【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION①
INTERMISSION 年末の二人


12月31日 大晦日

 

すでに年の瀬。

世間は残り数時間に迫った新年を迎える準備に追われていた。

 

IS学園もすでに冬期休暇に入っており、セシリアをはじめ各国の代表候補生達もそれぞれの母国に帰国して、休暇を過ごしている。

一夏や千冬も久々に実家に帰宅し、年末休暇を過ごしている。

束達もテロへの最低限の監視体制は敷きつつも、各々休暇を取っていた。

 

男性搭乗者の発見や歌姫の騎士団の襲撃、エクスカリバー暴走等、激動の一年であった。

だが過ぎてみれば早いものというのは皆が感じていた。

 

そんな中、飛鳥家の玄関口に真と簪の姿があった。

二人ともコートにマフラーの厚着であったが、到着してからマフラーは取っていた。

 

何故二人が飛鳥家にいるかと言うと、大晦日を含めた冬期休暇を実家で過ごしたいと真の意見と、彼の実家で過ごしてみたいという簪の意見が一致していたからだ。

 

冬期休暇に入る前に実家に連絡を取ったところ、大歓迎と言う返答があり、真は久々に家族にあえることを楽しみにしていた。

実家に帰ってくるもしくは真を連れてくるのだろうと考えていた楯無は二人の予定を聞いた際にがっくりと肩を落としていた。

妥協案として年越しそばを食べる事と初詣を一緒に行こうと提案したところ、即座に立ち直っていたはいたのだが。

 

余談だが、社宅に移っていた飛鳥家の面々は下の自宅に戻っていた。

これは真のIS稼働データが日出を通して国際IS委員会に渡り、そのデータが評価されているところが大きい。

真がIS学園に入学した直後には女性人権団体からの声なども目立っていたが、歌姫の騎士団との戦いが終わる頃、秋ごろになるとそんな声を見るのも稀になっていた。

 

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

 

2人がそう言って玄関口を開く。

ドタドタと奥から響く足音。

 

 

「お兄ちゃん、お帰りー!そして簪さんようこそー!」

 

 

現れたのは少しだけ髪を伸ばした、真の妹の真由だった。

スライディング気味に現れた真由はそう言って笑みを浮かべていた。

 

 

「元気だなぁ、真由は」

 

「だって久々にお兄ちゃんに会えたんだもん!それに簪さんも一緒なんてテンションフォルテッシモだよ!」

 

「えっと、ありがとう、真由ちゃん」

 

 

真由の興奮した様子に少し困惑して簪が返す。

すると真由の背後から彼女と同じ髪色の母、玲奈が現れた。

 

 

「ただいま、母さん」

 

「お邪魔します」

 

「おかえりなさい、真。ようこそ、簪さん。さあ、上がって」

 

 

微笑みながら言う玲奈の言葉に従って二人は靴を脱いで居間に向かう。

今に向かうとソファに座りながら、年末特番を見ていた父、大胡が振り返りつつ告げる。

 

 

「おかえり、真。簪さんもようこそ」

 

「父さん、ただいま」

 

「お邪魔してます。数日の間ですが、よろしくお願いします」

 

「ああ、自分の家だと思ってくつろいで構わないよ。まぁ、ちょっと狭いかもだけどね」

 

(……そりゃあれと比べたらなぁ)

 

 

簪の実家に伺った事のある真は彼女の実家の広さ知っている為、内心苦笑していた。

 

 

「それじゃ荷物だけど、一旦俺の部屋に置こう」

 

「うん。2階だったよね?」

 

「ああ」

 

 

真が案内しつつ、二階の彼の部屋に向かう。

 

 

――――――――――

真の部屋

 

八畳ほどの広さの部屋に、大きめの机と薄型のテレビが備え付けれた部屋。

本棚には国民的な人気漫画や、ミステリー物の小説などが収められていた。

壁には特撮ヒーローの限定ポスター等が飾られていた。

 

真がIS学園で寮生活を始めてからこの自分の部屋に戻ってきたのは数度しかなかった。

定期的に母である玲奈が掃除をしていた為、埃などは全くなかった。

 

 

「荷物は此処でいいな。後で真由の部屋にベッド用意するっぽいから」

 

「うん」

 

「んじゃ、お茶でももらってくるよ。適当に休んでてくれ」

 

 

そう言って真は部屋を出ていく。

 

 

「……」

 

 

手荷物を置いた簪が部屋を見回す。

以前交際の挨拶の際にも訪れたが、ゆっくりと見る暇はなかった。

その為、真の部屋がどんな場所なのか、少し楽しみにしていたのだ。

 

そこそこゲームもやると言っていた通り、最新のゲーム機も置いてある。

そして限定ポスターなど心が滾るものがあったが、彼女の視線は何故か真のベッドに向かっていた。

 

 

「……」

 

 

ソッと耳を澄ますと、真が階段を下りていく音が聞こえる。

それを確認して、とあることを思い出す。

 

 

(本音が言ってた。男の子はベッドの下に……エッチな本を隠すって)

 

 

既に彼とは一線を越えた仲ではあり、別に彼がそういう本を持っていたとしても嫌悪したりなどはない。

ただどういったものが好きなのか知りたいという興味があるのだ。

 

少しの罪悪感を感じ緊張しながら、彼女は真のベッドの下を覗き込む。

だがベッドの下には使わなくなった参考書しかなかった。

 

 

(あれ……ないっ?)

 

 

ほぼ100%の確率であるとの話だったので、手を突っ込んで調べてみるが、やはり参考書だけであった。

 

 

「……持ってないんだ」

 

 

そう呟いて少しだけ嬉しい気持ちになった簪であったが、本を探すことに夢中になっていた為、背後の気配に気付くのが遅れた。

振り向くと、茶と茶菓子を持った真がジト目でこちらを見ていた。

 

 

「……簪?」

 

「えっとこれは、その、ほら知的好奇心と言いますかその……ごめん」

 

 

咄嗟の事でなぜか敬語混じりになりながら、顔を紅くした彼女が返す。

テーブルに緑茶を置いた真はソファに腰を下ろす。

 

 

「持ってないからな」

 

「そっ、そうなんだ」

 

「ああ。はい、お茶」

 

 

テーブルの上に緑茶を置いて、自分も一口飲む。

 

 

(……弾が置いてった本、処分しておいて本当によかった)

 

 

内心真はかなり焦っていた。

部屋に戻ってきたら、簪がベッドの下をのぞいていたのだから。

 

実はIS学園入学前までは、友人である弾が【わざと】部屋に置いて行った本をベッドの下や参考書の間に隠していた。

弾曰く、真は年上好きなところがあるらしく、年上モノの内容でかなりきわどいものであった。

もちろん弾を一発ブン殴っている。

 

IS学園入学が決定して寮生活となる前に、そういった本は全て早朝の時間帯にわざわざ海岸まで出向いて、自分の手で焼いて処分していたのだ。

 

 

(過去の俺、ナイス)

 

 

過去の自分の行動を自画自賛していると、少し申し訳なさそうな表情を簪がしている事に気付いた。

それに苦笑した真が告げる。

 

 

「別に気にしてないって」

 

「……うん」

 

「ちなみにそういう本があるって情報誰から聞いたのさ、刀奈さん?」

 

「ううん、本音」

 

「そっか本音さんかぁ……休み明けにお菓子没収の刑に処そう。生徒会室と整備室に隠してあるお菓子も全部な」

 

 

少しだけ意地悪く笑った彼に簪が苦笑を浮かべた。

 

それから30分ほど経って、二人は居間に降りてきていた。

予約しているとはいえ大晦日の蕎麦屋は非常に混雑するため、早めにそばを食べに行こうという訳だ。

 

 

「蔵人さん達は?」

 

「お店の場所を伝えたから直接向かうらしいよ。後本音と虚も来るって」

 

 

数分前に簪が蔵人と刀奈に連絡しており、予約した店に向かっているらしい。

また布仏家からも本音と虚が来るとのことだ。

 

 

「成程ね。ってことは多分弾も来るんだろうなぁ、確か数日前から虚さんの家に招待されてたみたいだし」

 

「虚が付き合ってる人だよね。確か学園祭の時に真と話してた」

 

「ああ。アイツに色々と聞かれてさ。ま、いい奴だよ」

 

 

真の友人である五反田弾と本音の姉である布仏虚は学園祭の際に知り合い互いに一目惚れしたのだ。

その後、真にアドバイスなどを弾は求めていたのだ。

 

現在は順調に交友を重ねて晴れて、男女の仲になっている。

 

 

「弾君もやるもんだね」

 

 

中学時代の弾に何度かあったことのある大胡が感慨深く呟く。

 

 

「正直今年あった事の中でもかなり上位に食い込む驚愕だったよ。てか、歩きなのかよ。父さん」

 

「蔵人さんとは色々と話してみたいからね。飲んだら車じゃまずいだろ?」

 

「そりゃそうだろうけどさ、寒くない?」

 

 

全員がコートを着用し、予約した店まで歩きで向かう。

飛鳥家からそこまで距離がないため10分程度で到着できるのだが、真冬の大晦日だ。

気温は一桁であり、呼気は白く染まっている。

 

 

「ゆっくり行くのもたまにはいいだろう?」

 

「……まあ、それはそうだね」

 

 

大胡の言葉に真は頷く。

 

―――――――――――――――――

蕎麦屋 たどころ

 

飛鳥家から10分ほど歩いたところにある300年の歴史を持つ老舗の蕎麦屋「たどころ」。

その店の前に先についていた楯無――刀奈が待っていた。

 

 

「あ、来た来た」

 

 

そう言って刀奈が歩いてくる真達に手を振る。

 

 

「どうも、刀奈さん」

 

「お姉ちゃん、中にいればいいのに」

 

「ふふ、簪ちゃんがくるんだもの。寒さなんて大した事ないわ」

 

 

そう笑った彼女は大胡と玲奈、真由の3人に視線を移す。

 

 

「初めまして、妹の簪がお世話になってます。姉の【更識刀奈】といいます」

 

「こちらこそ、真がお世話になってます。先に着いていた様で待たせて申し訳ない」

 

 

玲奈と真由も大胡と同じように自己紹介した後、大胡が言う。

 

 

「いえ。元々は私のわがままを聞いていただけたので、私としては感謝しかありません。それでは中に入りましょう」

 

 

楯無の言葉に全員が頷いて店内に入る。

 

老舗の蕎麦屋であるが、最近になって立替工事が行われているため広さは充分であった。

ただ年末、大晦日の為かなり込んでいた。

予約済みで個室に案内される為、問題はないが。

 

店員に案内されて、個室に入る。

中は当然、全員が見知った顔だ。

 

 

「真。それに飛鳥家の皆さん。今日はお招きいただきありがとうございます」

 

 

真達が席に着いたことを確認した蔵人がそう切り出す。

 

 

「いえ。こちらこそ話を持ちかけていただきありがとうございます」

 

「本当は妻も呼びたかったのですが、何でも妻は妻のほうで用があるらしく……申し訳ない」

 

 

そう蔵人が頭を下げる。

だがそれに大胡は笑ってからテーブルの上に置かれていたビール瓶を掴む。

 

 

「まずは一杯。どうですか?」

 

「これはどうも……おとと」

 

 

大胡が蔵人のコップにビールを注ぐ。

注ぎ終わると今度は蔵人が大胡と玲奈のコップにビールを注いでいく。

 

 

(……酒盛り始めちゃったか)

 

 

酒盛りが始まってしまったことに苦笑しつつ、対面に座っている弾に視線を移す。

同じように蔵人達から視線を移した弾が口を開いた。

 

 

「真、久しぶりだなー」

 

「そりゃこっちの台詞だっての。それに虚さん、本音さん。どうも」

 

「ええ」

 

「あすあすー、外寒かったー?」

 

「ちょっとね。中は暖かいから大丈夫だよ」

 

 

3人にそう返す。

 

 

「いやー、何かこうお邪魔しちゃって悪い気もするんだよなぁ」

 

 

少しだけ小声になった弾が苦笑しながら言う。

 

 

「別にいいと思うけどな。楽しんでるだろ、ならいいじゃん?」

 

「お前がそういうならいいけどさ。さて何蕎麦食べる?」

 

 

メニューを広げた弾が尋ねてくる。

 

 

「簪は何のそば食べる?」

 

「えっと……おろし天ぷらそばがいいかな」

 

「おっ、中々に通だね、簪さん」

 

「別に……食べたいと思っただけ。五反田君は?」

 

「俺?そうだなぁ……鴨蕎麦かな。虚さんは?」

 

 

彼が横に座っている虚にたずねる。

すると少し恥ずかしそうに虚が返す。

 

 

「私は……弾君と同じもので」

 

「おっとノロケだー」

 

 

ニヤニヤと笑う本音がからかうように告げる。

その言葉に虚が顔を真っ赤にしていた。

隣の弾も照れたように苦笑している。

 

 

「本音っ、えっとその……」

 

「あはは……ごほん、真と真由ちゃんは?」

 

 

話を切り替えるために真と真由に聞く。

 

 

「んー、月見うどん」

 

「年越しうどんかいっ!」

 

 

真のボケに弾が突っ込む。

久々のノリに真の顔に笑顔が浮かぶ。

 

 

「冗談冗談、俺もおろし天ぷら蕎麦かな。久々に天ぷらも食べたい。真由は?」

 

「うーん、温かい蕎麦もいいけど……冷たい蕎麦も……悩むぅ!」

 

 

真由はメニューを見ながら悩んでいた。

すると真由の隣の刀奈がこそっと耳打ちした。

 

 

「真由ちゃん、真由ちゃん。私が温かいの頼むから、真由ちゃんは冷たい蕎麦にして、半分こにしない?」

 

 

微笑みながら刀奈が真由に尋ねる。

 

 

「えっ、いいんですか、刀奈さん」

 

「いいのいいの。それにさんづけなんていいのよ。私のことは刀奈お姉ちゃんで」

 

「……分かりました、刀奈お姉ちゃんっ!」

 

「うふふ、真由ちゃん可愛いわね」

 

 

刀奈は満面の笑みでそう呟いた。

 

その後、刀奈が玉子とじ蕎麦を。

真由は真や簪と同じおろし天ぷら蕎麦を注文する事となった。

 

 

十分ほどたって注文した蕎麦がテーブルに並べられる。

それを食べつつ、簪が真に言った。

 

 

「……今まで年越し蕎麦って一人か、本音と食べるだけだったから楽しいよ、真」

 

「それは俺もだよ。いつもは家族だけだったけど今日は簪が、皆がいる。にぎやかに食べるのはやっぱりいいもんだな」

 

 

真の言葉に簪が笑顔で頷いた。

その後、今年の出来事等、弾と虚の馴れ初めなどの話で食事の席は大いに盛り上がったのだった。

 

―――――――――――――――――

 

『ユキっ!頼めるなっ!』

 

『任せてっ!』

 

 

ファルセイバー、否。

今やその名のとおり輝く【グリッターファルセイバー】に同化した【ヒイラギ・ヨウタ】と【ヒイラギ・ユキ】の意志によってグリッターファルセイバーはその力を最大限に、限界以上に発揮させる。

 

 

『グリッターファルブレェェェド!』

 

 

グリッターファルセイバーの手に虚空から召喚される剣の柄。

敵を討つ力【力の至宝】、使命を司り境界の力を循環させる【記憶の至宝】、動力を兼ねた【生命の至宝】、そして全体の核【心の至宝】

 

4つの力と融合者が完全に心を一つにした際に生まれる究極の剣

柄に召喚されるのは、荘厳な勇者の剣。

 

 

『今だ、ファルセイバーっ!』

 

 

胸に獅子の顔を持つ勇者王が押さえ込んでいた敵機を投げ飛ばす。

 

 

『グリッターウェーブ!』

 

 

かつては敵として、今は共にファルセイバーと合体したブルーヴィクターの咆哮と共に、グリッターファルセイバーの胸部から高出力エネルギーが放射された。

 

勇者王に投げ飛ばされた敵機を剣を模したエネルギーで拘束する。

 

 

『この願い、未来へ持っていく!』

 

 

最強の必殺技である【エリアルフェアスパーク】で切りかかる。

 

 

『エリアルフェアスパァァァァク!!』

 

『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!』

 

 

渾身の一撃と咆哮。

 

 

『俺達の……勝ちだ』

 

 

敵機を切り裂いた後、ヨウタとファルセイバーが同時に拳を握り締めた。

 

 

「……カッコいいっ!」

 

「うん、このシーンは本当に鳥肌が立つくらいカッコいい。作画のレベルもトップクラス……!」

 

「ねぇ、簪さんっ!あの胸にライオンが付いたロボットは!?」

 

「あれはファルセイバーの1つ前の勇者シリーズで、ゲスト出演だけど、ファルセイバーとは昔からの仲の勇者王……!」

 

 

簪と真由が二人並んでテレビの前に座り、簪が真由に解説しながら目を輝かせている。

その様子を炬燵に入りながら真と刀奈は眺めていた。

 

蕎麦屋での食事を終えた真達はそのまま布仏家に戻る虚、本音、弾と別れて飛鳥家に戻っていた。

本来はそこで刀奈と蔵人も別れる予定であったが、意気投合した大胡と蔵人が酒盛りをするとのことで、ついでに刀奈も着いてきていたのだ。

にぎやかなほうが楽しいため、特に異も挟む事はなかったが。

 

余談だが現在テレビでは大晦日スペシャルとして【輝煌勇者ファルセイバー】の全話一挙放送が流されている。

簪が見たいと言い出したのと、真由が興味津々であった事が重なり現在真の部屋で見ているのだ。

 

 

「簪ちゃんと、真由ちゃん。何処かにてるわねぇ」

 

「あー、分かりますよ、それ」

 

 

真が炬燵の上に置かれているミカンを剥きつつ、答える。

 

 

「でしょ?見てて微笑ましいわ」

 

「真由も簪と刀奈さんに懐いてるっぽいですしね」

 

「一気に義弟と義妹が出来るなんて、最高ね」

 

 

クスクスと笑いながら刀奈が言う。

一切れミカンを口に含んだ真はジト目で刀奈を見るが、彼女は気にしていないようだ。

 

 

「父さん達いないからいいですけど……てかまだ下で酒盛りしてるんですか?」

 

「ええ。私が上がってくるまではお父様と大胡さん、玲奈さんとで色々と話しながら飲んでいたわよ」

 

「二人があんなに飲むなんて知らなかったなぁ。てか議長、じゃなかった蔵人さんも沢山飲んでますよね。蕎麦屋でもしこたま飲んでましたよね」

 

「お父様は家でも一番強いわよ」

 

「今ナチュラルのはずだってのに」

 

「お父様も楽しいのよ。家ではお母様にお酒を止められてるから。だからって少し羽目を外してるとは思うけど」

 

「……ま、年末ですし、たまにはもいいもんですかね。あー、炬燵最高」

 

 

そう言って残りのミカンを一気に口に含んで食べた真は炬燵に突っ伏す。

その様子を楽しそうに刀奈は眺めていた。

 

―――――――――――――――――

そして時刻は23:55

 

新年まで残り5分を切ったためか、年末特番でもカウントダウンが表示されていた。

 

 

「う……ん……後少し……」

 

 

真由は炬燵に突っ伏しながら僅かに残った理性で眠気への抵抗を続けていた。

だがもう敗北は寸前である。

 

 

「真由ちゃん、疲れちゃったんだね」

 

「もう寝落ち寸前ね」

 

「ですね。部屋まで運んできますよ」

 

「おっと、その役目は私よ。真君」

 

 

真由を彼女の部屋に運ぶ為に立ち上がった真であったが、すかさず立ち上がった刀奈がウインクしながらそう告げた。

 

 

「え?」

 

「お姉ちゃん?」

 

 

彼女の行動に真と簪は首を傾げる。

 

 

「真由ちゃーん。お姉ちゃんと一緒に真由ちゃんの部屋行きましょうねー?」

 

「刀奈おね……ちゃん……うん、分かった」

 

 

そっと真由を立ち上がらせた刀奈はそのまま真由の手を取り、真の部屋を出て行く。

 

 

「新年迎えるのは2人きりの方がいいわよねぇ?」

 

 

顔だけ扉に出した刀奈は楽しそうに笑ってぐっとサムズアップポーズをとった。

そして刀奈の行動の意図に気づいた。

 

 

「おっ、お姉ちゃんっ!」

 

「うふふ。それじゃ、頑張ってね!」

 

 

そう言って彼女は扉を閉める。

 

 

「あの人、絶対楽しんでるよな」

 

「……うん」

 

 

横目でチラッと簪を見る。

顔を赤くして同じように、真を見ていた簪と目があう。

 

 

「とりあえず座ろう」

 

「うっ、うん」

 

 

そう言って炬燵に真が入ると、すぐ横に簪が入ってくる。

その行動にドキリと心臓が高鳴った。

 

 

「……俺もさ、どうせなら2人きりがいいなとは思ってたんだ」

 

 

頬をかきながら真はそう告げる。

そして右手を簪の肩に回して抱き寄せる。

 

少しだけ驚いた様子を見せた彼女であったが、すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「……真。私も同じ。真と2人きりがいい」

 

「ああ。ならこのままでいいかな」

 

 

その言葉に簪が頷く。

新年まで残り1分を切っていた。

 

真のほうからそっと彼女の手を握る。

炬燵の暖かさとは異なる彼女の体温がとても愛おしく感じる。

 

 

「……あったかいな」

 

「うん、真の手もあったかいよ」

 

 

そしてテレビの電源を真は落とした。

時計を見ると残り三十秒で新年を迎える。

 

 

どちらとも目を閉じて、そっと唇を合わせた。

 

一分ほどそのままの状態であった二人が離れる。

テレビをつけるとすでに新年を迎えた映像が流れていた。

 

 

「簪、明けましておめでとう」

 

「明けましておめでとう、真」

 

 

そう言って微笑みあう。

 

 

「今年もよろしくな」

 

「うん。こちらこそ。去年行けなかった所とか二人で一緒に行こう?」

 

「そうだな。今から楽しみだ」

 

 

今、この場所は確かに幸せで溢れていた。

その後初詣に向かった二人であったが、真が新年早々おみくじで大凶を引いてしまったのは別の話である。

 




年末の更新で年末話。
久々に飛鳥家と弾も出ました。



次章予告
ラキーナ篇
【本当に救いたかった人】

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