【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE41 運命の子の導き

無人機をカナードとクロエに任せた真のデスティニーがエターナルを有効射程に捉えた。

しかし、エターナルから3つの熱源反応の発進をハイパーセンサーが拾う。

 

発進した機体をハイパーセンサーで確認――1つは見覚えがある黒のIS。

【ヒルダ・ハーケン】の【ドム・トルーパー】であったが残りの2つは初見のモノであった。

 

1つはまるで【撒菱】の様に三角錐がそれぞれ異なる方向に3つ接続されているような機体。

通常のISと比べると2回りほど上回る巨体をそれぞれの錐に備え付けられたスラスター、アポジモーターで制御しており、三角錐の接続部分となる中心点には【スコール・ミューゼル】の搭乗している【IS】が埋め込まれるように接続されている。

 

 

『あれは……まさか【ペルグランデ】!?』

 

 

【TSX-MA717/ZD ペルグランデ】

ラテン語で「巨大」の意を示す機体。

真はこの機体を直接見たことはなかった。

 

だが駆け出しの頃に世話になっていた傭兵集団【サーペントテール】の【叢雲劾】から話だけは聞いていたのだ。

余談だが、元となったMAのペルグランデは3人の脳を直接つなぐ事で超空間認識能力を得るというC.E.世界でも飛びぬけて非人道的な機体である。

 

そして最後1つは【ラクス・クライン】の【ホワイトネス・エンプレス】

紫の大型VLユニットを煌めかせつつこちらに向かってきている。

 

しかし以前の【ホワイトネス・エンプレス】とは決定的に【異なる点】が存在していた。

それは、VLユニットの可動を妨げないように背部と脚部に接続された【大型のマニピュレータ】

そのマニピュレータはまるで【副翼】や【女性の手】の様にも見える。

マニピュレータの形状に【天使】を思い浮かべたが、すぐさまスイッチを切り替えた。

 

 

『……デカければ狙いやすいっ!』

 

 

ビームライフルとテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔を展開。

即座にロックオン、高出力のビームが3機に向かう。

 

この攻撃自体は大きな効果を狙ったモノではない。

例え【スクリーミングニンバス】等で防がれてしまっても、シールドエネルギーを消耗させることができれば御の字と考えていた。

 

しかし、真の予想は大きく裏切られる事となる。

ビームの発射寸前に、【ホワイトネス・エンプレス】が射線に割り込んだのだ。

ラクスは微笑みを浮かべていた。

 

そして発射された3条のビームはまるで屈折させられたかのように【歪曲】し、宇宙の闇に消えていく。

 

 

『チッ、【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】かよっ!?』

 

 

逸れていった攻撃と何が起こったか理解して舌打ちしつつ、ラクス以外の2機から降り注ぐ反撃のビームをスラスターを噴かせて回避していく。

 

 

【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】

ミラージュコロイドの原理を応用し、磁場によってビーム粒子を歪曲させることで、自機への攻撃を防ぐ装甲。

実体弾には効果がないがビームに対してはまさに【無敵】とも言える装甲だ。

 

それをラクスの機体は装備しているのだ。

おそらく以前にはなかった背部・脚部ユニットに装備されているのだろう。

これで分かったのはビームによる射撃では有効なダメージを与えることは不可能であることだ。

シールドエネルギーを幾分かは削れるかもしれないが射撃に使うエネルギーとつり合っているとは言えない。

 

 

『ふふ、シン、私はこちらですわよ?』

 

 

ホワイトネス・エンプレスのVLユニットから紫の光の翼が溢れ、並みのISを超えるスピードでデスティニーから離れていく。

まるで、誘っているかのように。

 

 

『逃がすかっ!』

 

 

追跡の為に、デスティニーのVLユニットから紅い光の翼を溢れさせる。

だが、それを決して認めない者が2人ここにはいる。

 

VL最大稼動に移ろうとしていたデスティニーの上方に、【大型ドラグーン】が砲口をこちらに向けて存在していた。

ペルグランデから射出されたドラグーンである。

 

そしてデスティニーのコンソールに踊るロックオン警告。

ビームランチャーを展開して、ドム・トルーパーがこちらに狙いをつけていたのだ。

 

 

『行かせると思ってるのかい、シン・アスカっ!』

 

『ラクス様の元には行かさないわよ、ここで落ちなさいっ!』

 

 

上方からまるで網の目の様にビームが降り注ぐと同時に、ビームランチャーから吐き出された悪意の塊がデスティニーに迫る。

しかしデスティニーはVLユニットを起動させたままビームの雨をすり抜け、ドムからのビームもAMBACを駆使して回避していく

 

 

『ちっ、お前らに構ってる暇なんてないんだっ!』

 

 

ドラグーン対策の基本は絶えず動き回ることと、常に位置と砲口を確認することである。

この点で言えばMSよりISのほうが対処がしやすいと思うのが真の感想だ。

 

それにドラグーンと同種であるBT兵器を使うセシリアとの模擬戦を繰り返した事もプラスに働いている。

しかしあまりにも攻撃の密度が濃い。

 

多少の被弾を覚悟して、まずはドムを落とす事を決めた瞬間であった。

 

ハイパーセンサーが自機の後方に高エネルギー反応を検知――ほぼ同時に高出力ビームがドムを襲った。

ヒルダの機体もエネルギーを検知していたらしく、咄嗟にスクリーミングニンバスを展開しぎりぎりだが防御が間に合っていたようだ。

 

 

『ぐうっ!?』

 

 

しかし、咄嗟の行動で合ったためスクリーミングニンバスの展開率は通常よりも低かった。

そのため姿勢制御が追いつかずに吹き飛ばされる。

 

 

『ヒルダッ!』

 

 

叫びを上げるペルグランデのスコールを狙うかのように360°に展開されたドラグーンからビームが放たれた。

 

 

『ちぃっ!?』

 

 

ドラグーンに寸でのところで気づいたスコールは、ペルグランデを姿勢制御バーニアで精密かつ迅速に動かす。

発射された4条のビームのうち被弾したのは2条。

1つの三角錐部分のスラスター及びドラグーンを撃ち抜かれ沈黙すると共に、シールドエネルギーが減少する。

 

 

『……無人機は全滅したみたいね』

 

 

一旦後退しつつ、スコールが呟く。

ペルグランデを狙っていたドラグーン4基は親機であるIS【Xアストレイ】の元に戻っていく。

高出力ビームを放ったのはドレッドノート、ドラグーンで援護してくれたのはXアストレイ。

 

カナードとクロエだったのだ。

 

 

『……なるほど、ペルグランデか。こいつらは俺達に任せてラクス・クラインを追え、真』

 

『頼むっ!』

 

 

ドレッドノートHから繋がった通信に頷いて真はラクスを追うためVLを展開。

崩れた戦線を突破し、ラクスを追っていく。

 

 

『糞がっ、行かせ……っ!』

 

 

ようやく姿勢制御を整えたヒルダであったが、目の前に迫る【光の槍】に再度スクリーミングニンバスを展開、直撃を何とか防ぐ。

 

 

『この失敗作風情がぁっ!』

 

『……【失敗作】か。なるほど……だからどうした?』

 

 

スクリーミングニンバスにALランスを押し付けたまま、ヒルダの射殺すような視線に冷たい表情で返す。

スクリーミングニンバスとALが干渉しあうことで火花が散っている。

 

 

『……キラ・ヤマトも気に食わなかったが……貴様はそれ以上だな、失敗作っ!』

 

『吼えるな、耳に障る。俺に何度も同じ手が通用すると思うなよ、ヒルダ・ハーケンっ!』

 

 

カナードの返しと共に、左腕から展開しているALランスの発生率が変化。

より一層鋭く小型に変形し、少しずつだがスクリーミングニンバスを貫いていく。

そしてそのままALランスはスクリーミングニンバスを貫き、ドムの胸部装甲を破壊。

ヒルダは即座に後退していたため、大破までには持っていけなかったがエネルギーを大きく失わせることには成功した。

 

 

『なっ、なんでスクリーミングニンバスがっ!?』

 

『……その武装の大本はALだ。発生率を調整してのスクリーミングニンバスへの干渉……【失敗作】の俺にはできないと思ったか?』

 

『ちょっ、調子に乗るなぁぁっ!!』

 

 

カナードの挑発に激昂したヒルダのドムはビームサーベルを構える。

同時に再度スクリーミングニンバスを展開して切りかかってくる。

ドレッドノートHのイータユニットが変形し、ALハンディに干渉しない近接格闘形態である【ソードモード】に切り替わる。

 

 

『貴様毎その紛い物を……破壊してやるっ!』

 

 

イータユニットから発生したビームサーベルでドムのサーベルと鍔迫り合いに持ち込み、互いの光波防御装置が再び干渉し合う。

 

 

――――――――――――

 

 

『ちぃっ……!』

 

『……ドラグーン同士の戦いがこれほど厄介だとは……っ!』

 

 

ドレッドノートHとドム・トルーパーが戦闘を開始した頃、ペルグランデとXアストレイは互いのドラグーンと射撃武装による射撃戦を繰り返していた。

ペルグランデのドラグーンが機体下方と背後に移動して、Xアストレイを狙う。

機体にドラグーンを戻そうとしていたクロエは咄嗟にスラスターを噴き、回避を選択する。

 

本体であるIS自体は回避に成功するが、機体に戻そうとしていたドラグーン4基の内3基は回収できたが1基が破壊されてしまった。

 

 

『くぅ……っ!?』

 

 

ペルグランデの大型ドラグーンは先ほどの奇襲で1つ喪失しているが、残り2つは健在。

その稼働時間と出力はXアストレイよりも長く高い。

Xアストレイに搭載されているドラグーンは調整が進んだとはいえ試作型であるため、どうしても稼働時間に限界がある。

 

 

『ふふっ、相手が貴女で助かったわ、【遺伝子強化試験体】の【試作型】さん?』

 

『っ!?』

 

 

スコールの突然の言葉に機体の機動が明確に乱れる。

ペルグランデのドラグーンから射出されたビームをシールドで何とか受け止める。

 

 

『何故……そのことをっ!?』

 

『何故って……【遺伝子強化試験体】計画はラクス様が提出した草案を元にした計画だからよ……私達にもいるのよ、貴女のお仲間は』

 

 

動揺したクロエを尻目に、ドラグーンを回収したペルグランデは機体に増設されたビーム砲からビームを放つ。

 

 

『っ!』

 

 

再びシールドでビームを防ぐ。

だが限界が来たシールドはビームを防ぐが破損してしまっていた。

 

 

『貴女のその瞳……どうやら試作型の中でも【失敗作】みたいね……確か、破棄されたと聞いていたけど、まさか篠ノ之束に拾われていたなんてね』

 

 

ISに搭乗していたクロエの双眸は、黒く染まり、瞳は金の光を放っている。

ラウラと同じヴォーダン・オージェ。

彼女本来の瞳の色は朱色である。

しかし、感情が高ぶるなど不意にヴォーダン・オージェの状態に変化することがある。

これは彼女の生まれに由来する。

 

スコールの言葉にかつての記憶が蘇る。

 

――こいつは、失敗作だな。

 

――破棄しなければ。

 

――失敗だ。

 

 

『……私を……【失敗作】と呼ぶなぁあ!!』

 

 

【黒に金の瞳】を開き、怒りの表情でXアストレイはビームサーベルを展開。

同時に残り3基のドラグーンを展開して切りかかる。

 

 

『ふふ、単調な攻撃……!』

 

 

ドラグーン再度射出したペルグランデであったが、ビームを受けつつもXアストレイが迫る。

 

 

『はぁぁぁっ!』

 

 

ペルグランデのドラグーンによって機体各部の装甲が破壊され、シールドエネルギーも減少する。

 

しかしXアストレイは止まらない。

だがその特攻もペルグランデ接続部に取り込まれるように接続されているIS【ゴールデン・ドーン】の【腕】に掴まれ受け止められてしまった。

 

 

『っ!?』

 

『終わりね、貴女』

 

『きゃあっ!?』

 

 

【ゴールデン・ドーン】の両肩に備わっている【炎の鞭(プロミネンス)】がXアストレイを貫く。

胸部装甲が破壊され、大きくエネルギーが減少、そしてその衝撃に吹き飛ばされる。

 

 

『……さて、ヒルダの援護に……!』

 

 

制御を接続部に接続した【ゴールデン・ドーン】からペルグランデに切り替えたスコールが呟いた。

 

 

―――――――――――――

 

(……目を……覚まして)

 

 

吹き飛ばされたクロエは衝撃によって意識を失っていた。

しかし、自身に呼びかける声に目を覚ました。

 

 

(……誰……ですか……?)

 

 

目を開ける――遺伝子強化試験体である自身の黒に金の瞳が捉えたのは、優しい表情を浮かべた【金髪の少年】の姿であった。

 

 

『貴方は……?』

 

(僕はプレア、【プレア・レヴェリー】……カナードから聞いてないかな?)

 

『プレア様っ……カナード様をお救いになった盟友……っ!』

 

(はは、盟友だなんて大げさだよ)

 

 

少し困ったかのようにプレアと名乗る少年はクロエに返答する。

プレアの言うとおり、クロエはカナードから【彼】の事を聞いていたのだ。

 

【プレア・レヴェリー】

C.E.でカナードと戦いその命と心を救った人物であり、カナードにとっては唯一無二の盟友である。

ライブラリアンと言う存在として再生されたこともあったと言うが、おそらくは目の前の彼はオリジナルのプレアであるとクロエは直感で理解していた。

 

 

『……プレア様、何故貴方は私を……?』

 

(君はこんな所で死んではいけない人間だ……それに君は失敗作なんかじゃない、それを伝えるためにね)

 

『……ですが私は……こんな普通じゃない目をしているんですよ?それこそ失敗作が私に相応しい言葉です……』

 

(確かに、君の身体は普通とは違うかもしれない。けど君は君だ。それに人は……温かい、想いの力で繋がってるものなんだ……君はカナードを想っている、その想いは決して偽物なんかじゃない)

 

 

プレアの優しく強い言葉がクロエの心に染み込んで来る。

その言葉は自身を心配し想ってくれている彼の温かさに満ちていた。

 

 

『……ありがとうございます、プレア様』

 

(……どういたしまして……それとクロエさん、カナードをよろしくね)

 

 

優しく微笑む彼にクロエは力強く頷く。

プレアがクロエの表情が変わったことを確認して、破損しているXアストレイの装甲部分に手を触れる。

 

 

(Xアストレイ……僕の声が届いているか分からないけど……どうか、彼女にもう一度【勇気】を貸してあげてくれ)

 

 

プレアの手が離れると同時にXアストレイが光に包まれていく。

腰部に新たな武装が発現している。

発現した武装はMS【Xアストレイ】の腰部に存在していた【XM1 プリスティスビームリーマー】に酷似していた。

 

それを確認したプレアの姿が薄くなっていく。

 

 

『……プレア様』

 

(そろそろ限界かな……あきらめないでね)

 

『……はいっ!』

 

 

プレアの姿が消える――同時にAMBACとスラスター、バーニアを調整して姿勢制御を行う。

 

 

『……あら、まだやる気かしら?』

 

 

ヒルダの援護に向かおうとしていたスコールが、機体のハイパーセンサーで姿勢制御を行い復活したXアストレイを確認し呟く。

 

 

『……私は、私……ですよね……プレア様、カナード様』

 

 

ドラグーン3基と新たに発現した【プリスティス】を射出、ペルグランデに向かわせつつクロエは叫ぶ。

 

 

『私は【クロエ・クロニクル】として貴女を止めますっ!』

 

 

彼女は自身の瞳を力強く開き叫んだ。

 

 




次回予告

デストロイと対峙する一夏達。
守ると誓った約束の為、破壊の化物に挑む。

「白式・雪羅」

新たな力は誰かの笑顔を守るための力――少年は叫ぶ。


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