【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION 休息

クラス代表戦での未確認機の襲撃、及び未確認の男性搭乗者についてIS学園では箝口令が敷かれていた。

 

特に未確認の男性搭乗者――カナードについては徹底的な箝口令が敷かれている。

カナードと会話した者については秘密を守るよう誓約書を書かされるほどであった。

 

また許可なく学園内でISを展開、戦闘を行った真やセシリア、簪には別に反省文の提出が罰則として科せられた。

 

あわせて避難誘導に従わず場を混乱させてしまった箒についても、1日の自室謹慎が科せられていた。

 

当初は箝口令が敷かれている中でも様々な噂が流れたが、ある程度時間が経てば適応するのが人間であり、しだいに別の話題に切り替わっていった。

 

 

そしてクラス代表戦から数日経った休日。

各々はそれぞれの休日を過ごしていた。

 

 

――――――――――――――――――

 

自室

 

 

「レッツ、マイトガインッ!」

 

「よっしゃぁっ! ファイナル・フュージョン!」

 

 

罰則の反省文はすでに書き終え、千冬に提出した簪は

自室で撮り貯めていたアニメの再放送で休日の時間を過ごしていた。

 

 

「……今は見れないかな」

 

 

少々ため息をついてアニメを消し、自分のベッドにダイブする。

画面の中の【勇者達】の勇ましい姿は普段ではとても心躍るモノだが、今はどうしても別のモノが浮かんできてしまう。

 

 

『……俺は【花】を散らせないために戦うって決めた、助けられるのなら絶対に手を差し伸べるって決めたんだ。それがヒーローごっこならそれでもいい……俺自身が決めたんだ、だから……助けたいんだ』

 

 

本気になって心配してくれた彼の顔――

 

 

『無事か、簪!』

 

 

先日の未確認機乱入の際、クラスメイトを守った時の勇ましい顔――

 

 

『ありがとう、簪』

 

 

未確認機を撃破して戻ってきた時の顔――

 

 

「あの時の真……ヒーローみたいにカッコよかった」

 

 

ボロボロになりながらも人を守るヒーロー。

幼い頃から憧れていたその姿を先日の真は体現していた。

 

彼の事ばかり頭に浮かんでくる。

そして胸が温かくなる。

 

先程からずっとこれを繰り返していた。

この気持ちの名前は知っている。

 

 

「私、やっぱり真のこと……好きなんだ……」

 

 

趣味や話も合うし、IS等の事も色々と後押しをしてもらった。

いつの間にか彼に惹かれていたのだろう、友人としてではなく、【異性】として。

 

そして先日襲撃の件が引き金となって自分の気持ちに気付いた。

 

気づいてしまった気持ちを意識すると顔が真っ赤になる程の恥ずかしさが溢れてきた。

幸いなことに今、この部屋に彼はいない

 

インパルスの整備の為、利香とともに日出工業に向かっているのだ。

 

 

「うう……どうしよう、今顔見れないよ」

 

 

時刻は正午を少し回ったところだ。

後数時間で彼は帰ってくるだろう。

 

以前の様に特撮やアニメの話をしようとしても今のままではまともに顔も見れないだろう、恥ずかしくて。

 

 

「なっ、何とかしないと……!」

 

 

悩める恋する乙女の声が部屋に響いた。

 

 

――――――――――――――――――

 

生徒会室

 

 

「見て見て、虚ちゃん! 簪ちゃんから、彼女の方から私と話をしたいってメールが!!」

 

 

私用の携帯に簪からメールがあり、その内容を読んだ楯無は嬉し涙を流しつつ背後の虚に叫ぶ。

生暖かい目でそれを見つつ虚は返答する。

 

 

「お嬢様、これで簪お嬢様と仲直りができますね」

 

「ええ、後は私がちゃんと謝れれば……でも……」

 

 

笑顔から一遍――表情を暗くした楯無が頭を抱える。

 

 

「あっ、ありのまま今朝確認した事を話すわ……しばらくの間家の仕事や国家代表の仕事で学園を離れていたらいつの間にか簪ちゃんのISの問題とかが全部解決していて、簪ちゃんの方から話をしたいとメールまでくれた。それはとっても嬉しいなと思ったけど真君と親しそうに話をしていた、しかも視線が熱っぽかった。頭がどうにかなりそうだわ、超スピードとか瞬時加速とかそんなチャチなもんじゃ断じてないわ、もっと恐ろしい……妹の恋の予感というものを味わっているわ……!」

 

 

グググッと扇子を広げつつ、楯無が冷や汗をダラダラと流して呆れ顔をしている虚に告げる。

 

 

「お嬢様、少し落ち着きましょう、ヒッヒッフーですよ」

 

 

呆れ顔のままラマーズ呼吸法を楯無に伝える。

 

 

「ヒッヒッフー……ありがとう虚ちゃん、落ち着いたわ」

 

 

ふう、と一息ついた楯無は扇子で顔を扇ぐ。

扇子には【感謝】と表示されている。

 

 

「……お嬢様……扇子……逆さです」

 

 

だが、先程開いた扇子は持ち手が上下逆になっていた。

 

 

「……簪ちゃーん、お姉ちゃんは許さないわよぉ! 真君め、今いないみたいだけど戻ってきたらコロがしてあげるんだからぁ!」

 

 

長机に突っ伏してうわーんと泣く楯無であった。

 

 

――――――――――――――――――

 

食堂

 

 

「どうぞ、酢豚お待ちどうさま!」

 

 

ドンッとテーブルの上にたっぷりと盛られた酢豚の皿が出される。

食欲を沸き立たせるたまらない香りが広がる。

 

 

「いただきます!」

 

 

両手を合わせて、一夏が酢豚をご飯と共に食べ始める。

朝からずっとトレーニングを続けていた彼は空腹だったのだ。

 

 

「いい食べっぷりね、一夏」

 

「ああ、サンキューな鈴、奢ってというか作ってくれてさ」

 

「いいのよ……自業自得みたいなものだから……はは……」

 

 

自嘲気味な乾いた笑いを鈴が浮かべる。

 

何故彼女が酢豚を一夏に作っているかと言うと、クラス対抗戦の後に意識を取り戻すと、

なんと一夏が【約束】について思い出したのだ。

しかも正確にプロポーズの意味に気づいて。

 

このことを後に真が聞いたときに目を点にして驚いていたが。

 

 

それについてもちろん喜んだ鈴だったが意識を取り戻してすぐの出来事であったため、全くと言っていいほど準備をしていなかったのだ。

 

そのため――

 

 

「なっ、何言ってるのよ! 勘違いよ! 奢って上げるっていったのよ!」

 

 

と照れ隠しのために言ってしまったのだ。

しかもそれに一夏は納得してしまったのだから、後の祭りである。

 

 

もちろん号泣して真の部屋に飛び込んできたのは言うまでもないだろう。

 

 

「はははは……まあ、こうして一夏の食べっぷり見れるのもいいかもね」

 

 

一夏に聞こえない程度の声量で微笑みながら鈴は呟いたのだった。

 

 

――――――――――――――――――

 

第2アリーナ

 

 

『でええええいっ!』

 

 

白式がアリーナの上空を翔る。

 

一夏は咆哮を上げつつ手に持つ雪片で空を裂く。

瞬時加速からの一撃、姉である千冬の現役時代の映像や、

真やセシリアから教えてもらったコツを試しつつ試行錯誤している。

 

 

『こんなんじゃだめだ……もっと強くならないと……!』

 

 

思い出されるは先日の無人機との戦い。

 

真はボロボロになりつつも自力で1機倒していた。

だが自分はあの未確認の男性搭乗者がいなければ一撃を与える事ができなかった。

 

それどころか箒の危機にも間に合わなかった

奴がいなければ箒は大怪我をしていたかもしれないのだ。

 

だからもっと強く、真やあの男よりも強く、この白式で皆を守るために。

 

 

『俺が……俺が皆を守れるようになるんだっ!』

 

 

この日、アリーナの使用時間ギリギリまで白式は空を翔けていた。

 

 

――――――――――――――――――

 

日出工業 応接室

 

 

応接室には真と優奈、利香の3人の姿があった。

3人ともあまり表情が優れているとは言い難い。

真の口から【ラクス・クラインがこの世界にいる】という情報がもたらされたからだ。

 

 

「その可能性を考えなかったわけじゃないけど……本当にいるとはね、嫌になるわ」

 

「カナードが嘘を言う必要はないですからね、束さんと一緒にいると聞いたときは驚きましたが」

 

「あの天災とねぇ、それにしてもPS装甲をよくこの世界で再現できたなぁ……まさか、宇宙にいるとかはないよね?」

 

 

PS装甲の装甲材は無重力、またはそれに準ずる環境を用意し、ガンマ線レーザー等による加工施設が必要となる。

 

つまり作成には宇宙空間が最も適しているのだ。

 

この世界ではまだ人類は自らの居住空間を宇宙に移してはない。

そのため装甲材の入手はほぼ不可能であったはずなのだ。

 

 

「流石にそれは……。 それとラクス・クラインは束さんの技術と記憶……を持っているとカナードは言ってました、【技術】はともかく【記憶】って言葉の意味は分からないですが」

 

「……何にしても情報が足りないわね、うかつに動くわけにはいかないし、こちらから動くってこともできそうにないわ」

 

 

優奈がため息をつく。

応接室の雰囲気が淀んでいく。

それだけの懸念事項なのだ、ラクス・クラインがいるということは。

 

 

「……そうだ、インパルスの整備が終わったって報告があったから、真君、受け取りに行きなよ」

 

 

利香が雰囲気を変えるために真に告げる。

 

 

「開発主任の1人の【小原】って女の人が待機状態にしたインパルスを持っているはずだから……それにデスティニーシルエットの【試作型】ができたから少し試してくるといいよ」

 

「早いですね、もうですか!?」

 

「うん、ヴォワチュール()リュミエール()、新しい、惹かれるな……とか技術スタッフの皆が目の色を変えて作業してたからね」

 

 

その言葉に優奈は頭を抱えていたが、それは無視する。

 

 

「インパルスを受け取りに行ってからテスト……ですね、分りました」

 

「それと打鉄弐式の武装について、これ、簪ちゃんに渡してあげて、候補リストだって」

 

 

利香が笑顔でタブレットを真に手渡す。

その笑顔は若干ひきつっている。

 

 

「……凄く嫌な予感がするんですが」

 

「……大丈夫、私の方で一応コストとか常識の範囲内であるかとか確認してあるから」

 

 

はははと乾いた笑いを利香は浮かべていた。

 

少しだけ武装を確認すると【リボルビング・ステーク】等の杭打機が武装として候補に挙がっていた。

同じ用途の武装がIS用装備にあることは知っているし、C.E.にも【グフ・クラッシャー】というトンデモ武装を積んだMSがいたからそこまでは驚きはしなかったが。

 

その後、真は【小原節子】という開発主任

シルエット候補にあった【バルゴラシルエット】の提案者らしい。

彼女からインパルスを受け取り、試作型デスティニーシルエットのテストを行ってから利香に送られてIS学園へと戻った。

 

部屋でどういう訳か顔を赤くしていた簪にタブレットを手渡したら目の色を変えて喜んでいた。

ロケットパンチや合体剣はロマンに溢れてて魅力的だけど、取っ突きやドリル、合体からの一撃必殺砲もいいよねとの事だ。

 

その笑顔を見ると不思議と悪くないよなと思えた真だった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「……チッ」

 

 

カナードは手に持ったタブレットを机に放り投げて、荒々しく椅子に座り込む。

投げ捨てられたタブレットには軌道エレベーターについての理論、コスト等や建設を予定している企業の情報が表示されていた。

 

 

(PS装甲の装甲材を作成できる施設など限られてくる……。疑似的な無重力ならばPICを使用すれば可能……しかし大量に製錬するには時間も場所も必要だ、まさか宇宙……だがこの世界では難しいはずだ)

 

 

C.E.ならば個人所有のシャトル等を用いれば、費用は掛かるだろうが、容易に地球と宇宙との行き来は可能であった。しかしこの世界ではISを用いても宇宙開発は遅々として進んでいない状況である。

その中で宇宙を拠点にしようとすれば、簡単に束の情報網に引っかかるはずだ。

そのため、地上の施設に絞って調査していたが全て外れていたのだ。

 

 

「くそ……やはり相手も束と考えるべきだな、情報も易々とは手に入らんか」

 

「詰まってるみたいだね、兄さん」

 

 

女の声――

その声に振り向くと、カナードと同じ顔、同じような服装をしている女の子が手にコーヒーカップを2つ持って立っていた。

 

カナードと瓜二つな顔だが彼程髪は長くなく、セミロングといったところだ。

輪郭は女性らしく丸く、身体付きも鍛えられたカナードとは違い細く胸は平坦。

だがヒップラインにかけては中々にそそるものがあるだろう。

もっともカナードにとっては【妹】であるのだから、そういった感情はないが。

 

 

「ラキか、整備は終わったのか?」

 

 

ラキと呼ばれた女の子はカナードにカップを手渡す。

 

 

「うん、束さんが手伝ってくれて終わらせてくれたよ」

 

「そうか、助かる」

 

 

ラキは机の上に投げ捨てられたタブレットを手に取る。

 

 

「軌道エレベーター?」

 

「ああ、だが外れだ……その情報に関連した場所にヤツはいない」

 

 

ヤツ。

ラクス・クラインの情報を出した途端、ラキの表情が曇る。

まるで何かに悔いているような表情だ。

 

 

「……ラクスの情報……以前の【僕】ならどうしてたんだろうね」

 

 

自嘲気味に笑った後、タブレットを机の上に置き空いていた椅子に座り込む。

 

 

「……今のお前は【ラキーナ・パルス】、俺の妹だ」

 

「……うん、ありがとう、【兄さん】」

 

 

弱々しく微笑んだ後、コーヒーを一口ラキは口に含む。

 

 

「まだ飛鳥真……いや、シン・アスカに会う覚悟はできないか?」

 

 

シンの名前を出した途端、ラキは少々震えだした。

 

 

「……私が取り返しのつかないことをしたっていうのはわかってるの……だけどやっぱり怖い」

 

「そうか」

 

 

カナードも一口コーヒーを口に含む。

 

 

「……だがいずれ、奴とは会わなければならないだろう?」

 

「……うん、そうだね」

 

「お前は決めたはずだ、【今ある世界と花を守る】と」

 

「……うん」

 

「ならばその通り動け、ラキ、違うか?」

 

「……ありがとう、兄さん」

 

「礼はいい、コーヒーの借りだ」

 

 

再びタブレットを拾い、情報収集を開始する。

 

 

「束の贖罪とラキの贖罪か、やっかいな仕事だ、まったく」

 

 

コーヒーを飲み苦そうな顔をしている妹を、横目で見て苦笑したカナードであった。

 

 

 





バルゴラ? スパロボ? スフィア搭載シルエットかな?


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