【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
数時間後――
IS学園 生徒会室
すでに日は落ち、辺りは夜の闇に包まれている。
冬休みに入っていたIS学園校内には人影が少ない。
だが生徒会室では真や一夏達、千冬や真耶などの教員達が空間投影ディスプレイを眺めていた。
謎のレーザー攻撃から数時間が立ち、それについての情報共有の為に束からIS学園に連絡があったのだ。
ISコアネットワークを利用した同時通信を行うための準備が進められていたのだ。
「準備、完了しました」
「ん、ありがとう、真耶」
コンソールを調整するとディスプレイに早速1つ目に映像が映る。
そこに映るのは現在の真の上司である、淡い紫髪にスーツの女性、【応武優菜】
『あー、テステス、繋がっているかな?』
『聞こえています、お忙しい時期にご連絡に応じていただき感謝します、応武さん』
『あー、そこまで畏まらなくても。年齢も近いわけだし、気軽に優菜でいいですよ、その代わり私も千冬呼びでOK?』
優菜がそう言って千冬に笑みを浮かべる。
それに一瞬だけ困惑した千冬であったが薄く笑みを浮かべて返す。
『……分かった。ありがとう、優菜』
『ん、やっぱりこういうほうがいいね、千冬』
千冬がそういうと2つ目のディスプレイに映像が映る。
そこに映るのは和服に黒の長髪の男性、更識蔵人。
真や簪は知っているが、それ以外の皆は少々困惑した表情を浮かべていた。
『ん、これは映っているのかい、刀奈?』
画面の向こうで蔵人が機器を叩いているのか打撃音が響いている。
『映っていますから! と言うかお父様、仕事の時は楯無でと何度も……っ!』
蔵人の右手を掴んで画面に映った刀奈――いや楯無が画面越しに目が合った千冬に手を振る。
『こちらはOKです、聞こえていますか、織斑先生?』
『ああ、映っている……が大丈夫か?』
『あー、大丈夫です……ってお父様、それ触らないで下さいっ!』
『はっはっはっ、中々凄いものだなISと言うのは。MSとはまた違った使い道がある』
蔵人が何か機器を弄った為か、一瞬笑い声にハウリングが発生したが千冬は無視を選択した。
『やっほー、ちーちゃんっ!』
そして3つ目、次に映ったのはウサギ耳を模したカチューシャを付けた天災、篠ノ之束。
IS学園近海に停泊しているブレイク号から通信を送っているのだ。
『なっ、お前はなんて格好をしているんだっ!?』
千冬が驚愕の声を上げる。
それも仕方がない、束の格好はいつもの様なエプロンドレスではなかったからだ。
冬だというのに、水着の格好、しかも布面積は辛うじて秘所を隠せるレベルの代物。
仮に今束が身に着けている水着を着れるかと生徒会室の皆に質問すれば全員がNoと答えるだろう。
『いやー、新装備の開発途中でさ。艦内の電力を回しちゃって空調止まっててくっそ暑いんだよー、今艦内全員薄着だよー』
『だからといってそんな格好で会議の場に出るやつが……っ!』
『えー、でもいっくんとかガン見してるよー?ほらほらー』
ディスプレイ越しにたわわに実った果実2つがブルンブルンとゆれる。
しかも着ている水着が水着な為、零れそうになっている。
「えっ、ちょっと、束さんっ!?」
「「「「一夏っ!」」」」
「えっ、うぉわっ!?」
箒・鈴・ラウラ・シャルロットの4人が一夏の目を物理的に塞ごうと彼を拘束する。
ちなみに真はと言うと――
「……あのー、簪さん。目が痛いんですけど」
「駄目、まだ駄目だから」
顔を真っ赤にした簪に拘束され、目隠しをされていた。
簪よりも身長が20cmほど高いので彼女は必死に背伸びをしている。
「……別に見たからってどうってわけじゃ……っ!?」
ぐっと押さえられた手に力を込められ、言葉が切れる。
だがすぐに力は弱まり、真に聞こえるくらいの声で簪が尋ねてきた。
「……真はあのタイプの水着・・・・・・好き?」
真だけに聞こえる声量で簪が尋ねる。
悲しきかな真も男で今は思春期の少年だ。
その豊かな想像力は一瞬で、束が着ている水着を来た簪を脳裏に構築してしまった。
「えっ!? いや、その……何と言うか、俺としてはその……っ!」
脳裏に構築した映像を頭を振って消した後、どうしたものかと言いよどむ。
真も混乱しているのだ。
『あはは、仕方ないよねー、思春期だもん、ほらほらー』
その様子を見た束がさらにポーズを変える。
だがその悪ふざけもすぐに終わることになった。
『ほーらもうすぐ前かがみに……ってカナ君、ちょっと待ってっ!あふん、だめ……ぎゃぁぁっ!』
ディスプレイに映っていた束の頭部を映り込んだ腕が掴みあげて引っ張り彼女が画面から消える。
そして絶叫が響く。
『あだだだだ、ギブッ、カナ君、ギブアーーップ! 束さんの腕がパロッちゃうから、OLAPしちゃうからっ!』
『五月蝿い。いつまでたっても話が始まらんし、クロエやラキにとっても目に毒だ』
そんな声が聞こえ、最後に気味の悪い音と、女性が出していいものではない叫び声が聞こえ一瞬静まる。
そしてディスプレイには3人目の男性搭乗者であるカナード・パルスが映る。
彼もタンクトップ姿であり、髪を切ったのか、以前より髪の長さがだいぶ短くなっており、真は一瞬キラ・ヤマトに見間違えた。
『……すまん』
『……いや、よくやってくれた。話の腰が折れてしまうのはまずいからな』
『……同感だ』
束によって主な被害を受けている苦労人2人が頷く。
『さて、こうやって同時回線で話をしたいと切り出してくるってことは相当なことだろう、カナード?』
『……ギルバート・デュランダルか。いや、今はいいか』
割り込んできたデュランダルこと蔵人の言葉にカナードが頷く。
ディスプレイに移る彼がコンソールを操作すると生徒会室に展開されているモニターと、蔵人、優菜の元で同時展開されているディスプレイに映像が映る。
『映っている情報は、この
Deランドに降り注いだ光の雨。
幸い怪我人は出ずに収束することができたが、次もそうは行かないだろう。
『レーザー攻撃は衛星軌道上から放たれたものだ、発射したのは英国とアメリカによって極秘共同開発された衛星軌道攻撃兵器……名は【エクスカリバー】』
衛星軌道上から地上を狙撃できる兵器、カナードの口から出た言葉に真や蔵人、優菜は目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
それは宇宙開発が進んだC.E.世界の事を知っているからの反応だ。
もちろん国家代表の楯無や英国の代表候補生であるセシリア、各国の代表候補生達も驚愕の表情を浮かべていた。
ただ一般人に近い知識を持つ一部は異なった。
「エクスカリバーってよくゲームに出てくる?」
「確かアーサー王伝説に出てくる聖なる剣……だったか?」
一夏と箒が日本人らしい回答を返す。
『由来はそうだろうな。衛星兵器、簡単に言えば宇宙から地球を攻撃できる兵器だ。C.E.ならば規模は異なるがジェネシスやレクイエムと同系列の兵器だ』
一夏達はすぐには理解できなかったがジェネシスとレクイエムの名前が出た途端、真の表情が強張った。
そのどちらもC.E.では大量破壊兵器として名高い。
ジェネシスはガンマ線レーザーによる生物種への圧倒的な殲滅能力。
レクイエムはビーム偏向装置【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】を展開したコロニーを中継点に使うことで、あらゆる場所への大出力ビームによる狙撃を可能にした兵器だ。
『真が防いだのは低出力のレーザーだろう。でなければ
彼の言葉と同時に展開されたディスプレイが、衛星の画像と軌道情報に切り替わった。
【それ】は宇宙に漂う1本の剣の様に見えた。
全長は50m程の大きさのそれが、太陽光を吸収、収束して放つ画像であった。
(MS……いや、まるで……ISみたいだな)
大きさとしてはISよりも、MS、正確にはMAほどの大きさだ。
しかし画像を見て真はそう思った。
全体的なフォルムはISに似通っている。おそらくここにいる全員が思っているだろう。
『対IS用としてデスティニーの様な防御手段がない機体ならば打つ手もないし、衛星起動に乗っている為迎撃も困難。これが今まで亡国機業に奪取され、ミラージュコロイドで隠蔽されていた。あまり言いたくはないが……英国は兵器を奪われる趣味でもあるのか?』
「……返す言葉もありませんわ」
セシリアが苦笑しつつも消沈した顔でカナードに答える。
BT2号機【サイレント・ゼフィルス】に、チェルシーに奪われたBT3号機【ダイヴ・トゥ・ブルー】、そして今回の【衛星兵器 エクスカリバー】
C.E.でもMSや特殊兵器や技術が敵対組織等に奪取される事は多く、またかと真は内心思っていたが。
『話を戻そう、気づいているかもしれないがミラージュコロイド技術が使用されているという事は……』
「歌姫の騎士団関係……ってことか」
『その可能性が高い。おそらくは確実だろうがな』
真の言葉にカナードが返す。
ラクスが倒れたことで瓦解したはずの歌姫の騎士団。
再びその因縁が浮かび上がってきたことに真の表情は曇る。
『何故そんな兵器が亡国の制御から外れて暴走したかは知らん。だがこれを放置しておくのは危険すぎる』
『それで私たちに協力をって事ね』
『話が速くて助かる、ユウナ・ロマ・セイラン』
『オーブの宇宙戦艦か……今回は味方か、頼もしい限りだ』
蔵人が答える。
その言葉に苦笑を浮かべる優菜であったが今はそれは重要ではなく、疑問を口にした。
『けどその兵器は衛星軌道上からの攻撃が可能なんでしょう? こちらとしてももちろん協力は惜しまないけど、イズモ単機での攻略は荷が重過ぎる。それよりもまずアメノミハシラまで上がってこれる?』
そう、優菜の懸念はアメノミハシラまでの移動手段だ。
アメノミハシラへの移動手段はシャトルとマスドライバーによる打上方式だ。
だが地上への精密射撃が可能な兵器が暴走しているのだ。
マスドライバーはお世辞にも狙いにくい建造物とは言えないため、打上の瞬間を狙われる可能性がある。
『……確かに、先の攻撃から行動はしていないがリスクがでかいな』
「……ならば、1つ提案がありますわ」
セシリアが発言すると彼女に視線が集中する。
コンソールを操作してデータをディスプレイに表示する。
「これは……英国からの帰還命令に、迎撃作戦?」
「はい、織斑先生。つい先ほど私の方に連絡がありました、英国にてエクスカリバーの迎撃作戦を準備中との事です」
セシリアが表示したのは英国への帰還命令が書かれたメールと彼女の迎撃作戦への参加命令であった。
現在のセシリアは代表候補生としての活動結果から国家代表がほぼ内定している立場となっている。
彼女の能力を遊ばせておくのは損失と考えたのだろう。
「セシリア、まさか……」
「ええ、一夏さん、私は向かいますわ、祖国へ」
『その迎撃作戦ってさー、英国だけでやるの?歌姫の騎士団関連なら戦力足りないんじゃない?』
カナードの制裁によって画面から退場していた束がディスプレイに映る。
水着の上から白衣を見に纏っているため、映像的には問題ない。
『ええ、ですから束博士、貴女の協力を得て欲しいと……追加で命令がありました、こちらです』
『そういうのは自分で言ってこいってーの。だから国家って嫌いなんだよねー』
そう言ってセシリアが表示したメールに目を通す。
そしてメールを確認した束は笑みを浮かべる。
『ふーん、いいよ、受けたげる。ただしIS学園と日出工業、それにカナ君達もこの迎撃作戦に参加することが条件。じゃないと無駄な犠牲がでる。そう連絡してくれる、セシリアちゃん?』
『っ……ありがとうございます、束博士』
そう言ってセシリアは頭を下げる。
顔を上げた彼女の表情は何処か思いつめているようにも見えた。
その後、セシリアの連絡によってエクスカリバー迎撃作戦にIS学園と日出工業、つまりは真達が参加する事となった。
鈴やシャルロットなどの代表候補生達も友人であるセシリアのために作戦に喜んで参加するとの事だ。
また日本政府に繋がりの強い更識家より、政府への連絡が行われ、優菜も後方支援の為に動くとの事だ。
英国に向かう為の手続きなどの準備が必要となり出発は翌日となった。
――――――――――――――――――
その日の深夜――学生寮前の広場
すでに就寝時間を過ぎており、本来ならば外に出ていることが許される時間帯ではない。
だが英国へ向けての出発準備の為、寮監である千冬も今は不在であり、抜け出すことは容易であった。
ベンチの前には美しい金髪の少女――セシリアがコートを着込んで立っていた。
「……チェルシー……」
大事な家族の名前を呟く。
何故、今回の様なことになったのか、何故彼女がISを身にまとっていたのか。
様々な疑問が頭の中をグルグルと回っており、それを切り替えるために外に出ていたのだ。
そんな彼女であったが背後に気配を感じた。
振り向くと燃えるような紅い瞳を持つ2人目の男性搭乗者がいた。
「こんな時間に何してるんだよ、寒くないのか?」
「……真さん」
コートを着た真がセシリアに尋ねた。
雪はまだ降っていないとは言え、12月の真冬の時期、気温は0度近い。
「横になるとどうしても疑問がわいてきて……夜風にあたれば少しは落ち着くかなと」
「……そっか」
そう答えた真が空いていたベンチに座る。
「真さんはどうして?」
「うん、まあ、そうなんだけどな。俺も気になることがあってそれの整理の為にさ」
「気になること……ですか?」
「ああ、あっ、そうだ、コーヒーあるんだった、ほら」
そう言ってポケットから温かい缶コーヒーを取り出してセシリアに手渡す。
ありがとうございますと受け取る。
「んで、気になってることなんだけど。チェルシーさんが俺の事を【シン・アスカ】って言ったことなんだ」
「確かに、真さんの秘密を何故チェルシーが……」
「それにエクスカリバーが亡国機業に奪取されて管理されていたってのも気になるんだ」
「……歌姫の騎士団……ですか?」
ああ、と真は頷く。
「今回の暴走もおそらくはラクスが関わってる。けどならなんであの時、メサイアでの最終決戦のときにエクスカリバーを使わなかったのか、それが気になるんだ」
「宇宙から狙撃できる兵器ならば確かに。真さん達が宇宙に上がる際にマスドライバーを狙撃することもできたはずですね」
「そこなんだ。んで、色々と考えてたら頭が回らなくなってきてさ。それのリフレッシュの為に外に出たんだ。元々頭を使う仕事は
ポケットから先に買っていた自分の分のコーヒーを取り出していた真は飲み口を開けて一口、口に含む。
気温の差によって呼気が白くなっていた。
「……セシリアはチェルシーさんを止めるつもりなんだろ?」
「……ええ、それが私の役目だと思っています」
「……大切な人なんだな」
「はい、両親を失った私にとっては幼馴染であり唯一の家族……淑女としての目標でもありますわ」
「……そっか」
缶コーヒーを横に置いて真は立ち上がる。
真のほうが身長が高いため、セシリアは見上げる形になった。
「ならもちろん全力で力を貸すよ。だから絶対に止めよう、セシリア」
握手の為に右手を差し出す。
「ありがとうございます、真さん。 私の誇りにかけて……やり遂げてみせますわ」
真の握手に力強く握り返し笑みを浮かべた。
その翌日、真達は英国に向かって旅立つ。
――再び蘇った因縁がゆっくりとその手を伸ばしていることを真はまだ知らなかった。
次回予告
「PHASE3 迸る雫」
「チェルシー! 私が貴女を止めます! 貴女は私の家族だからっ! そして、貴女ともっと話をしますっ! 今までのこと……これからの事をっ!」