【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE4 歌姫の残滓

イギリス空軍基地 ブリーフィングルーム

 

 

セシリアとチェルシーの決闘が終わり、チェルシーは抵抗もせずに降伏した。

そして彼女自身から伝えるべき情報を伝えるとの事で、一向はブリーフィングルームに場所を移していた。

彼女は特に拘束されることもなく、テーブルについている。

セシリアとの決闘で乱れたメイド服の変わりに、今は軍服を貸与されていた。

 

 

「今回の件について詳細から話して貰えるだろうか、ブランケット嬢」

 

 

エーカー少佐がそう言って用意した紅茶を彼女の前に差し出す。

 

 

「そうですね、それではまずは今回の発端となったエクスカリバー……米国と英国が秘密裏に運用していた攻撃衛星、と言うのは建前。 あれは【生体融合型】のISです」

 

 

1人を除いてこの場にいる全員がその情報に驚愕の表情を浮かべた。

唯一の例外は、ISの生みの親【篠ノ之束】であった。

 

 

「確かに、人間を【生体CPU】としてISに組み込むことで飛躍的に性能を高めることができるよ。これを見つけたのはラクスで、あんまりにも非人道的だから公開はしてないけど」

 

 

開発者からの存在の肯定。

【生体CPU】と言う言葉に脳裏に蘇る、【ステラ】の姿。

頭を振って真はその姿を振り払う。

 

そしてチェルシーが続ける。

 

 

「何故、そんなことに詳しいかというと……エクスカリバーの生体CPUとして利用されているのは、私の大切な妹【エクシア・カリバーン】……探し続けていた妹なのです」

 

 

それに一番驚いたのは家族であるセシリアだ。

 

 

「チェルシーに、妹? 聞いたことはありませんでしたわ」

 

「……ええ、いたのですよ。戸籍からも抹消された妹が」

 

 

少しだけ声が震えていた。

常に瀟洒な雰囲気を身に纏った彼女を知っているセシリアにとって、初めて目にした彼女の姿。

その事実を知った時の彼女の心情は想像に難くない。

 

 

「そして、シン・アスカ……いえ、飛鳥真。今回のことは貴方達にも関係があることです」

 

「……歌姫の騎士団ですか?」

 

「はい」

 

 

半ば予想していた答えに真達の表情は曇る。

 

 

「BT3号機を強奪した私はそれを手土産に歌姫の騎士団残党に接触しました。彼等は亡国機業を取り込んでいますからね、今回の暴走事件についてとエクスカリバーの情報を知ることができました」

 

「……エクスカリバーの暴走原因は何だ?」

 

 

カナードが根本的な原因について切り込む。

 

 

「暴走した原因、それは【ラクス・クライン】が原因なのです」

 

 

その回答に真は声を上げた。

 

 

「そんな馬鹿なっ!ラクスは俺の目の前で死んだはずだっ!」

 

 

真の言葉通り、ラクスは最終決戦時に彼の目の前で自ら命を絶った――絶ったはずなのだ。

 

 

「ええ、【本物】のラクス・クラインはすでに死亡しています。しかしエクスカリバーの中にバックアップとでも言いますか、ラクス・クラインの思考データが現存しているのです。 今回の事件を引き起こしたのはその思考データです」

 

「思考……データ?」

 

 

チェルシーの言葉に驚愕の表情を浮かべながら真はその言葉を反芻した。

 

 

「ええ、生体融合型と言う特殊な下地を持ったISに自我を持たせることができるかの実験を行っていたのです。 ラクスの存在を永遠のモノにでもしたかったのでしょう。それが成功してしまった故、今回の事態が起こったのですが」

 

「……成程、その【AI ラクス・クライン】が今回の黒幕か」

 

 

合点がいったという具合にカナードが呟く。

 

 

「ふむ、テロリストが用意したAIが暴走しているという事だな、ブランケット嬢?」

 

「はい、その認識で間違いありません」

 

 

C.E.の事を知らないエーカー少佐はラクス・クラインの事をテロリストとして認識している。

チェルシーもわざわざ事態を混乱させないためそれ以上の説明はしなかった。

 

 

「でもなら何でラクスは俺達との戦いのときにエクスカリバーを使わなかったんです? それに映像にもあった無人機、完成度はかなり高かったとも思うんですけど?」

 

「確かにな。デストロイだっけ、あのでかいISだけで手一杯だったんだから、宇宙から狙われたらやばかったと思うんですけど」

 

真がずっと疑問に思っていたことをたずねる。

加えてデストロイと相対した一夏が真の疑問を肯定して続ける。

 

その背後ではエーカー少佐がISの無人機について驚愕していたが、千冬が彼に事情を説明していた。

それを確認したチェルシーが回答する。

 

 

「私が入手した情報によると、【AI ラクス・クライン】にはある欠点があったとの事です。その欠点が具体的に何かは分かりません。そして無人機はエクスカリバーを母機として行動するように作られているらしいので、エクスカリバーが休眠状態であったため使われなかったのだと思います」

 

「欠点……ねぇ」

 

 

束が引っかかったように呟いたが、それは彼女以外誰にも聞こえないほど小さな声量であった。

 

 

「また無人機か……。奴等はどれだけ戦力を保持しているんだ」

 

「デュノア社の設備を使って生産していたとの事です。行動がAIの出来に左右されてしまうという欠点はありますが、数を揃えられる点、搭乗者に縛られない点等から見ても無人機は有用なのでしょう」

 

 

千冬の呟きに、チェルシーが返す。

 

 

「すでに残党の旗艦であるエターナルは宇宙で展開しているでしょう。そしてエクスカリバーは英国本土を射程圏内に収めています。その狙いは女王陛下の宮殿、もはや猶予は少ない」

 

 

英国の象徴である宮殿をテロリストがISを使用して攻撃する。

もし実行されてしまえば、大きな社会問題に発展するだろう。

 

エーカー少佐が部下を呼び、指示を出す。

 

 

「オルコット嬢から預かったブルー・ティアーズの接続作業を急げ、大至急だっ!」

 

 

敬礼した部下は走りながら部屋を出て行く。

それを確認したエーカー少佐がチェルシーに視線を合わせる。

 

 

「非常に有意義な情報提供感謝する、ブランケット嬢」

 

「いえ、このような事しかできずに申し訳ありません。BT3号機強奪の件、 罰を受ける覚悟は……できています」

 

 

いくら有意義な情報を提供したからといって彼女が行った行為が帳消しになるわけではない。

チェルシーは視線を伏せた。

 

 

「……私の一存で君の処遇を決定することはできない。 全ては終わった後になるだろう」

 

 

そう言ってエーカー少佐は微笑みながらチェルシーの肩に手を置く。

全ては終わった後、それまでは罪には問わない。

エーカー少佐は暗にそう言っている。

 

 

「君と同じ立場ならば……同じ行動をしたかもしれない。 全てが終わった後、できる限りの事はさせてもらうつもりだ」

 

「……ありがとうございます、少佐」

 

 

チェルシーの返事を確認した後、エーカー少佐は真達に向きなおす。

 

 

「聞いたとおりだ、すでに猶予はない状態になってしまった。 君達の力を貸して欲しい」

 

 

深く頭を下げてエーカー少佐が協力を請う。

 

 

「承知しました、IS学園はただいまより英国のエクスカリバー破壊作戦【カムランの丘】に協力させていただきます」

 

 

千冬がそう言って皆を見回す。

全員が頷いて同意を示した。

 

 

「ご協力感謝します」

 

 

エーカー少佐は再度頭を下げて感謝の意を伝える。

それから作戦におけるチーム分けが、エーカー少佐と千冬から説明された。

 

 

「狙撃を担当する狙撃班にはオルコット嬢、連携を考えてブランケット嬢に入ってもらう」

 

「了解しましたわ」

 

「承知しました、エーカー少佐」

 

 

セシリアとチェルシーが互いに微笑みあって頷く。

 

 

「そして狙撃班を防衛する人員も必要だ。 そこにはパルス兄、お前にオルコットの防衛を頼みたい」

 

「……なるほど、ドレッドノートのALか」

 

「ああ。そしてお前との連携を考えてクロニクル、お前にも付いてもらいたい」

 

「承知しました、千冬様」

 

 

クロエが頷いて答える。

 

 

「そして囮班は残りの全員……なのだが、情けないことに私の【暮桜】では宙間戦闘は心もとない。私は【ラファール】を1機貸与して貰って出撃する予定だ」

 

「腰をすえて改良できる予算と時間があればなぁ……。ごめんよ、ちーちゃん」

 

「いい。おそらく無人機が出現することが予測される」

 

 

千冬はそう言ってラキーナとアスランに視線を合わせる。

 

 

「分かってます」

 

「無人機【ジャスティス】と【フリーダム】は俺達が相手をします」

 

 

ラキーナとアスランが視線を合わせて頷く。

アスランの存在については秘匿されていたが、エーカー少佐には4人目の男性搭乗者として話が通っている。

 

 

「分かった、司令部ではうちの真耶と束がサポートをします」

 

「了解した。ではそれ以外のメンバーがエクスカリバーの牽制、そしてチェルシー・ブランケットの妹【エクシア・カリバーン】を救出した後に狙撃でエクスカリバーを破壊する。これが作戦の流れだ、質問は?」

 

 

エーカー少佐が皆に質問を投げるが質問はない。

 

 

「ではISの調整の為に、格納庫へ」

 

 

その言葉と共にエーカー少佐が部下に指示を出して一行を案内させる。

 

 

「ああ、飛鳥君に更識君、君達は私についてきてくれ……っと、束博士にパルス君達もだったな」

 

 

エーカー少佐の言葉に真達は疑問の表情を浮かべた。

 

 

「日出工業のサポートチームが到着していてね。第2格納庫だ、着いてきてくれ」

 

「ああ、なるほど。 分かりました」

 

 

優菜から出発前に告げられていた日出工業現地支社のサポートチームだろう。

エーカー少佐の言葉に従って真達は他のメンバーと分かれて向かう。

 

 

―――――――――――――――――

イギリス空軍 第2格納庫

 

エーカー少佐に案内された真達は空軍基地の第2格納庫に到着した。

運び込まれたそこそこの数のコンテナ、滑走路に止められたトラック、そして見知った顔。

女性3人も真達に気づいた。

 

 

「利香さん、ジェーンさん、それに節子さんまでっ!」

 

 

日出工業に所属している真にとっては上司となる女性3名がイギリス空軍IS格納庫にいたのだ。

出立前に優奈から連絡があった、サポートメンバーは彼女達であった。

 

 

「久しぶりだね、真君」

 

「節子さんも、お元気そうで何よりです」

 

 

栗毛の上司である、節子の笑みに真も笑みで返す。

 

 

「ジェっちゃん久しぶりー!」

 

「再開の挨拶は後だよ、束ちゃーん! ほら皆IS出して!」

 

 

相変わらずボサボサの赤髪により深くなった隈、ヨレヨレの白衣にスーツ姿のジェーンが束の手をとりながら催促する。

その勢いに押されながらも真、簪、カナード、クロエ、ラキーナ、アスランの6人は待機形態のISを手渡す。

 

 

「えっと、何をするんですか?」

 

「【宙間戦闘用装備】を装着するんだよ、真君」

 

「そそ。 私たちが来たのも君たちの機体にそれを外付けする為なの、さあ、節子ちゃん、すぐに接続作業、始めよう!」

 

「分かりました、利香さん」

 

 

節子が作業スタッフへ連絡しに歩いて行く。

束もスタッフに合流して作業を始めていく。

 

それを確認した真はジェーンに尋ねる。

 

 

「外付けのパッケージか何かですか?」

 

「そうだよ、君もよく知ってるモノのはずだよ」

 

「俺が?」

 

「うん、ヒント。MSの埋め込み式の戦術強襲機と言えば?」

 

「……まさか、【M.E.T.E.O.R(ミーティア)】ですかっ!?」

 

 

埋め込み式の戦術強襲機【M.E.T.E.O.R(ミーティア)

フリーダムとジャスティス用に用意された特殊ユニットであり、対象の機体に絶大な機動力と殲滅能力を与えることができる機体だ。

かつて真が搭乗していた【MS デスティニー】では装備できず、データも残されていなかったため彼とは無縁のものであったのだが。

 

 

「大正解っ! 私が再設計したのだっ! そして簪ちゃん!」

 

「はっ、はい!」

 

 

テンションが高まっているジェーンの視線がいきなり簪に向いたため、彼女はびくっと震えながら答えた。

 

 

「簪ちゃんの飛燕、光圧推進スラスターから正式なVLユニットに変えるからね! パーツと設定変更だけだからそこまで時間はかからないよ!」

 

「えっ、でもそれは来年位を予定してたんじゃ……?」

 

 

飛燕のVLユニット、正確には光圧推進スラスターは【疑似VL】である。

そのデータをあらかた取り終えたため、性能向上為にその仕様を正式なVLへと変更する計画は当然、簪の耳にも届いていた。

だが彼女に届いていたその情報は来年を予定したものであり、今回の作戦には間に合わないだろうと思っていたのだ。

 

 

「私に不可能はなーい! あ、いや、納期短縮は駄目です、やめてください、死んでしまいます。っと、なんでVLの変更ができるのかだよね、それは【デスティニーシルエット】の【予備パーツ】があるからなのだ!」

 

 

デスティニーの前身、ISインパルスはシルエットシステムの特性上予備パーツがそこそこな量用意されていた。

特に搭乗者が真であるためシルエットや武装を使い潰したり、無茶な機動で関節に負荷をかけるなど、予備パーツは不可欠であった。

だが当のインパルスは【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】へと【第二形態移行】してしまった。

 

当然移行した機体と、移行前の機体の予備パーツは規格が合わないモノが多く、デスティニー用のパーツを新たに作成しなおすことになり、インパルスの予備パーツは倉庫で埃を被っていた。

だがその中にはデスティニーシルエット、つまりは正式なVLユニットへの換装パーツが含まれていたのだ。

飛燕はインパルスとはいわゆる兄妹機に当たり、パーツの規格はVLユニットならば合っている。

なのでこのタイミングでの改修が可能なのだ。

 

 

「成程、デスティニーインパルス用のパーツですか」

 

「そそ、真君のインパルスはデスティニーになっちゃったから使えなかったけど、飛燕用に使えることが分かったからね。 まぁ、このまま倉庫の肥やしになるのは開発者としては避けたかったのもあるけど」

 

 

ポリポリと頬をかきながらジェーンはたははーと笑う。

 

 

「あの……ありがとうございます、私もその交換作業、手伝っても大丈夫ですか?」

 

「もちのロンだよー! 細かな癖とか聞きながらの方が速いからね! 真君はミーティアの接続作業を手伝ってあげてね!」

 

「分かりました、しかしよく【M.E.T.E.O.R(ミーティア)】なんて用意できましたね」

 

 

作業に向かいながら真がジェーンにたずねる。

 

 

「なーに、私と束ちゃんの力が合わされば屁のツッパリはいらんですよ」

 

「……言葉の意味はよく分からないですが、束さんと仲いいんですね」

 

「そー、2人で技術交換の為にお茶会したら滅茶苦茶息があってねー。今ではマブタチ、束ちゃんの技術と私の技術が合わされば出来んことはないぃ!」

 

ISを作り上げた天才である束、かたやC.E.でセカンドシリーズを作り上げた天才ジェーン。

類は友を呼ぶはまさにこの事だなと真はため息を付きながら思った。

 

 

(……2人で隠れてMSとか作ったりしてないだろうな、いや流石にそれはないか)

 

 

流石にそんなことはしないかと、頭を振って意識を切り替えて、スタッフの元に向かう。

 

 

―――――――――――――――――

 

「なあ、簪、ちょっといいか?」

 

「うん?」

 

 

日出のサポートチームと共に作業を始め、2人も作業を始めて少し経過したとき、真が口を開いた。

飛燕のVLユニットの切り替えは残り20分程度で完了する予定だ。

 

 

「どうしたの、真?」

 

「今回の作戦、簪は囮側に回るつもり……だよな?」

 

「……うん」

 

「……後方から支援してくれるってのはない……よな?」

 

「……真、私も行くから」

 

 

その瞳に込められた強い決意が現れた様に、簪は言い切った。

 

 

「……宇宙、初めてだろ?」

 

「うん、けど節子さんや利香さんにAMBACのコツは教わってる。【M.E.T.E.O.R(ミーティア)】もマニュアルは頭に叩き込んだ」

 

 

頷きながら簪が答えるが、ここまでは建前だ。

簪の強い視線に合わせて、本題を聞く。

 

 

「なら……人を撃てるんだな?」

 

 

ここからはISの試合ではなく、殺し合いが前提になる。

無人機や【AI ラクス】がメインになるだろうが、チェルシーの情報からエターナルの存在も確認されているとの事だ

エターナルには当然生身のテロリスト達が乗っている。

 

人を殺めることができるのか、真はそれを尋ねたのだ。

シン・アスカとして激動のC.E.を戦い抜いた彼は守るためなら、必要ならば命を奪うことに躊躇はない。

言い方は悪いが慣れて、割り切れるようになってしまったのだ。

だが彼女はどうなのか。

 

 

「……私は多分、撃てない」

 

 

彼の言葉に簪は首を横に振った。

 

戦う覚悟はした。しかしそれと人を殺める事とは別である。

ISの試合ならばともかく、他者の命をそう易々とは奪えない。

一般的な感性を持つ人間なら殺人の重さは理解できるからだ。

 

 

「だったらっ!」

 

 

大切な人を戦場に出したくない。

歌姫の騎士団との決戦の際、彼女は仲間達と共に戦った。

目的も自分達の援護であったし、首魁のラクスは宇宙にいて真が戦えばよかったが、今回は違う。

 

囮として機能しなければ作戦は完遂できない。

 

当然、彼女がエターナルの相手をする場合もあるだろう。

その際に撃てなければ間違いなく彼女は死ぬ。

 

失い続けた彼は大切な人をこの世界で得ることができた。

 

 

――そんな人を戦いの中でもしも失ってしまったら。

これはただの真の我儘だ。

 

 

「後方で支援してくれるだけで……っ!」

 

 

渋る真であったが、簪の強い視線を感じて言葉を切った。

 

 

「真。心配してくれてありがとう」

 

「……簪」

 

「でも真が大切な人を守りたいと思ってるのと同じなの。 真の傍にいたい、貴方の背中を押してあげたい。これが我儘なのはわかってる、けど私も譲れない。それにラクス・クラインに言ってやりたいの」

 

 

笑みを浮かべて簪が続ける。

 

 

「貴女なんかに真を絶対渡さないって」

 

 

その言葉と笑みに真は言葉を失った。

驚愕、だがそれ以上に胸中で溢れるのは歓喜の感情。

大切な人に、最愛の人にそこまで想われている、その事実に感情が溢れてくる。

 

 

「……分かったよ」

 

 

そしてどこか観念したかのように真は笑みを浮かべて頭を掻く。

先程まで確かに彼女を後方に回したいと思っていた。

いや今も思ってはいる。

 

だが今の彼女の言葉を聞いて、彼女の意志を尊重したいと心の底から思ってしまった。

これが惚れた弱みなのだろうな、と苦笑を浮かべた後顔を引き締める。

 

 

先程まで感じていた彼女を失う恐怖を今は感じない。

今まで以上の闘志が溢れてきていた。

 

 

「……一緒に来てくれるか、簪?」

 

「うん!」

 

 

笑みを浮かべた簪に真も笑みで答えた。

 

 




「それで、本当にMS作ってないですよね?」

「(目線を逸らす)」


次回予告
「PHASE5 かつての虚影」

『……私達で道を切り開くっ!』

『先に行くんだっ、真っ!』



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