【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE4 日出と共に

 真にIS適正があることが判明した翌日

 

 第2の男性搭乗者が日本で発見されたと言うニュースは世界中に発信された。

日本政府は当初、彼を保護し研究施設へ送る予定だったと、優菜は語る。

また国際IS委員会でも研究施設送りが議題に出され半数が賛成の意見を出していた。

(反対したのはロシア・中国・イギリス・アメリカの4カ国のみ)

 

 この政府及び国際IS委員会の決定に対し、日出工業は人道的な処置のため彼の保護を提案。

彼の父親が勤めている企業であるので保護する理由にもなった。

 

 しかしこれだけでは弱かった。

なので優菜はある取引を持ちかけた。

 

 彼を専属の搭乗者として日出工業に所属させ、彼に日出工業で開発した新型の第3世代型ISに搭乗させる。

そこで取れた男性搭乗者のデータ及び今後開発予定の新型機数体分のデータ全てを渡すと言うものだ。

 

 これに対して国際IS委員会は飛びついた。

1人目の男性搭乗者である織斑一夏のデータは、彼の姉であり現在の世界で知らぬ人はいない初代ブリュンヒルデ【織斑千冬】の手によって中々渡ってこなかったのだ。

さらには倉持技研と双璧をなすほど優れた日出工業のIS関連の技術を得ることができるのだ。

 

 真の研究施設送りに賛成した国々の殆どが、優菜の案を支持。

日本政府はこれに反対したが、国際IS委員会の圧力とIS保有数の増加案を提出され、優菜の案を認めた。

 

 優菜の取引によって真は自分の知らない間に日出工業専属のIS搭乗者として雇われていたのだ。

 

 

「……というわけ。把握できたかしら?」

 

 

 真の現状を優菜は応接室で説明していた。

テーブルを挟んで対する真も自分の状況については説明により概ね把握していた。

 

 

「何とか……まあ、俺の知らないところで色々と動いてもらったってことですよね」

 

「なぁに、君の身の安全が第一よ。そうだ、紅茶とコーヒーどちらがいいかしら?」

 

 

 コーヒーで、と真が答え優菜の背後にいた利香と名乗る女性がコーヒーを入れるために部屋を出て行く。

 

 

「……色々と聞きたいことがあるんですがいいですかね?」

 

「ん、どうしたのかしら?」

 

 

 優菜は微笑みながら真に聞き返す。

それを確認した真は自分の心の中にある疑問をぶつける。

 

 

「アンタは何者だ」

 

 

 真の語気を荒くした質問でも優菜は表情を変えず微笑んだままだ。

 

 

「それに【利香】さんとかいったよな。彼女は【リーカ・シェダー】さんだろ? 何で彼女がこの世界に。それに彼女のISだって……」

 

 

 真の質問に対して優菜は微笑みながら回答する。

 

 

「ええ、彼女は元ザフトの【リーカ・シェダー】で間違いないわ。彼女のISは【ZGMF-X88S ガイア】をモデルに我が【モルゲンレーテ】が作成した第3世代IS【ガイアガンダム】よ」

 

 

 【モルゲンレーテ】その言葉を聴いた瞬間、真の表情が驚愕に変わる。

前世の故郷の国の国営企業。

それがモルゲンレーテという名前だからだ。

 

 

「あんたは……いったい……」

 

「……ふう。そろそろ気づいてもいいんじゃないかな? 【僕】の事気づいてないのかい?」

 

 

 優菜の苦笑がこぼれると同時に口調が変わる。

真はその言葉を聴いても呆けたままだ。

 

 

「いいかい? 僕の名前の読み方を変えてみてよ。【応武優菜(おうたけゆうな)】、一部分変えてごらん」

 

 

「おうたけゆうな……おうぶ……オーブ!?」

 

 

 それはかつての故郷の名。

そしてオーブで優菜――いや【ユウナ】ということは――

 

 

「あっ、アンタは【ユウナ・ロマ・セイラン】!?」

 

「おー、正解、やっと分かったみたいだね。ちなみに【日出工業】ってのも読み方をドイツ語に変えると【モルゲンレーテ】になるのさ」

 

 

 優菜はそう言って無邪気に笑う。

だがシンの記憶の中にあるユウナは――

 

 

「アンタ男じゃなかったのか!?」

 

 

 そう、シンの記憶の中にある【ユウナ・ロマ・セイラン】は男のはず。

だが目の前にいる優菜は明らかに女性である。

 

 

「そりゃ女として生まれたからねー。最初は苦労したさ……ははっ……」

 

 

 そう言って少しだけ遠い目になった彼女は乾いた笑いを漏らす。

どうやら色々とあったようだ。

 

 

「じゃあ、リーカさんは!?」

 

「私は老衰で死んでからこの世界で目覚めたのが最初の記憶かなー。あ、ちなみに今の私は【リーカ・シェダー】じゃなくて【瀬田利香】だからね、真君」

 

 

 リーカ、いや利香が応接室に戻ってくる。

その手には淹れたてのコーヒーが3つ。

 

 真と優菜の目の前にあるテーブルにコーヒーを並べる。

 

 

「C.E.はあの後ちゃんと1つに纏まったから安心してね、真君。元ミネルバのクルー達もちゃんとそれぞれの道を歩いていったよ」

 

 

 まあ、なんで私がここにいるのかがわからないんだけどね、と利香は続ける。

利香の言葉に真は心が軽くなったことを感じていた。

生まれ変わってから十数年、心に残っていた自分が死んだ後のC.E.の事、アビーやヴィーノ、仲間達の事を知りたかったのだ。

 

 

「……なんで皆がこの世界に?」

 

「さぁね、そこは僕等にも分からない。ま、神様がいるなら君を助けさせてくれたことには感謝してるよ」

 

 

 そう言って優菜はコーヒーを飲む。

ブラックなので少し顔を顰めていた。

 

 

「……なんで俺を助けるんだ? アンタが死ぬ原因を作ったのはオーブへのザフトの侵略行為のはず」

 

 

 優菜の前世、ユウナ・ロマ・セイランの死因はザフトのMSによる圧死。

その原因はオーブにザフトが侵略したことが原因。

侵略行為にはシンも参加していた。

その言葉を聴いた優菜はコーヒーをテーブルにおいて語りだす。

 

 

「……理由は3つあるのさ」

 

「3つ?」

 

「そう3つ」

 

 

 優菜は右手の指を3本立てる。

 

 

「1つ目。君の男性搭乗者としてのデータを独占したかった。まあこれは結局はおじゃんになったけど」

 

 

 指を1本折り、優菜は肩をすくめる。

 

 

「2つ目。わが社の技術力を示すため。男性搭乗者の新型ISなんて話題性もばっちりだろ?」

 

 

 その言葉にジト目で優菜を睨む。

ふざけながら優菜が続ける。

 

 

「3つ目。個人的にはこれが本題。君がオーブの民だから」

 

 

 先ほどのふざけた態度は消えうせ、優菜の真剣な表情に真は一瞬気圧された。

記憶の中のユウナ。

オーブにいた頃や侵略行為の際の彼はこれほどの表情を見せたことがあったであろうか。

 

 

「……は? え? 何だって?」

 

 

 思わず聞き返してしまった。

 

 

「だ~か~ら~、君がオーブの民だから! それが君を助けた理由さ!」

 

 

 真の反応が予想外だったのか、優菜の表情が一気に崩れた。

優菜の顔が照れているのか赤くなっている。

 

 

「オーブの民の命を守ることが氏族の、いや僕の役割だった。あの時は失敗しちゃったけど今回はうまくいってよかったよ……あ、君の家族についても大丈夫、保護してあるから」

 

 

 赤くなっている顔を隠すため、そう言ってコーヒーに手をつける。

真は俯いていた。

俯いたまま、コーヒーが映す自分の顔を見ていた。

 

 

「……さて、一通りの情報交換が終わったわけだけど、うちの企業の力になってくれるかい?」

 

 

 ほとんど選択肢がないじゃないかと、心の中で真は呟く。

でも嫌な気分ではないと真は感じていた。

 

 

「……アンタ変わったよ」

 

「ん、それは自覚してるよ。んで、結論は?」

 

 

 優菜が答えを催促するかのように微笑む。

 

 

「……分かった、やる。力を貸すよ、優菜さん」

 

 

 そう言って真は笑みをこぼした。

 

 


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