【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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Epilogue 繋いだ手

崩壊し自沈していく海洋プラントから脱出した一行はブレイク号を用いて海域を離れた。

海洋プラントは海底深くで爆発したが、幸いこれによる影響は無く、隠ぺい工作もエクスカリバー事件よりは容易であった。

元々が廃棄された計画の残滓だ、更識の全権を使うことでもみ消した。

 

ライリーの遺体については更識家が処理を行う事となった。

蔵人曰く、フランス政府に極秘裏に接触して色々と消してもらうとの事だ。

 

ライリーの一味として捉えたミシェル・ライマンは完全に降伏し、自身が持っている情報をすべて提供している。

彼女によるとライリーを後方で支えていた者達がいるようだが、そのやり取りは全て彼女個人のみであったため、ミシェルは詳しいことは知らないとの事だ。

ライリーが使用していたISであるロキプロヴィデンスから情報が得られるかもしれないとの事で、ISは束陣営が引き取り解析を進めている。

 

取り急ぎ解析されたのは【Mobile Suit Trace System(MTS)】についてだ。

VTSの原型であり、MTSを解析して現在のVTシステムが作成されたとの事だ。

解析といっても中身のデータには手を出せずに、トレースシステム部分を参考にしたレベルのものだが、これは生前のラクスが製作したものであるというのは間違いないと束が確認している。

 

さらに詳しい情報について何か判明した際には蔵人にも連絡をよこすとの事だ。

 

ミシェルについては協力的な態度から、IS学園で監視付きの軟禁状態に置くことが決まった。

何でも彼女の立場を利用して用務員を増員しようと千冬が策しているらしい。

 

また今回の事件で再び拘束されたスコール達4名については、傷の手当てを最小限にしてブレイク号で再び拘束することとなった。

使用していたセイバーガンダムを含めた5基のISについては機体自体は解体処分となり、コアは束預かりとなり何かしらの情報を得たのちに破壊する事になっている。

 

―――――――――――――――

 

そして事情を知る人間たちから【クルーゼ事件】と呼ばれる一連の騒動から2日が経った。

 

学園は通常運営を取り戻しており、その中にはカナードの姿も見られた。

教職についてだが、なんだかんだ言って気にいっているのではないかというのが、束の感想である。

 

そんな彼だが、業務が終わるとすぐにブレイク号へ文字通り飛んで帰っていっている姿を生徒達は目撃している。

 

その理由は――

 

 

「おかえりなさい、カナード様」

 

 

クロエの私室、ベッドの上で上半身だけを起こしたクロエがカナードを出迎える。

ジャケットを脱いで、すぐ近くにあった椅子に腰かける。

 

保健室で意識を回復させたクロエはブレイク号に移され、治療を継続していた。

協力者という立場とは言え、学園側にも通常業務などの事情はあるためそれも仕方ないだろう。

 

 

「傷の具合はどうだ?」

 

「医療用ナノマシンは注射してもらいましたが、まだかかるみたいです。右腕もリハビリに少し時間がかかりそうです」

 

「……そうか」

 

 

少しだけ声のトーンが落ちた彼の声。

自分を心配してくれている彼に感謝の気持ちが溢れてくる。

少しして、カナードが椅子を彼女の元まで移動させてクロエに尋ねる。

 

 

「……クロエ、左手は動かせるか?」

 

「え、はい。特に痛みもないので……」

 

「なら、手を出してくれ」

 

 

不思議に思いつつも、彼に言われた通り左腕を出すクロエ。

出された手をカナードはそっと握りしめた。

 

 

「……あの、カナード様?」

 

 

数分の沈黙に耐え切れなくなったクロエが、カナードに言葉をかける

正直心臓は早鐘を打っており、明らかに顔は熱を帯びているだろう。

彼にこうして触れられるのはとてもうれしいのだが。

 

 

「……一度しか言わない」

 

「えっ?」

 

「俺はもっと強くなる。自分にとって大切な……愛したモノを守るために。だから今後はあんな無茶なことはしないでくれ」

 

 

そうぎゅっと彼女の手を握り締めてカナードが告げる。

 

先の事件で、頼れる友人(セシリア)から教えてもらった自分自身の正直な気持ちを伝えるという事。

それを今、彼は実行したのだ。

さすがの彼も恥ずかしそうに言葉にした後、視線を外してしまったが。

 

 

「っ……!」

 

 

不意打ちすぎる彼の言葉にクロエは息をのんだ。

溢れてくる歓喜の感情と涙。

今まで直接的にそんな言葉をカナードから聞いたことはなかった。

 

 

「泣いているのか?」

 

 

少し驚いたようにカナードが尋ねる。

 

 

「嬉し涙ですっ、カナード様……っ!」

 

「……そうか、ありがとう」

 

 

少しだけ力を入れて彼女の手を握る。

それにクロエも同じように彼の手を握り返した。

 

―――――――――――――――

IS学園 フレイの部屋

 

 

「あのー、フレイさん。何を怒ってるんでしょうか?」

 

「ふーんだ」

 

 

制服姿のラキーナがベッドで横になりながらこちらを睨んでいるフレイに尋ねる。

フレイについてだが彼女は完全な被害者として扱われているため、代表候補生の立場に変化はない。

これからもフランスの代表候補生としてIS学園に所属することとなっている。

 

何故フレイの部屋にラキーナがいるのか。

それは彼女に呼び出されたからだ。

 

本来ならば事件当日にすぐに話をしたかったのだが、一時は洗脳状態にあったため精密検査をフレイは受けていたのだ。

その為昨日深夜までは半ば拘束されていたに等しかった。

その検査がようやく終わり、学生生活に戻れたのが今日だったのだ。

 

 

「最初からあんた知ってたんでしょー、私のことー。教えてくれてもいいのにさー」

 

「え、そっ、それとなくだけど聞いたじゃないか。それはひどいよ……」

 

「あっ、嘘、嘘よ、冗談よっ!そんなにイジけないでよっ!」

 

 

ショボンと頭を垂れたラキーナに慌ててフレイは立ち上がりながら告げる。

それに弱々しく笑みを浮かべたラキーナに、ニッコリとほほ笑んでフレイが続ける。

 

何故、フレイの部屋にラキーナがいるのか。

それは彼女がラキーナを呼び出したからだ。

 

ある言葉を彼女に伝えるために――

 

 

「ありがとう、ラキーナ」

 

 

それは純粋な感謝の気持ち。

 

 

「あの時も、そして今回も。アナタは私を助けてくれた。それだけで私は救われた」

 

「……フレイ。うん、私からもありがとう、また君に会えて、本当に良かった」

 

 

かつて救えなかった女性を今回は自らの手で守り抜くことができた。

目に涙をためながら、ラキーナはフレイの言葉に返した。

それをフレイは苦笑して返す。

 

 

「あーんたホント泣き虫ねぇ、あの時はカッコよかったのに」

 

「ごっ、ごめん。止まらなくて……」

 

「ま、そっちのほうがらしくていいけどね」

 

「泣いているほうが私らしいって……フレイの中での私って一体……」

 

 

涙をぬぐいつつ、ラキーナも苦笑している。

 

 

「それじゃ改めまして、よろしくね、ラキ」

 

「うん、こちらこそ。よろしくね、フレイ」

 

 

差し出された手をしっかりと握り返したラキーナ。

かつての禍根などそこには存在していなかった。

 

―――――――――――――――

IS学園 学生寮付近

 

 

食堂での夕食を終えた真と簪は食後の散歩がてら校内を歩いていた。

通常運営に戻った為か、部活動に勤しむ生徒の姿も見られた。

 

ちなみに、真も簪も部活には所属してはいない。

そもそもが2人とも日出工業に所属しているため、その時間もあまりとれないのだが。

 

 

「そういえば、真」

 

「ん?」

 

「目の傷、もう治ったの?」

 

 

海洋プラントで黒のデスティニーとの戦闘の際に負傷した目の傷。

当初、真はガーゼをつけていたが、すでに彼は目のガーゼを取っていた。

2日しか経っていないが、傷はほぼ消えている。

 

 

「ああ。ほら、あの後負傷者は医療用ナノマシン注射されただろ。あれのおかげかな」

 

 

事件が収束した後、真を含む一夏やカナード、負傷者達には医療用のナノマシン注射が行われていた。

真の他には一夏の腕の傷もすでに完治している。カナードについてはまだ包帯を外せてはいないが、快方に向かっている。

 

 

「そういえばお姉ちゃんが嬉々として注射してたね……真、こっち向いて」

 

「ん、おぉっ?」

 

 

振り返った真の顔を簪が手で抑えてじっと見つめる。

いきなりの行為だったため、真は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。

 

 

「……うん、大丈夫。確かに傷はないね」

 

「あっ、あぁ……ありがとう」

 

 

簪が手を放して、笑みを浮かべた。

 

 

「真、部屋に行こう?」

 

「ああ、ちょっとゆっくりしたいしな」

 

「うん、ゆっくりライダー見よう?」

 

 

それはゆっくりできるのかなぁと思いながらも、先に歩き出した簪の後に付いていく。

その瞬間、彼の意識の中で紅い種――【S.E.E.D.】がはじけ飛んだ。

 

 

「っ……!?」

 

 

突如として発動した自身の【S.E.E.D.】

去年の夏ごろより意識して発動できる様にはなっていたが、興奮したり集中もしていない状態でいきなり発動したことはなかった。

 

 

(何でいきなり……っ!?)

 

 

発動にともなって広がる視野と感覚に頭を振る。

するとすぐに広がった視野と感覚が通常の状態に戻っていくのを感じた。

 

 

「……何なんだよ」

 

 

先に歩いている簪には聞こえない声量で、自身の身に起こったことに疑問が浮かぶ。

時間にして僅か数秒の出来事であったが、引っ掛かりを感じる。

 

 

「……真?」

 

 

足が止まっていたためか、簪が振り向いて真に声をかける。

 

 

「ん、何でもないよ。そういえば、クローズマグマナックル買ったんだよ、あとで開けようぜ」

 

「本当っ!?うんっ!楽しみだねっ!」

 

「あぁ、負ける気がしねぇっ!」

 

 

特撮の話で誤魔化して彼女の手をとりそう告げた真は再び歩き出す。

彼女の温かな体温を感じ少しだけ歩くのが早くなる。

真の手を簪も握り返していた。

 

 

真はこの時、後でカナード達に相談すればいいと軽く考えていた。

しかしそれが【変化】の予兆であることを知るのはまだ先の事であった。

 

 





次回はようやくラブコメ要素を入れられそう。


次回予告
「INTERMISSION チョコ濡れのバレンタイン」


「……バレンタインなんて消えればいいのに」

「弾、助けてくれぇぇぇっ!」

「一夏ぁぁぁぁぁっ!オマエってヤツはぁぁぁぁっ!!」


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