【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE25 ignited

『何が起こったんだよ、【泥】……なのか、あれ』

 

 

変化は突然起こった。

 

目の前の【敵】であるラウラが絶叫したかと思うと彼女の機体のフレームが溶け出しまるで【泥】の様な黒い粘着質な液体が溢れて、彼女を包み呑み込んだのだ。

 

そして【泥】の塊はゆっくりと形を整えていく。

まるで粘土を捏ねて人型を作っていくかのように。

 

泥の動きが止まるとそこにはISサイズの人型が存在していた。

【長髪の女性】のようにも見えるそれの腕には同じく泥で形成されている大型の【刀】。

 

 

人型のそれ――便宜上黒レーゲンと呼称――は手に持った刀を馴染ませるかのように数度振るう。

 

 

『……雪片っ!?』

 

 

友人である一夏の白式の得物【雪片弐型】と形状が似ている刀。

だが微妙にデザインが異なっている。

 

黒レーゲンが素振りを完了させて、中腰で構える。

瞬間、真の眼前に黒い刃が迫っていた。

 

 

『ぐっ!?』

 

 

咄嗟にデスティニーインパルスの左腕に装備されている実体シールドを構えるがあまりの威力の強さに受けきれず弾き飛ばされる。

 

 

『なんてパワーだよっ!?』

 

 

黒レーゲンは雪片を上段に構えて、体勢を崩した真に向けて振り下ろす。

だが今のインパルスと真ならばその攻撃は脅威にならない。

 

 

『これくらいぃっ!』

 

 

非固定浮遊部位であるVL、【光の翼】が煌いて真は後方に加速。

体勢が崩れてるのも合わさり思いっきりのけぞる形となった。

仰け反った勢いのまま、右足のスラスターを点火させて黒レーゲンの雪片を蹴り飛ばす。

 

すかさず雪片を蹴り飛ばした勢いをそのままに距離を取った。

弾き飛ばされた雪片は泥となって地面に落下していくが、黒レーゲンの手には新たな【雪片】が即座に再生していた。

 

その様子を観察しつつ真は自機、インパルスのエネルギーを確認する。

インパルスのエネルギーを確認する。

すでにセシリアを助けるため、最大出力のVL稼動を行っている。

 

そしてデスティニーシルエットの【欠点】

劣悪な燃費もあいまってすでにエネルギーは6割を割っている。

 

長引けば不利。

短期決戦を狙うしか方法はない。

 

 

『……厳しいな』

 

 

自嘲の様に呟いて【エクスカリバー】を握る両手に力をこめる。

その時であった。

 

 

『ふざけんなあああああああああああっ!!!』

 

 

先ほど真が破壊し、再生してたシールドバリアが先ほどよりも大きく【破壊】された。

 

同時に突っ込んでくる【一夏】の白式。

アリーナにいる生徒の数はシャルロット等を含めても10人に満たないが、その行動は褒められたものではない。

 

 

握る【雪片弐型】は零落白夜を発動しているため光り輝いている。

そのまま加速を続けて黒レーゲンに振り下ろす。

 

だがその一撃は黒レーゲンに当たる前に右腕を破壊されて中断された。

 

いくつかの【泥の雫】が零落白夜を発動している【雪片弐型】によって消えていくが、黒レーゲンは構わずに居合い抜きの要領で神速の一撃をカウンターで叩き込んだのだ。

 

そしてそのまま黒レーゲンは一夏に返す刃で斬りかかる。

しかしその刃は空を切った。

 

 

『何してるんだよ、一夏っ!』

 

 

一夏が黒レーゲンに迎撃された時点で、真はVLを稼動状態にし一夏を抱えて回避していたのだ。

 

 

『離してくれ、真! あいつのあの剣……あれは千冬姉の、千冬姉だけの剣なのに!』

 

 

抱えた一夏が抵抗しつつ真に吼える。

 

 

『あれは千冬姉の真似なんだよ!だから俺がやらないと!』

 

『お前はこんな時に何を言って……まずっ!?』

 

『うわっ!?』

 

 

一夏の行動に毒を吐きそうになった真だったが、黒レーゲンが2人をまとめて切断するために

剣を振り上げていたため一夏を弾き飛ばし、エクスカリバー2本を交差して何とか斬撃を受け止めきる。

 

真に弾き飛ばされた一夏が即座に体勢を立て直して【雪片弐型】を構える。

真が抑えているため黒レーゲンは動けない、今ならば奴の剣を切り裂くことができる、

 

と一夏が思考したとき――黒レーゲンにある【変化】が起こった。

 

 

「タ…………ス…………テ…………」

 

 

黒レーゲンの腹部から【声】がしたのだ。

インパルスと白式のハイパーセンサーは確かにそれを拾った。

 

 

『っ、ラウラかっ!?』

 

 

VLを稼動状態にし、得られる推力をエクスカリバー2刀に加えて黒レーゲンを弾き飛ばす。

 

今の【声】で真の頭の中で目的が切り替わった――破壊するのではなく、中にいる【ラウラ】を助け出す。

 

そのためには――

 

 

(泥を消滅させるためには…………零落白夜か!)

 

 

先ほどの一夏の奇襲の際に、零落白夜によって泥が消滅していることを確認している。

ならば中にいるはずの【ラウラ】を引っ張り出して黒レーゲンの機能を停止することが可能なはずだ。

 

インパルスの残存エネルギーに余裕はない。

1人ではかなり厳しい状況であり、一夏の協力を得る必要がある。

 

 

『一夏っ! 奴の中からラウラを…………っ!?』

 

 

一夏に視線を合わせると、どういう訳か一夏は顔を【蒼白】にしていた。

先ほどまで迸っていたはずの怒りの感情も消えている。

ハイパーセンサーで感知すると震えているのも分かる。

 

 

『いっ、一夏っ!? いきなりどうしたんだよっ!?』

 

 

黒レーゲンからの斬撃を回避しつつ、一夏に向けて叫ぶ。

この非常時に彼に何があったのかは分からないが、よくない事がおきたのは感じ取っていた。

 

真の叫びに一夏から震える声で返答があった。

 

 

『…………俺、わかっちまった……俺の【守りたい】って気持ちも、そんな【泥】みたいな奴と同じ【真似】なんだって事が…………薄っぺらいって事が…………っ』

 

 

両手に握る【雪片弐型】も彼と同じように小刻みに震えていた。

 

 

――――――――――――――――――

 

絶対に許せるものかと思った。これまで感じたことがない位に怒りを感じた。

真が奴を抑えてくれている、今が絶好のチャンス。

 

そこまで思った瞬間、白式のハイパーセンサーは声を拾った。

 

 

「タ…………ス…………テ…………」

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

いけ好かない態度を取った転校生でいきなり頬を叩かれた。

 

そしてセシリアを攻撃して、今こうして憧れでもある千冬姉の剣を【真似】ている機体を持つ相手。

だけどそんな奴でも戦うことを強要されているのなら助けないと。

 

そこまで考えた瞬間、俺の中で何かがピタッとはまってしまった。

そのキーワードは【真似】

 

――ずっと考えていた【守る】ことに対する疑問が解消してしまったんだ。

 

 

【守りたい】

 

俺が白式を得てから感じていたこの気持ち。

幼い頃から自分を守ってくれていた【千冬姉への憧れ】

尊敬している姉を【形】だけ真似ていると言うことに気づいてしまった。

 

――そんな俺は目の前の敵と何が違う?

 

そして今相対している黒いISとの戦いに参加した、本当の理由についても理解してしまった。

【千冬姉の剣】を守る。

 

それは建前で本当はただ自分が【気に入らなかった】からって事に気づいてしまった。

 

 

力を求めた理由も同じだ。

【真】や【もう1人のあいつ】みたいになりたいという【憧れ】だけで戦っていた。

 

 

――【力】を得ることの意味なんて全然考えたこともなかった事に気づいてしまった。

 

 

【薄っぺらい】

自分の行動を振り返ると本当に薄っぺらい。

 

先ほどまで感じていた怒りが消えていく。

同時にどういう訳か身体が震えだした。

 

怖いわけじゃなくて、ただどうしようもなく情けない気持ちが溢れてくる。

 

 

『いっ、一夏っ!? どうしたんだよっ!?』

 

 

真の声が耳に届く。

 

 

『…………俺、わかっちまった……俺の【守りたい】って気持ちも、そんな【泥】みたいな奴と同じ【真似】なんだって事が…………薄っぺらいって事が…………っ』

 

 

何とか真にそう返せた。

こんな状況でしていいことじゃないのは分かってるのに涙が出てくる。

 

俺は真みたいに戦えない。

 

――こんな薄っぺらい俺じゃきっと真の横になんて立てない。

 

震える手から力が抜けていく、【雪片弐型】が手から零れ落ちそうになったときだった。

 

 

『一夏っ!!』

 

 

真の叫びが耳を貫いた。

 

 

『お前が何を思ってるかなんて知らない! だけどお前は彼女を助けたいと思ったんじゃないのかっ!?』

 

 

真が黒いISからの攻撃を引き付けつつ叫んでくれている。

 

 

『それは決して間違いなんかじゃない! それはお前だけが感じたもののはずだ! 誰かの真似なんかじゃなく!』

 

 

攻撃を盾で防ぎながら真が俺に言葉を投げかけてくれる。

 

 

――助けたいと確かに思った……だけど、俺は……俺にできるのはただ格好を真似るだけ…………

 

 

『【助けたい】と感じたことは決して薄っぺらなんかじゃないっ!! 俺も同じなんだよ! 俺は今ある命を、【花】を散らせないために戦ってるっ!それは俺が助けたいと思ったからだ! 俺自身が決めたんだ! だからお前も決めろよ、一夏ぁっ!!』

 

 

――そうだ、守りたいと憧れたことは真似だけど、助けたいとそう感じたのは俺自身だ。

 

――俺の戦う理由、やっと少し分かった気がする。

 

――ありがとう、真。

 

――――――――――――――――――

 

真が一夏に向かって叫ぶと同時に、黒レーゲンが手に持った雪片を投擲してきた。

泥の塊の様に見える腕から想像できないほどの力で放たれた雪片を真は実体シールドで弾き飛ばす――

一瞬その投擲に意識を持っていかれてしまったため、黒レーゲンが放ってきた蹴りに対して行動が遅れた。

 

 

『ぐうっ!?』

 

 

何とか右腕を使って防御が成功するが、防御を抜いてきた衝撃に固まる。

即座に黒レーゲンは雪片を再生。

 

その刃で真を切り捨てんと斬りかかる。

 

だが、その刃は【白い刃】によって弾かれ、泥が光に消えていく。

零落白夜を発動した【雪片弐型】――一夏が黒レーゲンの刃を受け止めていたのだ。

 

 

『……誰かを助けるために戦う、それが俺自身の心が出した俺の戦う理由だぁ!』

 

 

返す刃で黒レーゲンの左手を切り落とす

本体であるラウラは黒レーゲンの腹部にいるため左手を切り落としても問題はない。

 

黒レーゲンは一夏と真から離れる。

すると泥が少しずつ動き、切断された左手に集まっていく。

 

 

『再生するのかよ』

 

『みたいだな……で、もう大丈夫か、一夏?』

 

 

真が横に浮遊している一夏にたずねる。

それに苦笑しつつ一夏は答える。

 

 

『……ごめん、いきなり割り込んで、いきなりパニくって混乱させちゃってさ』

 

『……いいさ、友達だろ』

 

『……ああ』

 

 

真は右手、一夏は左手。

コツンと機体の拳をあわせて、互いの得物に力を込める。

 

 

『あいつの泥は俺の零落白夜で払える』

 

『ああ、その隙は俺が作ってやる』

 

『頼りにしてるよ、真』

 

『ああ、任せてくれ、彼女はお前が助けろよ』

 

『ああ、任された』

 

 

【光の翼】が広がり、真は黒レーゲンに向かって加速する。

すでにインパルスのエネルギーは3割程度しかない。

 

この接触がラストチャンス。

 

だが、失敗の予感を真と一夏は毛ほどに感じていなかった。

全力で信頼できる【相棒】がいるからだ。

 

 

『デスティニーインパルスならこういう戦い方ができるはずだっ!』

 

 

高速移動を続けつつビームライフルを展開し、トリガーを引く。

狙いは両腕と両脚――4発のビームがレーゲンに放たれる。

だが直前に腕を再生させた黒レーゲンは瞬間的な加速で、発射されたビームを横方向に避ける。

 

 

『次はコイツだっ!』

 

 

ビームライフルを格納し、両手にビームブーメラン【フラッシュエッジ】を展開し投擲。

ビームによって光輪となったフラッシュエッジを黒レーゲンは手に持った【雪片】で弾き飛ばす。

 

その行動は真にとっては計算通り。

雪片で迎撃すると同時にエクスカリバーを構えて光の翼を広げる。

 

 

『叩き切ってやるっ!!』

 

 

VLユニットから得られる推進力によって残像を残すようなスピードで突貫する。

しかしそれにも黒レーゲンは反応を示した。

 

突如雪片が黒レーゲンの【両手】に生成された――その2刀で突貫してくる真を両断した。

 

 

だが、切断したはずの【真】の姿がぶれて消えていく。

 

 

そして逆に黒レーゲンの両手が雪片ごと切断され宙を舞っていた。

切断されたはずの【真】は光の翼を煌かせつつ、黒レーゲンの背後を取っていた。

 

【ミラージュコロイド】

VLとは別にデスティニーインパルスに搭載されている機能。

 

元となったのはMS【デスティニー】に搭載されていた残像を投影する機能

ミラージュコロイドによって【偽りの真】を投影して、囮に使ったのだ。

 

この機能はISの持つハイパーセンサーですら誤認させる事が可能だが、その分エネルギー消費が激しい。

燃費が劣悪なVLユニットと相まって残存していたエネルギーは【Empty】を示していた。

 

 

――だが今度こそ黒レーゲンの動きが止まった。

 

 

『今だ一夏ぁっ!!』

 

『うおおおおおおおおっ!!!』

 

 

真の叫びと共に零落白夜を発動させた雪片弐型を構えた一夏が黒レーゲンに突っ込む。

今の一夏に迷いはない。

自身の出せる最高速度で黒レーゲンの懐に潜り込んだ。

 

そしてそのまま、雪片弐型の刃は立てずに優しくソフトに黒レーゲンの腹部に押し当てる。

 

瞬間、泥が光となって消え、泥の中から【ラウラ】が現れた。

ラウラを泥の中から引っ張り出し離脱する――同時に今まで活動を行っていた泥が沈黙し、落下していく。

 

落下した泥は動きを止めて、次第にぼろぼろになった

ラウラのIS【シュヴァルツェア・レーゲン】へと姿を変えていく。

 

 

『……終わったみたいだな』

 

 

エネルギー切れでゆっくりと下降を続けていた真が呟く。

 

 

『ああ、ラウラは無事だ……本当に良かった』

 

 

救出したラウラが息をしている事を確認し、一夏が真に答えた。

 

 

――――――――――――――――――

 

「ああ、シンっ、それに一夏……っ!」

 

 

恍惚とした表情でラクスは呟く。

先ほどまでの戦闘をVTシステムを通じてラクスは見ていたのだ

何も表示していない空間投影ディスプレイを消して部屋のベッドに倒れこむ。

 

 

「一夏の迷いのなくなった表情っ……それにシンに翼がっ、ああ、たまりません、たまりませんわぁ……っ!」

 

 

熱い吐息を漏らしつつ、ラクスは笑う。

 

 

「でもまだだめ……あの翼はシンの【本当の翼】ではないし、一夏もまだまだ光るはずっ……ああ、でもたまらないですわぁっ!」

 

 

しばらくの間、暗い一室では狂喜の媚声が響いていた。

 

 

 


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