【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
観客席
「……あれがデスティニーの【
絶体絶命の状況から持ち直した真の様子を見てカナードが呟く。
彼にはデスティニーが発現させた【単一仕様能力】についての予測がある程度ついていた。
「えっ、そうなのか? 確かにあんなにでかい翼は初めて見るけど……」
「どんな能力なのだ?」
純粋な興味からか一夏と彼の隣にいた箒が尋ねる。
「おそらくだが、デスティニーが発現させた能力は【エネルギー吸収と操作能力】だ。【
「エネルギー吸収?」
「ああ。種類でいえばお前の【白式】や篠ノ之箒の【紅椿】の能力に近い」
「……白式はエネルギーの【無効化】、紅椿はエネルギーの【増幅】……確かに関連性がありそうだが根拠は何なのだ?」
クラレント・ビームサーベルに巨大な光の翼から溢れた光が集まり、より強靭なビームの刃が構築される。
それを確認しつつカナードが答えた。
「デスティニー最大の特徴はその背部にある【ヴォワチュール・リュミエール】。その特性は分かるか?」
「えっと、滅茶苦茶な機動力を持ってるってのと……後は……」
一夏の態度にはぁと小さくため息を付いたカナードだが補足する為に口を開いた。
「エネルギーの操作機能がVLには存在している、以前俺と奴との模擬戦で見たことがあるだろう。ビームライフルのビームを光の翼に取り込んで速度を大幅に上昇させた事を。おそらくはそれが発展して能力となったのだろう」
VLの特性は大きく分けて2つ存在している。
1つはデスティニーや兄妹機関係にある飛燕の様に、搭載機体に破格の機動性能を与える特殊推進機関としての特性。
そしてもう1つはエネルギーへの干渉機能である。
一夏達は知らないが、C.E.ではスターゲイザーと呼ばれる機体がビームをリング状に操作して攻撃に用いた例が存在している。
「そういえば……でもそれって真がアンタとの模擬戦の時みたいにVLを操作したってことじゃないのか?」
以前行われた真とカナードの模擬戦を思い出した一夏が尋ねる。
「いや、その可能性は低い。 何故ならばVLユニットのエネルギー操作は都度複雑な演算処理が必要になるしMSよりも小型のISでは操作できるエネルギーには限度もある。先程の状況では操作もできんだろうし、拘束力は【A.I.C.】を凌駕している霧纏の淑女の【単一仕様能力】だ。操作限度を軽く超えている」
「なるほど」
「俺との模擬戦やお前達との戦闘経験も影響しているだろうな。後は【ラクス・クライン】との戦闘か、奴の機体もVLユニットを介した能力だったからな」
「……真はどんどん強くなるな」
「……一夏」
少し羨ましそうな表情で一夏が飛翔しているデスティニーを見上げる。
小さな子供が何かにあこがれる際に見せるような純粋さ、それを箒は感じ取り自然と笑みがこぼれた。
「大丈夫だ、一夏なら真と共に飛べるはずだ」
「箒……ああ、頑張るよ、俺」
本心からの箒の言葉に一夏は笑みを浮かべた。
それに平行して模擬戦の状況は動いていた。
――――――――――――――――――――――
『うぉぉぉぉぉっ!!』
光の翼を再度大きく広げデスティニーが文字通り視界から消えた。
元々デスティニーの機動力は高機動パッケージを装備したISと同等レベルと言う規格外のレベルである。
しかしハイパーセンサーを振り切り文字通り視界から消える速度と言うのは、規格外を通り越して非常識のレベルに到達していた。
だが、防御できないわけではない。
伊達に楯無を襲名しているわけではない、殺気を感じ取って行動することなど造作もない。
自身の左方向から強烈な殺気を感じ、即座に蒼龍旋を防御に使用する。
クラレント・ビームサーベルを受け止めるが、非常識な速度が上乗せされた威力を完全には殺し切れずに押し込まれる。
『っぅ……やってくれるわねっ!』
反撃に膝蹴りを叩き込もうとするが、デスティニーはクロスレンジから離れていた。
ミドルレンジ、いやすでにロングレンジまで離れている。
(ホントに非常識なまでの機動力ね。だけど真君にもそれ相応のリスクがあるはず)
デスティニーに搭乗している真は汗をまるで滝の様に流していた。
牽制の為にガトリングガンを展開して射撃を行いつつ観察すると呼吸も大きく乱れているようだ。
(やっぱりね。あんな機動力なんだもの、搭乗者保護があっても抑えきれるもんじゃないわ)
刀奈の読みははたして当たっていた。
デスティニーに発現した【運命ノ翼】は確かに強力な能力である。
しかしそれは彼の身体に大きな負担をかける。
能力未発現時のデスティニーでさえも全開機動を行えば少なからず身体に負荷が掛かる。
それを超える機動力なのだ、かかる負担は倍以上であった。
(このままだと先に潰れるのはそっちよ、真君? さあ、どうくる?)
再度デスティニーが光の翼を広げて霧纏の淑女に向かってくる。
残りエネルギーはすでに両機とも5割を切っている。
そして霧纏の淑女は現在高出力モード、それに伴いエネルギー消費は高まる。
再度【沈む床】を発動させるのは下策だ、明らかにデスティニーが発現させた能力と相性が悪いからだ。
警戒を怠らずに牽制の射撃を行っている霧纏の淑女の前から再びデスティニーが消えた。
気配は自分の背後に移動しており、何故攻撃をしないのか疑問が浮かぶ。
そう背後に回っただけであったはず、だというのに霧纏の淑女は【ビームの奔流】に飲まれ弾き飛ばされてしまった。
『ぐうぅっ!?』
さしもの彼女も何が起こったのか一瞬理解ができなかった。
しかし今の一瞬で3割程度までエネルギーを消費させられたのを確認して、何をされたかを理解した。
『翼が武器になるというのっ!?』
そう通り過ぎた瞬間、デスティニーの光の翼が所謂巨大なビームサーベルとなることで霧纏の淑女を攻撃したのだ。
今までのVLユニットはあくまで特殊機能を持った推進機構であったが現在のVLユニットは発現した能力によって1つのエネルギー武装として使用することができるのだ。
(これをラストにしないと先にこっちが潰れる。身体が持たないっ!)
刀奈を弾き飛ばしたデスティニーのVLが真の操作によって煌めく。
すると右マニピュレータに集まっていたビームのエネルギーが再び光の翼に集束し、翼の装甲が一部展開し巨大な翼へと変化する。
『運命を切り開くっ、そのためにはっ!』
すでに真の体力は限界が近い。
下手な代表候補よりも鍛えている真でも、それだけデスティニーが発現した能力による反動が大きいためである。
前世である【シン・アスカ】の状態であったなら余裕があったはずだ。
その差はナチュラル・コーディネーター問わずに耐G訓練を行っているかいないかだ。
MSにはISの【PIC】の様な慣性を抑える機能はお情け程度しか搭載されていなかった。
故に加速時に発生するGに耐えるには、パイロットは身体を鍛える必要があったのだ。
MS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】に搭乗する際も、耐G訓練を受けて身体を慣らす必要があった。
しかし、ISではPICのおかげからか耐G訓練は重要視されておらず、真もあまり行っていなかった。
ザフト式の耐G訓練を今度からやろうとひそかに心に決めつつ、マニューバに移行する。
『はぁぁぁぁぁっ!!』
クラレントをビームサーベルモードに切り替え、デスティニーは光の翼を広げて霧纏の淑女に向かっていく。
しかし、気配を読み取れる刀奈にとって対応できない訳ではない。
刀奈がすでに充分な水を纏い切れていない蒼流旋を構え、カウンターを狙う。
だが、それは真も承知の上であった。
瞬間、両マニピュレータ――つまりはクラレント・ビームサーベル――を互いにうち付ける。
互いに干渉し合ったクラレントの高出力ビームはまるで爆発するかのように弾け、拡散した。
当然、カウンターを狙っていた刀奈にその【拡散ビーム】は降り注ぐことになる。
『きゃぁっ!?』
カウンターを狙っていた刀奈はビームの散弾、至近距離からの拡散攻撃に対処することはさすがにできなかった。
高出力状態のアクア・ヴェールで無効化できているがシールドエネルギーはその分消費し、予想外の攻撃に体勢も崩れていた。
この機を逃す真ではなかった。
『そこだっ、ビームコンフューズっ!』
ビームブーメラン【フラッシュエッジⅡ】を両手に展開し、投擲。
同時に両クラレントをビームライフルモードに変更し、投擲したフラッシュエッジに狙いをつける。
【S.E.E.D.】によって、より正確になった照準は狂うことなく回転するビームブーメランのビーム発生部分を捉え、干渉が発生。
細かなビームの粒子となって刀奈に降り注いだ。
【ビームコンフューズ】により拡散されたビームは再度、霧纏の乙女に降り注ぎ、そのシールドエネルギーを削り取る。
ビーム散弾と同じく高出力状態のアクア・ヴェールで無効化できるのだが、今度は動きを止められてしまった。
『上っ!?』
ビームコンフューズによって動きを止められていた間に、自身の上方に気配が移動していた。
デスティニーが両マニピュレータに展開したクラレント・ビームサーベルを今にも振り下ろそうとしていた。
『甘いわよっ!』
充分な水を纏わせていた蒼流旋で防御し、ビームサーベルの斬撃を受け止める。
すぐさま離脱しようとしたデスティニーだったが攻撃した後に離脱することを読んでいた刀奈は、離脱させないためにデスティニーに密着した。
防御の為に蒼流旋を使用した為か2機の周りには濃い蒸気が漂っていた。
そしていつまでもその蒸気は霧散せずにより一層濃くなっていく。
この行為で彼女が何をしようとしているか分かった――自爆覚悟の【清き激情】だ。
『この距離なら逃げられないわよっ!』
『ちぃっ!?』
機体の出力差で引きはがそうとするが、関節技の要領で彼女は真にくっついたままだ。
そして周囲の蒸気を構成しているナノマシンが起動を開始――すでに水蒸気爆発まで時間がない。
S.E.E.D.が発動し、状況把握能力も極端に高まっている真の行動は早かった。
『ガンダムゥッ!!』
愛機を鼓舞するかのように叫び、引っ付いている霧纏の淑女ごと刀奈を逆に抱きしめた。
自爆覚悟の攻撃を防ぎきれば勝ちだ、そしてこの超至近距離ならばデスティニーの方が速い。
『なっ、何をっ!?』
『こうするんですよっ!』
真の言葉と共にVLユニットが操作され、光の翼が2機を包み込んで小さな【繭】の様な球体へと姿を変えた。
その直後、この試合最大級の爆発が繭を包み込んだ。
爆発の余波が消え、アリーナが視認できるようになると光の繭は健在であった。
その繭の光が少しずつ消えていく。
エネルギーの放出が完全に収まったことを確認して、フレームが少々見ているVLユニットを所定位置に戻す。
彼が行ったのは単純だ、VLユニットから溢れるエネルギーで盾を作ったのだ。
デスティニーにはALは装備されておらず不完全なビームシールドの形になったがそれでもエネルギー量は相当なものだ。
完全には爆発を防ぐことはできなかったが、それでも威力の大半を相殺することには成功していた。
『……まさか防がれるとはね』
いつの間にか腹部にデスティニーのマニピュレータを押し付けられた刀奈が肩をすくめながら答える。
彼女にとって残されたエネルギーを使った反撃であったのだが、それにすら対処されてしまっては脱帽せざるを負えない。
『……私の負けね』
―更識楯無、シールドエネルギー切れ、勝者 飛鳥真。試合時間、8分53秒―
試合終了のコールがアリーナに響く。
霧纏の淑女のエネルギーはすでに特大の【清き激情】でゼロになっていた。
彼女を抱きかかえるようにデスティニーがゆっくりと降下していく。
『ふふ、ちゃんと本気で相手したんだけどなぁ……男の子の意地見せてもらったわ』
そう言って何故か微妙な表情をしている真の顔を見る。
(簪ちゃんはほんと、いい子を見つけたわね。あ、そういえば実年齢は真君の方がだいぶ上だったか……ま、どうでもいいか)
本来の年齢差を思い出すがそれでも彼が妹を大切に思ってくれているのはよく分かった。
でなければあの土壇場を切り返すことなどできなかっただろう。
『真君、簪ちゃんのこと頼むわね?』
そう言ってポンとデスティニーの胸部装甲を叩く。
しかし、真の表情は微妙な表情から焦ったような顔に変わっていた。
『……刀奈さん、色々と決まり顔で語っているところ悪いんですけど……さっきのでデスティニーもエネルギーがゼロなんですよ。PICもう切れますっ』
『えっ、ちょっ、まっ、私の機体もエネルギーないんだけどっ!?』
真の言葉の通り、デスティニーのコンソールに表示されているエネルギー残量は【Empty】を示していた。
すでに霧纏の乙女のPICも切れている、デスティニーが機能停止すれば2人は落下するだろう。
まだ地上まで20m以上もある、大怪我を負う高度だ。
『真君、気合っ、男の子なら気合で持たせてっ!!』
『ちょっ、なんて無茶なっ、それにあばれ……っ!?』
PICを維持するエネルギーも切れたためか、デスティニーがガクンと振動し、重力に引かれて落下を始める。
だがすぐにその落下は止まることとなる。
デスティニーの紅い光の翼に対を成す【蒼い光の翼】を持つ機体。
『真、お疲れ様』
飛燕を展開した簪が2機を抱えてゆっくりと降下していく。
『ありがとう、簪……てか何か前にもこんなことあった様な』
『クラス代表戦だね』
『ああ、そうだったな。とにかく助かったよ……ありがとう』
ふうと大きく息をついた真が笑みを浮かべる。
すでにS.E.E.D.の感覚は消えており、その瞳には大切な人の笑顔が写っていた。
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2時間後――保健室
真と刀奈の試合が終わって2時間が立っていた。
当事者である真は何故か保健室のベッドに寝かされていた。
その理由は――
「デスティニーが発現させた能力は反動が凄いね。ISの生体保護でもカバーしきれないってのは相当だよ?」
簡単な真のカルテを持った簪が真に告げる。
そう、デスティニーガンダム・ヴェスティージが発現させた【運命ノ翼】の反動で真は倒れたのだ。
すぐに保健室に運ばれた真は意識を失ったまま検査を受けた。
幸い命に別状はなくただの疲労との事であり、簪が彼を看病することとなったのだ。
また真と簪の交際については以前と変わらずに続けていけることとなっている。
これについては先ほど真の意識が回復する前に、蔵人が簪に告げていた。
そもそもが刀奈の悪ふざけから始まったのが今回の一件であったが中々に楽しめたのと、
「でもそれに見合うだけの能力だと思う。エネルギー吸収・操作能力、単純にVLを大幅強化した感じだな」
「ビームとかレーザーとかの光学武装を積んでる機体は相性最悪だよ。攻撃が全部デスティニーのVLに持ってかれると厳しいと思う」
この場にいないセシリアの耳に入れば大層驚いただろう言葉を聞いて真は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、まずは身体を慣らさないとな。耐G訓練設備なら日出にもあるからな」
「そうだね」
「……スケテェ……タスケテェ……脚がぁあ……」
簪の相槌の後に、見知った呻き声が聞こえてきた。
真が視線を横に逸らす、その先には正座の体勢で膝の上に重石を乗せられた刀奈の姿があった。
真が倒れた後、命に別状がないことを確認した簪に拘束されて現在に至るのだ。
「ところでお姉ちゃん、覚悟はできてるよね?」
「ひぃっ、お願い、簪ちゃん、許してぇ……っ!」
涙を流しつつ手を専用器具で拘束されている。
この専用器具は面白そうだからと言う理由で束が作成した特注品であり、刀奈でも外すことは難しく動けない状況だ。
「……少なからず溜飲が下がったけど、まだやるのか?」
「まだまだかな。さぁ、お姉ちゃんの罪を数えて?」
そう言ってニコッと黒い笑みを浮かべた簪が刀奈の目の前に歩み寄る。
止めようともしたが、凄みのある笑みに真は何も出来なかった。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!もうしないからっ!からかったりしないからぁ!」
いつも余裕を浮かべている刀奈が本気で涙を浮かべている。
それに少しだけゾクゾクしながら簪は彼女のわき腹に手を伸ばす。
「駄目。ギルティ」
「あっ、あひんっ、わき腹はだめっ、弱いのぉっ、真君、タスケテェ!」
「……俺、まだ動けないのでー」
そう適当に返した真は保健室のベッドに横になる。
仲のいい姉妹喧嘩に割ってはいるほど無粋ではないのだ。
息も絶え絶えになった刀奈は2時間後に解放された。
その際、真は彼女から学園最強である自分に勝ったのだから生徒会長になるべきだと言われたが辞退している。
そもそもが今回の試合は、公式戦ではない。
それにデスティニーに単一仕様能力が発現しなければ負けていた可能性が高い。
加えてエネルギーもほぼ同時に切れたことから、純粋に勝ったわけではないと真は思っている。
その旨を話したところ渋々と納得してくれたのは真にとっては僥倖であった。
しかし、どういうわけか今後より一層彼女からのスキンシップが激しくなったのは別の話である。
次回予告
「ANOTHER PHASE 私に光をくれた人①」
「貴方がいてくれたからですよ……カナード様」