書くものみたいで、その時あったことなどをまとめているだけみたいです。

なんというか、文章が読み取りづらいところが多いです。艦娘によるみたいですけどね。

 私がそんな風に、ファイルを見ていると、執務室にある艦娘が入ってきました。

その艦娘は、艦種にしては雰囲気が、大人びています。

 

「ん? 葵さんかい?」

 

「ホントだ。葵さんだ」

 

 そう言って私のところに来たのは、時雨さんと夕立さんでした。

 理由は知りませんが、この鎮守府には駆逐艦の改二は夕立さんだけみたいです。隣の時雨さんも、見た感じだとまだ改みたいですし。

 

「2ヶ月くらい姿を見なかったかい? その格好を見る限り、『柴壁』に入ったのかい?」

 

「はい。丁度、2ヶ月前に入りました」

 

 時雨さんは表情を変えずに、淡々と話してきます。

 

「それにしてもさ」

 

 時雨さんは、そう切り出します。

表情から感情が読み取り辛い時雨さんが、私は少し怖く感じてしまいます。

 

「地下牢に行ったの?」

 

「え?」

 

 いきなり何を言い出すんでしょうか。

それにどうして、私が地下牢に行っていた事を知っているんでしょうか。

とっさに、時雨さんの隣に居る夕立さんの表情も見てみますが、時雨さんと同様です。全然、表情から感情を読み取れません。

 

「ふぅん……まぁいいさ。それとさ、こうやって会えたんだ。少し聞きたい事があるんだ」

 

 時雨さんはそう言って、ソファーに座って話そうと言い出し、私たちは対面になって座りました。夕立さんは、時雨さんの横に座ります。

 

「何か隠してるよね?」

 

 ドキリと心臓が跳ね上がります。

艦娘には一部を除いて、本名を伏せています。それは、こちらに来た当初、紅くんの姉だと知られたら、何をされるのかも分からなかったからであり、自己防衛の為でした。

それが最近となっては、人間にはかなり知られています。鎮守府に勤めている人間は全員、私の本名を知っているのではないかというくらいです。

ですが、艦娘にはずっと黙ったままです。ただでさえ、不安定な精神状態だという事が予測されている中、私がその中に放り込まれたのなら、パニックが起こる事は必至です。

 

「何を、ですか?」

 

 私は平静を装います。

時雨さんの纏う空気に、私はかなり警戒していますからね。

 

「そうだね……例えば、名前。碧 葵ってのは偽名なんじゃないのかな?」

 

 かなり鋭い感をしている。しかも、そう発言する時には、何の迷いもないように見えました。

 

「どうなんだい?」

 

 見透かされた様な目で、私の目を見てきます。

何だか、身体がゾワゾワしてきますが、このまま黙っていても仕方ないですので、私は真実を伝える事にしました。

これまで経験してきた事を考えると、時雨さんか夕立さんの何方かが、何かしら危険行動をしかねません。いつでも動けるような体勢になっておきましょう。

 

「その通りです」

 

「じゃあやっぱり偽名だったの?」

 

「はい。……私の本名は、天色 ましろです」

 

「天色?」

 

 時雨さんも夕立さんもフリーズしたかと思うと、分かってきたのか、段々顔が青ざめていきます。

 

「私は天色 紅の姉ですよ」

 

 そう言うと、時雨さんは青ざめた顔のまま、あることを訊いてきました。それは、今までに訊いたことない質問です。

 

「ど、どっちのだい? 僕が知っている『天色 紅』という人間は、2人居るんだ」

 

 多分、最後の悪足掻きでしょうね。

これで、私が何方かに答える事によって、時雨さんたちの反応を変わるはずです。

 

「横須賀鎮守府の方です」

 

 これを言えば、終わると思ってました。ですけど、違います。時雨さんは更に掘り下げて、質問を重ねてきました。

 

「じゃあ、紅提督が好きなこと。何でも言ってみてよ」

 

 まだ、顔が青いままですが、時雨さんは私の目を捉えます。

 

「読書」

 

「うん。じゃあ、紅提督が趣味でしていた事は?」

 

「家事」

 

 簡単です。何だか、紅くん検定みたいですが、気にしないようにします。

 

「次は、紅提督の信条。もしくはトラウマ」

 

「信条は『異性にはなるべく触れない』。トラウマは中学生時代の部活動」

 

「ふぅん……」

 

 時雨さんの顔はこの質問に私が答えていく度に、血の気が引いていきました。遂に今、もう真っ青を通り越しています。ただでさえ、色白で白いのに、もう人肌のようには見えません。

 

「まさかね……本当に?」

 

「えぇ」

 

 これが最終確認でしょう。時雨さんは、その刹那、立ち上がって私に頭を下げました。

とんでもなく急な角度です。

 

「僕が不甲斐ないばかりに、紅提督がっ……。どう詫てもっ……」

 

 そう、時雨さんは言います。その一方で、夕立さんは固まってしまっているみたいですね。ピクリとも動きません。

そんな夕立さんに、時雨さんは話し掛けました。

 

「ねぇ、夕立。僕はどうすればいいと思う?」

 

 そう言った時雨さんに、夕立さんは答えました。冷たい声で。

 

「何も出来なかったのなら、死んで詫びなきゃダメよ」

 

 そう言って、夕立さんが急に立ち上がると、執務室の窓際にある大きな机に近づき、引き出しを開けて、数枚紙を抜き取りました。

それを持って、こっちまで戻ってきたかと思うと、机に置かれているペンを手にとって、記入を始めます。

時雨さん夕立さん共に、手で紙に書かれている内容が隠れてしまって見えませんが、良くない紙だという事は雰囲気で分かりました。

 少しして、夕立さんと時雨さんは書き終わったであろう紙を、私に見せてきました。

 

「これって……」

 

「『自己解体申請』。僕らは自分で『死』を選ぶ事も出来るんだ」

 

「私たちは、紅提督の艦娘。紅提督が居なければ、意味がないわ」

 

 そう言い切ったんです。

見た目は中学生位の少女2人が、そんな事を口に出したんです。

私としては衝撃的でした。鈴谷さんの時もそうでしたが、どうして艦娘はこんなに紅くんの事を思っているんでしょうか。

居なくなったなら死を選ぶなんて、何時の時代の話なんでしょう。

 

「ダメですよ」

 

 そんな2人に、私は冷静に止めに入りました。流石に2回目となると、対応は分かっています。内心、時雨さんが食い下がってくるだろうとは思っていましたが、そんな事ありませんでした。他の艦娘や巡田さんに話した時のように、対応すれば皆、自ら命を絶とうとする事は止めてくれます。

一筋の希望に、できるだけ手を伸ばそうとするんでしょうね。

 なんとか『自己解体申請』の書類を取り上げて、破き捨てました。と言っても、持っていた書類を引っ張って、そのまま勢いで破いただけなんですけどね。

そんな2人に、気分を変えようと私は提案しました。こんな話をしていても仕方ないですし、気が滅入ってしまいます。

ついでに言えば、私の任務もこれで終わったようなものですからね。艦娘は未だに、心の何処かで気持ちを押し殺しているのだと。

 

「気分変えるって言っても、今の鎮守府で遊びにいけるようなところはあんまりないわよ?」

 

 少し口調に違和感のある夕立さんを先頭に、私たちは本部棟の中を歩いていました。

気分転換の出来るいい場所は無いかと、勢いで出てきただけですからね。何の計画もなしに、動いているだけなんです。

 そう言って夕立さんは歩きますが、迷いがないように思えます。

迷っているのなら、どこかで足を止める筈なのに、何処にも止めるどころか、身体が引き寄せられるように進んでいるようにしか思えないのです。

 

「そうなんですか?」

 

「うん。皆が遊びに行くところなんて、グラウンドとか酒保、執務室くらいだったから。他の部屋には大体が、勉強に行ってたの」

 

 そう言いつつも、足を進める夕立さんの後をつけます。

 

「勉強ですか?」

 

「『戦術指南書』っていう、艦娘の戦闘に関する戦術を専門に扱ってる本があるのよ。それがあるのがここ」

 

 そう言って夕立さんが立ち止まったのは、壁に『資料室』と書かれている部屋の前でした。

 





 サブタイに意味を求めてはいけませんよ。まぁ、メインで登場する艦娘の比喩なんですけどね。というか『白い番犬』とか捻りなさすぎwww
まぁ、それは置いておきます。時雨の鋭さや感の良さなんかは、前作譲りですのであしからず。
 夕立があまり発言しなかったのは、時雨にまかせていたという風に補完して下さい。
鼻が効くのは、時雨だけじゃないですからね(メソラシ)

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