【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE3 輪廻する花冠

『来たか……ん?』

 

 

専用のIS【インペリアル・ナイト】を身に纏ったジブリルは、ピットから発進したインパルスを見て疑問が浮かべた。

彼の機体と情報はある程度世界中に公開されている。それはルクーゼンブルクも同じである。

その中の情報では、彼の機体はすでに【第二形態移行】を終えていたはず。

 

だが今の彼が纏っているISは第二形態移行前の【インパルスガンダム】の様に見えたからだ。

 

 

『飛鳥真、貴様、デスティニーとかいう機体ではないのか?』

 

 

ビームライフルとシールドを展開していた真はその疑問に答える。

 

 

『デスティニーは今、オーバーホール中なんですよ。だから今はこのインパルスガンダムマークⅡで相手しますよ』

 

『……そうか、それを負けた時の言い訳にしないことだな』

 

 

ふふんと笑ってジブリルは真と同じように、武装である剣と盾【エクレール】を展開する。

 

 

『別に負けるつもりはないんで、そっくりそのままお返ししますよ』

 

 

そう真が返した瞬間、試合開始のコールが響いた。

同時に2機は弾かれたように、瞬時加速で加速する。

 

エクレールを構え高速で接近するジブリル、小型エクスカリバー【ガラティーン】を展開して迎え撃つ真。

 

エクレールの剣とガラティーンがぶつかり合い、鍔迫り合いの状態となる。

機体自体のパワーはインペリアル・ナイトに軍配が上がるが、それをアサルトシルエットの高出力スラスターから得られる爆発的な推力で押し返している。

拮抗状態となったこの状況をインパルスは、盾のエクレールを蹴り飛ばす事で打破する。

 

 

『ぐっ!?』

 

 

弾き飛ばされた、インペリアル・ナイト。

衝撃を利用してインパルスは加速しようとする。

 

しかし、蹴り飛ばした盾のエクレールから迸った【閃光】がインパルスに直撃した。

シールドエネルギーが減少すると共に、身体には痺れるような痛みと感覚が奔る。

 

 

『っ!?』

 

 

驚愕と予想外の反撃に真の表情が歪む。

その間にも、ジブリルはAMBACを済ませ再びインパルスに向かって加速してきていた。

 

 

『どうだっ、この私の雷はっ!』

 

(ちっ、盾に放電攻撃機能があるのかっ!)

 

 

内心舌打ちしつつ、AMBACを済ませた真に、ジブリルの持つ剣のエクレールから放たれた雷が向かう。

 

――――――――――――

 

Aピット内で開始された試合を眺めているのは簪と本音だ。

 

 

(……飛鳥君)

 

 

激励を持って送り出した本音だが、内心では不安な気持ちも感じていた。

何故ならば、公開されたジブリルのIS【インペリアル・ナイト】とアイリスのIS【セブンス・プリンセス】はどちらも【第4世代機】であるからだ。

搭乗者の技量を抜きとした総合的な機体性能では第4世代機であるインペリアル・ナイトのほうが上回るだろう。

 

そんな考えを主である簪は見抜いていたのか、本音に声をかけた。

 

 

「大丈夫、真は勝つよ」

 

「……かんちゃん」

 

 

アリーナを見つめる主の姿。

愛する人を信じるその姿はとても美しいものだ。

 

 

「……うん、そうだね」

 

 

内心、敵わないなぁと呟いた本音は笑みを浮かべて簪に返す。

 

すると試合の状況は動いていた。

 

 

――――――――――――

 

インパルスに向かう雷。

しかしその雷を真は放たれた瞬間、瞬時加速で回避して見せた。

 

 

『私の雷を避けただとぉっ!?』

 

 

その驚愕の光景に、ジブリルは思わず声を荒げた。

 

荷電粒子ビームは厳密に言えば光速ではない。

その為光速で直進するレーザーに比べれば遅く、その出力によって速度は増減する。

現在、世界で公開されている日出由来のビーム粒子技術によって作られているビームライフルは結論で言えば電速よりも少し遅い。

それでもIS戦ではほぼ回避不可能であり、真達はライフルの砲口から射線を予測している。

 

それと同じ理屈であった。

雷を放つ際に、こちらに剣を向ける必要がある。

それならば射線予測は従来と同じように機能する。

 

ジブリルの驚愕は妥当なものであろう。

しかし戦場でのそれは致命的な隙を生むこととなる。

 

 

『はぁぁぁぁっ!』

 

 

インパルスがすでに近距離武装の射程に入っていた。

 

 

『っ!甘いっ!』

 

『そっちがっ!』

 

 

振り下ろされるエクレールをあえて受ける。

雷の刃はシールドを切り裂き、容赦なくインパルスマークⅡのエネルギーを消費させていく。

だが、その間はジブリルを捉えることができている。

 

 

『ごっ!?』

 

 

ISの装甲を貫通して、衝撃がジブリルを襲う。

 

アサルトシルエットの固有武装として両マニピュレータ部分に量子展開された対IS装甲用ヒートナックル【ベオウルフ】

真はこの装備を使ってジブリルを殴り飛ばしたのだ。

ジブリルのISの腹部、胸部の装甲は見事に歪みすでに優雅さは消えている。

 

 

『やるっ!?』

 

『インストレーションウェポンコールっ、【ミサイルユニット】っ!』

 

 

真の音声コールと共に、ウェポンコールシステムが起動。

インパルスはシルエットを交換することなく、肩部に大型のミサイルコンテナが展開された。

動体制御と視覚によるロックオン方式で、相手を逃がすことなくミサイルは追尾していく。

 

 

『この程度のミサイルでっ!』

 

 

迎撃のためにエクレールから雷を放つ。

ミサイルは迎撃され、誘爆によって無効化された。

しかし爆煙を突き破る2つの影。

それは【ワイヤーウィンチ】であった。

 

ウィンチがサーベルに絡まり、引っ張られる。

 

 

『なっ、なにぃっ!?』

 

『はぁぁぁぁぁっ!』

 

 

巻き取られる勢いとスラスターで加速したインパルスが、両マニピュレータのベオウルフを起動させ突っ込んでくる。

体制を崩された今のジブリルに迎撃することは不可能であった。

 

 

『ぐっ、はぁっ!?』

 

 

連撃で腹部装甲を打ち抜き、装甲の大半が破壊され宙を舞う。

ダメージによってインペリアル・ナイトのエネルギーは急激に下がり、すでに4割を割っていた。

 

 

(強い……っ!だが私も近衛騎士団長っ!この程度では負けんっ!)

 

 

予想外の真の強さに押されていたジブリルだが不思議とその緊張に不快は感じなかった。

長く全力で戦う機会はなかった。知らず知らずの内に鬱憤がたまっていたのだろう。

考えてみれば非は明らかに自分側にある、今さらだがその事に気づいた。

そして彼女は【切札】を切ることを選択する。

 

インペリアル・ナイトの破壊されていない部分の装甲が展開され、フレームが露出して行く。

そして機体の周囲に目に見えるほどの雷のドームが発生して行く。

 

 

(展開装甲っ!あれが切り札かっ!)

 

 

第4世代機の特徴である展開装甲、その発動を見て一旦距離を取った真のインパルス。

そのインパルスにオープンチャネルでジブリルから通信が繋がる。

 

 

『飛鳥真、先程までの無礼を侘びよう』

 

『……急になんですか』

 

 

真のその態度にジブリルは苦笑する。

 

 

『いや、全力で戦う機会などここ数年なくてな……知らず知らずの内に貴様に当たっていたようだ。考えてみれば非は明らかにこちらにあった。すまない』

 

『……別にいいですけど』

 

 

頭を下げるジブリル。彼女のその態度を無碍にするほどの怒りは感じてはなかった。

真の中でジブリルに対する評価が変わりだしたのだ。

些か武人と言うか好戦的な気質の持ち主であるのだろう。

 

 

『そうか。では続きといこう』

 

 

迸る雷撃が広がり、その出力が最大値に達する。

 

 

『これがインペリアル・ナイトの切札、【晴天の霹靂(ボルト・フロム・ブルー)】を受けてもらおう』

 

 

そのジブリルの言葉と同時にオープンチャネルが切れ、真に向かって雷が放たれた。

雷の軌道は先程までの直進するものではなく、放射線状に広がった後、ターゲットである真に向かってくるものだ。

 

 

 

『っ!?』

 

 

放たれる瞬間に個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)を使って距離を取るが、避け切れなかった。

 

 

『ぐぅっ!』

 

 

数発の雷がインパルスを捉え、シールドエネルギーを減少させる。

その光景にジブリルが賞賛するような表情を浮かべていた。

 

 

(【晴天の霹靂(ボルト・フロム・ブルー)】を初見でここまで避けるかっ!だが次で決めるっ!)

 

 

再度チャージに入ったインペリアル・ナイト。

AMBACによって体勢を立て直した真。

 

その時であった――彼の意識の中で、【紅い種】が弾け飛んだ。

 

彼は意識して使えるようになったが、今発動したのは自分の意思ではない。

以前から起こっていた、突発的な【S.E.E.D.】の発動だ。

 

 

(【S.E.E.D.】が何でっ!?)

 

 

浮かぶ疑問、そして数瞬後にはインペリアル・ナイトから雷が放たれる。

そんな時、真の耳に【声】が聞こえた。

 

 

『マスターっ、全速でインペリアル・ナイトへ加速してくださいっ!』

 

『っ!』

 

 

響いたのは少女の声。

その声に真は咄嗟に従い、再度個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)を使用して、一気にインペリアル・ナイトへ向かう。

 

 

『っ!?』

 

 

咄嗟にチャージを終えた【晴天の霹靂(ボルト・フロム・ブルー)】を放つ。

だが、その軌道は放射線状に広がりターゲットに収束するものだ。

一気に距離をつめたインパルスへは脚部に一発掠ったのみにとなった。

 

 

『そのまま、ベオウルフでっ!』

 

『うぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 

声に従い、両マニピュレータのベオウルフを起動。

超近距離まで踏み込んだインパルス。

 

 

『ちぃっ!?』

 

 

晴天の霹靂(ボルト・フロム・ブルー)】を回避されたジブリルは冷や汗を流しながら迎撃の為エクレールを振り上げる。

だが、あまりに遅い。

踊るようにエクレールの斬撃を回避され、再度ベオウルフが機体の装甲へ打ち込まれて衝撃が奔る。

 

 

『かはっ!?』

 

 

たまらずエクレールを手放してしまう。

そこからさらに数発ベオウルフによるボディブローが叩き込まれ弾かれた。

その瞬間、インペリアル・ナイトのエネルギーは尽きた。

 

 

―インペリアル・ナイト、エネルギー切れにより勝者、インパルスガンダムマークⅡ。試合時間、5分1秒―

 

 

試合終了のコールが響く。

 

 

ゆっくりと降下して行くインペリアル・ナイトを尻目に、真は振り返る。

だがそこには誰もいない。

 

 

(さっきの声は……まさか、インパルスか?)

 

 

耳に届いた先程の声の心当たり、それは愛機であるデスティニーの様なISのコア人格だ。

何度か【デスティニー】にもその姉妹機に当たる【飛燕】にも会っている。

 

そして少し前のクルーゼ事件の折、戦友であるレイに呼ばれたときデスティニーが言っていた言葉を思い出した。

 

 

『あ、気づいてくれた?そうなのっ!エクスカリバー事件の時、あの分身操作の時くらいかな!真との結びつきが強くなったからかも』

 

 

彼女はそう言っていた。

 

 

(結びつきが強くなったってデスティニーは言ってた。なら俺のS.E.E.D.が勝手に発動するのも……?)

 

『マークⅡ?』

 

 

そう考えて自機に語りかける。

 

するとディスプレイが立ち上がった。

そこに映るのはどこかデスティニーに似た少女の顔。

デスティニーは美しい金髪だが、彼女は栗色の髪をしている。

服装はデスティニーや飛燕と同じ白いワンピースだ。

 

 

『……マスター、もしかして私の声、聞こえちゃってました?』

 

『あっ、あぁ……夢の中で呼び出されることは何度かあったけど、ここまではっきり声が聞こえるなんてな』

 

 

そう真が返すと、ディスプレイの中の彼女は驚愕していた。

それは真も同じで、まさか返事が返ってくるとは思えなかったのだ。

 

 

『私の声が聞こえるなんてっ!デスティニー姉様に報告しないとっ!』

 

 

歓喜の表情を浮かべたマークⅡはそう言ってディスプレイの中で飛び跳ねている。

 

 

(……とりあえず束さん達に報告しないと。どうなってるんだよ、まったく)

 

 

その様子をみて苦笑しつつ、真はため息をついた。

 

その頃、第3アリーナ

 

真とジブリルの模擬戦が終了したのとほぼ同時にこちらの箒・鈴VSアイリスの模擬戦も終了していた。

その結果は箒と鈴の勝利であった。

 

アイリス王女の【セブンス・プリンセス】は確かに強力である。

性能だけで言えば現存のISの中でも間違いなく上位に組み込む。

だが、圧倒的に【経験】が足らなかった。

 

この1年を通じて実戦を何度か経験している、箒と鈴相手では分が悪かった。

その2人に能力でもある【重力爆撃(グラビトロン・クラスター)】を打ち込んだが、機体がゆっくりしか動けない弱点を突かれてしまい、鈴の甲龍の専用パッケージ【砲戦虎娘(キャノン・フーニャン)】による衝撃砲の連続射撃と紅椿の【雨月】で行動不能となったのだ。

 

破れたアイリスはジブリルとは別の侍女が慰めており、箒はAピットに戻り鈴は誰かに呼び出されていた。

 

 

そんな中数分前までの模擬戦の様子を管制室で眺めているのは、カナード、束、ラキーナ、クロエの4人であった。

その表情は優れない。

 

 

「第4世代機が2機も……束?」

 

 

ギロッとカナードが束を睨むが、それに苦笑して答える。

 

 

「だからあの2機には私は関与してないってー!時結晶と引き換えにそりゃISの設計図も渡したよ?でも試作機レベルのもので解析なんてそれこそジェっちゃんくらいじゃないと無理無理」

 

 

カナードもジェーンの名前は聞いたことがあった。

C.E.ではセカンドシリーズの基礎を作り上げた人物であり、この世界ではインパルスガンダムを作り上げ、カナードも使用した外付パッケージ【M.E.T.E.O.R】も彼女の作品だ。

それこそ束に比肩する人物という認識であった。

 

 

「となるとだ。誰かが【裏】にいる事になるが……お前やジェーン・ヌル・ドウズ以外に第4世代機を作れるだろう人間などそれこそ1人しか俺は知らない」

 

「……うん、ラクスだよね」

 

 

その名前が出るとカナードはため息を零した。

 

 

「でも兄さん、ラクスはもう……」

 

「またAIみたいなものが残存しているのでしょうか、カナード様」

 

 

ラキーナとクロエがそれぞれ意見を告げる。

様々な推論が頭の中にあふれるがどれも要領を得ない。

 

 

「……さぁな。とにかくだ、俺はルクーゼンブルク公国を調べてみる」

 

「うん、私のほうでも少し探ってみるよ」

 

「兄さん、私も何かあれば手伝うよ」

 

「カナード様、私もです」

 

 

束達からの言葉に、カナードは静かに頷いた。

 

 

その後、アイリス王女は正式に学園へ編入され、またジブリルも何故か生徒扱いとして編入する事となった。

すでに20歳であるジブリルがIS学園の制服を着ている姿を真耶にからかわれているという珍しい光景を何度か見ることになった。

 

また真は後で知ったのだが、箒と鈴の模擬戦を鈴の父親である【楽音】が観戦していた。

一夏が楽音とやり取りをしたらしく、何でも模擬戦の後に鈴と彼女の母親も来て、家族で話し合ったらしい。

それで家庭環境も以前と同じく、修復されたとの事だ。

 

――――――――――――

決闘から3日がたった。

 

日出工業本社 地下IS開発/整備区域 休憩室

 

 

「と、言うわけでやっぱり【S.E.E.D.】が発動していてISに搭乗している間なら、ISのコア人格の【声】が聞こえるみたいなんです。ここについてからデスティニーや飛燕で試してみました」

 

 

ISスーツ姿で電話をかけているのは真であった。

その通話先は、束だ。

連絡は【S.E.E.D.】についての連絡であった。

 

 

『うーん……ごめん、まだ分からないんだ。この前の決闘の後の検査も正常だったし』

 

「そうですか……でもなんでまた急に……」

 

 

流石の束でも今真の身に起こっていることについては完全に把握は出来ていない。

以前の様に【S.E.E.D.】が生身で発動する事はこの3日間の間で完全になくなった。

その代わり、【S.E.E.D.】を発動させるとISのコア人格達の言葉が聞こえるようになっていた。

また発動させていない状態でも不意に聞こえる事もあった。

 

 

『そもそも【S.E.E.D.】ってものがよく分からないんだよね。あっくんやラキちゃんの場合、身体能力や空間認識能力が一時的に向上するんだよね?』

 

「はい。いつもは難しいマニューバでさえその状態なら容易にできるようになったりしますね」

 

『ISには確かに搭乗者と深くリンクするシステムは搭載されてるけど……ごめん、もうちょっと詳しく調べてみる。いざとなったらアスラン・ザラ使って人体……ゲフンゲフン、何か分かったら連絡するよん』

 

「あはは……すいませんが、お願いします」

 

 

物騒なワードは聴かなかったことにして、頭を下げながら真が言う。

 

 

『そう言えば、あっくん今どこにいるの?』

 

「あ、伝えてなかったですね。今は日出本社の地下にいるんです」

 

『何で?』

 

「デュノア社関係の事とだけしか聞いてないですね。シャルロットも呼び出されてるみたいですし」

 

 

真が何故平日の昼間に、ここにいるのか。

それは優菜に呼び出しをされていたからだ。

真だけではなく簪も、そして【シャルロット】もだ。

 

 

『え、何、デュノア社またやらかしたの?』

 

「はは、そういうわけじゃないみたいですよ」

 

 

おそらく素で疑問を浮かべた束に、真は苦笑する。

中が見えるよう休憩室はガラス張り、外で優菜が手招きしているのが見えた。

 

 

「あ、束さん。そろそろ」

 

『うん。それじゃあね、何か分かったら知らせるから、あっくんも何かあったら教えてね』

 

「はい」

 

 

そう言って通話は切れる。

携帯をしまってから、休憩室を出て小走りで優菜の元に向かう。

 

 

「おっ、来た来た」

 

「遅れてすいません」

 

 

優菜に軽く頭を下げる。

そんな真にISスーツ姿の簪が問いかける。

 

 

「真、篠ノ之博士と連絡どうだった?身体は大丈夫?」

 

「あぁ、束さんの方もさらに詳しく調べてくれるってさ。あの決闘の後から【S.E.E.D.】が生身で発動する事がなくなったから、むしろ調子はいいんだ」

 

「……そっか、うん。分かった」

 

 

真からの言葉を聞いて簪は笑みを浮かべる。

 

 

「さて、役者はそろったわね」

 

 

スーツ姿の優菜と利香、相変わらずヨレヨレな白衣を身に着けたジェーン、ISスーツ姿の真、簪、そしてシャルロット。

 

 

「あのー、何で僕呼び出されたんでしょうか?」

 

「えっとね、その答えはあれなんだ、シャルロットちゃん」

 

 

優菜が場違い故か萎縮しているシャルロットの背後を指差す。

その背後にあるのはISであった。

 

どこか彼女の駆る【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】に似通った造詣の機体。

 

 

「あの機体の名前は【コスモス】、君の父君であるジョルジュ・デュノア氏、ひいてはデュノア社から提供された【第3世代IS】なのよ」

 

「とっ、父さんから?」

 

「ええ」

 

 

そこから優菜の説明が始まった。

 

現在のデュノア社はラクス、歌姫の騎士団が瓦解した後にIS部門からの撤退を表明していた。

そこに目をつけた優菜はデュノア社とある取引を持ちかけたのだ。

それは【技術連携】であった。

IS部門の技術と引き換えに他部門、日出が得意としている災害救助用のパワードスーツや重機などの技術提供を持ちかけたのだ。

これにジョルジュは乗る事にした。

 

正式な文書等の発行には少し時間がかかり、ようやく形となったのは【コスモス】が提供された後であった。

その際に優菜はあるものを受け取っていた。

 

 

「それと、はい、これ」

 

 

懐から封筒を取り出して、シャルロットに手渡す。

 

 

「あの、これは……?」

 

「えっとね、その【コスモス】って機体を技術提供の一環として受け取った後、ジョルジュ氏から貰ったのよ。まだ忙しくて連絡もあまり取れないからって」

 

「……あけていいですか?」

 

 

そのシャルロットの言葉に頷く優菜。

 

 

封筒を開けて、中に入っていた手紙を読み始める。

少し経って、手紙を読み終えたシャルロット。

 

その瞳からは涙がこぼれていた。

 

 

「……時間、取った方がいいかしら?」

 

 

何が書いてあったかは優菜は知らない。

だがきっといい事が書かれていたのだろう。

彼女が流している涙は悲しみからのものではないと分かるからだ。

 

 

「いっ、いえ。大丈夫です」

 

 

慌てて涙を拭う。

その動作から封筒の中に残っていたあるものがポロリとこぼれた。

それに真が気づいた。

 

 

「シャルロット、何か落ちたぞ」

 

「えっ、あっ……【栞】だ」

 

 

拾い上げたそれは【栞】であった。

押し花で作った手作りの【栞】、花は【コスモス】が使われていた。

 

 

「……これ、母さんが父さんにあげた……っ」

 

 

こみ上げてくる感情を何とか抑えたシャルロットは、IS【コスモス】に向かう。

 

 

「……コスモス」

 

 

目の前に鎮座している機体に正直彼女は迷っていた。

今のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは自分の愛機であるのは間違いない。

乗り換える気など起こらない。

 

だが、母の思い出の花の名をつけた機体を送ってきた父の行為を無碍にしたくない。

このタイミングで優菜が自分にこの機体を渡そうとしているのはおそらく乗り換えを推奨しているのだろう。

その2つの気持ちの間で今、彼女は揺れていた。

 

そんな時であった。

 

 

『……触れて、私に……シャルロット様』

 

 

かすかな声量であったが真の耳には、声が聞こえた。

その声は間違いなく、今シャルロットの目の前にある【コスモス】の声。

その声を汲み取り、真がシャルロットに声をかける。

 

 

「シャルロット、コスモスに触れてやってくれ」

 

「え、真、それってどういうこと?」

 

「今は何も言わずに……頼むよ」

 

 

真のその態度に首をかしげながら、シャルロットは言われた通りにコスモスに触れる。

 

すると変化が起こった。

シャルロットが身につけている待機形態の【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】が光を放ち始めたのだ。

数瞬遅れて、目の前のコスモスも同じ光を放つ。

 

 

「っ、何がっ!?」

 

 

突然の自体に真以外の皆が身体を強張らせる。

だが真は笑みを浮かべていた。

 

 

「大丈夫、いいことになるはずです」

 

 

光が収まる。

そこにはISを纏ったシャルロットの姿があった。

しかし彼女が纏っているのはリヴァイヴでもコスモスでもなかった。

 

 

「嘘でしょ、コアの反応が2つ……まさかリヴァイヴとコスモスが一体化したのっ!?」

 

 

即座に計器を確認したジェーンの声が洩れる。

 

 

『……【リィン=カーネイション】それがこの機体の名前です』

 

 

微笑みながら、瞳から涙がこぼれる。

2つの機体が1つになる時、彼女はある言葉を聞いていた。

 

それは父と母の言葉。

自分を想ってくれる、両親の言葉だ。

 

 

『……母さん、そして父さん、ありがとう。僕は2人の力で……前に進むよ』

 

 

彼女は誓うように告げた後、機体を待機形態に戻した。

 

 

この後、世界初のデュアルコア搭載型ISとして【リィン=カーネイション】は発表される事となる。

初のデュアルコア搭載という機体仕様の為、問い合わせが日出とデュノア社に押し寄せたが優菜とジョルジュはこれを全て企業秘密として押し潰した。

 

彼女の祖国であるフランスはこの発表を受けて、【聖処女(ジャンヌ・ダルク)の再来】等連日ニュースで報道している有様であり、シャルロットは顔を真っ赤にしてやめてと言っているのだが、政府は聞いてくれないとのことだ。

また同期であるフレイは「私聞いてないっ!」とシャルロットに詰め寄ったが、ラキーナ曰く、機体が発現した経緯を知った途端シャルロットにご飯を奢ったりするなど微笑ましい場面がみれたとの話だ。

 

―――――――――――

 

同日

 

IS学園から離れたとある街。

カフェの1席に赤髪の女性が座っていた。

 

一般的には充分美女と言える女性であるが、その格好は奇妙であった。

全身にベルトな様なモノを巻きつけ、その上に天道虫や海豚の様なブローチをつけていると言う奇抜なファッションだ。

そんな彼女の座る席の向かいに相席してきた者がいた。

 

女性は相席してきた相手に視線を移す。

世界中に公表されている男性搭乗者の内の1人、カナード・パルス。

彼とは公表以前にも何度かあったことのある間柄だが、以前とは違い髪を大幅に切っているためぱっと見ただけでは彼と気づける人間は多くないだろう。

それに服装も公表されてた際に身に着けている戦闘服とは違いフォーマルなスーツだ。

イメージが離れているため、今の彼を公表されたカナード・パルスと結び付けられる人間は少ない。

 

 

「カナードの兄さんよ、こんなところで取引だなんて意外だねぇ。それにずいぶんイメチェンしたじゃないの。女でもできた?」

 

「木を隠すなら森だ。世間話なんてする気はない、さっさと情報をよこせ」

 

「おぉっと怖いなぁ。ホラ、これが頼まれてたリストだよ」

 

 

情報屋から受け取った端末の電源を入れる。

彼女に依頼した情報は過去数年に遡ってルクーゼンブルク公国が行った軍拡の詳細。

その中で最も多いのがISの機体数の増加だ。

小国であるルクーゼンブルクが、それこそ大国のIS部隊以上のISを保有している。

 

世界に公表されている公式のコア数に含まれていないISコアを用いていることは束が証言している。

まだ自分たちと出会う前の彼女が公国に渡したのだという。

だがそれ以上の事はしていない。第4世代機の情報なども渡していないという。

 

そしてもう1つ。

ルクーゼンブルク公国王家がここ数年で公式、非公式を問わず会談した人物、組織、団体、国家のリストだ。

数年前まで遡っているため、情報量が多いがざっと目を通してから女性に視線を向ける。

 

 

「よく調べ上げたな」

 

「ま、アタシもこの道のプロだしね。それにルクーゼンブルク公国のセキュリティは大したものじゃないからね」

 

「情報は確かに。今から送金する」

 

 

懐から出したデバイスを数度操作して、彼女の口座に送金する。

その金額は十万ドル。だが得た情報に比べれば安い。

 

 

「はいよ、確かに。もしよかったら今夜食事でもどう……っていないし」

 

 

送金し終わったカナードはすでに席から離れており、その後姿を見ながら彼女は呟く。

 

 

「相変わらず取り付くシマもないなぁ……顔はいいのに。あ、店員さんこのトマトのサラダ1つお願いします」

 

 

情報屋の女はそう言って近くを通りかかった店員に言う。

注文を終えた女が視線を戻すと、すでにカナードの姿はなかった。

 

 






次回予告

「PHASE4 赤月が昇る」

『箒ぃぃぃぃぃっ!!』



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