【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
イズモから出撃した真達4機と、メサイアから迎撃にでた無人機35機はすでに互いを交戦可能距離に捉えていた。
無人機であるストライクやイージス達は照準を真達に合わせて手に構えるビームライフルのトリガーを引く。
宇宙の闇をビームの光が切り裂き、彩っていく。
しかし、一部の機体のライフルからはビームが発射されることはなく構えていた腕部が爆発し、吹き飛ばされていた。
爆発によって吹き飛ばされた機体は、次の瞬間にはMSで言うコックピット部分をビームによって貫かれ、機体の余剰エネルギーが暴走しているのか爆発によって宇宙の塵と化していく。
爆発の中を縦横無尽に駆け回る【ドラグーン】がクロエの【Xアストレイ】の背部ユニットに戻り接続される。
『撃ち漏らしが……カナード様、申し訳ありません』
クロエは出撃後、すぐさまドラグーンを射出し、ビームの射撃を回避しつつ遠隔操作を行っていたのだ。
Xアストレイのドラグーンによって爆散した機体は5機。
全体の七分の一であった。
『問題ない、むしろ今のXアストレイでそこまでやれれば上出来だ』
無人機からのビームをAMBACだけで回避。
すぐさまビームサブマシンガンを展開し、弾幕を張りつつカナードがクロエに答える。
『それに……ラキもいる』
彼が答えた瞬間、無人機達の頭上方向から【ビーム】と【レールガン】が連続で放たれ次々に爆発に飲まれていった。
『……味方だと本当に頼もしいな』
ボソリと真が呟くと同時に、真達の機体にメッセージが届く。
イズモの束からのメッセージだ。
内容はメサイアから【エターナル】が発進したと記載されていた。
『出てきたか、援護頼む』
デスティニーでの戦域の突破を試みる。
VLユニットから光の翼を広げ、領域を紅く染め上げる。
インパルスガンダムから進化した【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】は武装や外見も大きく変わったが最も変化したのは【エネルギー効率】であった。
デスティニーシルエットは装備しているだけでシールドエネルギーを消費、VL使用時の消費エネルギーも劣悪であった。しかし進化後のVLは最適化、効率化されており通常時に消費するエネルギーはなくなり、VL最大稼働時に使用するエネルギーも、以前を100とするのならば現在は10程度と破格のエネルギー効率となっている。
『了解した』
『任せてください、真様』
デスティニーインパルスを凌駕するスピードで真は戦域を翔ける。
それを迎撃する為に無人機達も即座に武器を向けるがその全てがドラグーンとビームサブマシンガンに撃ち抜かれて沈黙していく。
――――――――――――――――――
エターナル ブリッジ
「ふふ、シン達が会いに来てくれるなんて……素敵ですわね」
白の装束を身に纏ったラクスが艦長席に座り、映し出されるモニターを眺めつつ呟く。
歌姫の騎士団の象徴でもある旗艦、【エターナル】をラクスはこの世界でも建造していた。
こちらは【アークエンジェル】とは異なり【イズモ】と同じくISコアなどを使用せずに、既存技術の粋を集めたモノとなっている。
エターナルの全長はオリジナルと比べてやはりダウンサイジングされており、100m程度の大きさになっている。
また象徴でもあったモビルスーツ埋め込み式戦術強襲機【ミーティア】は取り除かれ、代わりにアークエンジェルと同規格のゴットフリートを装備していた。
「シン・アスカ、カナード・パルス……そしてラクス様の寵愛を受けながらも裏切った……キラ・ヤマトォっ……!」
モニターで無人機を撃墜していくカナード達の姿を眺めつつ、副官でもあるヒルダの顔に憎悪の感情が滲む。
その隣で金髪の美女。
スコールがヒルダの様子に少しだけため息をついて告げる。
「ヒルダ、落ち着いて……所詮はラクス様のお気持ちを理解できない奴等よ。それにメサイアを地球に落下させれば私たちの勝利……ですよね、ラクス様?」
「はい」
まるで女神の様な笑顔でスコールの言葉を肯定する。
「シンが私のモノにならない世界なんてもう必要ありません。しかしジェネシスをちゃんと建造しておくべきでした、そうすればスコールさんやヒルダさん、そして地球で頑張っていただいているオータムさんや亡国の方々の苦労もなかったというに。あ、オータムさん達の回収部隊は向かわせていますのでご安心を、スコールさん」
彼女は束から技術を奪い取った後すぐさま宇宙に上がっていた。
そしてメサイア、宇宙での拠点を建造していたのだ。
メサイアはかつての世界でも使用した事のある拠点であり、スコール達亡国機業の協力もあり、建造は半年ほどで終了した。
しかしジェネシスについては、宇宙開発が遅れているこの世界では必要性を見出せず建造は行っていなかったのだ。
地球に住む人間たちにとっては不幸中の幸いとでも言おうか――とにかく幸運であったことには変わりない。
「……さて、せっかく来て頂いたのですもの。おもてなしをして差し上げないと……アスラン」
ラクスの背後に無表情で立っていたアスランが、彼女の声に反応しブリッジを出ていく。
「さて、私達も向かいましょう?」
艦長席から立ち上がりラクスは微笑む。
「ラクス様、【ホワイトネス・エンプレス】への【パッケージ】接続は完了しております」
「ありがとうございますわ、スコールさん」
「ありがたきお言葉です」
「貴方のお相手は【私】がして差し上げますわ、シン……私のモノにならないのなら残念ですが、あなたの翼を折って差し上げますわ」
紅潮した表情でラクスはブリッジを後にする――その後にスコール達も続く。
――――――――――――――――――
イズモから出撃したラキーナはカナードとクロエ、そして真とは別行動を取っていた。
別行動でメサイアを目指し、現在は丁度無人機達が展開している座標の上部に当たるポイントに翔けていた。
(……アスラン)
優柔不断でいつも迷ってばかりであったが、幼い頃から孤立しがちだった自分を気にかけてくれて、自分の無茶なアイディアに驚きつつも友情の証として【トリィ】を作って送ってくれた大切な【友達】
戦場で再会してからは互いに大いに道を誤った。
そして今の彼はラクスに自分の意識さえ奪われている。
ならば助けるのは自分しかない。
たとえそれでアスランの命を奪うことになってもだ。
それに不思議と確信があった、アスランは自分を狙ってくると。
以前の襲撃の際の反応と過去の経験からそれは間違いないと感じていたため、あえて別行動を取っているのだ。
そこまで思考した瞬間、自分の下方に当たる座標で爆発が確認できた。
ハイパーセンサーで確認すると【Xアストレイ】のドラグーンが数機の無人機を落としたことが確認できた。
しかし無人機の多くは健在である。
『……フリーダムストライカーを試してみよう』
ストライクガンダム
否、【フリーダムストライカー】を装備した今のストライクの名は【ストライクフリーダムガンダム】だ。
背にある8枚翼を広げ、翼は砲塔に変形し、肩部と腰部に接続される。
機体の状態が高機動モードである【ハイマットモード】から砲撃戦モードの【フルバーストモード】に切り替わったのだ。
【フリーダムストライカー】
かつて自由の剣と呼ばれたMS【フリーダム】をモチーフにしたストライカーパックである。
このストライカーパック自体は最初期、束がストライクガンダムの製作を開始した当初から並行して製作が行われていた。
だがラキーナは使用を忌避していたため、未完成のまま放置されていたのだ。
その理由はかつての行いを想起させてしまうからだ。
ラクスの言葉は全て正しいと認識し、自分では意識せずとも彼女の手駒として動いていた過去を思い出させるからだ。
だがその性能は束が作成した【I.W.S.P.】すらも上回るモノであった。
そして先日の襲撃事件を経て使用を決意し、この数日間でようやく完成したのであった。
球状の投影コンソールが表示されると同時に【マルチロックオンシステム】が起動する。
搭乗者であるラキーナの視線と連動し、敵機を次々と補足していく。
同時にコンソール状でも敵機がロックオンされていく――だが―
『っ、ロックオンにズレがっ……いくら束さんが作ったモノでもロクに調整できてなければ仕方ないかっ!』
ラキーナの言葉の通り、コンソールでロックオンされている敵機の座標と実座標に僅かにずれが生じていたのだ。
フリーダムストライカーはつい先日完成したばかりであり、調整と整備の時間が取れなかったため、この不具合も仕方がない。
だからと言って砲撃が行えないわけではないのだ。
『なら私が調整して狙えばいいっ!ロックオン座標を下方コンマ3度修正、ハイパーセンサー感度調整、搭乗者の視界とリンク最適化OK、肩部バラエーナ、腰部クスィフィアス射角微調整……完了っ!』
調整用コンソールを凄まじい速度で操作しつつ、機体の調整を済ませていく。
今の彼女は
『落ちてぇっ!』
調整が完了したバラエーナとクスィフィアスから連続でビームと電磁加速した弾頭が発射されていく。
かつてMSのフリーダムに搭乗していた時とは異なり、急所、MSでいえばコックピット部分に直撃していく。
以前はMSの手足や武装、スラスター部分を破壊するのみにとどめていたが、容赦なく撃墜する。
もっとも相手は無人機であるのだから加減は元々必要ないのだが。
【不殺】
今のラキーナからしてみれば自分が行っていた行動がいかに薄っぺらいモノであったかよく分かる。
しかも三隻同盟時代に、共に戦った事のある【ジャン・キャリー】の様に徹底せず、かつて真に追い詰められた時は彼を殺そうとした事もあった。
そして見ないようにしていた面にも気づいた。
――宇宙で自分が無力化したMSのパイロットは満足にAMBACも撤退行動もとれずにエア切れで窒息するしかないという事に。
――自分が無力化したMSをスコア稼ぎの為に利用している仲間の存在に。
フリーダムストライカーの性能から自分の罪を改めて確認したラキーナはフルバーストモードから高機動モードの【ハイマットモード】に切り替える。
肩部と腰部に接続されていた武装は再び変形、背部に戻り翼状のスラスターとなった。
『後は兄さんとクロエちゃんに……っ!?』
ハイパーセンサーが反応を捉えた。
同時に頭上方向からビームが連続で発射された。
『アスランっ!』
ビーム発射直前に、対ビームシールドを展開して防御態勢を取っていたラキーナは、ビームを発射した相手の名を叫びつつ、自身もビームライフルを展開し反撃に移る。
『キ……ラ……っ!』
彼女の予想通りアスラン・ザラが駆る【インフィニットジャスティス】だ。
先日の襲撃で真のデスティニーに敗北したインフィニットジャスティスの損傷箇所の修復は終えており、アスラン自身の傷も完治しているようだ。
ジャスティスがビームライフルを構え、トリガーを引く。
射線を読みつつ、シールドで防ぎ拡散させる。
ジャスティスが【シャイニングエッジ ビームブーメラン】を展開、デスティニーのフラッシュエッジよりもビーム刃が長大なブーメランを投擲すると同時にスラスターを噴かせて、距離を詰めてくる。
ビームライフルはすでに格納しており、両手には【シュペールラケルタビームサーベル】が握られている。
『っ!』
飛来してくるビームブーメランを即座にビームライフルで撃ち落し、同じように【ラケルタ ビームサーベル】を展開。
ジャスティスの右袈裟切りをシールドで受け止め、左のサーベルは自身のサーベルで受け止める。
ビーム粒子の干渉によって宇宙の闇に花火の様なプラズマが飛び散った。
『フリー……ダム……っ!?』
『そうだよ、君を止める為に私はこの力を使うっ!』
ラキーナのISの姿がアスランの記憶を引き出したのか、鍔迫り合いの中アスランから声が漏れる。
それに叫ぶように答えてスラスターを噴かす。
現在のストライクフリーダムガンダムはハイマットモード、高機動様形態だ。流石のジャスティスも推力では適わない。
『っ!?』
『はあっ!』
推力任せのシールドバッシュ。体勢を崩したジャスティスの右手装甲をビームサーベルが切り裂く。
同時にシュペールラケルタビームサーベルの発振部分を切り裂く事で使用不能に追い込む。
『ぐっ……ウオオッ!』
だがアスランもやられているだけではなかった。
脚部のグリフォンビームブレイドを起動して、ビームキックを繰り出してきたのだ。
シールドでビームキックを防ぐが出力ではジャスティスのほうが上、しかもラキーナの身体はまだ成熟してはおらず、フィジカルの面でアスランに劣っている。
つまりはパワー負けだ。
『くぅっ!』
シールドがビームブレイドに貫かれ、そのまま切り裂かれる。
シールドが貫かれた瞬間、ラキーナは【瞬時加速】によって距離を取っていた。
アスランも崩れた体勢をAMBACで立て直し、サーベルを構えている。
(……やっぱりアスランは強い、接近戦は身体の面もあるけど不利……)
ラケルタビームサーベルを一旦格納、ビームライフルと左肩部のバラエーナを展開して戦法を近距離戦から中距離戦に切り替える。
元々、フリーダムストライカーが得意とする距離は中、遠距離の射撃戦だ。
コンソール画面でジャスティスをロックオン。
アスランの虚ろな瞳が嫌でも目に入る。
『……アスラン』
かつて戦争に巻き込まれた時と同じ気持ちだ
――長く続く戦いの中で磨耗した少女は痛みの中目を覚ました。
『待ってて、絶対に……助けるからっ!』
武装を展開していない残りの4つの翼を広げ、ラキーナが叫ぶ
同時に、彼女の頭の中で【紫の種】が弾け飛んだ。
――戦乱の歌姫に意識を消され、悪夢を見続けている親友を助けるため、少女は翼を広げる。
次回予告
失敗作――それはクロエにもっとも当てはまってしまう言葉。
だが、それを乗り越える――宿命を越える事は出来る。
「運命の子の導き」
宿命を乗り越えろ、Xアストレイ!