【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE1 飛鳥真

 20XX年

突如、日本に数千発という凄まじい量のミサイルが降り注ぐという前代未聞の事態が発生した。

自衛隊も突然の事態に困惑しつつ、迅速な迎撃行動を行ったが、数発ならばともかく千を超える量の前にはなすすべもなかった。

 

 しかしこの事態は政府の発表では犠牲者を1人も出すことなく終息した。

【空を飛ぶ白銀の人型の機械】の活躍によって。

 

 白銀の人型機は日本に降り注ぐミサイルの雨を、その手に持つ剣と粒子砲によって尽くを破壊した。

 

 圧倒的なまでの力を示しつつ、犠牲者を1人も出すこともなかったこの人型機を人々は英雄と称え【白騎士】と呼んだ。

それに伴いこの事件も【白騎士事件】と呼称されるようになった。

 

 この事件の後、政府にある人物からのメッセージが届けられた。

メッセージの送信者は当時高校生であった【篠ノ之束】と言った。

 

 メッセージの内容は【白騎士】。

正式名称【インフィニット()ストラトス()】の有用性についてだった。

 

 【宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツ】、そしてその可能性についてが公開されていた。

そして同じメッセージを世界中に送っている旨も記載されていた。

 

 メッセージが世界中で確認されたと同時に、篠ノ之束から開発を促すために世界へ向けてISの核となる【コア】が合計467配布された。

 

 日本はこれに対して、政府主導の下ISの研究を行うことを決定。

また他方面への応用についての研究も同時に進められることとなった。

同様の動きが世界中で実施され、世界は変化していく。

 

 また白騎士事件では本当に犠牲者が全くでなかったのかネットの海の中では議論をかもし出すこともあった。

しかし犠牲者の目撃情報や遺族などの言葉も出てこないため時間が経つにつれて有耶無耶となってしまった。

 

 そして数年が経過した。

 ISの用途は本来の目的であった宇宙での活動、宇宙開発が遅々として進まないことから【軍事利用】にシフトしていた。

ISの軍事利用は【アラスカ条約】で禁止される事となったが、各国は暗黙の了解の下、ISの軍事利用を進めていた。

 

 そして同様に世界にはある思想が広がっていく。

【女尊男卑】の思想だ。

 

 ISは女性しか動かすことができない。

故に女性のほうが男性より上の立場であると言う思想だ。

これに過剰に反応した女性権利団体のおかげで、女尊男卑の思想はあっという間に世間に広まってしまった。

 


 

 2022年

 

 

「はっ、ふっ……!」

 

 

 時刻は午前4時、真冬の為まだ日も上っていない時間に住宅街を駆けていく人影がいた。

人影は赤と白2色を基調としたジャージを着ており、ジャージの上から来ている薄いベージュ色のフード付きパーカーによって顔は見えないが10代の少年のようだ。

 

 

「ふう、今日はこれくらいかな……もうすぐ母さんも起きてくるだろうし」

 

 

 走るペースを緩めて、呼吸を整える為に歩き始める。

歩き始めると同時に、火照った身体を少しだけ冷やすためフードをはずす。

漆黒と言う言葉が似合う程の純粋な黒い髪、まるで炎をそのまま閉じ込めたかのような【紅い瞳】、少し幼さが残る顔つきをしているが、一般的な範囲では充分に整った顔をしている。

 

 

「……さすがに少し寒いな」

 

 

 まだ季節は冬。

一時的に体温が高まっていただけなので、すぐに寒さを感じフードをかぶりなおす。

そのまま少年は自宅らしき一軒家の前で止まり、玄関の戸を開け中に入っていく。

 

 その家の表札には【飛鳥家】と記載されており――

 

 

"飛鳥 大胡"

"飛鳥 玲奈"

"飛鳥 真"

"飛鳥 真由"

 

 

 と記されていた。

 

 

「ただいま」

 

「あら、真、おはよう」

 

 

 【真】と呼ばれた少年が玄関の扉を閉め、まだ寝ているだろう家族を起こさないため小声で帰宅を告げると母親らしき女性がそこに立っていた。

 

 彼女の名は【飛鳥玲奈】、真の母親である。

真と同じく黒髪、真の身長である170cmよりだいぶ下回る身長の女性。少し目つきがきついが、その表情には確かに母性を感じさせた。

 

 

「ああ、母さん、おはよう」

 

「引退したのにトレーニング?」

 

「まあね、高校入っても格闘技は続けるつもりだし、鈍ってたら一夏に笑われるからさ」

 

 

 そう言って真は少し肩をすくめた。

真は幼い頃から格闘技、正確には古流柔術を学んでいる。その経験を活かして中学では空手や柔道部などの助っ人として参加し、大会等で優秀な成績を修めている。

 

 真の回答に玲奈が微笑みつつパーカーを脱ぐ用に催促していることに気づき、パーカーを脱いで渡す。

 

 

「男の子は元気なのが一番ね、でも勉強のほうは大丈夫なの? 明日でしょ、入学試験」

 

 

 玲奈は慣れた手つきでパーカーをたたみつつ真に問うが、真はそれに苦笑しながら答える。

 

 

「藍越の模試結果とかも特に問題なかったから、少し復習するくらいで大丈夫だって」

 

「まったく……模試の結果よかったけど本番もそうとは限らないでしょ?」

 

 

 そう言っても口元は少し緩んでいることを真は見逃さなかった。

 

 

「分かってるよ、ちゃんと過去問復習して行くから……んじゃ、シャワー浴びてくるよ」

 

「……真由が起きる前に入るのよ、タオル出しておくわね」

 

 

 真はそのままシャワーに向かい、玲奈もタオルを用意しに向かう。

 

 

「ふう、さっぱりした」

 

 

真はシャワーを浴びた後、自室に戻っていた。

シャワー直後はタンクトップとトランクスという軽装だったが、トレーニング前に脱いでいた寝巻きがあったためそれに着替えている。

 

 

「今さらハイスクールの入学試験位なら問題ないってのに……まったく心配性だよ、母さん」

 

 

 ベッドに腰掛けながらそう呟く真の表情は安らかだ。

 

 飛鳥真。

 いや、シン・アスカにとって家族との何気ないやりとりほど得がたいものはなかったのだから。

 

 シン・アスカはあの境界と呼ばれた場所からレイに送り出された後、この世界で赤ん坊として生まれ変わっていたのだ。

 

 シンからしてみればいきなり意識が飛んだ後、自分が赤ん坊になっているのだから心底驚いたものだ。

しかし驚愕の後に過去に自分が失ったもの【家族】を得ることができたのは僥倖だった。

 

 かつて失ってしまった家族とは別人ではある。

しかし飛鳥真として、両親は自分に惜しみない愛情を注いでくれた。妹は幼い頃から自分を慕ってくれている、最近は携帯電話を新しくして真に自慢していたりもする。

 

 自分を愛してくれる父、母、妹。

あの日オーブで失ったもの、【日常】を得ることができている今をシンは幸せだと感じていた。

 

 

「……レイ、ありがとうな」

 

 

 亡き親友に向かってそう呟く。

届いていることを願って。

 

 

「さて、朝飯まで時間あるし……学校の準備、しておくか」

 

 

 そう呟いて真は机に向かう、明日が入学試験だが今日も通常通り授業がある。

試験対策で泣き付いてくるかもしれない友人たちを脳裏に思い浮かべながら、準備を進めていく。

 




生まれ変わったシンの名前は飛鳥真で。


両親の名前はウルトラマンから拝借。
大胡=ダイゴ
玲奈=レナ


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