【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE2 運命 VS 霧纒の淑女②

3日後――第3アリーナ Bピット

 

 

『両腕部マニピュレータ動作異常なし、両クラレント正常動作を確認、各種武装、背部VLも問題なし……っと』

 

「真、後付武装も大丈夫、【バルムンク】と【補助兵装】もちゃんと登録されてるよ」

 

『こっちでも確認した、ありがとう、簪』

 

 

Bピット内で試合前の最終確認を真と簪は行っていた。

 

 

「あすあす、本当にその【武器】使うの?」

 

 

後方でデスティニーの機体データを確認していた本音が疑問の声を上げる。

余談であるが、学園内では本音が真のデスティニーと簪の飛燕の機体整備をメインに行っている。

本音は真と簪とも交友がある事と、高い整備/技術力を日出に買われてスカウトを受けており、学生の身でありながら専用機専門の整備士として高い評価を得ていた。

 

そんな彼女が疑問を呈したのは、バルムンクの他に追加された後付武装である。

彼女が見る限り明らかに既存のISの武装とは異なる代物であるからだ。

彼からC.E.という世界で普及していた【MS】に搭載されている装備であると聞いてはいるのだが。

 

 

『ああ、ISでこういうタイプの装備を使うのは俺が初めてになるだろうから十分有効だと思う』

 

「分かった、なら機体のコンディション問題なしだよ」

 

『ありがとう、本音さん』

 

 

本音に微笑んで機体をカタパルトに向ける。

 

 

「真、頑張って」

 

「あすあす、頑張ってねー!」

 

『ああ、絶対に負けないよ』

 

 

そう告げて2人にサムズアップを返すと同時に、機体制御が真に譲渡される。

すぅと深呼吸すると同時にカタパルトの射出可能ランプが点灯し、出撃可能状態となった。

 

 

『飛鳥真、デスティニーガンダム・ヴェスティージ、行きますっ!』

 

 

出撃コール後、電磁加速されたカタパルトから射出されると共に背部VLユニットから紅き光の翼を羽ばたかせデスティニーが空に翔ける。

 

 

(……俺は守ってみせる、だから俺の中のS.E.E.D.も答えろっ……!)

 

 

すでに上空で待機している試合相手の元に向かいながら、真は2日前の事を思い出していた。

 

――――――――――――――――

2日前――真の部屋

 

 

『久しぶりだね、真』

 

「そうだな」

 

 

展開された空間投影ディスプレイ、それに映るのは黒髪の美少女、ラキーナ・パルス。

 

ISのコアネットワークを介した通信を、現在は怪我の治療の為に治療施設にいるラキーナに繋げたのだ。

もちろん保護者の立場にあるカナードと束の許可は取ってあり、この通信もカナード側につながっている。

 

 

『簪さんも、お元気そうでなによりです』

 

「うん、傷は大丈夫なの?」

 

『ええ、もう動けるくらいにはなりました、痕もそんなに大きく残らないみたいです』

 

 

アスランを説得するため特攻を仕掛けた際に受けた傷の治療は順調に進んでいる。

ビームによって焼かれ失われた組織は最新の再生治療により小さな火傷の跡が残る程度まで回復していた。

もっともしばらくは安静として彼女は治療施設に預けられているのだが。

 

 

「さっそくだけど本題に入るぞ……率直に聞く、【S.E.E.D.】の使い方を教えてほしい」

 

「シード?」

 

 

話が見えていなかった簪が首を傾げる。

ラキーナに相談する事しか聞いていなかったため、聞きなれない単語が出て困惑するのも無理はない。

 

【S.E.E.D.】、正式名称【Superior Evolutionary Element Destined-factor】

【優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子】

かつてC.E.世界で提唱された学説だ。

 

進化とは何を意味するかが解明されていなかったが、発動すれば戦闘能力や身体能力が大きく向上する。

MSやISに搭乗している際には特に有効であり、この世界でも真やラキーナ、アスランが発動させていた。

 

 

『……使い方……か、正直私にもよく分かってないっていうのが答えかな』

 

 

彼女の答えに真の顔に落胆の色が混ざる。

 

 

『確かに【キラ・ヤマト】だった私は自由に【S.E.E.D.】を発動できたんだけど、いつも意識を集中すれば自然に発動できていたんだ』

 

(意識の集中……MSやISに乗ってない時でも俺だってそれくらいは何度もやった、けど駄目だったんだよな……やっぱりスーパーコーディネーターじゃないとだめなのか?)

 

 

ラキーナの言葉に真は考え込む。

 

 

『ごめん、役に立てなくて……』

 

「いや、まあ……なんとなくそんな気はしてた、悪い、まだ怪我も完治してないのに」

 

 

少し申し訳なさそうに真は頭を下げる。

そんな彼を見てラキーナがはっと何かをひらめいたように声を上げた。

 

 

『……そうだ、真がS.E.E.D.をいつも発動させたときはどんな時だったかわかる?』

 

「俺が発動させた時か……」

 

 

C.E.での戦いの記憶を思い出す。

 

連合の新型MAにインパルスを捕縛され、同時にフェイズシフトダウンが起こって絶体絶命の危機に陥り、自身の無力さに怒りを抱いたときが最初だ。

思いかえしてみればその後もアスランの裏切り等、常に発動時には怒りの感情が伴っていた。

 

 

『……なるほどね、真のS.E.E.D.は怒りがトリガーで発動している事が多いんだね』

 

「なら、刀奈さんとの戦いの際にも彼女に対して怒れって言うのか?」

 

 

確かに理不尽な理由で戦うことになったが、彼女に対して殺意を抱くまで怒りを抱くことは難しいと真は考えている。

だがそれにラキーナは首を横に振る。

 

 

『いや、そういう訳じゃないよ、それに本当に怒りの感情だけだった? この世界で真が何度かS.E.E.D.を発動させたのを見てたけどそうじゃないよね?』 

 

「……ラクスとの戦いのときとかは確かにそうだな、怒りよりも命を守りたいって強く思ってた」

 

 

真の回答にラキーナが笑みを浮かべる。

 

 

『そう、それだよ、多分、真のS.E.E.D.は感情にも左右されるだろうけど、本当は誰かを、何かを守りたいって思った時に発動するんだよ』

 

「……そういうもんなのかな」

 

『……絶対そうだとも言い切れないけどね……真は短気だし』

 

 

微笑みながらラキーナが最後にぼそっとつぶやいた言葉を真は聞き逃さなかった。

 

 

「……言ってくれるよな、最近は割と自制してると思うんだけど?」

 

『な、何の事かなぁ? 私、怪我人だから分からないよ』

 

 

明らかに狼狽した態度でラキーナは視線を真から逸らす。

それをジト目で真は見つめる。

 

 

『とっ、とにかくさ、後試合まで2日しかないんでしょ? だったらS.E.E.D.の発動について練習しなくていいの?』

 

 

その視線に耐えられなくなったのか、ラキーナが告げる。

 

 

「……ああ、そうだな、時間もないしな」

 

 

彼女から真はそう言って少し恥ずかしそうに視線を外した。

 

 

「安静にしてなきゃいけないのに、その……悪かったな」

 

『……私は大丈夫、心配してくれてありがとう、真』

 

 

彼の言葉に少し驚いたような表情となったがすぐに笑顔を浮かべた。

かつては敵同士であり、真にとっては仇でもあった存在。

だが今は共に戦った戦友同士であり、互いの戦う理由も共通している。

 

未だに完全な和解はできていない。

それにはさらに時間が必要になると互いに感じているが以前よりも互いに歩み寄っている。

でなければ冗談を流すことなんてできなかったであろう。

 

 

『あっ、消灯時間がもうすぐなんだ、真、他に何か質問はある?』

 

「いや、特にないな」

 

『なら、今日はここまででいいかな』

 

 

彼女の言葉にうなずいて真が答える。

 

 

『頑張ってね、真ならできるよ』

 

「ああ、やれるだけやってやるさ」

 

『簪さん、真をお願いしますね』

 

「うん、ありがとう」

 

『それじゃ失礼しますね』

 

 

待機形態のデスティニーを通じて投影されていた空間投影ディスプレイが消え、光源が消えたためか少々部屋が薄暗く感じる。

ふぅと息をついて真はドッグタグを拾い上げて身につける。

 

 

(……守りたいと願ったときか)

 

 

簪を見つめる。

真にとって唯一無二の最愛の人。

戦う事しかできなかった自分を好きになってくれた、大切な女性。

 

そこまで改めて意識した時――【それ】は突然起こった。

 

自身の【意識】の中に、何か塊の様なモノが現れたのを感じた。

言うならば頭の中に【神経のしこり】ができた様な違和感を真は感じた。

 

 

「っ!?」

 

 

突然の事態であったため、反射的に頭を振ってしまった。

その行為の為か、その違和感は霧散してしまっていた。

 

 

「真?」

 

「あっ、いや……何でもないよ」

 

 

今まで先程の様な予兆の様な感覚を感じたことはなかった。

あのまま違和感を受け入れていればおそらくはS.E.E.D.を発動させることができたかもしれない。

 

再び簪を見つめる。

すると確かに【違和感】の様なものが意識の中に存在している。

さらに意識を集中していく――同時に簪を見つめる視線も強くなっていく。

 

それを感じ取ったのか、簪の頬に赤みがさしていく。

 

 

「真っ、そのジッと見つめられるの……恥ずかしい」

 

「あっ、ごっ、ごめんっ!?」

 

 

簪の言葉で我に返った真が彼女から視線を外す。

同時に違和感も霧散していく。

 

この後簪に許可を取って何度も同じように試してみたが、結局意識の中にしこりができるだけでS.E.E.D.は一度も発動することができずに、試合当日を迎えることとなった。

 

――――――――――――――――

時間は戻って――第3アリーナ 観客席

 

現役の国家代表である楯無こと刀奈と、全世界でも4人――一般に公表されているのは2人であるが――しかいない男性搭乗者である真との模擬戦には学園外から関係者が集まっていた。

 

彼の後ろ盾である日出工業からも顔見知りが集まっていた。

優菜やジェーン、そして真の直属の上司である節子と呼ばれる女性技術者などである。

ちなみに利香は現在溜まった有休を使って長期のリフレッシュ休暇をとっている。

何でも伴侶探しの旅に出るとの事だ。

 

刀奈の関係者としては虚に彼女の父親でもある蔵人、そして専用機である霧纏の淑女の整備班である。

余談ではあるが、蔵人が優菜の姿を見つけた際に誰の目も憚らずに大笑いした事は虚だけの秘密となっていた。

 

また夏季休暇中で人数は少ないながらも一般生徒も見受けられる。

その中には一夏と箒の姿もあった。

 

 

「おっ、そろそろ始まるみたいだな」

 

「そっ、そうだな」

 

 

デスティニーがピットから射出されてアリーナ上空に飛翔していくのをモニターを通してみていた一夏が隣の箒に楽しそうに告げる。

しかし箒はそれどころではなかった。

何故ならば鈴やシャルロットやラウラ等恋敵が休暇の為にいないため彼を独り占めにできているからであった。

だが嬉しさと同等のレベルの緊張も感じていた――それが口調に現れていたのだ。

 

しかしそんな彼女の幸せは長くは続かなかった。

何故ならば一夏に声をかけてくる人物がいたからだ。

 

 

「どうやら始まるようだな」

 

「ん、カナード、アンタも来てたのか」

 

「ああ」

 

 

IS学園の男子生徒用ジャージを身につけ、長髪を纏め上げた【カナード・パルス】がこの場に現れ、一夏の隣に腰を下ろした。

未だにカナードはIS学園の非常勤講師と言う立場にいる為、この場にいても不思議ではない。

ジャージ姿と言うのは中々見たことがなかった一夏の興味津々の視線を無視してカナードが口を開いた。

 

 

「……あれがロシア代表の機体、【霧纏の淑女】か」

 

「何でも水を操れるんだってな、ISって改めてすごいと思うよ」

 

「正確にはアクア・クリスタルと言うプラントで精製したナノマシンによると言う話だが……どうした、篠ノ之箒」

 

 

一夏の背後から凄まじい怒りの視線でカナードを睨んでいた箒にカナードが気づく。

 

 

「なっ、何がだっ!?」

 

「いや、貴様が何か言いたそうに睨んでいたからな、どうした、俺に何か用でもあるのか?」

 

「お前に用などないっ!」

 

 

箒がプイっと視線を逸らす。

一夏が何でそんな怒った顔してんだよと彼女を窘めている。

 

 

(……成程、そういう事だったな)

 

 

自身の行動について考え直してみれば彼女が臍を曲げた理由が分かった。

カナードは束から、箒の事をある程度強制的に聞かされたことがあったのだ。

 

何でも彼女は織斑一夏に恋心を寄せているらしいとの事だ。

正直彼からしてみればどうでもいい為、無視を選択する。

 

 

「……さて見物だな、どうなるか」

 

 

箒の抗議の視線を無視し、興味の対象である模擬戦へと目を向けた。

 

――――――――――――――――

 

第3アリーナ 上空

 

Bピットから射出されたデスティニーが上空で待機している【霧纏の淑女】と相対していた。

 

 

『お待たせしました』

 

『ふふ、いいのよ、準備はちゃんとしないとね』

 

 

そう言って刀奈はマニピュレータに大型ランスを展開する。

得物を流れる様に扱い、前傾の体勢でそれを構える。

 

 

『……ノリノリですね、しかも凄く嬉しそうですがどうかしたんですか?』

 

 

若干眉間に皺を寄せた真が彼女に尋ねる。

すると彼女は苦笑しつつも答えた。

 

 

『正直言うと真君と【デスティニーガンダム】とは戦ってみたかったっていうのが本音なのよ、だって4人しかいない男性搭乗者じゃない? 現役の国家代表としても血が騒ぐのよね』

 

『……まあ、やるからには全力でやりますよ、でもこの状況になったのは刀奈さんのせいなんだけどなぁ……』

 

 

真もマニピュレータに獲物であるアロンダイトを構える。

霧纏の淑女には水のナノマシンによるヴェールがあるため、通常のビームライフルでは効果が薄い。

そのため真は近接武装であるアロンダイトを展開したのだ。

 

彼の構えにニッと笑みを浮かべた刀奈がスラスターを点火させるのと同時に、試合開始のコールが響いた。

 

 

『さぁ、行くわよ、義弟君っ!』

 

『くそっ、やる気満々じゃないかっ! アンタって人はーっ!!』

 

 

真の半ばやけくそな叫びと互いの得物がぶつかり合うのは同時であった。

 

――――――――――――――――

 

『っ、機体出力はそっちが上なわけねっ!』

 

 

得物同士の激突後、すぐに刀奈がデスティニーから間合いを取った。

刀身ビームと蒼流旋の水が互いに反応しあって蒸気が発生している。

 

濃い霧状にも見える蒸気がデスティニーの周りに霧散せずに残っている。

ただの蒸気ではないことに真はすぐに気づいた。

 

 

『ちっ、【清き激情(クリア・パッション)】っ!』

 

『あら、残念、でも逃げられるかしら?』

 

 

刀奈の笑みと共に、蒸気が一気に熱に変換される。

蒸気量が多かったためか爆発の規模はISを充分包める大きさであった。

凄まじい爆発音と共に、水蒸気爆発が発生した。

 

 

――しかし紅い光の翼が爆発を突き破って現れた。

 

 

『……凄まじい機動性ね、VLユニット』

 

 

至近距離から不意打ち気味に爆破したというのにほぼ無傷。

武器であった大型実体剣【アロンダイト】を破壊できたのは御の字だったが、爆発自体は実体シールドで防がれていたようでエネルギー消費についてはたいしたことがないように見える。

 

 

『いきなりアロンダイトを持ってかれたか……っ!』

 

 

砕けたアロンダイトの一部を放り捨てた真の顔が歪む。

その理由は武装を砕かれたもあるがやはり【S.E.E.D.】が発動できておらず、意識の中の【違和感】によるところも大きい。

だがすぐさま思考を切り替える。

 

 

『うおおおっ!』

 

 

背部VLユニットから溢れる光の翼が煌めき、一瞬でデスティニーが距離を詰めてくる。

両腕部マニピュレータから溢れる紅い光は反逆の剣の名を冠する武装【クラレント・ビームサーベル】が発振されており、ヴェールから漏れた水のナノマシンを蒸発させている為か蒸気が溢れていた。

 

並のIS搭乗者ならばデスティニーの速度に翻弄され、そのまま一撃を受けていただろう。

だが、刀奈は並のIS搭乗者ではなくロシアの国家代表だ。

ハイパーセンサーでもギリギリ感知できるレベルの速度、しかし経験と戦士としての勘はそれを超える。

 

 

『流石、速いわねっ!』

 

 

クラレント・ビームサーベルを蒼流旋でを受け止める。

だが、デスティニーは一瞬の鍔迫り合い状態の後、すぐさま距離を取った。

 

その理由は一瞬前までデスティニーがいた空間の蒸気の濃度が一気に上昇したからである。

再度【清き激情】を狙ったが、それは真も読んでいた。

当然デスティニーが離脱した為空振りに終わり、蒸気が霧散していく。

 

 

『目がいいわね、真君』

 

(水のナノマシン……ホント厄介だな)

 

 

真の【霧纏の淑女】に対する評価は厄介きわまるという評価である。

その理由はやはりその武装の特殊性にある。

 

特殊性で言えば【単一仕様能力】であるが、白式と紅椿はあくまで機体エネルギーの増減に影響する能力である。

ラクスの【ホワイトネス・エンプレス】はVLを使用したナノマシンによる限定的な生体制御。

これについてもかなり非常識且つ厄介な能力であるが、同じくVLユニットを装備しているデスティニーならばVLによる干渉で防御が可能であったため、戦闘力に比べれば脅威度は低かった。

 

だが霧纏の淑女の特殊な武装である【水のナノマシン】は物理的な破壊力を持っている。

 

 

(液体に気体……あの蒸気に捕まるのはまずいな、爆破される)

 

 

VLユニットから得られるISでも規格外のスピードを用いて、真は戦法をヒット&アウェイに切り替える。

常にVLを起動し、蒸気の中にとどまらない機動を続けていれば【清き激情】を喰らうことはない。

 

武装は破壊されたアロンダイトに変わり、両マニピュレータ部分のクラレントをビームサーベルモードで使用する。

ヴァジュラビームサーベルよりも出力が高く、効果は薄いかもしれないがビームライフルモードを使用すればいちいち武装を切り替える必要もないからだ。

 

 

(デスティニーの速度なら反撃を振り切って接近できるはず……武装を全部一気に使って決めるっ!)

 

 

急機動とVLの機能により周囲に残像を残しつつ、クラレントをサーベルモードで構えて刀奈に向かう。

 

 

『早いっ!』

 

 

蒼流旋に装備されている四門ガトリングガンから弾丸が吐き出されていく。

 

だが命中していくのは全て残像であった。

ハイパーセンサーをミラージュコロイドによる幻影効果で惑わしている為だ。

 

 

『やってくれるわっ、ならっ!』

 

 

ガトリングガンの効果が薄いことを理解した刀奈の切り替えは迅速であった。

機械に頼るのではなく戦士としての感覚で、狙いをつける。

 

ハイパーセンサーを一時的にOFF状態に変更して狙いをつける――だが真はそれを待っていた。

 

 

『そこだっ!』

 

 

急機動中のデスティニーの左マニピュレータ、人間で言えば【指】の部分から球体状の物体が射出された。

 

射出された球体はすぐにその形を変えていく。

射出されたそれは人型の風船、【ダミーバルーン】と呼ばれる装備であり、C.E.ではネロブリッツと呼ばれる機体に装備されていた武装だ。

 

瞬時に3つ、デスティニーに酷似した風船が展開されて刀奈の視界を塞ぐ。

 

 

『ダミーっ、しまったっ!?』

 

 

ハイパーセンサーを起動していればダミーであることは把握できた。

完全に誘導された形になり刀奈の動きが確かに鈍った。

 

その隙を見逃す真ではない。

 

続けてデスティニーのマニピュレータから【白い液体】が射出された。

ベチャッと白い液体の様なものがランスと脚部に取り付き、スラスターが一部使用不可能の状態になった。

 

 

『とっ、トリモチィっ!?』

 

 

露出が多いデザインである霧纏の淑女に射出されたのはトリモチランチャーと呼ばれる装備である。

粘着性の物体・液体であり、破損したコロニーの簡易修復等に使われる代物だ。

 

本来は武装ではない非殺傷武器であるが、使い方次第で有用なものとなるのだ。

 

 

『とっ、年頃の女の子にこんな白い物体をぉっ!?』

 

 

彼女の言葉は一切合財無視して、背後からクラレント・ビームサーベルを振り下ろす。

大きくシールドエネルギーが減少し、追撃の蹴りで刀奈が蹴り飛ばされた。

 

 

『ぐぅっ!』

 

 

AMBACによりすぐさま体勢を立て直し、ガトリングガンで迎撃――しようとしたがトリモチがガトリングガンの砲門を塞いでいた。

それを確認してチッと舌打ちして叫ぶ。

 

 

『使い方が意地悪いわよ、真君っ!』

 

『そこぉっ!』

 

 

デスティニーが展開していた【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】のトリガーを引く。

だが刀奈は微塵も慌てた様子は見せていなかった。

 

 

『……【麗しきクリースナヤ】展開』

 

 

そのコードと共に、霧纏の淑女に赤い翼状のユニットが接続され、アクア・ヴェールの色が変化した。

その色は赤――まるでドレスのようにも見えるそれがビームを拡散させていく。

 

霧纏の淑女のパッケージ、【麗しきクリースナヤ】が接続されたことにより霧纏の淑女は高出力モードに移行したのだ。

併せてアクア・ナノマシンも高出力モードに切り替わった事によりデスティニーのビーム攻撃を拡散させることができたのだ。

 

 

『なっ!?』

 

 

突然展開されたパッケージとビームが拡散された事象を見て真が驚愕の声を上げた。

真が霧纏の淑女を調べた際にはこの武装の情報はなかった――つまりは切り札。

 

 

『ふふ、まさかこれを使わされるとはね、でもこれで終わりよ、真君』

 

 

刀奈のがランスを振るうと赤いアクア・ナノマシンによってトリモチが洗い流された。

それと同時にデスティニーのハイパーセンサーがある事象を捉えた。

 

 

<<周囲の空間に高エネルギー反応、回避を推奨>>

 

『なっ、ぐっ!?』

 

 

デスティニーの動きが止まり、全身の装甲が軋みを上げていく。

周囲の空間に引きずりこまれてまるで【沈んでいく】様な感覚と共に、シールドエネルギーが減っていく。

すぐさまVLユニットを全開で起動するが、光の翼さえも上手く展開できない。

 

 

『これが【霧纏の淑女】の単一使用能力よ、名前は【沈む床(セックヴァベック)】、どう動けないでしょ?』

 

『があああああっ!!』

 

 

咆哮と共に各部スラスターとVLユニットの出力を全開にするがまったく身動きが取れない。

拘束力は模擬戦で戦ったこともあった【シュヴァルツァ・レーゲン】の【AIC】を上回っている。

 

 

『……さあ、これで終わりよ、【ミストルテインの槍】』

 

 

【ミストルテインの槍】

アクア・ナノマシンが一点に集中、攻性形成することで一撃の威力を高める【霧纏の淑女】の大技である。

本来は使用に制限もあるのだが、現在の高出力形態ならば無制限での仕様が可能だ。

 

 

『くそっ、動けっ、うごけえええええええええっ!!!』

 

 

VLや各部スラスター、姿勢制御用バーニアからもエネルギー粒子が飛び出ているが一向に拘束されたまま動けない。

 

 

『チェックメイトよっ!』

 

 

ミストルテインの槍が迫る――回避不能。

 

 

(負けるっ、あれを喰らったらっ!)

 

 

迫るミストルテインの槍がスローに見える。

 

 

(負けたら……負けたら俺は……っ!)

 

 

大切な人の傍から離れなければならなくなる。

それは今の彼にとって断じて認めることはできない。

 

しかし状況は絶望的である。

 

だがそのとき、確かに真の耳に届いた叫びがあった。

それは――

 

 

「真っ、負けないでぇっ!」

 

 

――最も大切な人の声が響いた瞬間、意識の中にあった違和感、【紅い種】が弾け飛んだ。

 

 

それに併せてデスティニーのコンソールが自動的に起動した。

 

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)】《運命ノ翼》 Starting

 

 

紅い光の翼が全開起動時よりも大きく、巨大な翼が展開されると同時にミストルテインの槍がデスティニーを貫いた。

 

 

『なっ!?』

 

 

刀奈の驚愕の声が響く――否、貫いてはいなかった。

ミストルテインの槍はその軌道をデスティニーの実体シールドで逸らされていたからだ。

動けなかったはずのデスティニーが攻撃を捌いたのだ。

しかもミストルテインの槍は直撃の瞬間、解除させられていた(・・・・・・・・・)

 

刀奈は即座に距離を取る。

 

 

『……まさかこのタイミングで【単一仕様能力】とはね、しかも簪ちゃんの声で覚醒とか羨まし過ぎるわよ』

 

 

苦笑しつつもミストルテインの槍を構えなおす。

 

 

『……本当にありがとう、簪』

 

 

巨大な光の翼がアリーナ全体を覆うかの様に広がっている。

コンソールを確認すると、VLユニットの装甲の一部が展開されより大型化している事が表示されていた。

光の翼を形成しているエネルギー全てが右腕部のクラレントに収束し、通常時よりも大きく太いビームサーベルを形成する。

 

 

『これがデスティニーと俺の……俺達の力だぁっ!』

 

 

真の咆哮がアリーナに響いた。

 

 

 





次回予告
「運命 VS 霧纒の淑女③」


「ところでお姉ちゃん、覚悟はできてるよね?」

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