【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE37 宇宙へ

優菜に数秒送れて、生徒指導室に楯無が入ってくる。

 

 

「ちょっと、応武さん、勝手に入られると混乱が……」

 

「まあまあ、せっかくあんなベストなタイミングだったからね……さてと」

 

 

彼女に振り返って優菜が軽く頭を下げつつ生徒指導室に入り、近くにあった椅子に座って足を組む優菜。

それを見たラキーナがバツの悪そうな表情で口を開く。

 

 

「応武優菜……さん……」

 

「ん、ああ、君が【キラ・ヤマト】君か……いや、今は【ラキーナ・パルス】ちゃんか、初めまして(・・・・・)

 

 

ニコッと微笑んではいるが全く目が笑っていない。

その視線にラキーナがビクッと身体を震わせている。

 

優菜がラキーナにこう言った態度を取るのは仕方がないであろう。

前世での死因の遠因とも言えるのだから。

真から見てもラキーナに好意的でないのは明らかである、なので話を切り替える。

 

 

「優菜さん、何でここに来たんですか?」

 

「ん、ああ、ごめんね。あるんだよ、宇宙に行く方法」

 

 

優菜の言葉に真やカナード、束を含めた全員が驚く。

この世界の宇宙開発はC.E.に比べると遅々として進んでいないレベルであるからだ。

全員の様子を見て笑みを浮かべた優菜がさらに続ける。

 

 

「真やカナードは知ってるだろうけど……【アメノミハシラ】ってのは知ってるよね?」

 

 

優菜の言葉に2人が頷く。

 

【アメノミハシラ】

 

C.E.では【オーブ連合首長国】が所有する【宇宙ステーション】であり、兵器開発を行う軍事宇宙ステーションとして機能していたものだ。

本来はアメノミハシラは、地球上から宇宙への物資を送る軌道エレベーターのことであったが、大規模ファクトリーである最頂部が完成した時点で地球連合とプラントの戦争が始まったため、建造計画はストップされていた。

だが中立を是とするオーブには必要な施設であるため、宇宙ステーションとして使用され続けていたのだ。

余談だがC.E.のアメノミハシラを管理していたのは5大氏族の1つである【サハク家】の【ロンド・ミナ・サハク】

 

彼女はアスハ家の中立理念への執着に反旗を翻し、【ネオ・ザフト戦役】が終結するまでは独自の指針で活動を続けたのだ。

ミナについていった元オーブの民も決して少なくはなかった。

 

 

「まさか……あるのか、アメノミハシラが?」

 

「うん、もっともC.E.にあったオリジナルと比べると小規模だけどね、それでも1週間は余裕で滞在できる規模のものさ」

 

 

空間投影ディスプレイに宇宙に浮かぶ【宇宙ステーション】の映像が流れる。

施設の大きさはオリジナルに比べればダウンサイジングされているがかなりの巨大建造物だ。

他国の宇宙ステーションに比べれば雲泥の差だ。

 

そして映像が切り替わる。

 

海に浮かぶ島――そしてそこから伸びている多段式ロケットの段階加速用カタパルト。

【マスドライバー施設】である。

 

 

「んで、その島がアメノミハシラへの玄関口である【宮島】とマスドライバーさ。うちの社員は【ナイトヘーレ】なんて呼んだりするけど」

 

 

優菜が少し苦笑して足を組みかえる。

 

 

「しかし何でまたそんなモンがあるんだ? だって、いくら真の所属してる企業が凄いといってもさ…………?」

 

 

その映像を見た一夏が声を漏らす。

 

それは真にとっても同じだ。

いくら日出の技術力や技術者がジェーンを筆頭に優れていようが、これだけのものは早々と作れはしないだろう。

それを察したのか優菜が続ける。

 

 

「実はこの【アメノミハシラ計画】ってのは日本政府からの要請なんだ。【軍事用宇宙ステーション】の開発を依頼されてね、うちにはジェーンっていうC.E.の技術を持つ人間がいるし、私自身いずれは必ず必要になるって考えて数年前から政府の援助を受けて開発を進めていたのさ」

 

「えー、何これー、こんな施設があるなら私が見逃すはずないんだけどなー?」

 

 

ディスプレイから視線を優菜に移した束が問う。

 

 

「ふふ、日出には【ミラージュコロイド技術】がありますし、ミス束、貴女には及びませんが優秀な技術者がいますから」

 

「ぬう、なんかしてやられた感じ」

 

「……だが希望が見えてきたな。ユウナ・ロマ・セイラン、マスドライバー施設の準備にはどれほどかかる?」

 

 

宇宙へ行く手段が存在していたことに彼には珍しく安堵の声を漏らし、優菜に尋ねる。

 

 

「マスドライバーで打ち上げるシャトルの準備にあと5日……いや後4日で終わらせる予定さ」

 

「……4日か」

 

「そう、【4日】、だからその間に決めて欲しいんだ。 この中の【何名】を【宇宙】に連れて行くかをさ」

 

「えっ、【全員】じゃないんですか?」

 

 

優菜の声に一夏が声を上げる。

その声に優菜が首を縦に振る。

 

 

「4日で用意できるシャトルは【1つ】しかないんだ。コネを使って他国の施設に呼びかけたけど、やはり時間がない……一応アメリカのIS搭乗者【ナターシャ・ファイルス】と【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】の協力と自衛隊から【打鉄】を3機借りれたけどね。 あまり時間をかけると今のラクス・クラインは何をするかわかったものじゃない」

 

 

顔をしかめつつ、優菜が告げる。

実感がこもっているため真も苦笑いを浮かべる。

 

 

「それで……何名シャトルに乗れるんです?」

 

「ん、元々がデリケートな資材や少人数を宇宙にあげるための小さいものだから……【5名】って所かな、さて誰が行くかい?」

 

 

優菜が生徒指導室の面々に視線を向ける。

 

 

「俺とラキは確定だ、因縁もある」

 

「……私もこれには立候補します、彼女達は私達が止めなきゃ」

 

 

カナードとラキーナが静かに告げる。

それに咄嗟に一夏が声を上げた。

 

 

「おっ、おい、もっと話し合わなくていいのかよ?」

 

 

一夏の意見ももっともである。

手段が限られ宇宙に行ける人数も限られるため簡単に決めることはまずいだろう。

だがそれをカナードは一蹴する。

 

 

「……なら聞くが、織斑一夏。お前は宇宙でまともに行動できるのか?」

 

「えっ?」

 

「宇宙ではAMBAC……【姿勢制御】が、そしてなによりも【パニック】にならないことが重要になる。俺やラキはC.E.で経験しているがお前を含めた他はどうだ?」

 

 

一夏を含めた1年1組の皆が顔を顰める。

宇宙開発がC.E.よりも遅れているこの世界で宇宙空間を体験したものなど、宇宙飛行士やアメノミハシラの建造に携わった技術者しかいないだろう。

カナードの指摘はもっともである。

 

【宇宙】という空間は可能性を秘めていると共に、それだけ恐ろしい空間でもあるのだ。

 

 

「たっ、確かに……そうだけどさ……」

 

「まあ、カナードの言うとおりさ」

 

 

たじろいだ一夏の背中を軽く叩いて微笑む。

それに少し拗ねたように一夏は返す。

 

 

「……真はどうするんだ?」

 

「……俺は行く、ラクス・クラインは俺に拒絶されたから宇宙に上がった。なら止めるのは俺の役目でもあるんだ」

 

「……俺は」

 

 

一夏自身理解しているのだ。

真やカナードに比べて、おそらくこの一同の中では最も自分が【弱い】と。

以前の戦う理由について悩んだときとは違い、現在は単純な力量の差で立候補できずにいるのだ。

それを察して真が告げる。

 

 

「一夏、お前は強いよ」

 

「……真」

 

「だって自分が宇宙に行くことを不安に感じたんだろ? 自分でそういった点に気づけるのは強さだよ」

 

「……」

 

「それに何も宇宙に行くだけが戦いじゃない、そうですよね、束さん」

 

 

真が束に質問を投げる。

質問の意図を察した束が答える。

 

 

「あっくんの言うとおりだよ、いっくん。ラクスが私達が追ってくることを想定していないわけがないから、高確率で妨害があると思うよ」

 

「……真」

 

「だから、俺達が宇宙に行けるように……守ってくれないか? 箒やセシリア、鈴にシャルルに、ラウラも」

 

 

一夏達1組のメンバーを見回して頭を下げる。

 

 

「……分かったよ、真、任せてくれ」

 

「分かった、いいだろう、真」

 

「分かりましたわ、真さん」

 

「ったく、なら全力で守ってあげようじゃないの」

 

「だね、僕も全力で手伝うよ」

 

「真は戦友だ、ならば全力で答えるのみ」

 

 

1組のメンバーが真に答え――頭を上げてから真が笑みを浮かべる。

 

 

「……本当にありがとう、皆」

 

 

真が皆に感謝の言葉を告げる。

そして次に自身にとって【最も大切な人】に視線を移す。

 

彼女も同じように真に視線を移していた――簪だ。

 

 

「……俺、行くから」

 

「…………うん、大丈夫、信じさせてもらったから。だから絶対帰ってきてね」

 

「ああ、分かってる。無事に戻ってくるよ」

 

 

簪の頭をそっと撫でつつ、告げる。

その様子を残りのメンバー(カナード以外)が生暖かい視線で見ていた。

 

 

「……簪ちゃんたら周り見えてないわね」

 

 

一夏達1組メンバーはまた始まったかと言う視線を向けており、楯無が少々羨ましそうな視線で2人を見つめる。

 

また羨ましそうな視線で見つめているのは楯無だけではなかった。

 

 

「……私も頭を撫でて欲しいです」

 

 

黒に金の瞳を開いてカナードをクロエは見つめていた。

だがそれを無視して、カナードは書類などを確認していた。

 

 

「……何か言ったか、クロエ?」

 

「……いえ、何も」

 

 

その返しにはっきりと落ち込んだ様子を見せたクロエにラキーナが苦笑しつつ告げる。

 

 

「……ごめんね、兄さん鈍くて」

 

「いえ、大丈夫です、ラキーナ様。大丈夫……です……」

 

 

口ではそう言っているクロエの表情は明らかに落ち込んでいる。

ラキーナはただ苦笑いを作るしか出来なかった。

 

 

「ふむ、コーヒーが甘いな」

 

「ちーちゃん、もっと苦いコーヒーな~い?」

 

「残念ながらそれはブラックコーヒーだ」

 

「……目の前でいちゃつかれるのってなんだかムカつくよね」

 

「……それは同意見だ」

 

 

千冬と束が声を漏らす

もちろん、真と簪がその後皆に弄られたのは言うまでもなかった。

 

 

その後、宇宙に上がるメンバー5名が決定された。

メンバーは【真・カナード・ラキーナ・クロエ・束】の5名である。

束は【量子ウィルス】と【単一仕様能力】に対するサポートのため、クロエの【Xアストレイ】のドラグーンは宙域戦闘で最も有用活用できる事がメンバーに含まれた理由である。

 

また落着した【アークエンジェル】にはある【座標】のデータが残されている事が判明した。

その座標は【C.E.】でよく使われていた宙域のデータであり、C.E.では【L5宙域】と呼ばれており、プラントなどのコロニーが存在した地点である。

そこに【人工物のデータ】が残されていたのだ。

これを束は【小規模なコロニー】と仮定している。

 

宇宙に上がるシャトルを護衛するメンバーは一夏達と楯無、簪、千冬達IS学園教師陣と優菜のコネによって参加するアメリカの【ナターシャ】と利香を含めた日出工業所属のパイロット達である。

 

マスドライバー施設がある【宮島】には2日後に出発し、2日かけて現地でISの調整等の準備を行う事となり会議は解散となった。

 

 





次回予告

宮島にて準備を進め、迫るマスドライバーでの射出時間。
そして再度襲来するは――狂信者達と暴走。

「暁の空へ」

仲間達を信じて戦士は宇宙に昇る。
白き刃は仲間を送り出す【盾】となる。

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