【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE29 運命の鼓動(前編)

意識が浮かんでくる――とても心地よい風と花の香りが鼻腔をくすぐる。

目を開けると目の前に綺麗な花が咲き誇っている。

 

 

「……」

 

 

見渡す限りの花畑。

一面に様々な種類の花が咲き乱れ、風が吹けば花びらが舞っている。

 

 

「……え?」

 

 

花畑の中で仰向けに寝転がっていた真が起き上がる。

 

 

「……どこだよ、ここ?」

 

 

彼の困惑も仕方がない。

真の記憶では自室で簪と消灯時間まで特撮の話で盛り上がって、その後床についたところまでをはっきり覚えているのだ。

 

 

「……ああ、明晰夢って奴か、夢を夢として理解してみる云々の」

 

『違うよ、真♪』

 

「っ!?」

 

 

背後から突如女の子の声がした。

油断していたとはいえ、背後を取られるまで全く気づかなかった。

 

咄嗟のサイドステップで距離を取りつつ振り返る。

そこには【金髪の美少女】が立っていた。

 

セミロングの金髪に、白いワンピース姿。

清楚な雰囲気を漂わせており、顔はどことなく【ステラ】に似ているが別人だ。

 

真の行動と表情を見て、その女の子は驚愕の表情を浮かべていた。

だがすぐに苦笑に変わる。

 

 

『あはは、ごめん、驚かせちゃった?』

 

「……君は?」

 

『ん、私は【     】だよ』

 

 

彼女はおそらく自己紹介をしたのだろう。

だが肝心の名前の部分だけ【ノイズ】が奔ったかのように聞き取れなかった。

 

 

「何だって?」

 

『……まだ駄目みたいだね、こうしてお話はできるけど、やっぱり名前はまだ伝わらないみたい……一番大事なのにぃ』

 

 

少女がぷくぅっと頬を膨らませ、拗ねた様に声を出した。

 

 

「……何なんだよ、君は」

 

『んふふー……さあて、何でしょう?』

 

 

意地悪く笑った少女が目の前から突如として消えた。

そして辺りが一気に暗くなる。

 

 

「なっ……!?」

 

 

光が消えたわけではない。

上空の物体によって光が遮られて影となっているのだ。

 

光を遮っている物体を見上げる。

逆光で詳細には見えないが人型の機械が浮いている。

 

見覚えがある。

かつて共に駆けたその機体、頭部には【血の涙】を流すような紅いラインが走っている。

 

 

『まだ届かない……けど大丈夫、私はいつもここにいるよ、真』

 

 

かつての愛機から先ほどまでの少女の声が響いて、真の視界はブラックアウトした。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「……っ!?」

 

 

視界が戻ると同時に飛び起きる。

先ほどまでの花畑ではなく見慣れたIS学園 学生寮の自室だ。

 

時刻を見ると午前3時前。

ルームメイトであり先日恋人となった簪の寝息が聞こえる。

 

 

(今のは……なんだったんだ……?)

 

 

彼女を起こさないよう音を立てずに、再び自分のベッドに横になる。

 

 

(さっきのは……【デスティニー】……だよな……?)

 

 

先ほど夢に出てきたあの機体。

戦場を共に駆け、共に散った愛機【デスティニー】、いや【デスティニーガンダム】であった。

 

何故自分があんな夢を見たのか。

直感であるが、何か意味があることだと真は思えた。

 

それに1つ心当たりになるキーワードをISの知識として知っている。

 

 

第二形態移行(セカンドシフト)……なのか?)

 

 

第二形態移行(セカンドシフト)】――ISコアや機体その物との同調が高まるとIS自体が進化を起こし、第二形態に移行する現象だ。

 

 

(……昼にカナードや束さんに聞いてみるか)

 

 

今日は祝日であり、模擬戦の予定も特にない。

カナードや束、またはラキーナに先ほど見た夢について相談すれば何か分かるはずだ。

そこまで考えて、瞼が重い事を思い出した。

 

 

(……眠いな、朝のトレーニングまで少しだけ寝よう)

 

 

ベッドに横になって、目を瞑る。

先ほどの夢は見られず、早朝トレーニングまでは浅い眠りを取った真であった。

 

 

―――――――――――――

第2アリーナ 整備室

 

 

「夢……だと?」

 

「ああ、見たこともない場所と女の子の夢を見たんだ」

 

 

手にスポーツドリンクを持ったカナードが真の言葉に疑問の声を漏らす。

カナードとは連絡先を交換しているため、以前に比べれば情報の交換は容易に行えるようになっている。

 

また現在の彼は【ラクス・クライン】のISの【単一仕様能力】と想定される【強制干渉】を防ぐため、学園内の訓練機のOS等に対策を施している束を手伝っているのだ。

 

作業の手を止めた束が真の言葉に振り返りつつニタァと笑顔を浮かべる。

 

 

「あっくんてば簪ちゃんだっけ? 恋人できたばっかなのに、他の女の子の夢見るなんて罪作りだね~」

 

「……茶化すな」

 

「~~~~っっ!!」

 

 

ガシッと背後から彼女の後頭部を掴んで力を込める。

決して女性がしていい顔じゃない顔で束が悶絶している。彼女の頭から手を離したカナードの顔が何かを考えるような表情に変わった。

 

 

「心当たりはあるんだ……でも【第二形態移行】でISの夢を見るなんてありえるのか?」

 

「つぅ~、もう、カナ君力強すぎ……って、ありえるんだよね、それが」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「うん、アイツ……ラクスのISも同じように第二形態移行したからさ」

 

 

頭を抑えつつ、束が立ち上がり涙目で真に答える。

 

 

「ラクス・クラインのISもか……」

 

「アイツもそれには驚いてたよ、それでどうするの、あっくん?」

 

「どうする……って?」

 

 

束の言葉に首を傾げる。

 

 

「ん、第二形態移行したいんでしょ?」

 

「そりゃあ……あいつらに対抗するには力はあったほうがいいと思いますけど……方法があるんですか?」

 

「うん、カナ君と戦えばいいんだよ♪」

 

 

彼女の口から出た模擬戦の誘いにカナードがなるほどと呟く。

 

 

「どういうことです?」

 

「ISの第二形態移行の条件は稼働時間と戦闘経験が蓄積なんだ、だからカナ君と戦えば上手くいけば今日中に第二形態移行するかもね」

 

「なるほど……俺は大丈夫だけど、カナードは?」

 

「……俺も別に構わん、それに真、お前の力を見ておきたい、奴等との戦いの為の戦力となるかどうかをな」

 

「……全力でいくからな、カナード」

 

「当然だ、全力で来い、真」

 

 

不敵に笑うカナードの挑発めいた言葉にあえて乗る――真もカナードの力を見ておきたいと考えたからだ。

 

 

「よっし、ならちーちゃんに連絡しとくねー、後は~……」

 

 

胸の谷間から携帯電話を取り出し、千冬へと連絡を繋げる束であった。

 

 

――――――――――――――

 

 

第2アリーナ 観客席

 

真とカナードの模擬戦が決まったという情報は、一部の生徒達を除いては情報規制が敷かれていた。

一部の生徒とはセシリアや鈴、シャルル、ラウラ等の各国代表候補生、及び一夏と箒、そして簪である。

 

この人選には束とカナード、そしてラキーナの意見が取り入れられている。

代表候補生は基本的に専用機持ちであり、技量も一般生徒よりも高い。

それ故に有事の場合には戦力にもなる。

また代表候補生は総じてプライドが一般生徒より高い傾向がある為、【男性搭乗者】同士の戦いを見せることでプライドを刺激し、より強くなってもらう為と言う意図も含まれている。

 

なお、箒については束から【紅椿】と言う専用機を受け取っている。

【展開装甲】を稼動させることで、攻撃・防御・機動等あらゆる状況に対応できる他、機体性能も既存の機体を凌駕する【第4世代IS】との事だ。

 

これを受け取った箒は微妙な表情をしていたと、その場にいたラキーナは語っている。

【C.E.世界】については濁されているが束から戦う理由を教えてもらっているからだ。

戦う理由を聞いた箒は自分が力を欲していた理由を思いかえして自己嫌悪に陥った。

 

しかし姉の自分を想う気持ちを理解し、箒自身にも彼女を支えたいという気持ちが生まれていることに気づくことができた。

故に【力】を受け取ったのだ。

 

また姉との関係は以前の様にマイナスではなく、少しずつプラスに持ち直している。

 

 

「えっと……ラキーナ……だっけ?」

 

「はい、織斑さん」

 

 

観客席で模擬戦が開始されるのを待っていた一夏は数席隣に座っているラキーナに声をかけた。

ちなみにラキーナはIS学園でも目立たないように女子用の制服を貸し出されており、現在は私服ではなく制服を身に着けている。

 

 

「真と戦うカナード……さんって強いのか?」

 

 

カナードが自分より年上である事を思い出した一夏がとっさに敬称を付けつつ、質問する。

そんな一夏の様子に苦笑しつつ、ラキーナが返す。

 

 

「ふふっ、呼び捨てでいいと思いますよ? 兄さんもたぶん呼び捨てでいいとか言いますから」

 

「あっ、そうなの? じゃあ呼び捨てで……んでカナードって強いのか?」

 

 

一夏の質問に少し思案顔になるラキーナであったが、数秒で答えを返す。

 

 

「多分、互角かな……と思います、それに2人の強さは異なってると思いますから」

 

「強さが異なるって何よ?」

 

 

一夏の隣で烏龍茶を飲んでいた鈴がその会話に割り込んでくる。

一夏が美少女であるラキーナと会話していることに目を光らせていたが、【そういう雰囲気】がないことを確認できたため興味から割り込んできたのだ。

 

 

「真の強さは【対応力】だと私は思ってます、もちろん技量や爆発力も高いですが……。シルエットを変えることで機体の性格を変えることができるといっても、あくまで汎用機であるインパルスで特化機やパワーのある機体と互角に戦える点からもそう思います」

 

「確かに……僕のパイルバンカーもすぐに見切られて対応されちゃったしね」

 

「私との模擬戦でもそうね、衝撃砲すらすぐに対応されたし……じゃあ、カナードってやつの強さは?」

 

 

以前真と行った模擬戦を思い出しつつ、ラキーナに問いかける。

一夏達とは放課後によくアリーナの使用申請を出して模擬戦を行っていたため、鈴やシャルルは真と数度戦ったことがあるのだ。

 

 

「えっと……兄さんの強さは【技量】なんです、国家代表かそれこそ歴代のヴァルキリーに匹敵するレベルだと思ってます」

 

「ヴ、ヴァルキリーって、おかしいでしょ、流石にっ!?」

 

「兄さんの機体制御技術は恐らく歴代のヴァルキリーにも匹敵しますよ、アスラ……っ、近接技能に特化した人とも片腕が使えないハンデありの状態で戦えますし……。それに汎用的な近接武装ないんですよ、ドレッドノートには……まあ、イータユニットっていう背中の非固定浮遊武装があるんですけど、それでも汎用性には欠けますし」

 

「確かにあの時の奴の機動は凄かったが……!」

 

 

ハンデとラキーナの言葉が出た時に箒の呟きと共に表情が一瞬曇ったことはご愛嬌だ。

 

 

「え、でもあの無人機との戦いのときには【光の膜】や【槍】みたいな武器使ってたけど……」

 

 

一夏が以前のイージスとの戦いを思い出す。

あの時確かに彼は光の槍の様な武装を使っていた。

だがそれをラキーナは否定する。

 

 

「あれは本来、武装ではなくて【アルミューレ・リュミエール】という【シールド】なんです、まあ、ビームでできたシールドと考えてもらえれば……それを兄さんは状況に応じて発生率を調整して【槍】や【サーベル】状にしているんです」

 

「……成程、お話を聞く限りですとかなりの腕前と言う訳ですわね?」

 

「戦友である真と互角か……軍人としては欲しい人材だな」

 

 

セシリアとラウラもラキーナの話を聞いて感想を呟く。

 

 

「はい、でも真も兄さんの事は知ってますから……多分互角の勝負になると思います」

 

「……大丈夫、真は負けない」

 

 

ラキーナの言葉に共に観客席にいた簪が呟く。

その言葉にラキーナも含めた一夏達が一斉に生暖かい顔を浮かべる。

 

 

「なっ、何っ!?」

 

「いえ、微笑ましいなと」

 

「あうう……っ」

 

 

一瞬で顔を真っ赤にした簪が俯く。

その様子をセシリアは微笑んでみていた。

 

 

「……ホントに付き合ってるんだな、真と簪さん」

 

 

少し羨ましそうな表情で、一夏は簪を見ている。

そんな一夏を恋に悩める乙女である残りの4人は睨むように見つめていた。

 

 

「あはは、苦労してるんですね、箒さん達……あっ、始まるみたいですよ?」

 

 

ラキーナが苦笑を浮かべたのと同時に、Aピットから【ソードインパルス】を身に纏った真が、Bピットから【ドレッドノートH】を身に纏ったカナードが飛び出てきた。

 

 

――――――――――――――

 

 

『ソードインパルスか』

 

『ああ、ドレッドノートにはコイツのほうが相性いいからな』

 

 

大型実体剣エクスカリバーを両手に構えて答える。

真は前世からカナードが使っている【アルミューレ・リュミエール】の弱点を知っている。

エクスカリバーには耐ビームコーティングが施されているため、【アルミューレ・リュミエール】を貫くことが可能だ。

 

 

『確かに……ビームコーティングが施されているその実体剣ならばALを抜くことはできるだろうな……だがその選択は正しいのか?』

 

 

左手に【ビームサブマシンガン】を展開、右手の甲より【AL】が発生し、△型の光の盾となる。

同時に模擬戦開始のコールがアリーナに響く。

 

幾条ものビームの光がドレッドノートのサブマシンガンから放たれるが、射線を読んでいるインパルスはスラスターを噴かせて回避を行う。

 

真が初撃を避けることは想定済み。

そのままトリガーを引き続けて弾幕を張り続ける。

 

 

『ぐっ、弾幕かっ!』

 

 

近接格闘形態のソードインパルスのスラスター出力は、高機動形態のフォースインパルスよりも低くなる。

そのため逃げ場がないほどの弾幕を張られると、どうしても回避が間に合わなくなるタイミングがある。

 

左手に装備されているバックラー状の実体シールドで受け止めるが、機動が止まってしまう。

カナードにとってはソードシルエット程度の機動力は苦もなく弾幕に捉えることができる―。

選択が正しいかと真に問うたのはそのためだ。

 

 

『どうした、真、この程度ではないだろう?』

 

 

弾幕を張りつつ、ドレッドノートの背部非固定浮遊部位【イータユニット】が【砲台】の様に変形/展開されていく。

イータユニットが1対のデバイスを前方に展開した砲撃戦形態【バスターモード】に切り替わったのだ。

 

 

『当たり前だぁっ!』

 

 

1対の砲口から高出力のビームとグレネードランチャーが発射される直前に、インパルスは多少の被弾を覚悟し、両手にフラッシュエッジを展開し投擲する。

 

発射された高出力ビームによって1つは融解し爆発。

だがもう1つのフラッシュエッジはドレッドノートに向かっていく。

 

しかしドレッドノートの右手に展開されているALによって呆気なく弾かれる。

 

 

『無駄だ……っ!?』

 

 

フラッシュエッジを苦もなく弾いたカナードの表情が驚愕に変わる。

何故ならば自身に向かってエクスカリバーが2本、凄まじい速度で迫ってきているからだ。

 

 

『ちぃ、陽動かっ!』

 

 

ALの発生率を高めて大型のシールドを展開する。

現在ドレッドノートは砲撃戦形態である【バスターモード】であり機体の運動性能は、通常形態と比べて鈍重と言えるレベルに落ちている。

大型のALシールドによってエクスカリバーは2本とも弾かれてしまう。

 

だが一連のやり取りで真の姿を見失っていた。

 

咄嗟にハイパーセンサーで確認。

相手の反応は自身の頭上を示している。

 

 

『上かっ!?』

 

『うおおおおおっ!』

 

 

カナードがエクスカリバーに気を取られている間にインパルスが両手に持つ【フォールディングレイザー対装甲ナイフ】を上段に構えて突きに来ていた。

 

 

『舐めるなぁ!』

 

 

バスターモード形態であるドレッドノートの運動性能は低い。

だが防御ができないわけではない。

 

即座に姿勢制御を行うことで、ビーム砲塔1つを突っ込んでくるインパルスに向ける。

インパルスの【フォールディングレイザー対装甲ナイフ】は慣性のままビーム砲塔を貫き破る。

ビーム砲塔1つを犠牲にインパルスの攻撃を防いだのだ。

 

攻撃を防がれたインパルスは即座にナイフを手放し、瞬時加速によって距離を取った。

だが――

 

 

『読んでいるぞ、真っ!』

 

 

残ったビーム砲塔がインパルスの回避先を捉えていた。

インパルスが装備しているシルエットがフォース、またはデスティニーシルエットであったのならば追撃は不可能であっただろう。

咄嗟にバックラーでビームを受け止めるが、バックラーでは完全に威力を受け止めきれず表面が融解し、弾き飛ばされた。

 

 

『ぐうっ!?』

 

 

あまりの威力に体勢が大きく崩されてしまった。

ドレッドノートに完全に背を向けている状態だ。

 

すぐさまスラスターとAMBACで姿勢制御を行うがすでに2射目がインパルスを捉えていた。

 

 

『もらったぞ、真っ!』

 

 

 

カナードが躊躇なくトリガーを引く。

 

 

(まずっ、避けきれなっ……!)

 

スラスターによる回避やAMBACが間に合わず、避けきれないと真が判断した瞬間であった。

 

 

――彼の頭の中で【紅い種】が弾け飛んだ――

 

 

そしてビームはそのままインパルスに着弾、大きな爆発を起こした。

 

 


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