【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE38 暁の空へ

宮島 日出工業 宇宙開発部門施設 【アマノイワト】

 

真達は宇宙に向かうため、宮島に建てられた日出工業の宇宙開発部門施設【アマノイワト】にてシャトル搭乗の準備を進めていた。

アマノイワトに建てられている【マスドライバー】から射出されたシャトルは宇宙ステーション【アメノミハシラ】に到着後、推進剤等を補給、そこでとある【モノ】に【乗り換えて】L5ポイントへと向かう予定だ。

優菜曰く、サプライズとのことで乗り換え予定の【モノ】については教えてくれなかったが。

 

またシャトル搭乗時にはISを起動し、PICによって加速時のGを相殺することとなっており、シールドエネルギーはアメノミハシラで補給予定である。

 

真やカナード、ラキーナ達にとっても宇宙に上がるのは約20年ぶりとなるため、アメノミハシラに到着した後の計画については一切の漏れがないように頭に叩き込んでいた。

 

また打ち上げ用シャトルについては格納庫内で厳重に警護されつつ整備されていた。

歌姫の騎士団のお家芸を警戒しての事だ。

 

 

 そしてシャトル打ち上げ当日。

 シャトル打ち上げまで残り1時間を切り、カナード達はすでにシャトルへ搭乗している。

そんな中、IS用格納庫に真と簪の姿があった。

 

 

『ん、拡張領域に登録されたのを確認した』

 

『うん。真なら使いこなせるよ』

 

『ありがとう。いきなりこんなこと頼んでごめんな』

 

『ううん、全然大丈夫。頼られるの嬉しいから』

 

 

 コンソールを消して、ISを解除した真は待機形態になったデスティニーを身に着ける。

シャトル搭乗前に真は【とある事】を簪に依頼していたのだ。

そしてその作業も完了した。後は向かうのみ。

 

 

「……よし、行ってくるよ」

 

『うん、私も精一杯頑張るから……信じてるからね、真』

 

「ああ、ありがとう、簪」

 

 

 力強く頷くと共に笑顔で彼女にサムズアップを送る。

簪も笑顔で機体のマニピュレータを使ってサムズアップを返してくれる。

 

 真はシャトルの搭乗に。

 

 簪はその警護への為、空へと向かう。

 


 

 宮島 マスドライバー付近

 

 

 残り30分でシャトルはマスドライバーより射出される予定だ。

そんな中、警護の為に一夏達はISを展開し、空中で警護を行っていた。

 

 

『……来るのかな、アイツ等』

 

 

 【白式】を展開し、得物である【雪片弐型】を展開した一夏が呟く。

その呟きを近くで滞空していた【ブルー・ティアーズ】

セシリアが拾い、返答する。

 

 

『……結局この4日間に襲撃はありませんでしたがおそらく。それにあちら側はシャトルの破壊が目的でしょうし、このタイミングを逃すのは考えられないですわ。しかし捕らえた【サイレント・ゼフィルス】の【彼女】から何か聞き出せればよかったのですが……』

 

 

 セシリアの言う彼女。

【サイレント・ゼフィルス】に搭乗していた少女、IS学園側で拘束されて取り調べが進められていたが結局分かったのは【マドカ】と言う名前程度であった。

一夏にとっては彼女の【顔】が姉である【千冬】の幼い頃に酷似しているのが気になったが、今はそれを考えている状況ではないと思考を切り替えたが。

 

 

『悩んでてもしょうがないか。後30分で真達の打ち上げが始まるんだし……あいつらがちゃんと宇宙に上がれるように俺達は守るだけさ』

 

『ふふっ、そうですわね』

 

 

 一夏の言葉に思わず笑みを零したセシリア。

彼女も同じ気持ちなのだ。

 

 その様子を少し離れた場所で【紅い分割装甲を持つ機体】、【紅椿】を身に纏った箒が凝視していた。

明らかに嫉妬の感情が顔に表れている。

セシリアが一夏に【友情】以外の感情を抱いていないのは箒も知っているがこればかりは抑えきれないようだ。

 

 その隣には【ガイアガンダム】を身に纏った利香が苦笑して箒を眺めていた。

 

 

『あはは……箒ちゃん、顔、顔、女の子がそんな顔しちゃ駄目だよ?』

 

『……すいません。元々こういう顔なので』

 

『……一夏君の事、そんなになるまで好きなんだね~』

 

 

 利香の言葉はプライベートチャネルでやり取りしていたため周りには聞こえていないが、箒は振り返る。

彼女の顔には何故ばれたと書かれていた。

 

 

『バレバレだよ、箒ちゃん』

 

『いっ、一夏には絶対に喋らないでくださいよっ!?』

 

『言わないから安心して……後、アドバイス。2歩3歩下がった後ろからついていくのが【大和撫子】だっけ?それもいいけど、やっぱり強烈にアタックしないといつまでたってもそんな感じだと思うよ、私も苦労したし』

 

 

 利香のやけに【実感】の籠もった言葉に箒ははっと表情を変える。

それと同時に利香の隣に【銀の甲冑の様なIS】が降下しつつ現れる。

 

 アメリカとイスラエルが共同開発した軍用IS【銀の福音】だ。

そしてポンとガイアの肩部の非固定浮遊武装である【ビームブレイド】部分にマニピュレータを乗せつつ、頭部ヘルメットがカシャッと開いた。

現れたのは金髪の美女。

優菜のコネによってマスドライバー護衛に参加している【ナターシャ・ファイルス】だ。

 

 彼女にはラクス・クラインのことは伝えられておらず、テロリストがマスドライバー破壊を企てている為に護衛が必要と言うことで話が通っている。

アメリカ人である彼女にとってテロは憎むべきものであり、また友人である【瀬田利香】と【応武優菜】の頼みで護衛を引き受けてくれたのだ。

 

 

『利香、落ち込まないで、きっといい男が見つかるわよ?』

 

『うるっさいわね、ナターシャっ! 久々にあった友人への慰めの言葉がそれぇっ!?』

 

『ふふ、でも元気になったじゃない?』

 

『これは元気じゃなくて怒りっ! ったくなんでこの世界にはコートニーがいないのよ……あの仏頂面めぇ……!』

 

 

 通信が繋がっているナターシャや箒に聞こえないよう音量を操作して呟く。

かつての世界で共に肩を並べた男の顔を思い浮かべて顔を顰める。

 

 

『警備中なのに利香さん達はずいぶんと余裕ね』

 

 

 緊張しているのか少しげっそりとしつつ、空域を【甲龍】のハイパーセンサーで探りつつ鈴が声を漏らす。

その横で束から提供され、【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】に装備された【ミラージュコロイドデテクター】で感知しつつ、シャルルが返す。

 

『利香さんも元MS……パイロットだっけ?真と同じくエースパイロットだったんでしょ、場慣れしてるんだと思うよ』

 

『シャルルの言うとおりだな、あれだけふざけていながらも周囲への警戒は解いていない……元軍人と言うのも納得だ』

 

 

 左目の眼帯を外して目を閉じ【シュヴァルツェア・レーゲン】を身に纏うラウラがシャルルに続く。

いつでも【ヴォーダン・オージェ】を発動できるようすでに眼帯を外しているのだ。

完全な制御はできないため発動時間に制限はかかっているが。

 

 またエネルギー兵器を持たない鈴達3人には日出工業より【ビームライフル】が貸与されている。

そのためPS装甲持ちの無人機であろうがダメージを容易に与えることが可能となった、

もちろん技術盗用についてはしっかりと対策済みである。

 

 

『……後30分』

 

 

 【飛燕】のVLユニットは起動せずに、各部のスラスターとPICで飛行を行っている簪が口を開く。

視線はマスドライバーに向けられており、手に握るバルムンクには静かに力が込められていた。

その様子を眺めつつ【霧纒の淑女】を身に纏った楯無が近寄り、プライベートチャネルを繋げる。

 

 

『やっぱり真君と一緒に宇宙に行きたかった?』

 

『ううん、私が行ってもたぶん……足を引っ張るから。それに信じてるから』

 

『……ホントにいい子ね、簪ちゃん。お姉ちゃんは鼻が高いわ!』

 

『お姉ちゃん、ちゃんと集中しようよ』

 

 

 簪が呆れたような表情になると共に緩んでいた楯無の表情が引き締まる。

 

 

『ええ、分かってるわ、未来の義弟クンの為なんだから集中するわ……油断はしないようにしましょう』

 

『……うん』

 

 

楯無の言葉に簪が頷く。

 

 


 

 マスドライバーにシャトルが接続され、打ち上げ時刻まで残り10分――状況が動いた。

 

 

『センサーとミラコロデテクターに反応!』

 

 

 鈴の叫び共に全員に緊張が走る。

上空より数十機の無人機が降下してきたのだ。

ミラージュコロイドを展開していたらしく、少し姿がぶれて見える。

 

 

『おいでなすったか!』

 

 

 【暮桜】を身にまとう千冬が自身に放たれた無人機からのビームを切り払いつつ、答える。

一瞬だけ雪片の刀身に光が溢れていたのを近くにいた一夏は見逃さなかった。

以前カナードが言っていた様に一瞬だけ零落白夜を使ってビームのエネルギーを無力化したのだ。

 

 

『行かせないぜ、後10分なんだ、あと少し……!』

 

『ちょっ、海の中から何かでかいのが来るわよっ!?』

 

 

 無人機のストライクと切り結んでいた一夏の声が鈴の叫びによってかき消された。

それと同時に宮島近くの海面に現れた反応を機体のハイパーセンサーが拾う。

 

黒い巨体。そう表現するしかなかった。

通常のISのサイズよりも二回り以上大きい機体が海中から現れたのだ。

通常のISの平均サイズ2m~3m程度、大きい機体でも5m程度がISのサイズの常識だ。

しかし現れた機体のサイズは軽く10mを超えている。

 

 大きさは約15m程度でISよりもむしろ【MS】に近い。

そしてその機体はゆっくりと変形していく。

円盤状の装甲が背部に移動し、5m程のビーム砲塔を複数展開。

胸部に当たる部分には搭乗者をまるで取り込む様なコックピットの様な部分が現れた。

 

 空から出現した無人機を相手しつつ、異様なISの出現に面食らっていた一夏達の中で利香だけが現れたISの正体を理解していた。

 

 

『まさか……あれは【デストロイ】っ!?』

 

『あれが……真が話してくれた……デストロイ……っ!?』

 

 

 以前、真の前世について聞かされていた簪が声を上げる。

 

 【GFAS-X1デストロイ】

 C.E.ではブルーコスモスの私兵、第81独立機動群「ファントムペイン」が開発し、ベルリンを蹂躙した大型MS。

真にとっては守ると誓った相手を守れなかった傷、ラキーナとっては直接手を下してしまった傷を想起させるトラウマに近いMAである。

 

 

『こいつでマスドライバーごとぶっ潰してやるよ、シン・アスカァっ!』

 

 

 コックピットに取り込まれているように見える搭乗者。

【オータム】は複数のコードが接続されている非透明バイザーのヘルメットを装着しており、顔は見えない。

だがそれでも声からは狂気が迸っている。

 

 その狂気の源は彼女が崇拝するラクスの気持ちを裏切った真への憎悪。

憎悪を糧にビーム砲塔をマスドライバー施設に向ける。

通常のISのビーム兵器でも実弾兵器に比べると破格の威力を発揮する。

 

 デストロイは機体に合わせて武装規格も大型化している。

出力も比例して高まっているのは想像に難くない。

 

 ビーム砲塔とコックピット上部、MSで言えば頭部ユニットにあたる箇所に展開されたビーム砲口【スーパースキュラ】にビーム粒子が集まる。

無人機ストライクとイージスを合わせてビームブレイドで両断した利香がそれに気づき声を上げる。

 

 

『やばっ、防いでっ!』

 

 

 利香の叫びと共に、デストロイからビームの雨、いや嵐が放たれた。

デストロイの大型ビーム砲塔から発射されるビームは一発一発の威力が高出力のビームであるとともにそのすべてが一夏達を正確に補足していたのだ。

 

 だが防ぎ切れないモノではない。

利香を筆頭にそれぞれの機体のシールドでビームを受け止め拡散、無効化している。

ブルー・ティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ、シュヴァルツァ・レーゲン、霧纏の淑女、飛燕、銀の福音には日出がインパルス用の対ビームシールドを貸与しており、それぞれが拡張領域に装備していたのだ。

 

 拡張領域に余裕がない白式は【零落白夜】を発動させてビームを受け止め、暮桜も同じく零落白夜でビームを切り裂き、紅椿は装甲の一部をシールドに変形し受け止めていた。

 

 

『しゃらくせえ、ならこいつでどうだぁっ!』

 

 

 ビーム砲塔とは別にチャージしていた【スーパースキュラ】がマスドライバーに向けて発射される。

直前に、射線に割り込んだ機体がいた。

 

 

『マスドライバーは……真はやらせねぇえええっ!』

 

 

 その機体は雪片弐型に白き光を纏った――【白式】だ。

 

 

『【零落白夜】全開っ!!』

 

 

【零落白夜】の光が最大出力になると同時に【スーパースキュラ】が発射された。

 

 

『うおおおおおおっ!!』

 

 

 発射された既存のビーム兵器を大きく上回る高出力のビームが零落白夜で拡散されていく。

だが機体のサイズがそもそも違うのだ、それに伴い武装に回せるエネルギー量も白式とデストロイでは大きく異なる。

 

 零落白夜を加減せず最大出力で起動させるという事は即ち、白式のシールドエネルギーを急速に消費していくこととなる。

最初はスーパースキュラを互角の出力で受け止めていたが、すぐに押されてしまう。

 

 

『くっ、一夏っ!』

 

 

 見かねた千冬が同じく零落白夜で一夏を援護しようとするが、彼女に向かって無人機が5機、近接武装を構えて向かっていく。

オープンチャネルから千冬の舌打ちがはっきりと聞こえた。

 

 

『ぐっ、くぅっ……!』

 

『一夏っ!』

 

 

 想い人である一夏の危機に思わず箒は声を上げる。

箒の目からしても白式はデストロイのビームに力負けしている。

 

 

(一夏が……このままでは一夏が……私は何もできないのか……っ!?)

 

 

 箒は以前よりも少しは状況が見れるようになっている。

いくら第4世代の機体を操っていてもこの状況ではできることは何もない。

だが箒の心の叫びに呼応するかのように【紅椿】のコンソールが自動的に起動した。

 

 

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)】《絢爛舞踏》 Starting

 

 

 

『っ!?』

 

 

 コンソールにそう表示されると共に紅椿から【情報】が頭に送られてきた。

その情報に従い、すぐさまスラスターを噴かしてビームを受け止めている白式に寄り添う。

 

 

『なっ、箒っ!?』

 

『エネルギーなら任せろ!【絢爛舞踏】発動っ!』

 

 

 箒の叫びと共に、雪片弐型から消えかかっていた【零落白夜】の光が最大出力並みに回復する。

 

 【単一仕様能力】<<絢爛舞踏>>

その能力は【零落白夜】とは真逆の【エネルギーの増幅】。

デストロイのビームによって枯渇しかけていたエネルギーを増幅させ、零落白夜に注がせたのだ。

 

 

『っ!? これならっ!!』

 

 

 雪片二型を握る手に力を込める。

押されていたビームの奔流を零落白夜の光が切り裂いていく。

 

 

 そして――断ち切る。

 

 

『なん……だとおぉっ!?』

 

 

 デストロイのオープンチャネルから明らかに戸惑ったオータムの声が漏れる。

それと同時だった。

 

 

 轟音を響かせ、シャトルが打ち上げに入ったのだ。

これはシャトル内のカナードの指示により予定を繰り上げて打ち上げられる事となったのだ。

この状況で打ち上げを敢行するのはある意味博打であるが、これ以上ラクス・クラインを好きにさせることはできないと判断したのだ。

 

 それに頼りになる【連中】がシャトルを護衛しているのだ。

 

 

『っ!?行かせるかよぉっ!』

 

 

 その巨体からは想像できないほどに早い反応でデストロイがマスドライバーで加速を続けるシャトルに狙いを合わせようとビーム砲塔を向ける――が

 

 

『止まれええぇっ!!』

 

 

【ヴォーダン・オージェ】を開いたラウラの叫びと共にビーム砲塔の動きが【強制的に停止】させられる。

それに合わせてシャルルの【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】とVLユニットを起動させた簪の【飛燕】が互いの【パイルバンカー】を起動させてデストロイに迫る。

 

 

『撃ちぬくっ!』

 

『全部持ってけぇっ!』

 

 

 【灰色の鱗殻】と【リボルビング・ステーク】のバンカーが炸薬によって得られた破壊的な威力を持ってビーム砲塔を撃ち砕く。

 

 

『ブルーティアーズ、一斉掃射っ!』

 

『そこよっ、落ちなさいっ!』

 

 

 それに合わせて【甲龍】が持つビームライフルと【衝撃砲】、セシリアのブルーティアーズの一斉掃射も加わりデストロイを襲う。

 

 

『こっの、餓鬼が……しま……っ!?』

 

 

 巨体に似合わないAMBACでビームを回避、【衝撃砲】はPS装甲によって防ぐ。

偏向射撃の一斉掃射はデストロイの腕部から溢れた光の【壁】で防ぐ。

 

 だが簪達の攻撃に気を取られていたオータムがマスドライバーより【打ち上げられたシャトル】を見上げる。

 

 すでにビームの射程距離外までシャトルは加速し上昇していた。

ロケットエンジンから溢れる煙がマスドライバーを覆っていた。

 

 

『真達は宇宙に上がった……あんた達の親玉は絶対に何とかしてくれる、俺達はあんたを捕らえるだけだっ!』

 

 

 【絢爛舞踏】によってエネルギーを回復した白式が雪片を構える。

 

 

『……はっ、上等だ。手前等纏めて潰した後にマスドライバー施設を占拠してラクス様の後を追えばいいんだよ、覚悟はいいだろうな、糞野郎?』

 

 

 一夏の言葉に、顔は見えないがオータムは憤怒の感情を声に込めて答えた。

 

 




次回予告

仲間達の力で宇宙に上がった真達――補給を済ませてL5ポイントへと向かう。
そこで見たものは――


「救世主」


歌姫の騎士団との最終決戦が始まる――


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