【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE32 襲来、歌姫の騎士団

真と簪がタッグについて話した翌日、千冬の口からタッグトーナメントについてクラスメイトに説明があった。

その連絡によってクラスメイトの皆から真と一夏にタッグの申し込みが殺到したのは言うまでもない。

 

その場で真が、自分は簪とタッグをすでに組んでいると話したため、彼に流れていた申し込みが全て一夏に流れてしまい、阿鼻叫喚の絵図となったが千冬の一喝でその場は静まった。

 

ちなみに真や一夏達のタッグ内訳は以下のようになった。

 

真・簪ペア

一夏・箒ペア

セシリア・鈴ペア

シャルル(シャルロット)・ラウラペア

 

当然、セシリアと簪を除いた一夏に恋する乙女である4人は彼のペアになりたがったが、公平に決める為、昼食時に他クラスを含めたジャンケンを行い、激戦を勝ち抜いて見事箒がペアの座を勝ち取った。

そのときの箒の感想を1人になったときに真は聞いてみた。

曰く

 

 

「私は上り坂なんだっ!これならばきっと一夏も振り向いてくれるはずっ!」

 

 

との事であった――閑話休題。

 

 

そして時間は流れ、学年別タッグトーナメント当日

第1アリーナ Bピット内

 

 

第1アリーナの特別席には日本政府の要人、IS学園に在学している代表候補生達の祖国の要人達が招かれて試合開始の時を待っている。

その中には著名な政治家の姿も見られる。

 

加えて企業に所属している生徒も存在しているため、所属企業の取締役なども招かれている。

真や簪にとって上司に当たる、利香やジェーン、優奈の姿も見られた。

 

そのため、数名の教員が警備の為ISスーツ姿で後方に待機しており、クラス対抗戦と比べると警備が厳重に強化されている。

 

 

観客席のモニターには早速1回戦第1試合の組み合わせが表示されていた。

 

 

■1回戦第1試合

飛鳥真・更識簪 VS 相川清香・鏡ナギ

 

 

 

「無理ー! 勝てっこないー!」

 

「まさかの最初で、しかも飛鳥君・更識さんペアかー……ついてないね」

 

 

Bピットで清香が両手で頭を抱えつつ叫ぶ。

その後ろで、友人であるナギがため息をつきながら苦笑していた。

 

 

「それに相手はIS学園初のカップルだし……抽選に悪意を感じるよー!」

 

「飛鳥君が彼氏か。いいなぁー、更識さん。そうだ、負けた後にどこまでいったか聞いてみよ」

 

 

すでに勝負を諦めているナギの興味は真と簪が【どこまでいったか】に移っていた。

 

 

「……ちょっと、もう負けるつもりなの?」

 

 

先程勝てないと叫んでいた彼女はどこに行ったのか、清香がナギに問いかける。

 

 

「いやだって勝てないでしょ。と言うか数秒前まで勝てないって言ってたのは清香じゃない?」

 

「それはそうだけど……やれるだけやってやるって気持ちになったわっ!」

 

 

小さくガッツポーズを取りつつふんすとナギに返す。

 

 

「うわー、すっごくフラグだよ、それ」

 

 

それを苦笑しつつ眺め、傍に鎮座している搭乗予定の【ラファール・リヴァイヴ】に向かう。

 

――――――――――――――――――――――――

Aピット内

 

 

「相手は相川達か……」

 

 

ピット内のモニターに表示された組み合わせ表を再度確認して真が呟く。

組み合わせ表には搭乗者の機体名も表示されており、相川・鏡ペアは両名ともラファール・リヴァイヴを選択していた。

 

 

「ラファールが2機……中距離戦だね」

 

「ああ、俺は【フォースインパルス】で行くけど、簪はどうする?」

 

 

2人ともすでに【ISスーツ】に着替えている。

簪のISスーツも真と同じ、通称【ザフトISスーツ】に変更しているため、C.E.世界を知る人間が見ればまるでザフトのMSパイロットの様にも見えるだろう。

簪のモノは真のスーツとは違い、長袖ではなく半袖のモノであるが。

 

 

「【飛燕】の射撃武装を使うから、攪乱しつつ援護してほしい……かな」

 

「……【マルチロックオンシステム搭載40連ミサイル】か、相川達ビビるだろうなぁ」

 

 

少しふくれっ面になった簪がジト目で抗議を送る。

 

 

「【ロマン】は大事……だよ、真」

 

「いや、別にダメって訳じゃあないけどさ……あれ、楯無さん?」

 

「え、お姉ちゃん?」

 

 

真と簪がピットの入り口を見ると、確かに楯無がこちらを見ていた。

彼女が着ているのは制服ではなく【ISスーツ】であったが。

それ以外は普段と変わらずいつもの扇子を広げつつ、2人に向かって歩み寄ってくる。

 

 

「お二人さん、もう準備は大丈夫かしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「うん、大丈夫だよ……お姉ちゃん」

 

「頑張ってね、簪ちゃん、お姉ちゃんは応援してるわよっ!」

 

 

扇子に【頑張れ】と言う文字が表示され、簪にエールを送る。

 

 

「うん、頑張るよ。ありがとう、お姉ちゃん」

 

「ああ、簪ちゃん……! あ、真君ちょっといいかしら?」

 

「あっ、はい」

 

 

簪からの返答で恍惚の表情を浮かべていた楯無が真と共に簪から少し離れる。

簪は不思議そうな表情をしていたが。

 

 

「……私や教員の方々は、【テロ】を警戒してアリーナ内外を巡回しているわ。簪ちゃんや生徒の皆の避難誘導は任せるわよ、もちろん私たちも手伝うけど……最優先でね?」

 

 

楯無は千冬から【ラクス・クライン】や【C.E.世界】については濁されているが情報を渡されている――彼女がISスーツ姿なのも【テロ】を警戒し、迅速に動けるようにしているためだ。

彼女からの言葉に真は頷く。

 

 

「……分かってます。簪や皆は俺が守ってみせます」

 

 

真も学年別トーナメントでは何かが起こる可能性が高いとみているため、警戒を強めているのだ。

真の言葉に楯無が微笑む。

 

 

「……頼もしいわね。さっすが、【未来の義弟】クン」

 

「ぶっ!?いきなり何をっ!?」

 

 

楯無からのいきなりの言葉に取り乱してしまった。

 

 

「だって、いずれはそうなるじゃない?」

 

「いや、確かにそういう事も考えてますけど……いきなりは驚きますよ」

 

「ふふ、ごめんね。でも【緊張】もほぐれたんじゃない?」

 

 

確かに彼女の言うとおりに緊張はちょうどいい感じにほぐれている。

恐らく緊張と言うか警戒を強めたのが表情に出ていたのだろう。

 

それを見抜いてガス抜きしてくれたのだ。

 

 

「……ありがとうございます」

 

「どういたしまして。それじゃあ……簪ちゃんの公式IS戦デビューなんだから、しっかりね?」

 

「はい」

 

 

真の返答に微笑みつつ、楯無がピットから出ていく。

 

 

「お姉ちゃん、何の用だったの?」

 

「ん、サポートしてあげてねだってさ。ほんと簪の事溺愛してるんだな、楯無さん」

 

「まったくお姉ちゃんは……」

 

 

ため息をついて苦笑いをする簪に微笑みつつ、待機状態の【インパルス】を起動させ、インパルスを身にまとう。

 

 

『さて、そろそろ時間だ』

 

『うん』

 

 

簪も真と同じように【左手中指】に付けた指輪。

待機状態の【飛燕】を起動させた。

 

――――――――――――――――――――――――

5分後――IS学園近海 海上

 

 

『クロエ、こちらは異常ない、そちらはどうだ?』

 

『はい、カナード様、【ミラージュコロイドデテクター】に反応ありません』

 

 

人工島であるIS学園で最も巨大な第1アリーナは海に隣接しており、その海上でカナードの【ドレッドノートH】とクロエの【IS】が警戒にあたっていた。

クロエが身に纏う【IS】はドレッドノートと装甲や機体色に類似する点が多くみられる。

唯一異なるのが背のスラスターを兼ねたバックパック部分に接続されている【X型の武装】である。

X字を象る砲台の様にも見えるその武装の名は【ドラグーン】

 

彼女が駆る機体の名は【Xアストレイ】

本来は【ドレッドノートガンダム】の愛称の様なものであるが、カナードにとっては想い入れのある名前であるため、クロエが機体名に採用したのだ。

 

 

『……クロエ、身体は問題ないか?』

 

『特に支障はありません。【ドラグーンシステム】も問題なく稼働できます』

 

『そうか。その機体のドラグーンは俺やラキの監修が入っているとはいえ、試作型もいい所だ。俺はともかくラキのドラグーン適正が残っていればテストも行えたんだが……』

 

 

カナードには元々ドラグーンを満足に扱うほどの適性は存在していなかった。

それはラキーナも同様であった。前世ではドラグーン適正が存在していたのだが、生まれ変わった現在では失われている。

 

そんなドラグーンに適性を見せたのが、クロエであった。

流石に【ラウ・ル・クルーゼ】や【レイ・ザ・バレル】程の適性はなかったが、ドラグーンの操作は問題なく行えるレベルの適性を有していたのだ。

 

 

『……カナード様は私の事を心配なさってくれているのですか?』

 

『……お前に何かあったら束に何をされるか分かったものではないからな。それに俺個人としても、仲間を失いたくは無いからな』

 

(……ありがとうございます、カナード様)

 

 

カナードの返答を聞いたクロエが笑みを浮かべる――その時であった。

ドレッドノートとXアストレイのハイパーセンサーが上空に熱源を確認した。

 

 

『やはりきたか、熱源……なんだ、これはっ!? 【IS】のサイズではないぞっ!?』

 

 

そう、熱源反応の値が大きかったのだ。

それこそまるで【巨大なIS】の様に。

 

雲を突き破って反応元が現れる。

 

C.E.世界にその名を知らしめた【不沈艦】。

その特徴的な形状から【足つき】とも呼称されていた強襲用戦艦。

C.E.世界に存在していたモノと比べるといくらかダウンサイジングされているが、それでも100mクラスの戦艦であることには変わりない。

 

 

『【アークエンジェル】……だと……っ!?』

 

『カナード様、IS学園側もあの戦艦についてすでに検知しているようです』

 

『今回は学園側も警備を厳重にしているが……堂々と乗り込んできたという訳か』

 

『そのようですね』

 

 

アークエンジェルのカタパルトが開き、中からかつて戦った無人機である【ストライク】や【イージス】等の【IS】が次々と発進してくる。

その総数は【50機】は下らないだろう。

 

無人機達を率いるは【紫の光の翼】を持つ【純白のIS】

戦乱の歌姫【ラクス・クライン】

 

その後ろには【紅き正義の騎士】

【インフィニットジャスティス】を纏う【アスラン・ザラ】

心なしかアスランの瞳が【虚ろ】に見える。

 

 

『ようやくお出ましかっ!』

 

 

すでにドレッドノートの形態を【バスターモード】に切り替えていたカナードは迷わずトリガーを引く。

一対の砲口から発射されたビームは迷わずラクスとアスランを捉えていた。

 

だがビームが発射される直前射線に割り込んだ【影】がいたのだ。

 

 

発射された高出力ビームが【光の幕】に拡散されていく。

その【光の幕】をカナードは知っていた。

 

 

『【ソリドゥス・フルゴール】っ!?いや違う……【スクリーミングニンバス】かっ!?』

 

『よく知ってるじゃないか、失敗作っ!』

 

 

オレンジの髪に右目に眼帯をつけた女が黒い重装甲【IS】

【ドム・トルーパー】でビームを防いだのだ。

 

使用した光の幕【スクリーミングニンバス】は【ソリドゥス・フルゴールビームシールド】、元を返せば【アルミューレ・リュミエール】を転用した攻性防御装置だ。

その防御能力はALに匹敵し、高出力のビームでも拡散させることが可能である。

 

ドムはその重装甲な見た目からは予想できないスピードでドレッドノートに迫る。

ALを展開し、ドムが構えていたビームサーベルを受け止める。

 

 

『お前はラクス様を撃ったっ!万死に値する罪っ! この【ヒルダ・ハーケン】が殺すっ!』

 

『ちっ、クロエッ、ドラグーンだっ!ラクス・クラインを落とせっ!』

 

『はい、カナード様っ!』

 

 

クロエのXアストレイから【ドラグーン】が4機放たれ、ラクスに向かう。

だがドラグーンの1機が撃ち落されてしまう。

 

突然の狙撃に、クロエはドラグーンを自機に戻す。

 

 

『っ!?』

 

『ラクス様はやらせないわよ、失敗作』

 

 

長身に金髪の美女。

豊かな母性の象徴を実らせた女性が両手に構えた【大型ビーム砲】でドラグーンを狙撃したのだ。

 

 

『ふふ、スコールさん、ありがとうございます』

 

『いえ、私にとってラクス様は全て……危害を加えるような輩に容赦はしません』

 

『流石ですわ……オータムさんは?』

 

『オータムならば織斑一夏を確保しに向かっています』

 

『なるほど……【バスター】の調子はどうですか?』

 

『【ゴールデン・ドーン】程ではないですが、しっくりきています』

 

『それは良かったですわ』

 

 

ラクスがスコールと呼ばれた女性に微笑む。

微笑みを返されたスコールは頬を朱に染めつつも微笑んでいた。

 

 

『ちぃっ、別働隊までいるのかっ!』

 

『私達を舐めるんじゃないよ、失敗作風情が、落ちなっ!』

 

 

ビームサーベルを振りかぶり、ドレッドノートに向かうドム。

だが――

 

 

『雑魚は引っ込んでいろっ!!』

 

 

シールドとして使用していた【AL】の発生率を瞬時に調整して【ランス】の様に尖らせる。

 

ビームサーベルはALによって拡散されてしまい、そのまま柄部分も破壊される。

咄嗟にドムがサーベルを手放し、スラスターを噴かせて後退する。

 

 

『ちぃっ!? ラクス様の御前でこのようなっ!!』

 

『ヒルダさん、落ち着いてくださいまし』

 

 

激情に顔をゆがませるヒルダをラクスが制する。

 

 

『はっ、申し訳ありません』

 

『ふふ、いいですわ。そしてカナード、お久しぶりですわね』

 

 

ラクスがカナードに微笑む。

だがカナードはその笑みを射殺すように睨み付ける。

 

 

『……貴様の目的はなんだっ!?』

 

『目的?そうですわね……【貴方】の様な強い殿方が欲しい……では駄目でしょうか?』

 

 

ふざけているのかと、カナードが叫びかけた刹那。

 

ハイパーセンサーが上空から迫ってくる【IS】の反応を捉えた。

その【IS】は世界でもっとも有名な1機。

 

全身を覆う白い装甲【暮桜】

そしてそれに搭乗しているのは当然――

 

 

『覚悟ぉおっ!!』

 

 

千冬の雄叫びと共に上段に構えられていた白き光の剣。

【雪片】が振るわれた。

 

 

『ラクスは……やらせないっ!』

 

 

だがインフィニットジャスティスが高出力ビームサーベルを連結、より出力を高めた状態で発振させえているビームサーベルで【雪片】を受け止めた。

虚ろな目をしているアスランだが、動きには一切の淀みがなく千冬の刀を受け止めたのだ。

 

 

『なにっ!? 雪片がっ!?』

 

『はぁっ!!』

 

 

白式と同じ【零落白夜】ならばエネルギー兵器であるビームサーベルさえ切り裂ける筈。

一瞬呆けた千冬であったが、脚部ブレードが眼前に迫っていたため、瞬時加速で距離を取る。

 

 

『【暮桜】?』

 

 

千冬の装備しているISを見てラクスが怪訝な顔になる。

 

 

『おかしいですわね。その【IS】は私が凍結させたはずなのに?』

 

『やっぱりラクスだったんだね……暮桜を凍結させたのは。でも残念だったね、暮桜は私が復活させたんだよ』

 

 

オープンチャンネルで通信が入る。

 

同時に【新型ストライカー】である【I.W.S.P.パック】を装備したストライク、ラキーナが上空からビームと【コンバインドシールド】と呼ばれる実体盾に装備されたガトリング砲を放っていた。

ビームと弾丸が雨の様に降り注いでいるが、即座に【スクリーミングニンバス】が展開され、バスターがラキーナに向かって反撃としてビーム砲を放つ。

 

だがラクスはまるで気にせずに通信に答える。

 

通信の相手はもちろん、篠ノ之束である。

 

 

『お久しぶりですわ、束さん』

 

『……本当にその笑顔、最悪だね……ラクス』

 

『酷いですわ、親友とまで言っていただけたのに?』

 

 

微笑から一転。

冷笑に表情が変わったラクスに一瞬通信先の束が息を呑む。

 

 

『っ……カナ君、お願い、そいつを絶対に止めてっ!! じゃないとっ!!』

 

『分かっているっ!!』

 

 

ドレッドノートのビームサブマシンガンとXアストレイのビームライフルを構える。

ビームが発射される直前、通信先の束にラクスはこう返した。

 

 

『楽しい楽しい【戦争】の時間ですわ♪』

 

 

そしてビームの発射と共に戦いの火蓋は切られた。

 

――――――――――――――――――――――――

第1アリーナ

 

 

すでにアークエンジェルは第1アリーナ上空に静止しており、非常事態宣言が出されていた。

だが無人機の襲撃を受けた際より警備を厳重にしていたことや試合開始前であったこと、襲撃の際に混乱を防ぐマニュアルを学園側が作成していた等の好条件が重なり、非戦闘員(生徒や要人達)の避難はすでに完了しつつあった。

 

アリーナの出入口で【インパルス】を身に纏った真と【飛燕】を身に纏った簪も避難誘導を完了しつつあった。

 

 

『あの空中戦艦は一体何なの……?』

 

(くそ、堂々と襲撃かけてきたのかっ、あれはアークエンジェル……っ!)

 

 

簪がアリーナ上空で停止しているアークエンジェルに向かって怪訝な視線を送る。

アークエンジェルを見上げて舌打ちをする。

 

すでにカナード達によって戦闘が開始されているらしく、ビームが飛び交っている。

 

そしてようやく真達の避難誘導も完了し、同じく別出入口で避難活動を行っている対戦相手であった【相川・鏡】ペアにチャンネルを繋げる。

 

 

『相川、鏡、こっちは終わった。そっちはどうだ?』

 

『大丈夫、こっちも終わったよ』

 

『こっちは避難した人達の元に行くところ』

 

『分かった。くれぐれも気を付けてくれ』

 

 

返事を確認して、通信を切る。

そして外していた【フォースシルエット】を展開して、アリーナ上空を見つめる。

 

 

『……真っ、まさか……』

 

 

避難誘導を終えて、自分達も避難しようとした簪がシルエットを展開した真の行動に気付き尋ねる。

バツが悪そうに苦笑した彼が簪に言葉を返す。

 

 

『……戦いに加わるって言ったら?』

 

『危険だよっ!それにあれはISの【試合】じゃないんだよっ!?』

 

 

真の返答に簪が驚き声を上げる。

簪は日本の代表候補生である為ISについての知識は深い。

 

つまりはISの【本質】について理解しているのだ。

【IS】はスポーツとして広まっている、事実IS学園でもそう認識している生徒が殆どである。

 

しかし現在のISは【マルチプラットフォームスーツ】ではなく既存兵器を超える【超兵器】としての一面が最も強調されている。

そして現在上空で行われているのは、ISバトルなどのスポーツではなく、【命】のやり取りであるという事を彼女は理解しているのだ。

 

 

『ああ、あれは【試合】じゃなく【戦闘】だ』

 

『分かってるのならなんでっ!?』

 

『俺がやらなきゃいけないんだよっ!【因縁】をこの世界に持ち込んでしまったのは俺なんだっ!だからここで終わらせなきゃいけないんだっ!』

 

 

レイにこの世界に送り出してもらった真であったが、それが原因でかつての因縁がこの世界に流れてしまっているのだと真は考えている。

確固たる証拠はないが、そうに違いないと確信があるのだ――ならば自分が止めなければならない、【シン・アスカ】として。

 

 

『……っ!』

 

 

真の剣幕に簪がおびえた表情で押し黙る。

その瞳には涙が浮かんでいた。

 

 

『なっ、なら私もっ!』

 

『……駄目だ、簪。震えてるの……分かってるから。怖いんだろ?それが普通なんだ』

 

『うっ……なんで……私は……!』

 

 

真に指摘されたとおり、少し簪の身体が震えているのだ。

そしてあふれ出た涙が止まらない。

 

それを見た真が腕の部分だけ【IS】を部分解除して彼女を抱きしめた。

 

 

『ごめん。これは俺がやらないと駄目なんだ』

 

『……真』

 

『……本当にごめん。だけど今は……何も聞かずに俺を行かせてくれ、簪には後で全部話すから』

 

 

真の言葉に簪は溢れていた涙をぬぐう。

 

 

『……絶対だよ?絶対無事に……戻ってきて……!』

 

『ああ、約束するよ。ありがとう、簪』

 

 

そう言ってインパルスを飛翔させる。

 

戦場に向かうために。

 

 





次回予告

かつての上司であり、仇敵となった正義の騎士と刃を交える。

その戦いの結末は――


【落 はいぼく 翼】


少年の翼は砕かれて――地に落ちる。

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