朝起きたら女の子になっていたんだ!by神薙ユウ 作:クトゥルフ時計
「こんな時間に支部長室に来いだなんて、榊博士は何を考えているんでしょうね?」
ブスッとした仏頂面を顔に貼り付けて、私アリサ・イリーニチナ・アミエーラはコウタとソーマの二人にそう言いました。コウタは困ったように笑うだけですし、ソーマは「さあな」としか言いません。なんですか、もっと話そうとしてくれてもいいじゃないですか。え?コミュ障?ちっ、ちちちちちち違いますよ?!私コミュ障じゃないですよ?!
ただ第一部隊が集められてるのにユウだけいないのが少し気掛かりなだけですから!リンドウさんもいない?ああ、あの人なら寝てるんじゃないですか?昨夜はお楽しみのようでしたし。
とかなんとか考えてたら着きました、支部長室。まだ朝早いですし、ご飯だって食べてません。美容にはきちんとした生活リズムが必要不可欠なのです。だからさっさと用件済ませて行きましょう。
ドアの前に立って帽子のチェック。一応あれでも支部長代理ですからね。礼儀はきちんとしませんと。そしてノックをしようと手を出したときでした。
『何してくれてんだあんた?!』
一瞬ビクッとして後ずさってしまった私は悪くない。その際コウタの足を踏んでドミノ倒しみたいにソーマに倒れこんだのが見えたけど気のせいです。だから今ゲンコツされて泣いてるコウタも幻影です、幻影。そうに違いないです。
でも、今の声は女性のものですよね。聞いたことがない声です。中に誰かいるんでしょうか?中に誰もいませんよ。違いますこれSchool Daysです。Nice boat.
気を取り直してノック。コンコンと軽い音が鳴ると、内側から入ってきたまえと榊博士の声がします。後ろでスンスン泣いてるコウタは無視です無視。
部屋に入ります。前に見たときと特に代わり映えしないいつもの支部長室です。
て、あれ?何やら一人見慣れない女性がいますね。というかこの人の来てる服男性用じゃないですか。胸きつそうですね。でもなんでそんな見つかった!みたいな顔してるんです?あ、逸らされた。ちょっとショックです。
「やあ、こんな時間から呼び出してすまないね。幾分急ぎの用事なもので、すぐにでも伝えたかったんだ」
「そうですか。それより博士、第一部隊は至急集合って言ってたのにユウがいませんよ?どういうことです?」
「用事よりもユウのが大事なのか……うんうん、それもまた、アイカツだn」
「コウタは黙っててください」
「酷くない?!」
うるさいです。そういう風に言われると恥ずかしいじゃないですか。女の子には女の子の事情があるんですよ。
で、なんでこの女性は今のやり取りを聞いて気まずそうにしてるんですか。謎です。
「えーっと……アリサ君、これから話すこと君にとってかなり衝撃的かもしれないが、心して聞いてくれ」
と、榊博士が言いずらそうに口を開きました。私にとって衝撃的?それは一体どんな――――
「その女性が神薙ユウ。君たちの隊長だ」
「「「は?」」」
いや、待ってください???今この博士なんて???違いますよね???冗談ですよね???と必死になってゴチャゴチャの頭でユウ(榊談)の方を見れば、その人は今まで私が幾度となく見てきた〝ユウが困った場面に遭遇すると何とか波風立てぬようにそっとはにかむ〟という仕草で一言。
「……えっと……アリサ、……元気?」
何となくその面影が想い人に重なった瞬間、私は意識を失いました。
◇◆◇
ユウは激怒した。必ずやこの邪智暴虐の博士を除かねばならぬと決意した。
いやだってね?朝起きたら突如TSして仲間にバレたくねえどうしようって話してたら『呼んじゃった(テヘペロ)』は流石に怒るわ。可能なら胸倉掴んでぶん回したいくらいには怒ってるわ。減給されそうなんでやめときます。
あと、なんか大声でツッコンだらドアの向こうからコウタの悲鳴が聞こえてきたよ。もうそこまで来てんのかようっそだろお前?!
とか思ってたらアリサが入ってきた。その後ろに続いてコウタとソーマもいるね。コウタ涙目だしソーマ不機嫌だし、君たち一体何してたの。
ああやめてアリサ!僕を見ないで!そんな目で僕の胸を見ないで!君絶対『胸きつそうだな』とか思ってるでしょ!そりゃそうだこれ男性用の制服だもん!胸きつくても股間スッカスカだもん!別にちっちゃくねえし!無いだけだし!それはそれで問題じゃないですかやだー。
とかなんとか心の中で一人で騒いでたら話進んでた。そしてまたコウタがいびられてる。アリサ、君コウタにだけやたらと風当たり強いね。反抗期?なんか僕関係で争いに発展してるよね。うわ~居ずらい。とても居ずらい。
「えーっと……アリサ君、これから話すこと君にとってかなり衝撃的かもしれないが、心して聞いてくれ」
ついに榊博士が本題を切り出す。なんだろう、段々この先の展開がどうでもよくなってきた(諦め)。やだ、逃げ出したい。全力で逃走したい。でも逃げたら逃げたで部屋の外には人が。詰んだな(確信)。
「その女性が神薙ユウ。君達の隊長だ」
うわ~言っちゃった。やめてくれアリサ。そんな絶望したような目で見ないでくれ。そうだ、こういうときは声をかけなきゃいけない。このままだと気まずすぎて僕のメンタルが危ない。
「……えっと……アリサ、……元気?」
そうやって笑いながら言ってみた。絶対僕の顔引きつってる。口の端ピクピクしてるのわかるもん。そしてそれを聞き届けた瞬間、アリサが倒れた。マンガみたいに目を回して。
「あっ…………アリサァァァァァァァァァァァ!!!???」
そう叫んだ僕はきっと悪くない。
◇◆◇
雨宮リンドウは混乱していた。朝っぱらから支部長室に呼ばれ、痛む腰を酷使しながらなんとか支部長室にたどり着いた。そこまではよかった。そうしていつもの調子で明るく支部長室に入る。今思えば、なんで中の様子をきちんと確認してから入らなかったのだろう。後悔先に立たず。
部屋の中では、目を回して倒れたアリサを抱き抱えて名前を呼び続けている若い女性。その横でガッツポーズしながらキマシ!キマシ!と叫んでいる
「あ~…………、榊博士、これどういう状況?」
「ユウ君が女になったことを伝えたらこうなった」
……今この人なんつった?女になった?ユウが?第一部隊隊長が?博士よ、研究のしすぎでついに頭がおかしくなったのか?
「……うん、リンドウ君。混乱するのもわかる。わかるからそんな頭おかしい人間を見るような目をやめてくれ」
とか思ってたら博士に釘を刺されてしまった。しょうがないぜ博士、こんなこと言われたら誰だって真っ先にあんたの頭を心配する。
「こうなった理由も含めて全部説明するよ。まずアリサ君をどうにかして起こそうか。あとコウタ君、君少し黙れ」
しょんぼりするコウタに珈琲を渡して、博士もアリサの介護に回った。
「……なあソーマ」
「……なんだよ」
「俺、夢でも見てんのかな?考えてみれば寝不足なんだよ。そうだこれはきっと夢だ」
「現実に帰ってこいリンドウ……!お前までこのカオスに呑まれたら俺はツッコミで過労死する自信がある……!」
すまんソーマ、俺のキャパシティはもう限界だ……。
◇◆◇
「アリサァァァァァァァァァァァ!!!しっかりしろアリサァァァァァァァァァァァ!!!」
アリサがぶっ倒れ早数分。現場は混乱に包まれていた。主にコウタが五月蝿すぎるせいで。なんだキマシ!って。何語だよ。それしか言えないとかお前セミかよ。あ、博士が黙らせた。狐目の圧力半端ないね。あ、珈琲渡された。うまそう。
「ユウ君、アリサ君の容態は?」
「これ医務室連れてった方がよくないですか?ショック強すぎたんですかね、全く起きないです」
「ちょっと彼女をこっちへ」
そう言って博士はアリサの腕を掴むと、なんか注射した。いや待てあんた何した。
「それは?」
「回復錠」
「明らかに使い方間違ってますよねそれ……」
「良いじゃないか。結果よければってやつだよ。起きたらレーションでも食べさせとけば大丈夫だ」
「悲報、フェンリルは倒れても回復錠とレーションで再び働かされる超ブラック企業だった」
「特務とか言って隊長に単独討伐やらせる時点でもう手遅れだろ」
「貴方が言うと重みが違いますねリンドウさん……」
「なんだこの訓練された社畜ども」
「コウタ、今だから言えるが次の第一部隊隊長はお前だぞ」
「嫌だァァァァァァァァァァァ!!!」
おいやめろコウタ、暴れるな。わかってる、僕だって任命されたときは嬉しかったけど今ものすごく疲れてるからなりたくないのはわかるが落ち着け。
「うんっ……んん……あれ?」
あ、アリサが起きた。そして目を見開いた。そうだよね、起きたら叫んでるコウタと遠い目のリンドウさんがいたらそりゃ驚くよね。
「私は……確か、博士から話があるって言われて、他のメンバーと一緒にここに来て……それから……うっ、何故でしょう思い出せません……」
おいこいつ僕が女になったの認めたくなさすぎて記憶抹消したぞ。なんだ、何が君をそこまで追いたてるんだ。あれか、今まで第一部隊の紅一点やってたのが立場取られそうだとか思ったのか?!(違います)
まあアリサが来るまで紅一点はサクヤさんだったんだけどね。今じゃもうリンドウさんの嫁だし……クソッ!あんなスタイルいい美人が嫁とかリア充は爆ぜろ!もげろ!
……ハッ!いけないいけない、ダークサイドに堕ちるところだった。
「……そろそろ話をしてもいいかな?」
一人でそんな茶番をしていたら博士が話をしたがっていた。うん、してください。僕はもう運命に身を任せます。これがFateか……いや違うか。
「さて、もう一度言おう。その女性こそ神薙ユウ、君たちの上司なんだよ……リンドウ君!アリサ君を支えて、彼女倒れそうだから!」
またかアリサ。倒れても無駄だぞ、回復錠で強制的にまた働かされるからな。この現状に違和感を感じなくなったら君も立派な社畜だ!
「コホン、話を戻そう。信じがたいことだろうが、彼……いや彼女?あれ、」
「〝彼〟でお願いします」
博士、僕は男だ。外面は完全に女だが中身は男だ。だから事情を知ってる貴方くらいは僕のこと男扱いしてくれ!
「ああうん失礼。それで彼の弁によるとだね、どうやら朝起きたら女の子になっていたらしい。彼の服が男性用なのはそういうことだ。突然すぎて着替えたはいいものの、当然ながら女物なんて持ってない」
そこまで言ったところで、コウタがいいアイデアが浮かんだとばかりに手を叩いた。
「なるほど、つまりアリサかサクヤさんから服を借りればユウは見た目完全美少女に!」
「コウタ、隊長権限で命じる。あとで一人でピター行ってこい」
「ごめんなさい冗談ですからそんな怒らないで!」
あまりにもふざけた事を言うコウタに青筋立てながら無理難題を押し付けてみたら、それはもう見事なジャパニーズドゲーザを披露してくれた。軽く引いた。
「うん、コウタ君の下心とかはどうでもいいとして、服を借りること自体はいいアイデアだよ。実際問題ターミナルからはゴッドイーター登録時の性別の服しか購入できないからね。サイズも登録時のままだ。だったら既にある女性ものを借りるのが一番手っ取り早い」
「女物を着るのは確定事項なんですね?!」
「だって君、正直その格好似合ってないよ?まあ
「わかりました着ますよ!着ればいいんでしょう!」
「まあ男装っていう属性が外れてもTSっていう属性は永遠に付きまとうけどな」
「やめてリンドウさん!不吉なこと言わないで!」
「でも大丈夫だろうと思うよ?アリサ君にサクヤ君にカノン君、皆君のスタイルに近いからね」
「おっと嘆きの平原の話はそこまでだ」
「コウタ、お前後でジーナさんに殺されるぞ」
「さらっと候補から外されるヒバリちゃんェ」
「ヒバリちゃんはあれだ、あんな純真無垢な子から服なんて借りれない」
「俺たちの中でヒバリちゃんの株が急上昇……?」
等と、いつのまにか本題から外れて暴走する同僚を見て、ふとユウが思ったこと。
――――ああ、こいつら……バカだわ。
◇◆◇
「つっかれたー……」
自室に戻ったユウはほんの少し前まで自分が寝ていたベッドにダイブする。時計を見ればまだ10時前。これだけ濃い体験をしてもその実三時間も経ってない上に、これからまだ仕事があると考えると絶望感しかない。
「ほんと、どうしようかなこれから」
第一部隊の隊長が女に、このニュースは隠し遠そうと思っても多分バレる。戦闘スタイルは変えられないし、名前を偽ったりしても余りにも長い間第一部隊隊長が不在なら違和感を覚える人間いるだろう。リッカ辺りには神機でバレる。
「どう考えても詰んでるよなー、これ」
まさしく八方塞がり。どうあがいても絶望。その結論にたどり着いて思考を放棄しようとしたとき、ターミナルにメールが届く。誰かと思い確認すると、差出人はコウタだった。
『タイトル:どうすれば
from:藤木コウタ
本文:ジーナさんに嘆きの平原のミッション無理矢理同行させられた。俺はどうすればいいと思う?』
……。
女の勘とは恐ろしい。とにもかくにも僕にやれることはない。ストレスも溜まってたし、コウタにはこう返しておこう。
『タイトル:
from:神薙ユウ
本文:死 ん で こ い』
女体化した僕を弄った報いを受けよ。
頭の中空っぽにするとこんなにも早く書けるもんなんですね。期間大分空いてましたけど実際書いたの一日かかってないです。そして始まるこの悪ノリである。