【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

120 / 132
PHASE2 人の証

IS学園 地下作戦室

 

投下されたニュートロンジャマ―は全て破壊することに成功していた。

学園内に発令された警報については解除されており、一般生徒達については隕石の落下による警報だったと説明があった。

以前の襲撃などと関連づける生徒達も多数存在していたが、真耶を中心にして情報規制を敷いている為生徒達には詳細な事情が明かされることはなかった。

 

さて、ニュートロンジャマ―を破壊し終えた真達は再度、ここ地下作戦室に集合していた。

現在楯無はこの場にはいない。

父親であり先代16代目、蔵人に連絡を取っているからだ。

 

 

「カナード先生。ニュートロンジャマ―の残骸については、事情を知っている皆さんの協力のおかげで回収が終わりました」

 

「ご協力ありがとうございます、山田教諭。残骸の破棄方法について確認してもよろしいでしょうか?」

 

 

いつもの戦闘服に着替えたカナードは真耶に軽く頭を下げる。

真耶と残骸の破棄手段について講じているカナードを見ていたシャルロットは視線を移す。

 

 

「……もしあのニュートロンジャマ―が打ち込まれていたらどうなっていたんだろう」

 

 

ISスーツ姿のシャルロットが展開されたディスプレイに映っているニュートロンジャマーの残骸を見て呟いた。

 

 

「真やカナードの話では確か、核分裂を抑制する機能と電波妨害を発生させるのだったな?」

 

 

シャルロットと同じく、ラウラも胸中にあった疑問を口に出す。

 

 

「あぁ。IS学園は地熱発電で電力を賄ってるから、エネルギーについては大きな影響は出ないとは思う……けど、ここいら一帯のセンサーやらレーダー、果ては携帯の電波に至るまで乱されたと思う。下手すれば周辺の電子機器とかにも影響があったかもしれない」

 

「それって医療機器とかにもってことよね?」

 

 

鈴がハッとした表情で尋ねた。

彼女の懸念は眠り続けている一夏の身体を維持している、医療機器に影響が出た場合を考え身を震わせる。

 

 

「あぁ」

 

「……そう。でも撃墜できてよかったわ、ホント」

 

 

心から安堵したように息をついて鈴が苦笑した。

そんな時であった。

真耶の目の前にディスプレイが表示され、彼女に通信が届く。

ディスプレイに映っているのは、学園の保険医であり真耶は驚いたように数度頷いてから通信を切る。

 

そして真達一堂へ説明するため声量を高めて告げる。

 

 

「っ!織斑君が、織斑君が目を覚ましたそうですっ!」

 

 

目に涙を薄っすらと浮かべながら。

大切な生徒が意識を取り戻した事に感極まってか涙が浮かんでいた。

それは箒や鈴たちも同じで――。

 

 

「ほっ、本当ですかっ!?」

 

 

驚愕と歓喜に目を見開いた箒が尋ね、真耶は笑みを浮かべて頷く。

 

 

「はいっ、今、連絡がありましたっ!ここは任せて、皆さんは織斑君の所へっ!」

 

 

彼女の言葉が終わるのを待たず、箒、鈴、シャルロット、ラウラは駆けだしていく。

人為的に生み出された人造人間。

それが一夏の出自だが、そんなことは関係ない。

箒達は織斑一夏という1人の人間に惚れたのだ。

ショックは大きかったが、何するものか。

 

恋する乙女はやはり強いものだと、その様子を見た真は苦笑していたが、隣にいた簪は少し物鬱気な表情であった。

それに気づいた真はなぜ彼女がそんな表情なのか、気になった。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「……うん。織斑君が目を覚ましたのはうれしい。けど、あの時彼はラクスの【ホワイトネス・エンプレス】の単一仕様能力を受けてたから……」

 

 

簪の言いたいことを真はすぐに理解した。

 

 

「……っ、そうか。エクスカリバーの時の、【AIラクス】の時みたいな事があるのかもってことか!」

 

「……うん」

 

 

エクスカリバー事件の際、簪はAIラクスが駆る【ホワイトネス・エンプレス】の単一仕様能力【電脳楽園】によってその精神を囚われた。

そしてその電脳空間では、真の、【シン・アスカ】の戦士としての【記憶】を追体験させられたのだ。

目の前で亡くなっていく真の大切な人。あの空間では見ることしかできず、目をそらすこともできない。

血の匂いや硝煙の匂い等は本物としか感じられないほどリアルなものであった。

 

その経験から一夏も何かしらの影響を受けている可能性が大きいのではと考えているのだ。

彼女からの説明を受けた真も同じ見解であった。

 

 

「……少し嫌な予感がする」

 

「……俺も」

 

 

二人はうなずき合ってから駆け出す。

走りながら、内心外れていてくれと真は祈る。

 

10分後――

IS学園 保健室

 

真と簪が保健室に到着すると、先に到着していた箒達の声が耳に届いた。

邪魔にならないよう目線で会話した2人は、入室はせずに室外で耳を澄ませた。

 

 

「一夏、身体は大丈夫なんだなっ!?」

 

「全く心配かけさせないでよね」

 

「本当だよ、でも起きてくれてよかったよ、一夏」

 

「あぁ。だがまだ安静にしているべきだ」

 

 

それぞれが心中に溢れていた彼への心配の気持ちを言葉にしていた。

だが、一夏はその言葉に何も返さない。

普段の彼なら、「心配かけてごめん」などの謝罪の言葉を口にしそうなものなのにと、真が思っていると彼は口を開いた。

 

 

「……ごめん、今は誰とも話したくないんだ。1人にしてくれ」

 

 

それは明確な拒絶の言葉。

その言葉に真と簪は、感じていた嫌な予感が的中してしまった事を悟った。

少し遅れてセシリアも保健室に到着したが、真と簪の顔を見て状況を悟り、表情を曇らせた。

 

 

「なっ、どうしたんだ、一夏?」

 

 

箒が戸惑いつつも彼に問う。

 

 

「……1人にしてくれよ」

 

 

ぶっきらぼうにそう言う一夏にショックを隠せない箒。

そんな彼女の手を引っ張るものがいた。

 

 

「……箒、行くわよ」

 

「鈴っ!?」

 

 

鈴が箒の手を無理やり引っ張りながら言う。

 

 

「一夏が1人になりたいのなら、そうするべきじゃない?それにまだ安静にするべきなのよ……ほらっ」

 

 

声が少し震えているが、あくまでも冷静に話すよう努めているのは今の箒でもわかった。

それはシャルロットとラウラも同じだ。

 

【織斑計画】で生み出された人造人間、という隠された事実を彼も知ってしまったのだろう。

当事者ではない自分たちですらショックは大きかったのだ。

ならば当事者である一夏のショックは想像できない程大きなもののはず。

 

 

「……分かった。一夏、何かあったら私たちがいる。遠慮せずに言ってくれ」

 

 

箒の言葉でも一夏は無言のままであった。

彼女の言葉の後、4人は保健室から退出し、真達と目が合った。

その表情はやはり重い。

 

数秒の沈黙の後、箒が口を開いた。

 

 

「……真、私達はどうすればいんだろうか」

 

 

彼女の言葉からは縋るような、そして自分達の無力さへの悲しみが読み取れた。

 

 

「……後で発破をかけてみるさ。でも今は1人にしてやろう」

 

(ったく、保護者ってガラじゃ……ないんだけどなぁ)

 

 

真はそう内心呟きつつ、ため息をついた。

 

―――――――――――――――

数時間後――

 

すでにあたりは夕焼けに包まれ、茜色の光が保健室にも差し込んでいる。

それを無感情な瞳で見つめるのは、ベッドの上の一夏であった。

 

この数日間、点滴で栄養を補給していた為かベッド近くの台の上には、胃に優しいお粥が置かれている。

だが2口、3口食べただけで手を止めてしまっていた。

胃が受け付けないわけではない、食欲がまるでわかないのだ。

 

 

「……」

 

 

今までの価値観、すべてが壊された。

ラクスによって頭に叩き込まれた映像、すべてが事実。

普通の人間として、織斑一夏として歩んでいた人生は、誰かの欲望のために生み出されたものであった。

それを隠してくれていた千冬はどれだけ苦悩したのか。

それに気づかなかった自分はどれだけ能天気だったのか。

 

知らなかったほうがよかった事実、知りたくもなかった現実。

すでに先程の箒達の態度から彼女達にも話は伝わっているはず。

彼女達は大切な友人だ。だが、こんな出自の自分に彼女達は恐怖を感じないのだろうか。

 

明確な答えは胸中で出すことはできない。

――絶望、怒り、困惑、恐怖。

様々な感情が渦を巻き、一夏の心はひび割れ、止まりかけていた。

 

 

そんな時、保健室のスライドドアが開き、誰かが入室して来た。

 

 

「よ、一夏」

 

 

遮光カーテンを捲って現れたのは、真であった。

制服から私服に着替えてはいるが、ISの待機形態であるドッグタグを首からかけている。

 

 

「……何だよ、真。何の用だよ」

 

「友達の見舞いくらいしてもいいだろ」

 

 

確かにその手には小さ目のフルーツバスケットが握られていた。

 

 

「……いらねぇよ、1人にしてくれ」

 

「そう言うなって。何か食わないと身体持たないぞ。リンゴ、食えるか?」

 

 

一夏の返答を無視した真は椅子に座って、バスケットの中から色鮮やかなリンゴを1つ取り出す。

懐から大きめのサバイバルナイフを取り出して器用に皮をむいていく。その手つきは妙に慣れていた。

 

しばらくはシャリシャリとリンゴの皮を剥いていく音が保健室を支配していた。

 

 

「……じゃなかったんだ」

 

 

リンゴの皮を半分ほど剥き終わった辺りで、一夏が口を開いた。

真は彼の言葉の続きを無言で促していた。

 

 

「……俺は普通の人間じゃなかったんだ。造られた……人間……」

 

 

途中で涙声になった彼の言葉。

そこには、絶望や困惑、恐怖や怒り様々な感情が込められているのは真でもよく分かった。

だが真は自分の心中にある言葉を投げ、その言葉を一蹴する。

 

 

「だからなんだよ」

 

 

リンゴを剥き終えて、バスケットから紙の皿を取り出して上に置く。

 

 

「……え?」

 

 

当然、今の彼の言葉に一夏は目を見開いていた。

真が続ける。

 

 

「俺だってC.E.じゃコーディネーターだった。遺伝子操作を受けて生まれた人間だったんだ。お前と何が違うんだよ」

 

 

その言葉に、一夏は自分の中の何かが切れた音を聞いた。

同時にこみ上げる感情と共に叫ぶ。

 

 

「……でもっ、それでも今のお前は普通に生まれた人間だろっ!俺とは違うっ!」

 

 

いくらC.E.でコーディネーターという人種であったとはいえ、今の真は普通の人間だ。

そんな彼が自分と同じとは思いたくない。

自分は誰かの欲望の結果生まれた存在だ。

 

 

「俺はあいつ等の欲望の果てに生まれたんだ……っ!こんな俺が誰かを守ろうなんて……っ!箒達と一緒にいることなんて……っ!」

 

 

真が自分を励まそうとしてくれているのはわかっている。

だが普通の人間じゃない自分の事なんて、分かるはずがない。

理不尽な怒りかもしれないが、今の一夏にそれを抑える事はできなかった。

こみ上げてくる涙を真に見せないように顔を伏せた。

 

その様子を見た真は一度ため息を着いた後に構えを取った(・・・・・・)

顔を伏せていた一夏にはその動きを捉える事はできなかった。

 

 

「歯ぁ食いしばれ、一夏っ!」

 

 

真のその言葉の後、一夏の左頬に凄まじい衝撃が走った。

腰を入れ、身体全体で加速し、踏み込んだ右の一撃。

その威力は当然高く、ベッドの上から一夏を弾き飛ばすのは容易であった。

もちろん手加減はしている。していなければ一夏の意識は容易く刈り取られるからだ。

 

 

「……っ!?」

 

 

突然の衝撃と痛みに何が起こったのか、一瞬理解が及ばなかった一夏はヨロヨロと立ち上がる。

目の前に歩み寄った真が、彼のシャツを掴み上げて無理やり立ち上がらせた。

 

 

「お前があれだけ悩んだ力を持つことの意味、それが生まれだけで変わるほど脆いものなのかよっ!」

 

 

彼の言葉で脳裏に浮かぶのは、この1年の騒動の中で見つけた自分の信念。

 

 

「皆の笑顔を守るために戦うんじゃなかったのかよっ!それともあれは嘘だったのかっ!?」

 

 

それは彼が悩み手にした彼だけの戦う理由。

 

 

「確かにお前の生まれは他と違うかもしれない。けど笑って泣いて、死線を潜ってお前が見つけた信念は他の人間が、ましてやシーゲルなんかが決めたことじゃない……一夏、お前が自分で悩んで掴んだお前だけのものなんだよっ!」

 

(っ、俺……だけの……?)

 

「だからさ、立てよ。そしてシーゲルにぶつけてやれ。生まれなんて関係ない、俺は俺だ、これは俺の人生だってな」

 

 

掴み上げていたシャツを離す。

一夏は呆けた様に尻餅をついたがそんな事はどうでもいい。

 

自分は自分でいい。

【皆の笑顔を守るために戦う】

 

その言葉と自分が見つけた信念が心にしみこんでくる。

止まりかけた心が再び動き出していくのを感じる。

 

 

「……俺は、俺でいいのか……?」

 

「当たり前だろ、バカ」

 

 

真はそう言って微笑む。

その笑顔に溢れてくるのは涙だ。

 

 

「っ、ごめん……くそっ、涙が……っ!」

 

「ん」

 

 

真は背後を振り返って一夏から視線を外す。

少しの間、一夏の嗚咽するような声が続いた。

そして10分程度たって、一夏は深く深呼吸した後立ち上がる。

 

 

「……ありがとう、真」

 

「ガラじゃないんだよ、まったく……後で箒達に謝れよ?」

 

「うん」

 

 

振り返った真が見た一夏の目は涙によって腫れていた。

だがその表情は先ほどまでの鬱屈したものではなく、晴々としている。

 

それこそ普段の一夏と言える、爽やかなものであった。

 

 

「それで、リンゴ食えるか?」

 

「あぁ、食べる……うっ、安心したらなんか気持ち悪くなってきた」

 

「おっ、おいっ!?」

 

 

一瞬で顔を真っ青にした一夏が口を押えて前かがみになる。

それに真は肩を貸して、背中をさする。

 

 

「やべぇ、吐きそう……っ」

 

「おい、馬鹿、我慢しろっ。トッ、トイレだっ!」

 

 

半ば引き摺るような形になりながら、真は一夏を保健室から連れ出していく。

その数十秒後に、真の悲鳴が校舎に響き渡ったのは別の話であった。

 





次回予告


「PHASE3 最後の出撃」


「これが箒ちゃんの新しい機体!その名もっ!」

『行くぞ、デスティニー。これが俺達、最後の出撃だっ!』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。