【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE26 自分というもの

「……っ……」

 

 

ぼやける視界――数度のまばたきではっきりとした視界を確保する。

意識を回復したラウラが回復した視界で辺りを確認し、自分がどうやら保健室にいるということを理解した。

 

カーテンに仕切られているベッドに寝かされている様で、少し薄暗い。

自分の身体を確認してみるといくつか包帯が巻かれていた。

 

 

「ぐぅっ……」

 

 

起き上がろうとしたところ、全身の筋肉が悲鳴を上げ苦痛が走った。

だがそれでも無理やり上半身だけ起こすとカーテンの仕切りから憧れの人物が現れた。

 

 

「起きたか、ラウラ」

 

「教官……私は……」

 

「全身打撲に筋肉疲労。いくらお前でもしばらくは安静にしていろ」

 

 

そっとラウラの肩に手を当てて、千冬は彼女を寝かせる。

 

 

「教官……」

 

「【VTシステム】は知っているか?」

 

「……はい。過去のモンド・クロッソのヴァルキリー、部門受賞者の動きを模倣するシステムで、現在の国際条約によっていかなる場合も使用が禁止されているモノだと認識しています」

 

「そうだ、それがお前のISに搭載されていた」

 

「……っ」

 

「ドイツに確認したところ秘密裏に搭載されていたようだ。お前のISの開発者陣もその事は知らなかったようだし、責任者はすでに【雲隠れ】していて責任の所在も有耶無耶だ。それにどうやら【外部】からシステムが強制起動した痕跡があった……暴走の責任はお前に行かないよう努力するつもりだ」

 

 

やれやれと言った表情で千冬がため息をつく。

俯きつつ、ラウラはベッドのシーツをきつく握り締めている。

 

 

「……何もできなかった。あの声の前には私は何もできなかったのか……」

 

「……ラウラ?」

 

「……私には力しかない。ですが今回のような暴走事件を引き起こしてしまいました、これでは私の存在する意味など……」

 

 

ポタリポタリ、とシーツに彼女の涙が零れ落ちていく。

 

遺伝子強化素体として生を受け、ただただ力を求めた。

一度は左目の影響で地に落ちたが、千冬のおかげで持ち直しより強くなることができた、しかしVTシステムには抗えずに飲まれてしまった。

 

強くなることしか知らなかった彼女にとって、それは自分の存在意義をなくす事と等し――

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒッ!」

 

 

黒い思考に囚われていたラウラの意識が、千冬の大声で現実に戻される。

 

 

「お前にあるのは力だけではない。でなければ織斑と飛鳥はお前を助けようとはしなかったはずだ。遺伝子強化素体? そんなことは関係ない。あの2人はお前の事をただの女の子だと考えて助けたのだ」

 

「私が……女の子?」

 

 

ラウラにとってその言葉は今までの価値観に大きなヒビを入れた。

まともな生を受けなかった彼女にとってそのように認識される事などなかったのだ。

 

だが今になって思い返せば黒ウサギ隊の皆もそのように自分を考えていたのかもしれない。

自分はそれを受け取らずに拒絶してしまっていたが。

 

 

「直接あの2人に聞いたからな、それは確かだ」

 

「……ですが私はあの2人に……」

 

「関係を修復するにはまず【謝罪】だ。それにこれからはこの学園に3年間は在籍するのだ。その間に力だけの価値観からお前だけの……ラウラ・ボーデヴィッヒだけの、価値を見つければいいんだ、ラウラ」

 

 

優しくラウラの頬を撫でた千冬はそう言って再びカーテンの仕切りを開く。

 

 

「周りに頼ることは何も悪いことではない。今のお前ならきっと皆も助けてくれるはずだ……今はゆっくりと休め」

 

 

そう言って千冬は離れていく。

 

 

(価値……私だけの価値か)

 

 

今千冬の言った通り、皆に頼る事ができるのならば

空っぽだった自分の中身を満たしていけるのでは。

 

心が軽い。

今までこのような事はなかった。

 

そこまで考えて再び睡魔が襲ってきた。

千冬と助けてくれた2人に感謝してラウラは意識を手放した。

 

 

――――――――――――――――――――

同時刻 自室

 

 

「……つぁー」

 

 

机の上に乗せられた反省文の山。

真や一夏は今回の事件を収めたがISを使った私闘であることには変わりなく大量の反省文が罰として科せられていた。

 

すでに半分程度は終わっている。

だが戦闘で疲れた体でたっぷりと千冬に絞られた後なのだ、ペースが目に見えて落ちていく。

 

グリグリと右腕を肩から回してストレッチを始める。

その様子を簪は苦笑しつつ眺めていた。

 

彼女自身もセシリアを医務室に連れて行くのにISを無断使用したが、真よりは少ない反省文で済んだのですでに提出も終わっている。

 

 

セシリアの容態は全治1週間の怪我であり、IS学園の保健室で安静にしている。

怪我自体は大したことはないが念のための処置との事だ。

 

なおイギリスの候補生が暴走したドイツの候補生に負けたという情報は、すでにイギリス本国に届いている。

しかし同時制御を行いつつ行動できるセシリアの成長についても報告がされており、セシリアについては立場が変わることはなく依然として代表候補生として活動できる事となっている。

 

ブルーティアーズについてはほとんど欠損した部分がないためパーツの交換程度で済んでいる。

 

 

ドイツについては今回の暴走事件はまさに寝耳に水であった。

国際法上禁止されているVTシステムが代表候補生のISに搭載されていた。

加えてイギリス代表候補生をその候補生が傷つけたと言う大問題であるからだ。

 

イギリスとドイツの国家間の友好にもヒビが入るかと思われたが、ドイツ上層部はAIC技術の無償提供を決定。イギリスはドイツから無償提供されたAIC技術によって今回の事件について和解する方針を固めた。

 

 

ラウラについては1ヶ月間の謹慎処分及び階級の大幅な降格処分が決定された。

だが代表候補生の立場や専用機【シュヴァルツェア・レーゲン】については剥奪されることはなかった。

これについてはラウラの能力を惜しんだことと、千冬による交渉の影響が高いのだが。

 

余談となるがヴォーダン・オージェやVTシステム等の研究をしていた研究部門は物理的に潰されていたとの事だ。現在ドイツ本国ではその件について調査中であるとの事だ。

 

――閑話休題

 

 

 

「真、お疲れ様」

 

 

簪が真に冷蔵庫から出したジュースを手渡す。

ありがとうと真は受け取って蓋を開け、一気に飲み干す。

炭酸飲料の刺激が心地いい。

 

 

「後半分か。明日までに出さなきゃいけないからさっさと書かないと……よし、やるか」

 

 

時刻はすでに21時を回っている。

消灯時間まで後1時間程度しかないため、ペースを速める必要が合った。

 

 

「……ねえ、真、デスティニーシルエットはどうだった?」

 

「武装もVLユニットも問題なく思ったとおりに動いてくれたかな。今回はビーム砲塔は使えなかったけど……」

 

 

今回使用したデスティニーインパルスの武装の中で、ブラスト装備に該当する

【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】2門は使用していない。

 

このビーム砲塔は手持ちで使用するケルベロスとは違い、背部から砲塔が伸縮する形式を取っており手で保持する必要がないため使いやすいものだ。

 

 

「気になるのか?」

 

「えっ、うん。全部乗せってロマンあるから……ちょっとね」

 

 

少し照れたような表情を浮かべる簪に、真は微笑みつつそうかと返す。

そして再び反省文を書き始めるが、今回の件で気になった事が頭に浮かんでくる。

 

 

(……ラウラの暴走……まさかラクス・クラインなのか?)

 

 

千冬が言うには、彼女の機体にはVTシステムという条約で禁止されているモノが搭載されており、それが外部からの干渉で発動したとの事だ。

 

心当たりとして有力なのはラクス・クライン。

以前カナードが真に伝えていた。

彼女は束の技術と記憶を持っていると。

 

 

(……カナードと連絡が取れればなぁ……)

 

 

彼と連絡が取れれば色々と状況が見えてくるはず。

だが依然として彼からの連絡もない。

 

 

(あいつ、今何してるのかな……束さんと一緒って事は苦労してそうだけど)

 

 

そんなことを考えつつ、反省文を書き進めていく。

何とか消灯時間前に書き終わり、千冬に提出することができた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

青い光。

その光は【地球】

 

そして地球の周りに浮かぶ砂時計型の建造物。

 

 

――ああ、またこの夢――

 

 

場面は変わり、20m級の人型機械――MS――同士による戦争に変わる。

 

鶏冠の様な頭部を持つMSの手に持つライフルから放たれた弾丸が、別の人型――ゴーグル型の様なセンサーを持つMS――の胸に当たり爆発していく。

 

別の機体が光のサーベルで鶏冠型の機体――ジン――を縦に切り裂く。

 

 

――やめて

 

 

場面が再び切り替わり、今度はMSのコックピットに場面が変わる。

 

敵MSを仕留めたと男の声が響く。

すると身体がまるで風船の様に膨れ上がっていく。

 

それと同時に全身に激痛が奔る。

ボンッと気色悪い音と共にMS毎爆発する。

 

 

――やめて、やめて!

 

 

場面がまた切り替わり、コロニーの残骸が地球に向けて落下していく光景に変わる。

 

大型の戦艦から発射されたビームにより残骸が破壊されるが、全てを破壊しきれず破片は地球に落下していく。

 

落下した破片は津波を引き起こし、都市部を飲み込む。

破片が都市部に直接落下して甚大な被害を引き起こす。

 

 

――もうやめてぇ!

 

 

場面が切り替わり、雪の中で蹲る自分――篠ノ之束――に変わる。

 

絶望した。

 

――夢の中の世界では人類は宇宙に生活の場を広げていた。

 

なのに世界は今と何も変わらず――いやさらに酷くなって行く。

 

 

「……私の夢が……そんな……宇宙に出ても人間は何も変わらないの……っ!?」

 

 

絶望して涙が溢れてくる。

そんな時であった。

 

 

「大丈夫ですわ、束さん」

 

 

そんな声が聞こえて振り返る。

そこには桃色の髪を持ったドレス姿の女性が立っていた。

 

年齢は自分とそう変わらないだろう。

 

 

「あの世界……C.E.とこの世界は違いますわ、だって貴女と私がここにいるんですもの」

 

 

篠ノ之束は一部の人間しか認識しないと言われている。

だがドレス姿の彼女は不思議と認識できていた。

 

微笑みながらその女性は束に手を伸ばす。

 

 

「何も怖がることはないですわ、お友達になりましょう、束さん?」

 

 

ああ、彼女と一緒なら変えられる。

そう思って束は彼女、ラクス・クラインの手をとってしまった。

 

 

――やめてぇええ!

 

 

 

 

……ね……ばね……束!

 

 

「束っ!」

 

 

目を開けるとそこには見知った顔。

カナード・パルスの顔があった。

 

いつも仏頂面の彼だが、焦りの表情を浮かべていた。

 

 

「カナ……君……」

 

 

目の前の完成直前のIS、【紅椿】の調整中に寝落ちしていたようだ。

 

 

「……またその夢を見ていたのか?」

 

「……うん」

 

 

カナ君が私を抱きかかえてくれる。

俗に言うお姫様抱っこの形で。

 

 

「ちょっ、カナ君!?」

 

「……じっとしていろ、それにクロエも心配している」

 

 

カナ君が視線を後ろに向けると。

クーちゃん、【クロエ・クロニクル】が心配そうな顔でこちらを見ていた。

 

 

「束様。あまり無理はしないでください」

 

「クーちゃん、ごめんね……それにカナ君も」

 

「いい、ラキに病人食でも作らせるからそれができるまでは休んでいろ」

 

「うん……ありがとう」

 

 

そう言って彼に任せてベッドまで連れて行ってもらう。

 

 

「……それとドイツの施設は潰しておいた」

 

「……うん、ありがとう」

 

「奴がVTシステムの基礎を作ったと言うのは本当らしいな。しかも日本でVTシステムが発動したらしい」

 

「分かってるよ、あいつが基礎を作ったVTシステムだから外部干渉ができたと思う。それにあいつは私以上に目的に執着する。きっと目的の近くに居たがるはず……だからあいつは日本にいる……!」

 

 

現に有力な地上施設はあらかた調べ終えた後であるからだ。

なんとしても止めなければならない。

 

私があいつの中にあった私の技術と記憶を目覚めさせてしまったのだから。

 

 

「……それと……篠ノ之箒の護衛だったな。お前を休ませた後に向かうからクロエ、準備を頼む」

 

「分かりました、カナード様」

 

 

付いてきてくれていたクーちゃんが力強く頷く。

 

 

「まずは休めよ、束」

 

「うん、ありがとう、カナ君」

 

 

カナ君に微笑むと照れ隠しかそっぽを向いた

少しかわいいと思っちゃった。

 

 




次回予告

「接触」

魔の手は伸びる――大切な妹に。
その手を払いのけろ、ドレッドノート!

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