私は希望が大嫌いだ   作:希望抹殺隊隊長

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私は闇に浸かり、快楽に溺れる

 

 

 

 

『ママ』

 

小さな手が、あなたに伸ばされる。

必死に、あなたに抱っこをしてもらう為に、小さな手はずっと呼び続ける。

『ママ』と。

でもあなたは振り向いてくれない。

あの人も、あの人も、みんな私を無視している。

何で?何で私を無視するの?

お願い、私を愛して。私はここにいるから。

必死に伸ばして、伸ばして、やっとあなたは振り向いてくれた。

やった、こっちを見た。私の存在をわかってくれたんだ。

抱っこ、と言った時だった。

 

『うるさい。ママって呼ぶんじゃない』

 

私はそれに絶望した。

何で?私のママはあなただけなんだよ?

世界中探しても、あなたしかいないんだよ?

ねぇ、なんでそんな冷たい目で見るの?

何であなた達も、そんな目で見るの?

私、何かしたの?

なら謝るから。

お願いだから、ねぇ!

おねーーーかーーーーら

 

 

 

 

 

 

わたしを、あーーーーしーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

酷い夢を見た。

私は腕で光を遮断しながら、べっとりとしている服にウンザリする。

自分の首筋にも、汗が伝っているのが嫌でもわかった。

……本当に、酷い夢だった。

何故あんな夢を見たんだ。もう私には関係のないことで、もう縁も切ったはずだ。

何で私はこんなのを覚えている。

まだ『希望』を抱いているのか?あいつらに?

馬鹿馬鹿しい。何年も経っていたら、そんな希望なくなるに決まってる。

きっとこれは、私の憎悪が呼び覚ました夢だ。私の憎しみが、夢へと具現化したんだ。

私が今更『希望』なんて…抱いていいはずがない。

私の身も心も、闇に支配されているんだから。

だからもう遅いの。

……さぁ、行こうか。

シャワーを浴びて、朝食を食べて、そして演技してーーーー。

これが私の日常。

 

転生してから十三、四年。

 

 

 

私は今、凄く『幸せ』です。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

「随分と楽しそうね、ベクター」

 

黒服の山を避けながら、私はNo.96と対峙しているベクターに声をかける。

ベクターはあからかさまに驚いた顔をして、ポケットから手を出した。

 

「お前…どうやってここに…」

 

「『私の中には悪魔が住んでいる』」

 

「………そういうことかよ。便利なこった」

 

「あら、あなたも同じようなものじゃない」

 

ベクターは舌打ちをして、また前を見た。

そこには、優雅にモデルポーズを決めるNo.96ブラックミストがいる。

ブラックミストは私を見て、ベクターの横に並んで問いた。

 

『誰だ、こいつは』

 

「………一応、俺の協力者」

 

「安心なさって。私はあなた達に協力するだけ。そんな大雑把なことはしないわ」

 

まぁ、今はだけど。

出来ればベクターが言うことに全部従いたいし。あの時デュエルに勝ったとしても、私が命令することは『今の所』ない。

まぁ、ちょっと私の何気ない一言で、ベクターは悪知恵を働かし、それを実践しているのだから、原作よりも九十九遊馬との信頼は削がれている。

まず、彼がベクターの手を掴むことはないであろう。私が見ても、あれだけ酷いことをしたのだ。もし掴んだら、どんだけ聖人なんだ。

吸い込まれるのは少々苦だけど……元々のベクターを残していけるのなら、私はそれでいい。

さて、今日私がここに来たのは、遺跡のナンバーズをこの目で見るため。

そして、No.96の利用価値をこの目で見るため。

もしあった場合、ベクターには悪いけど…取り込ませてもらうことになっている。

遺跡のナンバーズはどのくらいの力か見定めた後、そのままベクターの手に渡るようにしている。別に遺跡のナンバーズはそんなに必要ではないから、なくてもいい。

私の話を聞いていたベクターが、ふと思い出したかのように私に聞いてきた。

 

「そういえば、お前あん時いなかったよな。何処にいた?」

 

「ああ。私は常にあいつらと行動してる訳じゃないわ。あの時、私はあの場にいなかったから、行けなかったっていう設定なの」

 

「なるほどね…だが、その悪魔の力で見とったんだろォ?」

 

「大正解」

 

そう、実は私はサルガッソの場にはいなかったのだ。

四六時中あいつらと一緒にいる訳ではない。だから私はあの時、「夜遅くなので眠っていた」という設定にし、あいつらがサルガッソに行く時は「朝食の準備をしていた」という設定にして、私は現場には行かなかった。ちなみに学校は普通にあったので、私はそのまま学校に行った。

悪魔の力を借りて見たというのは、授業中に脳内で悪魔に頼んで観せてもらったからだ。そこでベクターがどれだけ悪どいことをしたのか知ることが出来ている。

兎に角、滑稽だった。ベクターの…いや、真月零の正体を知って叫ぶ九十九遊馬の姿が、非常に面白かった。

希望が砕ける音が聞こえたのは、私の幻聴であろう。しかし、それ程までにハッキリと、ポッキリと柱が壊れたのは、まだ耳に残っている。思わず笑い声を漏らしてしまって、先生に心配された程にだ。

しかし、ここで油断してはいけない。

九十九遊馬はあんな風になっても、心が折れない。……結構な悪どいことをしたベクターのことも、もしかしたら手を取るかもしれないと思ってしまった。

いや、取らないであろう。あんな酷く、醜くしたんだ。九十九遊馬のダメージは大きく、憎悪が原作より大きくなっているはず。

着々と望みは進んでいる。でも、念には念を入れて、今後のことも考えなければならない。

ベクターをそのままにする為には、やはり絆を断ち切るしかない。さて、何処で仕掛けようか。遺跡の時に仕掛けようか?しかし、あそこで何をやれば…。

 

………あ。

良いものがあったではないか。

少々デュエルではなくなるが、絆を断ち切るにはそれを仕掛ければ、なんとかなるかもしれない。

ここで、初めて命令してみようか。ベクターに。

…いや、確か七皇は、遺跡に行かなければ記憶の断片を得られなかったな。なら、ここで言っても無駄か。

これは遺跡に着き、ベクターが何となく思い出した時に言ってみようか。その方が、彼も素直に頷くであろう。

 

「おい、おい」

 

ハッとすれば、ベクターが私を呼んでいる事に気づく。

ブラックミストは私の方を振り向いて、様子を伺っているかのように見えた。

ベクターは私の肩をもう一回叩き、言う。

 

「どうせお前も付いてくるんだろ。行くぞ、遺跡に」

 

「……ええ」

 

黒服の山を超え、私達はこの場を後にし、

 

ベクターの記憶の元となる、遺跡にへと向かった。

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

『あの娘は、危険だ』

 

遺跡にへと向かう途中、ベクターにある声が囁く。

それは、ベクターの中にいるドン・サウザンドの声だった。

ベクターは声を出さず、心の中でドン・サウザンドに返す。

 

(危険とはどういうことだ)

 

『正確にいえば、あの娘の『中』にいる奴が危険だ』

 

この言葉に、ベクターはある程度理解した。

恐らくドン・サウザンドが危険と称しているのは、彼女の中にいる『悪魔』の存在であろう。

その危険性はベクターはわからないが、警戒をして越したことはないといつもその悪魔には警戒を倍にして続けている。

彼女自身危険があるのかもわからないが、警戒をした方が安全であろう。

その悪魔を、ドン・サウザンドは危険と言った。なら、自分達の障害になるのはあり得る話だ。

やはり、彼女を裏切って、ここで潰してしまおうか。とベクターは考えた。

だがドン・サウザンドはそれを否定した。

 

『あの娘は、十分に役に立つ。ここで消してしまっては勿体無い』

 

(そうかよ。なら生かしといてやるぜ)

 

一度負けた自分が言うセリフではないが、ベクターはもう勝利を確信している。

このドン・サウザンドの力があれば、あいつにだって勝てると確信しているからだ。

だから、残り少ない日数を楽しく過ごすがいい。

ベクターは、後ろに付いてきている彼女を見ながら、そっと口元を歪めた。

 

見てろ。いつかお前を消してやる。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

一方、刹凪と悪魔も、彼らについて話していた。

 

(ドン・サウザンド……彼は、ベクターを最高の姿にしてくれたやつだ。手荒な真似はしたくない)

 

『しかし、いずれベクターはドン・サウザンドに裏切られ、あいつに吸い込まれてしまう。その前に対策を打てるか?』

 

(私が望んでいるのはそのままのベクターよ。吸い込まれたとしても、素のベクターが出ていればそれで満足だわ)

 

『歪んでいるな。だが、そこもいい』

 

刹凪は、ドン・サウザンドは彼をああしてくれた一人。だから手荒な真似はしたくないと言う。

しかし悪魔は、ベクターが吸い込まれるならいっそ、ドン・サウザンドを討ってしまえばいいのでは?との考えだった。

しかし悪魔は、刹凪の言い分を尊重した。

それの真意は、悪魔にしかわからない。

 

 

 

やがて彼らは、ある遺跡にへと到着する。

ブラックミストが先行する中、ベクターは辺りを見渡し、刹凪はうっとりと空気に浸かっていた。

素晴らしい。闇が豊富に溢れかえっている。

ああ、やはり彼は素晴らしい。こんなにも闇を提供してくれる。

やはり彼は、完璧な悪役。

 

『この奥だな』

 

ブラックミストが遺跡の中へ入り、ベクターも中へ。

刹凪は一歩遅れて、彼らの後ろをついていく。

途中、ベクターが入り口付近で頭を抱えていたが、刹凪はその理由がわかっているので、「どうしたの?」と言っただけ。

ベクターは曖昧な返事で「いや…何でもねえ」と返した。

ああ。影響されていっている。

もっと、もっと闇に浸かって。

先に行くベクターとブラックミストを背後で見つめながら、刹凪も完全に、遺跡の中へ足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

もうすぐよ。

 

 

 

 

もうすぐで、フィナーレよ。

 

 





今回は非常に短くなりました。いやはや申し訳ない。
どんな場面にしようかと悩んだ結果。遺跡に行く前の話とさせていただきました。しかし悩んで悩んでこんだけとは…私もまだまだですな。
終盤刹凪ちゃんが変態になったのは無視してください(真顔)
さて、補足といきましょうか。

まず、刹凪ちゃんはサルガッソには行っていません。
理由は本文中に述べた通り、刹凪ちゃんはずっと遊馬達といるわけではないので、当然こういうのは知りません(逆に小鳥ちゃん達があんな時間まで待っていたことに驚きです)ちなみに刹凪ちゃんは途中でリタイアして寝ました(と言う設定)
悪魔はあくまで刹凪ちゃんの意見優先です。理由は面白いから。以上。
とりあえず周りから見た刹凪ちゃん。

遊馬→頼りになる仲間!

凌牙→得体の知れない人。

カイト→警戒は薄れている。

小鳥ちゃん→綺麗な先輩。

ナンバーズクラブ→綺麗な先輩。

璃緒ちゃん→可愛い友達。デュエルを私が教えたい、

ギラグ→優しい人。

アリト→よくわかんねえ!

ドルベ→なし(会ってない)

ミザエル→なし(会ってない)

ベクター→警戒。しかし少し心を許している(無自覚)

ドン・サウザンド→危険人物内。

悪魔→素晴らしい人間

こんなくらいですかね。
それでは次回もよろしくお願いします。

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