【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
『行って、天羽々斬っ!』
追加で展開されたソードドラグーン【天羽々斬】がデスティニー達を襲う。
『行くぞ、簪っ!』
『うんっ!』
比翼の機体。
デスティニーと飛燕がそれぞれVLユニットから光の翼を翻して、ドラグーンを振り切って赤月へと向かう。
コード:レッドのせいで機体の出力は上がらない。
しかしそれでもVLユニットが齎す機動力は破格であり、大抵の高機動ISを上回っていた。
『くっ!私の邪魔をするな、イレギュラーっ!』
両のマニピュレータからクラレントビームサーベルを発振させたデスティニーが高速で迫り、その斬撃にギリギリで赤月は反応できた。
先程弾き飛ばされた近接武装【草薙】はソードドラグーンの様に分解し、手元で再度剣の形に再構築することが可能なのだ。
『くっ、何なのっ、アナタはなんでっ!何でっ、何でそんな力があるのっ!?』
本来ならば機体のパワーはほぼ互角といっていい。
現在赤月以外のISは出力が下がっている状況だというのに、赤月はデスティニーを押し返せなかった。
むしろ押し込まれている。
『分からないだろうね、搭乗者を道具にしか見ていない貴女には、真がどうして戦うのか、なんで貴女の敵になるのかなんてっ!』
『っ、この声は……その機体のっ!』
『うぉぉぉぉっ!!』
クラレントビームサーベルが次第に太く強力に発振されていく。
デスティニーの【単一仕様能力】【運命ノ翼】でエネルギーを武装に回して低下している出力を補っているのだ。
いや、むしろ通常時よりも強力に発振させている。
その為か、草薙に少しずつ食い込んでいく。
『っ、単一仕様能力でコードをっ!?』
『はぁっ!』
そして、ついに反逆の剣が赤月の剣を、草薙をその刃で断ち切った。
『なっ、ぐぅっ!?』
剣を断ち切ると同時に、サマーソルトキックを赤月に叩き込んだデスティニーはその反動と共に下方へ加速し、背後から迫っていたソードドラグーンを回避した。
『簪っ!』
クラレントをビームライフルモードに切り替えながら真が叫ぶ。
赤月の後方から、蒼い光の翼を煌かせた飛燕が急接近していた。
その手に握るのは竜殺しの魔剣の名を持つ、【バルムンク】だ。
『やぁぁっ!』
『このぉっ!!』
振り下ろされたバルムンクを、デスティニーのサマーソルトキックで体勢を崩されていた赤月は、切断された草薙を使って防御しようとした。
しかし、質量と速度差からバルムンクを受け止める事は不可能であった。
『あぐっ!?』
バルムンクによって草薙ごと、左マニピュレータと左脚部のスラスターが破壊された。
そしてさらに崩れる体勢、それを見逃す真ではなかった。
下方から急速に加速したデスティニーが今度は右マニピュレータと右脚部スラスターを破壊したのだ。
そしてそのまま、再度組み付く。
簪も同じように左半身を押さえていた。
『今だっ、一夏ぁっ!』
『織斑君っ!』
『あぁっ!』
真と簪の叫びに呼応するように、零落白夜を構えた一夏が赤月に向かう。
『やめて、一夏っ!やめ……っ!やめてっ!やめてぇっ!』
箒の声で、そう叫ぶ。
だが同じ手を二度と喰うわけがない。
『箒を……返してもらうぞっ!』
一夏がそう叫び、零落白夜が発動している雪片を突き立てるのではなく、押し当てた。
その瞬間、4機は白い光に包まれた。
―――――――――――――
一方その頃
朱蜂達と戦闘を続けているカナード達。
コンテナから次々と湧き出す無人機たちをひたすら撃墜していく。
(すでに50を越える数を倒しているが……このギガフロートの規模だ、まだいるべきだと考えるべきか)
ドレッドノート単機ですでに50機を越える朱蜂を撃墜している。
【
(ALは極力使わないようにしているが……エネルギーは残り4割か)
エネルギー残量に気を配りつつ、迫る朱蜂を拡張領域に登録していたヴェントを展開して、打ち抜く。
『束、ラキ、聞こえるか』
ドレッドノートHが、ストライクガンダムとブレイク号でコード:レッドに対応中の束へ通信を繋げる。
『カナ君、どうしたの?』
『何、兄さん?』
I.W.S.P.パックを装備したストライクガンダムを駆るラキーナは、フレイのラファール・リヴァイヴ・ノワールをビームライフルで援護しつつ答えた。
『無人機達の数が予想以上に多い。これを1機のISで制御する事は可能だと思うか?』
『……いや、現実的じゃないね。統括しているのは箒ちゃんが乗っていた紅椿……いや、赤月だと思ってたけど』
束がその意見に同意する。
『俺も同じ意見だ。おそらくだが、この機体達を統括している存在がいるはずだ、例えばあのギガフロートそのものとかな』
『成程、あくまで赤月はエネルギー供給だけって事?』
『ちょっと待ってね……よしっ、まずはコード:レッド解除っ!』
ターンとディスプレイをタッチする束。
すると、ドレッドノートやストライクガンダム、この空域全てに存在するIS達を縛っていた特殊コードが解除された。
武装の出力も全て正常値に戻っていく。
『すまない』
『うんにゃ、そして統括者の存在かぁ……ごめん、すぐには見つけられそうにないかな』
『……そうか。分かった、今は朱蜂を殲滅するのが優先する』
『今、ブレイク号でこの空域全体をスキャンしてる。戦闘が終われば解析とギガフロートの調査もできると思うから……頑張ってっ!』
『了解した』
『分かりましたっ!』
返事をしたラキーナのストライクガンダムはI.W.S.P.パックを格納し、8枚の機械の翼を背負った【自由】の名を持つ装備を展開した。
そしてフリーダムストライカーが装備されると同時に、ラキーナの意識の中で【紫の種】が弾けとんだ。
【フリーダムストライカー】
かつてフレイとの模擬戦で破壊されたものを新造したストライカーパックである。
以前のものはラキーナが忌避していた為、開発は主に束がデータを参照して作り上げた試作型であった。
今回は製造初期からラキーナも積極的に携わった発展型であり、反応速度や射撃精度など様々な点で改良が施されている。
モードをフルバーストモードに変更、球状の投影コンソールが表示されると同時に【マルチロックオンシステム】が起動する。
搭乗者であるラキーナの視線と連動し、敵機を次々と捕捉していく。
S.E.E.D.が発動したラキーナの反応速度にも充分対応できている。
そしてロックが完了。標的の数は一度に攻撃可能な最大数。
『当たれぇぇぇっ!!』
砲口と共に、肩部バラエーナ、腰部クスィフィアスから連続で高出力ビームと電磁加速した弾頭が発射されていく。
その全てが正確に朱蜂へと命中し、次々と撃墜していく。
『でたらめすぎるわー、なにそれー』
その様子をフレイは脱帽しながら眺めている。
もちろん専用アサルトライフル【サウダーデ・オブ・サンデイ】を二丁展開して、近づく朱蜂を叩き落しながら。
『いいなー、私も新装備欲しいなー』
『あはは……』
フレイの言葉に苦笑を浮かべながらも、再度マルチロックオンへと移った。
―――――――――――――
白い光に包まれた真の視界。
しかし次の瞬間には、デスティニーを装着した状態で、どこまでも続く果てしない水平線と真っ白な砂浜に立っていた。
『ここは……ISの空間か?』
搭乗機でもあるデスティニーの空間へ何度か訪れた事がある真にはこの光景が何なのかすぐに理解できた。
『真っ!』
『真っ、よかった、いたんだなっ!』
響く2つの声に振り返ると、ISを装着した簪と一夏もその場にいた。
『真、ここって……』
『ISのコア人格の空間だと思う。多分……赤月の』
『ここが、そうなんだな……俺は来たの初めてだ』
『そう言えばそうだったな』
考えてみればレイやデスティニーに何度も連れられて来ているのが異常なのだ。
『真、あれは……?』
簪がマニピュレータで右前方を指差す。
真と一夏がそちらを振り向くと、そこには膝をつく少女の姿があった。
それは箒であった。
『箒っ!』
一夏が箒へと駆け寄る。
だが、箒は反応を示さない。
虚ろな目をした箒の肩へ、白式を解除した生身の手を当てて揺らす。
「箒っ!しっかりしろよっ、俺だっ!一夏だっ!」
そう叫んでも箒は何も答えない。
まるで人形の様に。
「どうしたって言うんだよ……!」
『多分、赤月に支配される時に何かされたとかだと思う』
真と簪もその場に駆け寄り、箒の顔を覗き込む。
「そうなのか?」
「推測だけどな……箒、しっかりしろ」
真もデスティニーを解除して語りかけるが、反応は返ってこない。
同じように簪も飛燕を解除していた。
「どうすればいいんだよ……っ!」
一夏のその声に数秒考え込んだ時であった。
(真、聞こえる?)
意識の中に、搭乗機であるデスティニーの声が響いたのだ。
S.E.E.D.が発動している状態だ、彼女の声が聞こえるのも当然であった。
(デスティニー?あぁ、聞こえるよ)
(良かった。あんまりその空間に干渉できないから、手短にするね)
(もしかして……何か手があるのか?)
(うん。箒さんは赤月によってその意識を縛られてるの。それを解除するにはね、感情を励起させればいいの)
(感情の励起って……具体的にはどうすればいいんだ?)
(ふふ、簡単だよ、具体的にはね……)
具体的な感情の励起方法を真にデスティニーは教える。
(……わかったよ、そう一夏に伝える)
(うん、箒さんの意識を取り戻せればきっと全て解決するから……頑張って!)
そう言った後、デスティニーの声が途切れた。
ふぅと深呼吸した後、悩んでいる一夏へと声をかけた。
「……1つ、できる事がある」
「本当かっ!?」
その言葉に一夏が飛びつく。
「あぁ。お前にしか出来ないんだ、一夏」
「……真、もしかして」
真が何を一夏に告げようとしているのか、うすうすとだが簪には理解できてしまった。
「箒を思いっきり抱きしめてやれ」
「えっ、えぇっ!?」
真の発言に一夏が驚愕の声を上げた。
そして簪はやっぱりと苦笑していた。
「でっ、でも……いいのかよ……」
「この鈍感野郎……いいんだよ、お前なら箒だって許してくれるさ。ほら早くしろって!」
前半部分は呟くように言ったため一夏には聞こえてはいない。
彼の背を叩いて、行動に移らせる。
「でも本当なの、真?」
簪が真に尋ねる。
「あぁ。さっきデスティニーが教えてくれた。今の箒は意識を赤月に縛られてる状態だって。それを解除するには強い感情の励起が必要になる……箒が一夏に抱いている一番強い感情、それはわかるだろ?」
「……うん」
「今はデスティニーの言葉を信じるしかないんだ」
「分かった」
そう静かに呟いた真に簪も頷いた。
そうしている間に、一夏は箒を抱きしめようとしていた。
「……箒」
一夏が箒の身体に手を回す。
そして全身で彼女を抱きしめた。
「目を覚ましてくれよ。またさ、剣道、しようぜ。またバカみたいに騒ごうよ、皆で」
ギュっと少しだけ力を込めてそう呟く。
すると変化が起こった。
「……いち……か?」
弱々しい声であったが、確かに箒の口から出た言葉だ。
虚ろであった目に光が宿り、箒の意識は急速に覚醒して行く。
(……っ、いっ、一夏が私を抱きしめているっ!?どっ、どういうことだ、これはっ!?)
「箒っ!?」
箒の声が聞こえた一夏は抱きしめたまま、顔を彼女の正面に持っていく。
一気に顔が赤くなったのを箒は自覚し、思い出した。
自分は赤月という自分自身に飲み込まれたのだ。
心の闇の中にいた力の象徴たる
そんな自分を、愛する人が助けに来てくれた。
その事実に胸が一杯になる。
「いっ、一夏ぁ……っ!」
「なに泣きそうな顔、してるんだよ」
「うるさい……馬鹿っ」
涙が溢れ、頬を伝う。
「おかえり、箒」
「ただいま、一夏ぁ……っ!」
涙声で箒は確かにそう告げた。
その様子を少しはなれた場所で真と簪は静かに笑みを浮かべて眺めていた。
「なんとか、なったな」
「よかった……」
真の言葉に安堵の息を漏らす簪。
「……いつまでそうしてるんだよ、赤月?」
真が振り返る。
つられて簪も振り返ると、いつの間にか背後にもう1人の箒が立っていた。
しかし今一夏の腕に抱かれている箒とは異なり、双眸は赤い。
その身体は少しずつ、光の粒子になって消えていこうとしていた。
「っ!」
思わず簪が構えるが、真は構えを取らなかった。
彼女からは敵意を感じなかったからだ。
「……イレギュラー、いえ、飛鳥真。私の夢は……かなったから」
声にも敵意は感じない。
「あの2人が一緒なら、私はもう消えてもいい。私はそのための存在だから」
弱々しく微笑む赤月。
彼女は自分の運命を受け入れようとしている。
しかしその弱々しい笑みを、真は見捨てられなかった。
「……それで、いいのか?」
「……え?」
「……お前もさ、
いくらISのコア人格とは言え、生身の人間の身体を乗っ取るなんてことが早々できるとは思わない。
そして直に話してみてわかった。
彼女は篠ノ之箒の心の一部ではないのかと。
箒の心の一部がコア人格となった。
それが技術的に可能なのかは真にはわからないが、そうなのではないかと感じたのだ。
「お前も箒ならさ、一夏の横にいたいと思ってるんじゃないのか?」
「……いいの?私はこのまま……消えなくてもいいの?」
「それは俺が決める事じゃない。お前が決める事だ」
「何で貴方は……私は、貴方のISの命を……奪ったのにっ」
「……だからって、目の前で泣いてる
真は彼女の言葉を待つ。
彼の言葉に顔を伏せ少しだけ考えた彼女は顔を上げた。
「許されるのなら……私は……私も……一夏の力になりたいっ」
彼女もまた涙を零していた。
だがそれはもう1人と同じく、歓喜の感情から溢れた熱い涙であった。
それを見た瞬間、真達の意識は再び光に包まれた。
―――――――――――――
『……戻ってきたのかっ』
真が頭を振る。
光に包まれた後、再びギガフロート上空で意識が覚醒したのだ。
コア人格空間の中で解除していたデスティニーも身に纏ったままであった。
『戻ってきたみたいだね』
『簪、大丈夫か?』
『うん』
簪が頷く。
周辺をセンサーで見回す。
すると見慣れない反応がすぐ近くであった。
『あの機体は……!?』
箒を抱えている白式の姿が雪羅から変わっていたのだ。
まるでデスティニーや飛燕のVLユニットにも見えるエナジーウィング。
より大型化した各部マニピュレータは雪羅のものより洗練された様にも見えた。
まるで赤月の様にも見える。
『これって
『……そうか、赤月、お前の答えはそれなんだな』
先ほどから箒が身に纏っていたはずの赤月の反応は消えている。
正確には彼女の手にはISのコアだけが残っている状態だ。
機体自体はおそらく白式に取り込まれた。
いや取り込まれたという表現は正しくない。
――力を与えたのだろう。
『……うおっ、白式が変わってるっ!?』
ディスプレイには新たな白式の名前【王理】と言う名が表示されていた。
「……反応が遅いぞ、一夏」
一夏の腕の中でそう呟いた箒が苦笑した。
白式が第三形態移行を果たしたのと時を同じくして、無数の朱蜂達はエネルギー切れによって機能を停止していった。
こうして、関係者からは【赤月事件】と呼ばれる騒動は幕を閉じたのであった。
だが、この事件の一部始終を眺めている者がいた事に気づくものはこの時点ではいなかった。
――この事件は【始まり】に過ぎないのだ。
次回予告
「Epilogue 明かされた真実」
「それが君達の真実なのだよ」