【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PROLOGUE 逆襲のシン・アスカ②

「くっ!?」

 

『アスランは倒した!あとはアンタだけだ、キラ・ヤマト!』

 

 

 白と青の機械天使。

フリーダムに接近しつつ腰部にマウントしていたビームライフルで射撃する。

正確な照準であったが、フリーダムは最低限の動きでよけつつ、両手に持った2丁のビームライフルで反撃を行う。反撃に対し、シンも同様に最低限の動きで回避する。

 

すでに互いの【SEED】は発動している。

 

 

『シンっ、君は何でまた戦いを起こしたんだ!』

 

『アンタ達みたいな無自覚に悪意をばら撒く連中がいるからだ!』

 

 

 デスティニーとフリーダムは互いに旋回しつつ、ビームライフルを放つがどちらも命中せずに背後に消えていく。

 

 メサイア戦役後、デュランダルに代わりプラントを支配した【ラクス・クライン】は地球連合に対して【絶対的な自由と平和の為の戦い】と称した鎮圧作戦を開始した。

 

 メサイア戦役の発端となったユニウス7落下事件【ブレイク・ザ・ワールド】により多大な被害を受けていた地球連合はプラントからの攻勢に対してロクな準備も行うことができずに敗退を繰り返し、ついには地球連合は解体され、地球の国々は世界再構築戦争以前の様にバラバラなった。

 

 主な標的は地球連合軍の軍事基地やMS開発工場などであったが、

連合諸国の都市部にも鎮圧部隊は派遣された。

 

――作戦で生まれた被害者の数は千や万ではない。

 

 

『何が絶対的な自由と平和だ!? アンタ達は自分達の行動でどれだけの被害が、どれだけの人の生活が壊されるのか、ちゃんと理解してるのかよ!?』

 

『ちゃんと理解してる! 僕は戦う覚悟がある!』

 

『じゃあ、なんで戦争とは全く関係のなかった人々を戦いに巻き込む!? アンタ達がやるべきことは花を吹き飛ばされないようにすることだろ!?』

 

 

 鎮圧作戦のせいで孤児になった女の子がいた。

当時のザフトのドムが放った流れ弾に両親を吹き飛ばされたらしい。

都市の上空から降下してくる降下カプセルから出たMSに感じる恐怖が胸を締め付けると。

両親が目の前で吹き飛ばされ、何も言わない肉片に変わった光景が脳裏に焼き付いていると。

現在、その子はネオ・ザフトにオペレーターとして参加している。

 

 

『仕方がないんだ! 僕達は平和の為に戦ってるのに、争いを捨てない人達がいるから……!』

 

 

 自分たちの行為の意味について考えず、持つ力をただただ振るっていることに気がついていない。

自分たちの行動の責任を棚に上げて、抵抗をやめない人々に責任を押し付けている。

 

 デスティニーの持つビームライフルがフリーダムの正確な射撃によって破壊される。

だが、デスティニーもクラレントをビームライフルとして放ち、フリーダムの2つのビームライフルを破壊する。

 

 フリーダムはウイングユニットから遠隔無線兵器【ドラグーン】を射出する。

ウイングユニットからはデスティニーの紅い光の翼とは違い神々しい青い光の翼が現れる。

襲い掛かるドラグーンから一度距離を取り、高速起動に移る。

しかしドラグーンから放たれたビームによって左脚部が破壊される。

 

 

『ふざけるなっ! 戦いを広げてるのはアンタ達だってこと本当にわからないのかっ!?』

 

 

 ドラグーンのビームを掻い潜り、両腕のクラレントからビームを連続発射させる。

クラレントから発射されるビームによってドラグーンの3機とフリーダムの右腕が破壊された。

 

 

『僕達が!? それこそふざけてるっ! 僕はただ争いのない自由で平和な世界の為に……っ!』

 

『世界は1人で回っている訳じゃないっ! アンタ達はその自由と平和の為に世界と話し合ったことがあるのかよっ!? いっつもアンタ達は話し合わずに力だけじゃないかっ!』

 

 

 デスティニーはクラレントの射撃を繰り返しながら、腰部よりビームサーベルを取り出してフリーダムに突っ込む。対するフリーダムはドラグーンによる射撃を繰り返しながら腰部の【クスィフィアス3レール砲】を起動させデスティニーに向けて放つ。

 

 デスティニーの装甲はPS装甲であり実弾は無効化できるが、PS装甲は衝撃までは無効化できない。

すでに仇敵との連戦の為、体力が減っているシンには、決して軽くない負荷となる。

キラ・ヤマト相手にそれは致命的であるため、シンは回避を選択する。

 

 レール砲を回避したのもつかの間、ドラグーンによって右肩部分の装甲が破壊される。

 

 

『他人の考えを理解する為にはまず話し合いから始まるのが人間じゃないのかっ!? それを相手の話も聞かずにいきなり銃を突きつけたって、理解できないのは当たり前なんだっ!』

 

 

 左手に持つビームサーベルを起動したまま、投げ付ける。

簡易的なビームブーメランになったそれに、右手のクラレントを放つ。

 

 すると放たれたビームはサーベルのビームと干渉し、拡散され放たれた。

 

 予想外の攻撃に、ほとんどのドラグーンが破壊された。

残った数基のドラグーンもクラレントによる射撃によって破壊される。

 

 

『そんな、ドラグーンがっ!?』

 

『ドラグーンを使えるのはアンタだけじゃない! レイ、劾さん、コートニーさん、モーガンさん……俺には仲間がいるっ!』

 

 

ドラグーン搭載型MSを駆り共に戦った亡き親友【レイ・ザ・バレル】

最強の傭兵でありドラグーンの適性も持つ【叢雲劾】

テストパイロット時代からの付き合いである【コートニー・ヒエロニムス】

連合の英雄の1人である、月下の狂犬【モーガン・シュバリエ】

 

 

 劾、コートニー、モーガンには模擬戦を兼ねたドラグーン対策を。

亡き親友、レイの遺した【レジェンド】のデータを使ったシミュレーション。

この2つのドラグーン対策により、シンにとってドラグーンを相手取るのは困難なモノではなくなっていたのだ。

 

 だが対するキラ・ヤマトとフリーダムはC.E.最強のパイロットとMSとして名高い。

ドラグーンは全て撃墜されたが、フリーダムの内蔵火器は健在だ。

フリーダムの腹部ビーム発射口が瞬き、【カリドゥス複相ビーム砲】が発射される。

同時に腰部のレール砲2門も発射される。

 

 デスティニーはカリドゥスが発射される直前に、すでにVLを稼働していた。

残像が残るほどの圧倒的なスピードにより、発射されたビームとレール砲の砲撃を上方へ移動することで回避する。

 

 そしてそのままの速度で右手にビームサーベルを構えつつ、フリーダムに向かい最大稼働状態まで加速する。

対するフリーダムも残った左手でビームサーベルを抜きつつ、カウンター気味にデスティニーに切りかかる。

 

 数度の切り結びの結果、VL最大稼働状態にもかかわらずデスティニーの右腕はサーベルごと切り落とされる。

先程ビームブーメランとして使用したサーベルと合わせ、デスティニーは手持ちの近接武装を失った。

フリーダムは切り落とした刃を返し、腕を切り落とされて体勢を崩したデスティニーを両断にかかる。

 

 

『終わりだよ、シンっ!』

 

 

 キラは勝利を確信していた。

本来ならばシンを殺したくはなかった――彼の信条は【不殺】であるからだ。

だが今は完全にシンを討つつもりでいる。

それにシンは自分と同等の腕を持つパイロットであり脅威だ。

自身とラクスの目指す平和の為にはシンを討つことは仕方のない

 

 ――と彼は考えていた。

 

 

 デスティニーにフリーダムのビームサーベルが迫る。

 

 

『まだだぁぁぁぁぁっ!』

 

 

 確かにデスティニーに残された【手持ち】の近接武装はない。

だがデスティニーの左手にはあるはずのないビームの刃が作り出されていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 デスティニーのマニピュレータ部、人間でいえば【掌】から発生しているビームサーベルがフリーダムの左腕を切り飛ばし、そのままコックピットに迫る。

その直後、キラ・ヤマトの意識は途絶えた。

 

 

「……これで2度と花は吹き飛ばされずに済む」

 

 

 フリーダムはコックピットを貫かれた。

パイロットの命が消えると同時に機体のウイングから溢れていた光の翼も消えた。

 

 デスティニーはそのままサーベルで機能停止したフリーダムを縦に両断して離れる。

フリーダムの残骸は小爆発を繰り返し――消えた。

 

 

 【クラレント・ビームサーベル】

 それがデスティニーの左手マニピュレータ部分から発生しているビームサーベルの正体である。

稼働状態の発光を抑えることに成功した技術者達が、近接戦闘の切り札となることを想定して搭載した機能だ。【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】の近接武装は本来はこちらであり、シンがメインで使用していたビームサーベルは後付けで装備されたモノであった。

 

 キラもクラレントは射撃武装として使用できる可能性があるという情報を得ていたが、窮地になるまでシンがこの機能を使わなかったため知る由もなかった。

いわゆる初見殺しの格好になったが、勝負はついた。

 

 

「はあっ……ぜぇっ……!」

 

 

 アスランとキラとの連戦による消耗、それに合わせて度重なるVL最大稼働による負荷がシンの身体を蝕む。

呼吸は荒く、体中から汗が噴き出して止まらず、四肢はガクガクと震えている。

気を抜いたら意識が落ちる。

震える右手でヘルメットのバイザーを上げ、汗を拭きとった。

 

 

「これで……後は……!」

 

 

 噴き出して止まらない汗をぬぐいつつ、機体の損傷状態を確認する。

デスティニーの損傷は重い――だが戦えない状態ではない。

それを確認した直後、ミネルバⅡからの通信が繋がる。

 

 

『シンっ、そ……らに……ターナル……が……!』

 

『っ!? アビー、俺だ! どうしたんだ!?』

 

 

 NJの影響が強くなったのか、通信にノイズが混じる。

だが内容は聞き取れていた。

 

 

『エターナルがこっちに来てるのか!?』

 

『……気を……つ……て……シ……ンっ!』

 

 

 さらにNJの影響が強くなり、通信がノイズまみれになって切れる。

その直後、レーダー及びモニターである存在が表示される。

 

 宇宙空間では一際目を引く桃色の戦艦。

歌姫の搭乗艦であり象徴の【エターナル】

ヤキンドゥーエ及びメサイアで圧倒的な力をふるった歌姫の船。

 

 だがいくら今のデスティニーが損傷しているとはいえ、歌姫の騎士団の2振りの剣を叩き折ったMSに戦艦1隻が突っ込んできてどうなるというのか。

 

 シンはそれが気になっていた。

だがすぐにその疑問は解消することとなる。

 

 エターナルからデスティニーに通信が送られてきたのだ。

 

 

 


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