【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

89 / 132
PHASE6 ぶつかり合う想い

絶対対空砲【アフタヌーンブルー】

BT各機を接続する事によって、BT粒子を加速/増幅させ絶大な威力のレーザー攻撃を可能にする兵器。

山林に建造されたこの兵器が【カムランの丘】作戦では最重要になっている。

 

対空砲の周囲を旋回し、警戒行動を行っている機体が2機。

【M.E.T.E.O.R】を装備した【ドレッドノートH】と【Xアストレイ】の2機である。

Xアストレイの【M.E.T.E.O.R】の形状は真達と同じくC.E.のモノがダウンサイジングされたものであるが、ドレッドノート用の【M.E.T.E.O.R】は形状が異なっていた。

 

背部ユニットはそのままであるが、機体を挟み込む様に展開される大型ビーム砲兼ビームソードユニットが巨大な【菱型】のシールドに変更されている。

これは束がドレッドノートの機体特性を鑑みて、再設計を行ったジェーンに依頼して通常仕様のモノから変更した代物であった。

 

 

『……始まったようだな』

 

 

カナードが作戦状況を確認して呟く。

投影ディスプレイには現在の作戦状況が司令部より送られてきており、囮組である真達が出撃した事を知らせていた。

 

 

『ええ。そのようですわね』

 

 

射撃体勢についているセシリアと旋回し、警備中のカナードがオープン回線で会話する。

彼女の背後で【BT3号機】【ダイヴ・トゥ・ブルー】を起動しているチェルシーがいる。

彼女の機体はBT粒子の供給源としてアフタヌーンブルーに接続されていた。

 

またその彼女の隣には女性士官が身につけた【BT2号機】【サイレント・ゼフィルス】も存在していた。

 

【サイレント・ゼフィルス】は学年別タッグトーナメント時に【偏向射撃】を覚醒させたセシリアによってマドカから奪還されており、歌姫の騎士団との最終決戦後に本国に送還されていたのだ。

【偏向射撃】の完全習得とIS奪還の功績によってセシリアの次期国家代表がほぼ内定しているのである。

 

 

『更識楯無はまだか?』

 

 

英国への到着の際に別れた楯無が、防衛班として参戦することはカナード達にも連絡が来ていた。

現在、彼女の到着を待っている状況だ。

 

 

『んっ、噂をすれば、彼女から通信きたよ、繋ぐ?』

 

『頼む』

 

 

りょうかーいと司令部の束が返事をすると、通信用のディスプレイが展開される。

そこに映るのは水色の髪の国家代表、更識楯無。

 

どうやら大型ブースターなどを装備してかなりの速度で移動しているようだ。

 

 

『はぁい、呼んだかしら。カナード君?』

 

『到着まで後どれくらいかかる?』

 

『そうね、この速度だと後10分程度かしら』

 

『……10分か』

 

 

10分、通常ならば短い。

だが戦場では戦況が覆りうる出来事が数度発生してもおかしくない時間。

 

 

『……なるべく急いでくれ』

 

『ええ、分かってるわ』

 

 

そう言って通信が切れる。

それを確認したカナードが司令部に連絡をいれた。

 

 

『司令部、これよりアフタヌーンブルー周辺にALを展開する』

 

『りょーかい!カナ君、その武装は結構扱いが難しいから気を付けてね!』

 

『ああ、分かっている。分離型アルミューレ・リュミエールユニット【ハイペリオン】起動』

 

 

菱型のシールドがさらに細かな4つの菱型に分離、両方合わせて8枚の菱型片がアフタヌーンブルーの砲口を頂点として七角錐の形に展開される。

 

そして、菱型片がそれぞれALを展開しながら浮遊し、別の菱形片が生み出すALと連結していく。

薄緑色の光の膜がアフタヌーンブルーを七角錐型に包み込んだ。

 

 

『……綺麗』

 

 

思わずクロエはそう呟いた。

薄緑色の柔らかな光が自分達を包んでいる不思議な光景に声が漏れたのだ。

 

 

分離型アルミューレ・リュミエール【ハイペリオン】

カナードの【M.E.T.E.O.R】に搭載された菱型のシールドの正式名称である。

その正体はモノフェーズ光波シールドであるALを広範囲に展開する専用武装だ。

 

単体としては破格の防御性能を持つALを広範囲かつ強力に展開できる武装だが、【M.E.T.E.O.R】の様な支援ユニットなしでは実戦仕様状態でも1分でエネルギーが切れてしまう欠点がある。

その為に使いどころがなかったが今回の作戦のように防衛作戦では非常に有用であるため為、日の目を見れたのだ。

 

またこの武装にはカナード自身が命名したという経緯があった。

かつて彼が搭乗していたMS、【高き天を行く者】と言う意味の【ハイペリオン】

 

ALを搭載した最初の機体であり、彼の象徴とも言っていいMSである。

今回装備した武装の出力はまさに【絶対防御】とも言えるレベルで高いため、その名を冠するには相応しいと彼は考えている。

できれば無限動力化もしたいとも考えているが、技術的にそれは難しい為頓挫している状況だ。

 

 

『ALの正常展開を確認。一旦ALを解除する』

 

 

カナードの操作の後、展開された七角錐型のALは消失した。

しかし展開している菱形片は浮遊したままである。

 

 

『カナードさん、その装備は?』

 

『拠点防衛用装備……と言ったところだ。アフタヌーンブルーもジャミング等で正確な位置を隠蔽しているようだが、狙撃手が逆に狙撃されたら目も当てられないだろ?そのための装備だ』

 

 

大気圏外から正確な狙撃が可能なエクスカリバーに対して、アフタヌーンブルーの防衛力はお世辞にも優れているとは言いがたかった。

そのため破格の防御能力を持ち、内側からの攻撃を通すことが出来るモノフェーズ光波シールドは最適解である。

 

 

『さて、どうなるかだな』

 

 

ALの展開が可能になったため少しだけ息をついてカナードが呟く。

 

 

(真さん、一夏さん、皆さん。信じています、どうかご無事で……っ!)

 

 

アフタヌーンブルーに接続された狙撃端末を構えてセシリアが心中で呟いた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

無人機フリーダムとジャスティスをラキーナとアスランに任せた真達は地球の重力を振り切って、漆黒の宇宙空間までたどり着いていた。

 

地球の引力圏から随分と離れた宙域、エクスカリバーが存在する座標まではあと少し。

そんな時、ふと一夏は振り返って母なる星を眺めた。

 

 

『……地球って綺麗なんだな』

 

 

それが一夏の心からの感想であった。

青く輝く水の星、地球。

 

エクスカリバー迎撃作戦でなかったらずっと見ていたくなる程の光景だ。

有名な宇宙飛行士の「地球は青かった」と言う言葉も今ならはっきりと共感できる。

きっと美しかったから思わず出てしまった言葉なのだろうと。

 

 

『一夏?』

 

 

一夏の傍で機体を加速させていた箒がそれに気づいて紅椿を停止させる。

 

 

『あ、いや、悪い。すぐ向かう』

 

 

白式・雪羅を再び加速させてすぐに箒に追いつく。

少し止まっていたためデスティニー達には少し遅れてしまっているがすぐに追いつけるだろう。

 

 

『どうかしたのか?』

 

『いや、地球ってホントに綺麗だなって考えたら、足が止まってたんだ』

 

 

子供のように無邪気に笑顔を浮かべた彼に、こんな時であるがときめいてしまった箒は頬を朱色に染めながら返す。

 

 

『そっ、そうだな……私もそう思うぞ』

 

『……なおさらこんな綺麗な星を荒らされるとか考えたくないな』

 

『……ああ、そうだな。だから私たちはここにいる』

 

 

一瞬作戦を忘れてしまったことに自己嫌悪したが、すぐに思考を切り替えた。

少し前の箒ならばここで恋心を優先させていたかもしれないが、今の彼女は違った。

ここは戦場であり、少しの油断が取り返しのつかないことに発展するかもしれないからだ。

 

図らずも歌姫の騎士団との戦いの経験が彼女を成長させていたのだ。

 

 

『っ、散開しろっ!』

 

 

先行したデスティニーを駆る真の声が通信ディスプレイから響く。

その言葉に咄嗟に機体を横に動かす。

 

先程まで一夏と箒がいた空間に、上方と下方から同時に翡翠色のビームが降り注いだ。

発射した物体はセシリアのビット兵器に酷似した無線式の移動砲台。

 

 

『あれかっ!』

 

 

白式・雪羅に進化した際に発現した【荷電粒子砲】を放つ。

しかし、そのドラグーンはまるで意志を持っているかのようにその射撃を躱す。

一夏が射撃にあまり慣れていないのもあるが、その機動はクイックかつ滑らかであった。

 

そして、真はそのドラグーンが誰のモノであるかを知っている。

 

 

『あのドラグーンっ!』

 

 

【M.E.T.E.O.R】の大型ビームライフルから極太のビームが発射された。

牽制用にしてはあまりの高威力の代物であるが、ドラグーンを巻き込めれば御の字である。

 

しかし、そのビームもドラグーンは躱し、本体へと戻っていく。

 

 

『【ホワイトネス・エンプレス】!』

 

 

ラクス本人が搭乗していた機体である【ホワイトネス・エンプレス】と同様の機体が真と簪の目の前に現れた。

最終決戦の際に身につけていた背部の手にも、天使の翼にも見える【エンブレスユニット】も健在であった。

 

だがいくつか相違点があった。

 

 

(搭乗者がいない無人仕様……?それに翼、VLユニットが変わっている?)

 

 

現在のホワイトネス・エンプレスには搭乗者が見られない。

それについては相手はAI、生身の身体など持ってはいないだろうことから予測はしていた。

 

だがVLユニットの形状と色が変わっている事が真には気になったのだ。

以前のホワイトネス・エンプレスの翼はデスティニーガンダム・ヴェスティージよりも少し小さく、優雅さを感じさせる様な白色だったはず。

 

だが今はまるで血の様に紅い色をしている。

ホワイトネス・エンプレスは【VPS装甲】を搭載している為、通電率を変更すれば機体色も変化させることは可能だ。

 

余談ではあるが、VPS装甲の通電率を高レベルに設定した場合、赤色の高強度状態となる。

この状態であればビームに対してある程度の耐性を得ることもできる。

近接戦闘用のソードインパルスのVPS装甲が赤色なのはこれが理由だ。

 

また反対に通電率を低レベルに設定する場合の装甲色は黒色となる。

こちらはVPS装甲の中でもビームに対して最も脆弱になってしまうが、その分エネルギーを別に利用する事が出来る。

コンセプトを超高機動に変更したMS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】がこれに当てはまっている。

 

――閑話休題

 

 

現れたホワイトネス・エンプレスを分析していると、ディスプレイが展開される。

 

 

『シン、会いに来てくれたのですね』

 

 

桃色の髪に柔和な笑みを浮かべた美女【ラクス・クライン】の姿が映っている。

おそらくはイメージ、アバターの様なものだろう。

だがその姿はかつての彼女と寸分たがわない、本当に生きているかのように真には感じられた。

 

 

『千冬さん、ラウラ』

 

 

ラクスの言葉を無視して、ラファールを駆る千冬と【シュヴァルツァ・レーゲン】を駆る2人にプライベートチャネルを繋げる。

 

 

『俺と簪が奴の相手をします。VLユニットがあれば奴の【単一仕様能力】は防げますし、何よりも俺は一度奴を倒してます。エクスカリバーの座標まであと少し、先に行ってください』

 

 

有無を言わさず真が告げる。

飛鳥真としてではなくシン・アスカとして、戦闘経験だけならば彼は千冬よりも多い。

それを分っていたかのように、2人はうなずく。

 

 

『……良いだろう、だが死ぬなよ。更識、真の指示には従え。こいつは私よりも戦闘経験が多いからな。力になってやれ』

 

『っ、はいっ』

 

『……ありがとうございます。【M.E.T.E.O.R】のミサイルで援護しますからエクスカリバーの方、よろしくお願いします。ラウラも頼んだっ!』

 

『了解した、真っ。ヤツは頼む。エクスカリバーは一夏と私たちで何とかするっ!』

 

 

通信を切ると同時に、デスティニーと飛燕の【M.E.T.E.O.R】背部ミサイルコンテナが開き、まるで嵐の様にミサイルが射出されていく。

その狙いは【ホワイトネス・エンプレス】ただ1機に絞られている。

 

数発のビームを放つが数の暴力には勝てずに、ホワイトネス・エンプレスはミサイルの回避を選択した。

 

 

『行くぞ、私達はエクスカリバーに向かうっ!』

 

 

ミサイルを回避しているホワイトネス・エンプレスを確認した千冬が一夏達に叫び、スラスターを噴かす。

ラウラ、シャルロット、鈴がラファールを追いかけていく。

箒もそれに続こうとしたが、一夏が止まっている事に気付いた。

 

一夏は真に通信を繋げていたのだ。

 

 

『真っ!負けんなよっ!』

 

『ああっ!エクシアさんとエクスカリバーを頼むっ!』

 

『任されたっ!』

 

 

白式・雪羅が力強くスラスターを噴かして先に向かった千冬たちを追いかけ飛翔していく。

千冬たちの行動を止めるそぶりすら見せずにディスプレイ上に映っているラクスは微笑む。

 

 

『こうして【私】が顔を合わせるのは初めてでしたよね?初めまして、シン・アスカ』

 

 

彼女の言葉に答えるかのように、真は即座にビームライフルのトリガーを引いた。

放たれたビームは真っ直ぐにホワイトネス・エンプレスに向かうが、命中の直前にまるで見えない壁に阻まれるかのように軌道が逸れ、後方に流れていった。

 

 

『【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】、健在か』

 

『それってたしかビームを捻じ曲げるバリアみたいな装備だよね?』

 

『ああ、ゼロ距離かよほど高出力じゃないと逸らされると思う。やっぱり接近戦で決めるしかないか。簪、【M.E.T.E.O.R】はパージしてVLユニットを展開してくれ。出力は通常時よりも高めておいてくれ、じゃないと奴の能力を喰らう可能性がある。後2種類の【ドラグーン】を使ってくるから視野を広く持ってくれ』

 

『分かった』

 

 

飛燕の簪とプライベートチャネルを開き、相手に悟られることなく情報を伝える。

特に後者、【生体支配】は喰らったら最後、奴の思うがままに操られる能力だ。

幸いデスティニーと飛燕のVLユニットは生体ナノマシンをその機能で無効化できる。

常に出力を上げていればこれに引っかかる事はないはず。

 

デスティニーと飛燕の機体から【M.E.T.E.O.R】がパージされる。

そして広がる2つの光の翼。

 

 

『つれないですわね、シン。せっかくこうして会えたと言うのに』

 

『俺は会いたくなんかなかったさ』

 

 

手持ちのビームライフルは相手との相性が最悪であるため格納する。

そしてデスティニーが持つ実体兵器の1つである【アロンダイト】を展開する。

 

同じく飛燕もビームライフルを格納し、左腕に【バルムンク】を展開する。

加えて右腕にパイルバンカー【リボルビング・ステーク】を展開。

実体兵器の搭載数がデスティニーよりも多い飛燕ならば、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開しているホワイトネス・エンプレスにも有効打を与えることができる。

 

この時点で2人の作戦は決まっていた。

 

 

(俺が攪乱して、簪が一撃加える。隙を見てデスティニーでもダメージを与えられるはずだ)

 

 

デスティニーのVLユニットから光の翼が広がる。

 

VLユニットから得られる爆発的な加速力をもって、デスティニーがホワイトネス・エンプレスに接近する。

振りかぶったアロンダイトを振り下ろすが、ホワイトネス・エンプレスも【ビーム手刀 カラミティ・エンド】を起動して防ぐ。

 

ビーム粒子が干渉して火花を散らして鍔迫り合いの状態になるが、すぐにその状態は解かれることになる。

 

もう1つの蒼い光の翼が、ホワイトネスエンプレスの背後から迫っていたからだ。

右マニピュレータに装備されたパイルバンカー【リボルビングステーク】の撃鉄はすでに起きている。

 

 

『はぁっ!』

 

 

パイルバンカーの一撃。

地球上であれば炸裂弾薬が炸裂した際の炸裂音が響いただろうが、ここは宇宙空間の為炸裂音は響かなかった。

 

しかしパイルバンカーの一撃はホワイトネス・エンプレスには届かなかった。

紙一重でその一撃を、もう片方のビーム手刀でいなしたからだ。

 

だがそこで簪の攻撃は終わらなかった。

パイルバンカーをいなされた彼女であったが、すぐさま背部に【マルチロックオンシステム搭載ミサイルコンテナ】を4つ展開した。

視線でのマルチロックオン式な為、彼女の視線がホワイトネス・エンプレスの各部位を捉え、ロックオンが完了。

 

真もその攻撃は予測していたため、すぐさまホワイトネス・エンプレスから離れた。

 

 

『これでぇっ!』

 

 

射出されたミサイルの嵐が、ホワイトネス・エンプレスに襲い掛かる。

ホワイトネス・エンプレスの翼にも見える大型パッケージ【エンブレスユニット】からドラグーンが射出された。

 

迫るミサイルに射出されたドラグーン達がビームを放つ。

ドラグーンの迎撃行動でミサイルが連鎖爆発していく。

 

だが爆炎の中から広がる光の翼――【デスティニー】だ。

 

 

『はぁぁぁぁっ!!』

 

 

アロンダイトを振り上げて、ドラグーンを2基切り裂く。

切り裂いたと同時にホワイトネス・エンプレスのエンブレスユニットの掌にも見える箇所からビームが発射された。

 

 

『ビームならっ!』

 

 

光の翼を広げてデスティニーは迫るビームに対して【単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)】を発動。

発射されたビーム全てがデスティニーの光の翼に吸い込まれていく。

そして取り込んだビームの分だけ、光の翼はより大きく広がっていく。

 

その光景にディスプレイに映るアバターのラクスが驚愕の表情を浮かべた後、微笑んだ。

 

 

『……ふふ、どうやらオリジナルの【私】と戦ったときよりも、アナタは強くなられたのですね、シン』

 

『だから何だって言うんだよ』

 

『ふふ、嬉しいのですよ、私は。愛しいアナタがより逞しく、強くなる事に喜びを感じない女がいますか?』

 

 

微笑から狂喜に彼女の表情が変わる。

 

 

『愛シクて、愛シクて……アナタを壊したイ。壊しタくてタまらないのです、シンッ!』

 

 

ノイズが混じった様な声。

それに反応したのは真ではなく簪であった。

 

 

『……勝手なことを言わないでっ!』

 

 

ラクスに向かって叫ぶ。

 

 

『アナタは彼のこと、何も見ていない! 一方的に感情をぶつけてるだけ、そんなの愛なんかじゃないっ!』

 

 

バルムンクを砲撃モードに切り替えて、高出力ビームを放つが、【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】を展開している【ホワイトネス・エンプレス】相手では効果が薄いようで、弾かれてしまった。

そんな飛燕にプライベートチャネルを繋げる。

 

 

『……簪、ビームは全て俺が無効化する。二人で一気に決めるぞ』

 

『うん、分かった。タイミングは合わせるよ』

 

『うん。それと……ありがとな、嬉しかった』

 

 

少しだけ照れたように真が返し、それに簪が笑みを浮かべた。

2機が散開して、再び攻勢をかける。

 

 

『……私がシンを見ていない……ですか。言ってくれますね』

 

 

ラクスの声に明らかに怒気が混ざる。

その怒気を現すようにドラグーンを放つ。

 

通常の遠隔無線砲台としてのドラグーンではなく、スパイクドラグーンとして射出したようで【ビームスパイク】を発生させている。

そのうちの1基が回避行動を取っていた飛燕を捉えていた。

 

 

『こんなのっ!』

 

 

迫るスパイクドラグーンを飛燕は手にしたバルムンクで受け止める。

 

 

『アナタなんかに真は渡さない、絶対にっ!』

 

 

そのまま切断しようと力を込めた瞬間だった。

それを見て、ディスプレイ上のラクスが笑みを浮かべた。

 

 

『いいでしょう、なら見せてあげますわ。彼の戦士としての姿をね』

 

 

その言葉が簪の耳に届いた瞬間、簪の視界はブラックアウトした。

 

――――――――――――――――

 

市街地から上がる火の手に煙、空を飛び回る人型の巨大機動兵器。

海には多数の軍艦が見え、絶えずCIWSやビームが発射されていた。

先程までに宇宙空間にいたはずの私がいつの間にか空中に浮かんだ形で、それを見下ろしていた。

 

 

(……え?)

 

 

そして気づくと、頭上にいるホワイトネス・エンプレス。

先程までの姿とは違い、生身の桃色の髪の女性が機体を身にまとっている。

 

 

『ここは彼の【記憶】……といっても理解はできないでしょうね、貴女には』

 

(何を言って……声が出ない……っ!?)

 

 

彼女に向かって疑問の声を発したはずだが、その声は出てこなかった。

他の言葉を発しても音として出てこない。

 

 

『貴女はここでは見ることしかできませんわ。さあ、彼の戦士としての記憶、最初の凄惨な記憶をお楽しみ下さい』

 

 

そういった彼女は目の前から消えた。

ミラージュコロイドを使用したステルスなんかではなく、目の前から完全に消失した様に見える。

 

 

(一体これは……【単一仕様能力】なの……?)

 

 

この現象の原因として思いつくのはISの特殊能力である【単一仕様能力】だ。

だが、真から聞いた情報によると【ホワイトネス・エンプレス】の【単一仕様能力】は【生体支配】だったはず。

機体が同じであったためか、先入観で能力も一緒だと考えていたのかと、そこまで考えたときであった。

 

 

「ああ、マユの携帯っ!」

 

 

と言う少女の声が聞こえた。

その声は、真の妹の真由ちゃんに酷似しているようであった。

 

 

(あれは……真に真由ちゃん?)

 

 

飛鳥家には交際の挨拶の際に伺っており、彼の父親である大胡や玲奈にも会ったことがある。

今山間を駆けて避難している一家は飛鳥家に酷似している。

 

もちろん、真もだ。

初めて会った時よりも幾分か幼く見えるが彼を見間違えたりはしない。

 

 

「僕が行くっ!」

 

 

彼が妹の真由ちゃんに似た少女と両親にそう叫んで崖を飛び降りる。

そして彼女が落とした携帯電話を拾い上げて安堵の息をついたときに、空が光った。

 

 

(っ!?)

 

「うっ、うわぁぁぁっ!?」

 

 

爆発が彼を吹き飛ばして地面に叩き落した。

爆発に私も飲まれたはずなのに、影響を全く受けてはいなかった。

 

数十m下にあった軍港らしき施設に落下した彼は、頭から血を流し、視点があっていなかった。

爆発がクッションになったのか、明らかに重傷を負う高さからの落下にも関わらず負傷は軽く見える。

 

 

(真っ!!)

 

 

彼には聞こえない声で叫ぶ。

だがすぐに彼は立ち上がった。

 

 

「っ、今の……っ、父さん、母さん、マユっ!」

 

(よかった……っ!?)

 

 

立ち上がった彼に私は安堵の息をついた。

だけど、すぐそばにあった【もの】に気づいてしまった。

 

――それは決して別れた状態であってはいけない物だった。

 

 

「あっ……ああっ!!!」

 

 

彼の目の前にある【物体】、それは【腕】であった。

幼い少女の腕が千切れた状態で転がっていたのだ。

 

すぐそばにはひしゃげた、すでに事切れているであろう少女であった物体。

同じように血の池の中に沈んでいる彼の両親。

 

さっきまで命であったモノ、それが辺り一面に転がっている。

 

爆炎がその物体を焼き、辺りには肉のこげる臭いが漂っている。

 

 

「ああああっ!! とうさん、かあさ……マユ……っ!」

 

 

この世の地獄かとも思える光景に彼はただ嗚咽の混じった泣き声を上げることしかできなかった。

それは私も同じで、どういう訳か目を逸らすことが出来なかった。

 

涙が溢れる。

目を逸らすことが出来なくて、嗚咽が自然と洩れていた。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

彼が形見となってしまった携帯電話を握り締めて慟哭の叫びを上げた。

空には見覚えのある翼を持った機動兵器がその力を存分に振るっていた。

 

これが戦争に巻き込まれるということなのか。

ラクスが言っていた、彼が体験した凄惨な記憶の1つだというのか。

 

 

(こんなの……酷い……っ!)

 

 

そう思ったとき、辺りの風景がまるでノイズの様に乱れ、一変した。

 

雪が降る廃墟と化した町、酷く鼻につく硝煙の臭い。

大破した巨大人型兵器が横たわっており、傍に同じ頭部デザインの人型兵器が鎮座している。

 

その足元に誰かがいた。

 

 

(今度は何……っ?)

 

 

足元にいるのは彼であった。

先程よりも若干成長した様に見えるが、初めて会った時よりも少しだけ幼く見える。

 

 

「ステラっ!ステラっ、目を開けてくれっ……!」

 

 

以前着ていたISスーツと同じデザインのパイロットスーツを身に着けた彼は、横たわる傷だらけの少女を抱き上げた。

傷だらけの少女は小さく呻き声を出しながら瞳を開いた。

 

胸や足に何かの破片が深々と突き刺さり、絶えず血が流れている。

素人目から見ても致命傷であった。

 

 

「シ……ン……」

 

「あぁっ、俺だっ!シンだよっ!」

 

 

彼女の手を握って彼が叫ぶ。

充分に握り返す力も彼女には残っていないのか、僅かに握り返すだけであった。

 

 

「シン……来てくれた」

 

「ステラっ!俺は、君を、守るって、守るって言ったのに……何も、何も出来なかった……っ!」

 

 

涙を零しながら懸命に彼は彼女に呼びかけている。

 

だが――

 

 

「シン、好き……」

 

 

その言葉を伝えた直後、彼女の身体がガクンと力なく垂れた。

 

 

「ステラッ!!」

 

 

彼が叫ぶが、もう彼女は反応を示さなかった。

 

 

「ぐっ、ううっ、あっ……あぁ……っ!!」

 

 

嗚咽交じりの彼の声と、涙。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

叫ぶ。

その悲しみの咆哮が、私に酷く突き刺さった。

 

 

そして、また辺りの風景がまるでノイズの様に乱れ、一変した。

 

――――――――――――――――

 

『簪っ!どうしたんだよっ!聞こえてないのかっ!?』

 

 

スパイクドラグーンの攻撃を受け止めて弾き返した直後から反応を示さなくなった飛燕にデスティニーが寄り添い、簪の表情を伺う。

 

虚ろな瞳で表情はニュートラル。

VLユニットから溢れる光の翼は依然として青く輝いているが、ユニット自体がガクンと力なく垂れている。

 

似たような姿を彼は見たことが合った。

ラクス本人のIS【ホワイトネス・エンプレス】の【単一仕様能力】、【生体支配】に支配された際の千冬だ。

 

 

『どうやって【生体支配】をっ!』

 

 

真がラクスに叫ぶ。

ディスプレイ上に表示されているラクスの表情は笑み。

嘲笑の類に含まれるものであった。

 

 

『ふふ、先入観と言うものは恐ろしいですわね。いつ【私】の【ホワイトネス・エンプレス】の【単一仕様能力】を【生体支配】といいましたか?』

 

『っ!?』

 

 

真は思い込んでいた。

機体が同じならば能力も同じだろうと。

その先入観のせいで自分の大切な、最も大切な人間が危機に陥っている。

悔しさからか、唇をかみ締めて血が滴っていた。

 

 

『私の【ホワイトネス・エンプレス】の能力は【生体支配】ではありませんわ。そうですわね、名前をつけるのならば……【電脳楽園(サイバー・ジェイル)】でしょうか』

 

『【電脳楽園(サイバー・ジェイル)】っ!?』

 

『そうですわ、シン。まぁ、結局はナノマシンを経由しての【生体支配】に近いですが。ああ、VLユニットでナノマシンを無効化されることは存じていましたよ、なので直接彼女に打ち込ませてもらいましたわ。彼女の精神を切り離して、隔離してアナタの【シン・アスカ】としての記憶を送り込んで差し上げました。本当の意味で彼女はアナタの過去を身をもって体験しているのですわ』

 

『そんなこと、いくらISだからって……っ!?』

 

 

そこまで言って気づいてしまった。

出来る、いや出来てしまうのだろうと。

 

自分がISに乗れる理由は2つ。

ISのコアネットワーク内にある【絶対基準】を2つ満たしているからだ。

 

1つはS.E.E.D.を宿しているから。

そしてもう1つ。

 

 

『コアネットワークに、俺の記憶があるのかっ!?』

 

 

この平和な世界では決して得ることが出来ない絶滅戦争を乗り越えた記憶。

彼と同じ男性搭乗者であるカナードがISを動かせる理由でもある。

 

 

『ええ。貴方が初めてISを起動した際、【シン・アスカ】としての記憶全てをISのコアネットワークは読み取って記憶しておりますわ。カナードやアスラン、そしてキラであるラキーナや他のC.E.から生まれ変わった【人間】達からも』

 

『そんな事って……っ!』

 

 

彼女からの情報からどうやって彼女を救い出すか考える。

だがあまりにも規模のでかい能力であり、どうやっても対応策など浮かんでこない。

 

 

『さあ、真、どうしますか? 私のモノになるというのならば、彼女を助けることもやぶさかではありませんよ?』

 

 

ラクスが真に提案するが、受けるつもりなど毛頭ない。

 

 

(どうすれば、どうすれば助けることが出来るっ!?)

 

 

反応を返さない彼女を見つめたときであった。

 

すらりとした生身の手が簪の頬に触れる。

――宇宙空間なのに【生身】の【手】であった。

 

 

『っ!?』

 

 

驚愕した真が振り返る。

そこにはその手の持ち主である【セミロングの金髪】に、白いワンピース姿の少女がいた。

 

その少女を真は知っている。

 

 

『デスティニー……っ!?』

 

 

『うん、私だよ。真』

 

 

IS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】のコア人格。

今その少女が真の目の前にいた。

 

 

『なっ、何でデスティニーが……?』

 

『そんなの、簪お姉ちゃんを助けるために決まってるでしょ』

 

 

そう笑みを浮かべて真に告げたデスティニーの背後からピコっと髪の毛が飛び出しているのに気づいた。

彼の視線が自身の背後に向かっていることに気づいた。

 

 

『ほらー、もうさっさと出てきてよぉ、アナタが出てこないと始まらないでしょっ!』

 

『あっ、ちょっと……っ!』

 

 

デスティニーが自身の背後の少女を引っ張り出して真の目の前に連れ出す。

 

デスティニーと同じくらいのセミロングの黒髪に紅い目。

彼女もデスティニーと同じワンピースを身に纏っていた。

 

 

『はっ、初めまして……』

 

その少女が若干おどおどした様子で頭を下げた。

 




この展開だけはやりたかった。


次回予告「PHASE7 二人で」


『俺達は二人一緒に前に進むっ!』



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。